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<沙門空海唐の国にて鬼と宴す>夢枕獏

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著    :夢枕獏
発行:角川書店



趣味は読書などと言っていた頃が噓のよう…。昔に比べ、読書量がめっきり減った私。
最近は、何かキッカケが無いと本に手がのびず、そのキッカケは大抵映画。今回も例外ではない。

その映画は、(↓)こちら。

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大陸の巨匠・陳凱歌(チェン・カイコー)監督最新作『空海 KU-KAI~妖貓傳/妖猫传』。
染谷将太×黃軒(ホアン・シュエン)ダブル主演の日中合作映画。
湖北省襄陽に唐の街を再現した巨大セットを作り、2016年夏にクランクインしたのは、こちらに記した通り。

お気に入りの俳優・黃軒が、陳凱歌監督最新作に出演、
しかも、日本の染谷クンと共演なんて聞くと、私はもうとっても興味をソソられちゃうわけ。

そんな映画の原作が日本の小説、夢枕獏のこの<沙門空海唐の国にて鬼と宴す>なのだ。
夢枕獏はファンが多そうなので、言いにくいけれど、
エッセイをちょっと読んだことがあったり、テレビのコメンテーターとしてご本人を知っている程度で、
実は小説をただの一冊も読んだことがない。
この<沙門空海唐の国にて鬼と宴す>も、どんな内容なのかまったく知らず。

是非読んで、映画の予習をしなくては!と思い、早速本屋さんへ。
…が、まさか全4巻もあって、しかも一冊一冊がブ厚かったのは、予想外。
取り敢えず購入したものの、量の多さに怯み、しばらくは放置状態。
しかし、いざ手を付けたら、これが案外読み易い。
物語の世界にぐいぐい引き込まれたし、一見多いように感じる量も、実は大して多くはない。
私は色々事情があって、途切れ途切れに読む羽目となってしまったけれど、
その気になれば、一日一冊、4日で完読できる量だと感じる。

★ 概要

これ、何かの雑誌に掲載された小説を単行本化したものだと勝手に思い込んでいた私。
いや、実際、そうなのだけれど、“お引越しに次ぐお引越し”の末に完成した小説らしい。

1987年12月に書き始めた小説の第1回が掲載されたのは、1988年2月号の<SFアドベンチャー>。
著者・夢枕獏が、ちょうど密教のおもしろさに気付いた頃で、
元々好きだった空海を主人公に、彼が唐の長安で妖怪と闘う話にしようと、見切り発車。
夢枕獏ご本人も当初は2~3年で書き上げるつもりでいたそうだが、
手探りで、楊貴妃を、李白を、…と加えながら物語が膨らんでゆき、
その間、諸々の事情で掲載誌が4回も変わり、2004年6月号の<問題小説>でついに最終回。
つまり、17年もの歳月をかけ、完結した小説なのですって。
夢枕獏が心血を注いだ17年分を、途切れることなく、4冊で一気に読めた私はラッキーだったのですね。


そんな小説<沙門空海唐の国にて鬼と宴す>は映画化される前に…

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なんと、空海=市川染五郎、橘逸勢=尾上松也という配役で歌舞伎の演目にもなって、
2016年4月に公演されていた。
うわぁ~残念…!気が付いていたら、観に行っていたのにぃーっ…!
もっとも、その頃はまだ原作小説を読んでいなかったし、映画化の話も公になっていなかったので、
仮に宣伝などを目にしていても、気に留めなかったのでしょうね…。

★ 物語

物語の幕開けは、西暦804年、唐代の中国。
唐朝第12代皇帝・宗(742-805)晩年の頃。
この時、遣唐使船で、儒学生の橘逸勢(782-842)らと、留学僧として入唐した若き日の空海(774-835)が、
唐の都・長安で、様々な怪異に遭遇し、それらを解決しながら、
青龍寺の恵果和尚(746-806)のもと、留学の目的だった密を見事手に入れ、大阿闍梨の灌頂を受け、
第14代皇帝に即位したばかりの憲宗(778-820)から許可を得て、
唐をあとにするまでの約2年間を綴った伝奇小説。


物語のベースは、天才的僧侶・空海が、本来20年のはずの留学期間を、たったの2年で済ませ、
しかも、その間に青龍寺の恵果から密教の奥義を伝授され、大阿闍梨の灌頂を受け、
帰国の途に就いたという歴史的事実。
事細かなエピソードにも史実は盛り込まれているし、実在の人物も数多く登場。

それだけだったら、ただの伝記なのだが、本書では、様々な方面に長けていたと語り継がれる天才・空海を、
さらにその上をいく超人的人物像に仕立て上げ、物語を独創的なファンタジーに膨らませている。

