【2017年/イギリス/105min.】
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来る日も来る日も呑んだくれ、フラつきながらも、
足が不自由な父に代わり、一家が所有する牧場を一人で切り盛りするジョニー。
手伝ってくれる人を募集するが、応募してきたのは、たった一人だけ。
ゲオルグというその青年は、ルーマニアからやって来た労働者。
寝床用に、オンボロのトレーラーを一台与えられ、
早速ジョニーと一緒に仕事をすることになるが…。
地元英国インディペンデント映画賞で、作品賞、紫苑男優賞、音響賞、新人脚本家賞の4部門に輝く他、
サンダンス映画祭のワールド・シネマ・ドラマ・コンペティションで監督賞を受賞する等、
海外の多くの映画祭で評判を呼んだ話題作。
メガホンをとったのは、フランシス・リー監督。
脚本も、監督自身による。
写真を見ると、すでにベテランの貫禄を醸すフランシス・リー監督だが、私は名前すら聞いたことが無かった。
それもそのはずで、本作品が長編監督デビュー作。
では、これまで何をしていたのか?
短編を撮っていたのか?それともテレビ番組の制作か?カメラマン出身??などと疑問も湧くけれど、
公式に発表されている具体的なプロフィールは見当たらない。
確実なのは、ウェスト・ヨークシャーの出身で、実家が牧場であったこと。
映画制作をする前は、どうやら舞台、テレビ、映画を活躍の場に、俳優をやっていたらしい。
私は、“俳優フランシス・リー”も知らないのだけれど、演者としてのキャリアは約20年もあり、
女優のキャシー・バークやヴィクトリア・ウッド、マイク・リー監督などとも仕事をしてきたのだとか。
誕生年は、1969年説が有力。
もしそれが正しければ、40代後半で監督業に乗り出し、本作品を発表したということになる。
日本で、この『ゴッズ・オウン・カントリー』は、
2018年夏、レインボーリール東京で紹介された後、同年11月、シネマートの“のむコレ”で数回だけ上映。
評判の良い作品なので、観逃してガッカリしていたら、その後、2019年2月に正式に劇場公開。
有り難い。今度こそちゃんと観に行ってきた。
本作品は、ヨークシャーを舞台に、牧場を一人で切り盛りする青年ジョニーと、
そこに臨時雇いでやって来たルーマニア人労働者のゲオルグが、
衝突しながらも、徐々に心を通わせていく様を描くラヴ・ストーリー。
日本初お披露目が、レインボーリール東京であった事からも察しが付くように、
本作品はLGBTQ関連の作品。
農場を管理しているイギリス人青年と、臨時雇いのルーマニア人労働者という、男性同士の恋物語。
が、いざ観たら、恋物語とか、それが同性同士だとかという以上に、
田舎町で自堕落に生きている青年が、人として一回り成長する姿を描く彼の成長記という側面が、
より印象に残った。
“自堕落”なんて書いてしまったけれど、“自暴自棄”と言うべきか。
ジョニーは、祖母と父との3人暮らしで、一家は牧場を経営しているが、
祖母は高齢、父は身体が不自由で、労働力はジョニーただ一人。
周囲には、学校を卒業してから、街を飛び出していった同級生もいるけれど、
ジョニーには人生の選択肢など無く、牧場に縛られっ放し。
儲かってウッハウハならともかく、経営はドン詰まりで、仕事は肉体酷使。
若い内に親族から半ば強制的に進む道を決められ、しかもそれが、将来性の無い職業だったら、
その先の人生が真っ暗闇と分かった上で、
寿命を全うするまでの何十年もを、ただただ生き続けなければならないかのようで、
夢も希望も無く、そりゃあ自暴自棄にもなるわよねぇ…。
暮らしているのが閉塞感漂う田舎町というのも、気分が滅入る。
人々が非常に保守的で排他的、経済発展にも取り残され、ドヨーンと重い空気が立ち込めている。
ただ、主人公のジョニー自身、生粋の田舎モンなので、保守的で排他的であることが、フツーになっている。
初めてゲオルグに会った時だって、彼の濃いぃ顔を見て、不躾に「パキ(パキスタン人)か?」。
ゲオルグが、ルーマニア人だと正すと、「じゃぁ、ジプシーか」と、差別発言連発。
ゲオルグは雇われの身だし、精神的に大人なので、
お馬鹿な雇い主・ジョニーの差別発言にも、当初は過剰反応することなく、
そのお陰で、二人は表面的には穏やかな主従関係でいられるが、
逆に言うと、大人なゲオルグがじっと耐えているため、ジョニーは自分の非にも気付かない。
そして、お調子に乗ってまたまたゲオルグを“ジプシー”呼ばわり。
遂に堪忍袋の緒が切れたゲオルグは、ジョニーを押し倒し、
「そういう言い方はやめろ!」と初めて強い姿勢で勧告。
これを機に、二人の関係は、分かり易いまでに一変…!
