【2013年/日本/117min.】
尾崎俊介とかなこは、自然しか無い長閑な町で質素に暮らす夫婦。
いつもは静かなこの土地に、最近取材陣が押し寄せ、にわかに騒がしい。
隣人の立花里美が幼い息子を殺害し逮捕されたのだ。
間も無くして、俊介にまで共犯の嫌疑がかけられ、警察に連行されてしまう。
俊介が共犯者であると警察に通報したのは、なんと妻かなこであった。
一見仲睦まじい夫婦の間に一体何が…?
不可解な展開に疑問を抱いた週刊誌記者の渡辺は、夫婦の過去を調査し、衝撃の事実を突き止める…。


原作未読、内容未知。 大森立嗣監督の最新作という理由だけで鑑賞。
決して派手な作品ではないが、今年6月、第35回モスクワ国際映画祭で、
審査員特別賞を受賞した効果か

映画館は結構な混雑。
長閑な渓谷の町で起きた実母による幼子殺害事件で
近隣に暮らす尾崎俊介に共犯の嫌疑がかけられたのを機に徐々に明るみになっていく
俊介と妻かなこの衝撃の過去と、その過去を起点に築かれていくふたりの関係を描く
他人様には理解し難い究極の
メオト愛の物語。

衝撃の過去とは、ふたりがまだ高校生だった15年前に俊介が起こした集団レイプ事件。
その時の被害者が、なんと後に妻となるかなこ。
『新婚さんいらっしゃい!』に出て、馴れ初めを聞かれ、「ハイ、輪姦です♪」なんて答えようものなら
山瀬まみは絶句し、桂文枝は間違いなく椅子から転げ落ちることでしょう。![]()

もっとも、事件後すぐに恋に落ち、交際に発展したわけではなく、
いやむしろ当然のように、その事件はかなこに暗い影を落とし、彼女の人生をガタガタに崩壊させていく。
事件のせいで、男性とは上手い関係が築けず、職場も追われ、精神を病み、繰り返す自殺未遂…。
そんな状況を知り罪悪感に苛まれる俊介と、俊介を罪悪感から解放したくないかなこで、利害が一致。
ふたりは、幸せになるためではなく、“一緒に不幸になるため”に、共に生きる道を選ぶ。
懺悔や償い、復讐が入り混じる複雑な絆で結ばれるふたり。
随分面倒くさい人たちだが、よく“夫婦のことは夫婦にしか分からない”とも言うし
こんな夫婦が居ても良いような気がしてきた。
出演は、15年前の事件の加害者である夫・尾崎俊介に大西信満、
被害者である妻かなこ(=水谷夏美)に真木よう子、
事件を追う週刊誌記者・渡辺一彦に大森南朋。
一番の注目キャストは、大胆な濡れ場で話題をさらった真木よう子だろうか。
実際、まぁ大胆な方だとは思うけれど、あまりにもスゴイものを想像して作品を観ると、肩透かし。
フルヌードとも言われているが、バッチリ映るのは背中くらい。
日本人離れした巨乳も、確かに脇から少々覗くけれど、これっていわゆる“ハミちち”のレベルではないか。
女優の“脱いだ脱がない”だは、“トップが見えるか見えないか”が境界線になるのでは…?!
だとしたら、これはフルヌードではなく、セミヌードの域。
私がムキになって真木よう子の全裸問題を熱く語るのも妙だが、ただ単に、世間が騒ぎ過ぎと思っただけ。
セクシー下着ではなく、素朴な白いパンツを穿く真木よう子に萌えるマニアは居るかも。
ヌードと言えば、ベッドシーンではないけれど、大森南朋も上半身裸になるシーンが有る。
ぜんぜん太っておらず、それどころかスラーッとした印象さえある大森南朋だが
脱ぐと案外肉の質感や肌の張りに年齢が現れている。
近年身体を鍛えることに命懸けの男優が多いけれど、それは役を演じる上で本当に必要なものなのだろうか。
役に成り切ることより、自分をカッコ良く見せたいだけの身体作りにも思えてしまう。
その点、大森南朋のユルめのボディは、中年週刊誌記者という役にリアリティを与えている。
大森南朋のお肉に、彼の役者魂を垣間見る。
脇では、渡辺の同僚記者・小林杏奈役に鈴木杏、
かつて俊介と共犯でレイプ事件を起こした藤本役に新井浩文、
かなこの元交際相手・青柳役に井浦新といった日本映画お馴染みの俳優が出演。
新井浩文扮する藤本、フテブテしくてムカつくーーっ…!
少々意外なキャスティングに思えたのが、渡辺の妻に扮する鶴田真由。
品行方正で老人ウケも良さそうな鶴田真由は、ドキュメンタリー番組のレポーターとか
テレビドラマでの当たり障りのない役の印象が強く
正直なところ、毒が無さ過ぎて、女優としては面白味に欠けるとさえ思っていた。
そんな鶴田真由に、この手の映画から出演オファーが有ったこと自体意外だし
それを彼女が受けたことも意外。 鶴田真由、路線変更?

舞台となる渓谷は、「(レイプ事件被害者の)水谷夏美が男と一緒に立川のデパートに居た」という台詞から
立川以西のどこか、奥多摩辺りを想定しているのだろうと想像していたら
やはりあきる野市の秋川渓谷でロケしたらしい。 東京にもこんな大自然があるのだと、改めて驚かされる。
過去のシーンに関しては、新潟県三条市の三条駅、昭栄大橋などで撮影が行われたようだ。
この独特な愛の形には、まったく共感出来ないし
ましてや「これぞ究極の愛!」と陶酔することも無いけれど
先が読めそうで読みにくいサスペンスのような展開から目が離せず、作品の中に引き込まれ
風変わりな人間ドラマとして、大いに楽しめた。
現実にはほぼ起こり得ないと思われる設定で、あくまでも虚構なのだが
突き詰めた部分の人間関係には、現実味も感じられ、共感はしなくても、納得はできる。
例え加害者と被害者という関係であろうと、何かそういう秘密を共有することで固く結ばれ
外部から遮断された自分たちだけの世界で、傷をなめ合うように生きる男女とか
行き過ぎた償いや報復の上に成り立つマゾヒズム&サディズムのような、持ちつ持たれつの関係とか。
キッカケは悲惨なレイプ事件だったとしても、この夫婦、“破れ鍋に綴じ蓋”で、実にお似合いカップル。
ただちょっと普通より濃密だっただけ。 いやぁー、人生色々、夫婦も色々でございます。