生まれながらの比類なき天才・空海と、
充分頭は良いが、空海と比べるとどうしても凡人になってしまう橘逸勢が、
行動を共にし、唐で起きる不思議な事件に挑む“バディもの”、“推理もの”の要素も。


また、時代背景に関しては、基本的には804年から806年という空海留学期間の2年間だけれど、
唐朝第6代皇帝・玄宗(685-762)から寵愛を受けた楊貴妃(719-756)の死の謎に迫る部分、
つまり、さらに約50年遡った頃も、物語の中で重要な要素として描かれる。

★ 映画版では…

人気小説が映像化されると、原作のファンから「イメージが違う!」と必ず批判が出るものだ。
日中合作映画『空海』は、全貌が明らかになっていない現時点でも、
すでに原作とはかなり違う物なのではないかと私は推測。

『妖猫伝』という中文原題からも想像がつくように、
映画は特に小説の中の妖猫のエピソードを中心に進行するようだ。ミステリーっぽい感じ…?
邦題『空海 KU-KAI』だと、空海の伝記映画を想像してしまうけれど、それは多分違うと思う。

さらに、空海&橘逸勢コンビが活躍するバディものである原作小説と異なり、
映画で空海とコンビを組んでいるのは白楽天(772-846)。

のちに唐代を代表する大詩人・白居易となる白楽天は、
小説の中では、詩作の才にはすでに目を見張るものがあっても、まだ一介のお役人。
倭国からやって来た2歳年下の空海と知り合い、共に楊貴妃の死の謎を追うようになる。
空海帰国の直前には、玄宗皇帝と楊貴妃のエピソードを謳ったかの<長恨歌>を書き上げ、
それを空海に贈る。

今調べたら、<長恨歌>って、本当に空海が唐を離れた年、806年に創られた作品だったのですね。
空海と白楽天、そして楊貴妃のエピソードを巧く絡めたフィクションと、感心。
本当に唐で空海と白楽天は交流していたかも…、と想像を掻き立ててくれる。

★ 映画『空海』キャスト その①:主人公

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私が本書を読んだのは、映画『空海 KU-KAI』の予習だったので、ここで映画のキャストも少し見ておく。
小説を読み始める前に、すでに主人公2人の配役は知っていた。


空海:染谷将太

“空海=おじいさん”のイメージがあったので、染谷将太が演じると知り、当初はピンと来なかった。
でも、どんなおじいさんにも、青年時代はあるのだ。
そして、そんな若かりし日の空海を描く本書を読み始めてすぐに、この空海は染谷クンにピッタリ!と感じた。
天才といってもガリ勉タイプではなく、本当に天から才を授かったような人で、なんでもサラリとやってのけ、
凡人には真意が読めない神秘性も持ち合わせ、それでいて人をたらし込む愛嬌さえある物語の中の空海が、
染谷クンにばっちり重なった。
問題は、“唐人並みに上手かった”とされる唐語。
染谷将太は、中国語の台詞を頑張っているそうだが、
すでに成人した日本人が中国人並みの発音で中国語を喋るのは、まず不可能だと思う。
最終的には、中国では当たり前の吹き替えに頼るのか、
はたまた“中国人並み”ではなくても、本人の声が使われるのか、どちらでしょう…?


白楽天:黃軒(ホアン・シュエン)

黃軒については、こちらの“大陸男前名鑑”を参照に。
黃軒は、この映画で私が最も期待しているキャスト。
小説の中では、実は橘逸勢より扱いがずっと小さい。
映画は日中合作なので、橘逸勢の代わりに、この白楽天を空海の相棒としたのであろう。
“大陸男前名鑑”にも記した通り、黃軒の曽祖父・黃文中(1890-1945)は、日本に留学経験のあり、
白楽天所縁の地でもある西湖で過ごした時期に、多くの詩作を遺した文人でもある。
私は、黃軒の芸術家的感性に、その曽祖父の血を感じずにはいられないので、
白楽天を演じると知り、これまたハマリ役の予感がした。
但し、映画のメイキング映像を見ると、この白楽天は、私が小説から受けたイメージとやや異なり、
陳凱歌監督は、“知識人ではあるが、子供っぽく、すぐカッとなり易い性格”とイメージしている事が分かる。
落ち着いた空海との対比にもなるので、それはそれで“アリ”。
黃軒が、どのように子供っぽくて、ちょっとやんちゃな白楽天を演じるのか期待。

★ 映画『空海』キャスト その②:その他の登場人物

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現時点で判明している他のキャストについても、軽く触れておく。
こちらに記した、2016年11月発表のものと変わっていない。)


陳雲樵:秦昊(チン・ハオ)