こういうの、昔から有るわよねぇ?
子供の頃から一緒に育った庭師の息子を、ずっと当たり前のように従わせてきたワガママお嬢様が、
成長して大人になった彼から、ピシャッと叱られたことで、ハッとしてフォーリンラヴ♪…みたいな。
ヨークシャーを舞台にした、男性同士のお話だけれど、本質的には、少女漫画と変わらないベタな展開。
ベタで少女漫画ちっくな割りに、案外この早急な展開をすんなり受け入れてしまった私。
その“ジプシーって呼ぶな事件”以降、二人は恋仲に発展。
恋が順調だと、仕事も順調(←これも、よく有る話)。
二人は新規事業を考え、牧場の未来に明るい希望が見えてくるのだが、
そんな矢先、ジョニーの父親が倒れたことで、状況が変わり、
精神的に脆いジョニーはまたまた“お馬鹿なジョニー”に逆戻りし、
軽はずみな行動で、ゲオルグを失望させてしまう。
出て行ったゲオルグの居場所をジョニーが探し、追う展開も、
まぁ、普通の恋愛娯楽映画によくあるパターンである。
私にとって、意外にも本作品の見所だったのは、牧場のお仕事を覗けたこと。
ヨークシャーは、かつて羊毛とか紡績といった産業で栄えた土地だから、牧場と言えばやはり牧羊。
母羊に子を産ませ、育てて、売る、というのがお仕事みたい。
子羊、超カワイイです。
ゲオルグは、臨時雇いの出稼ぎ労働者だが、
実家が牧場だったため、経験も知識もジョニーよりむしろ豊富で、
「このままでは牧場運営が立ち行かなくなる。なぜチーズを作らない?もっと稼ぎになる」等とアドバイスもする。
フランシス・リー監督自身、実家が牧場だったからであろう、
本作品は、牧場のお仕事に関する描写が非常にリアルで、
他の映画では、なかなかお目に掛れない動物の出産シーンなども出て来る。
一番見入ったのは、死んでしまった子羊の処理。
その子羊の足をボキボキと折り、身体から毛をきれいに剥ぎ取るゲオルグ。
すると、ちょうど子羊型のファーコートのような物ができるので、それを別の子羊に着せ、防寒させるの。
こういうのを見慣れていない私には、かなりエグイ映像だし、
昨今は、動物愛護の観点から、映画でこういう描写を避ける傾向にあるけれど、
このシーンでは、いにしえの頃から牧羊をしている人々の知恵を見せてもらった気がした。
主人公を演じているのは、(↓)こちらの二人。
実家の牧場を一人で切り盛りするジョン・サックスビーにジョシュ・オコナー、
その牧場に臨時雇いでやって来るルーマニア人青年ゲオルグ・イオネスクにアレックス・セカレアス。
昔から、同性愛を描く映画は、腐女子を喜ばせるような耽美な作風が好まれがちで、
主人公には、美しい男性がキャスティングされていることが多い。
昨年、話題になった『君の名前で僕を呼んで』(2017年)も然り。
でも、この『ゴッズ・オウン・カントリー』の主演の二人は、
お世辞にも“美しい”という形容が似合う男性ではない。
牧場を切り盛りしているジョンなんか、本当にイギリス北方の労働者階級の青年の雰囲気。
ヨーロピアンには珍しく、野球のマー君(田中将大)のように、剃って整えた眉をしているせいで、
余計に、洗練されていない田舎モンの顔に見えるのかも。
(実際には、眉はいじっていない天然なのかも知れないが、“マー君眉”に見えてしまう。)
しかも、初登場が、おトイレでゲロのシーン。
その後、ものの数分の間に、立ちション、
行きずりの金髪美男子とのセックス(お相手に対する態度も非常に悪い)と続いたから、とても印象が悪く、
こんな主人公に感情移入できるだろうかと、ちょっと心配になった。
映画を観進めていっても、実際、ジョンに感情移入したり、好きになることは無かったが、
色々な事に雁字搦めにされ、夢も希望も持てず、鬱憤が溜まっている田舎町の若者の心情は、
痛いほど伝わってきた。
扮するジョシュ・オコナーは、1990年生まれ、サウサンプトン出身。
私は初めて見る若て俳優。
まぁ、私と限らず、広く世界で彼が知られるようになったのは、やはりこの『ゴッズ・オウン・カントリー』であろう。
本作品で注目が高まり、Netflix制作のドラマシリーズ『ザ・クラウン』でも、
今後配信されるシーズン3とシーズン4で、チャールズ皇太子役に抜擢されたのだとか。
どう、雰囲気似ています?