金吾衛の役人。原作に出てくるのは“劉雲樵”。
映画で、この人物の姓が“陳”になっているのは、報道の誤りなのか、
はたまた映画版では敢えて姓を変えたのか、現時点では不明。
とにかく、原作では、この雲樵という金吾衛の屋敷に、猫の妖物が住み付き、彼の妻を寝取るという事件が
物語序盤の大きな山になっている。
婁(ロウ・イエ)監督や王小帥(ワン・シャオシュアイ)監督といったアート系作品で重用される秦昊が、
陳凱歌監督の大作でどう調理されるのかも注目。



春琴:張雨綺(キティ・チャン)

陳雲樵の妻。金吾衛・雲樵の添え物的な、ただの美人妻ではない。この妻に妖猫が憑依してしまうのだ。
なので、怪しげで、艶っぽい役になるのではないかと想像。
張雨綺は、本作品への出演が判明した当初、
楊貴妃役とも伝えられていたけれど、結局この春琴を演じるのですね。
彼女は、確かに猫系の顔かも。英語名も“キティちゃん”だし(笑)。
なお、張雨綺は撮影真っ只中の2016年秋、実業家と電撃再婚しております。



玉蓮:張天愛(チャン・ティエンアイ)

胡玉樓の妓生。胡玉樓は、その名の通り、西域の民族・胡の女性が集まる妓楼。
玉蓮もまた胡の女性で、胡の事情に詳しかったり、仕事柄人脈もあるので、空海の調査を何かと助ける。
演じる張天愛は、主演した低予算ネットドラマ『太子妃升職記』がマサカのヒットとなり、
一躍スターダムにのし上がった注目の若手女優。陳凱歌監督作品に抜擢され、益々箔が付いていきそう。
女優になる前、一時期日本に留学し、日本語も喋れるという噂もあるので、
日本の観衆が親近感を抱く存在になるかもね。



丹龍:歐豪(オウ・ハオ)

胡の道士・黄鶴の弟子。
物語には序盤から、空海に要所要所で助言を与える丹翁という不思議な道士が登場するのだが、
後半戦に突入すると、その丹翁が、実はその昔、“丹龍”と呼ばれていた黄鶴の弟子であったことが判明する。
映画で、若い歐豪が、この丹龍を演じているということは、
空海が唐に留学中の“現在”と、もう一つ、かなり遡った時代も、同時進行で描かれるのか?
年を取った丹龍、つまり丹翁も、年配の別の俳優が演じて映画の中に登場?
若い丹龍を演じる歐豪は、若手シンガー兼俳優。
2015年、東京・中国映画週間のために来日しているので、私もナマで見たことあり。(→参照



白龍:劉昊然(リウ・ハオラン)

白龍もまた黄鶴の弟子で、小説の中では、いつも丹龍とセットで登場。
劉昊然は、1997年生まれ、中央戲劇學院に在学中のまだ十代の学生ではあるが、
ここ1~2年で人気も知名度も急上昇し、
『琅琊榜之風起長林』の主人公に大抜擢された大陸芸能界の超優良株。
この『空海』では、白龍を演じるために、10キロも減量したのだと。
小説の中で、白龍&丹龍コンビは、十代半ばのはずなので、少年っぽさを出すために、痩せたのかもね。



阿倍仲麻呂/晁衡:阿部寛

阿倍仲麻呂(698-770)は、空海よりずっと前、楊貴妃を寵愛した唐朝第9代皇帝・玄宗(685-762)の頃に、
唐へ渡った遣唐使。
小説の中では、実際に交流があったとされる李白(701-762)に宛てた阿倍仲麻呂の手紙が、
楊貴妃の謎を解く鍵となる。
日本人の役なので、演じるのは勿論日本人で阿部ちゃん。
中華圏での知名度は染谷将太よりずっと高いので、
あちらでは、目玉の大物キャスト扱いになっているように見受ける。



あと、こちらに記したように、日本人俳優は他にも、松坂慶子の出演が、
第29回東京国際映画祭での記者会見で発表されている。
演じているのは、日本から唐へ渡った白玲という女性。
小説には日本人女性は登場しないので、映画のために新たに作られたキャラクターであろう。
なお、松坂慶子は2016年9月に中国へ渡り、すでに撮影済み。
衣装を身に着けた松坂慶子のスチールは、今のところ未公開。

他にも、もし映画の中に玄宗皇帝や楊貴妃が登場するなら、この先、演じる俳優が公表されるだろう。
どの美人女優が“傾国の美女”楊貴妃なのでしょう。

原作小説を読んだことで、映画が益々楽しみになってきた。
長い小説の妖猫の部分をどうまとめて一本の映画にしているのか知りたいし、映像美への期待も大きい。
撮影が行われている湖北省襄陽の“唐城”で撮られたスチール写真は、どれもタメ息が漏れる美しさ。
文字でしかなかった小説<沙門空海唐の国にて鬼と宴す>の世界が、
あの風景の中で実際に動く絵になるのだと考えると、ワクワク。
早く出来上がった映画を観たい。

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