『ゴッズ・オウン・カントリー』の労働者階級から、一気に皇族ですヨ。
今後も色んな顔を見せてくれるかも知れませんね。
助っ人外国人ゲオルグに扮するアレックス・セカレアスも、本作品で初めて知った俳優さん。
実際に、ルーマニアで活躍するルーマニア人の俳優らしい。
ゲオルグも、最初の内は、私は良さが分からなかったのだけれど、
徐々に、彼の豊富な知識や、成熟した精神面を、魅力と感じるようになった。
幼稚な所があるジョンも、ゲオルグのそんな部分に惹かれていったのではないだろうか。
じゃぁ、ゲオルグは、ジョンのどこに惹かれたのかと考えると、イマイチ分からないが…。
ジョンはお馬鹿で危なっかしいから、守ってやらなければ!と親心も近い愛情が湧いてしまったのだろうか。
“馬鹿な子ほど可愛い”とも言うしね。
主演の二人は実質新人であるが、脇を固めているのはイギリスの大ベテラン。
ジョンの祖母ディードレ・サックスビーにジェマ・ジョーンズ。
ジョンの父マーティン・サックスビーにイアン・ハート。
欧米の家族というと、何かにつけ子をハグするなど、愛情豊かな温かな家族というイメージを抱きがちだが、
サックスビー家では、祖母も父も無表情で、口数が少なく、たまに喋ると、お小言で、
どちらかと言うと、感じが悪い。
でも、本当にイヤな奴なのかというと、そうでもない。
ジェマ・ジョーンズもイアン・ハートも、北方特有の不器用で表現下手な大人の雰囲気を上手く醸しており、
さすがはベテランの演技。
まったく目新しさは無く、むしろ、かなりオーソドックスな物語であったが、
詩的に美しい自然と、田舎町ならではの閉塞感が同居するヨークシャーを舞台にすることで、
ただの恋愛映画に収まらない“プラスα”を感じた。
台詞の聞き取りが困難だったのだけれど、あれって、ヨークシャー訛り?
何を言っているのか知りたくて、英語字幕を入れて欲しいほどであった。
ルーマニア人ゲオルグが喋る外国人訛りの英語が、一番聞き取り易いくらい。
ジョン役のジョシュ・オコナーは、南部出身なので、本作品のためにヨークシャー訛りを習得したのでしょうね。
余談になりますが、他国で命名されたお題について。
日本で、海外作品が公開される場合、邦題が悪趣味という批判がよく出るけれど、
今回は、『God's Own Country』をそのまま片仮名読みにしているためか、そのような批判は目にしない。
私個人は、“そのまま片仮名読み”信奉者たちには、共感しかねるのだけれど。
そもそも『God's Own Country』と『ゴッズ・オウン・カントリー』じゃぁ、まったく発音が違うし…。
コテコテに片仮名英語の『ゴッズ・オウン・カントリー』だと、まるで変テコな関西弁。
「ごっつぅ、追うんか、鳥ぃー」みたいな。
では、この映画、近場の中華圏では、どのようなタイトルになっているかというと…
左から、中国、台湾、香港。
中国の『上帝之国』は、英語の原題に一番近い。
台湾の『春光之境』は、同士片の名作『ブエノスアイレス(原題:春光乍洩)』(1997年)を意識か?
そして、私が最もイケていないと思ったのは、香港の『神的孩子在戀愛(=神の子、恋愛中)』。
使っている書体も、可愛すぎでしょー。