西暦1449年、明の第6代皇帝・英宗は、太監・王振にそそのかされ、
軍を率いて瓦剌(オイラト)に親征するも、捕虜になってしまう。
代わって、弟の朱祁が、明朝第7代皇帝・景泰帝に即位するが、間もなくして英宗が帰国。
景泰帝は、兄に表面上“上皇”の位を与え、南宮に幽閉。
英宗の復位を訴えた大臣の李為は、景泰帝の怒りに触れ、朝廷の敵として追われる身となってしまう。
粗末な家で息をひそめるように暮らしていたが、汪直という少年の密告で捕らえられ、
遂には、身重の妻を残し、失意の中、処刑される李為…。
9年後、父・李為を知らずに生まれた娘・紫雲は、
女手一つで苦労して自分を育ててくれた母まで亡くし、天涯孤独の身に。
貧しくても、心優しい少女に育った紫雲は、
ある日、いつものように野菜を売っていた時、空腹で万引きを働いた汪直という男を助ける。
しかし、そのせいで、自分が責められる羽目となるが、
たまたま通りがかった富商・邵仲に助けられ、そのまま邵家で暮らすようになる。
邵家の娘・春華と、まるで姉妹のように大切に育てられ、幸せな日々を過ごす紫雲。
ところが、数年後、春華を入宮させろという命令が朝廷から下る。悲観に暮れる春華と、その両親…。
紫雲は、自分を育ててくれた邵家の恩に報いるため、春華の身代わりで、自分が入宮しようと決意。
こうして、李紫雲は、本名を捨て、邵家の娘・邵春華に成り済まし、宮廷に上がるが…。
2016年6月上旬、
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チャンネル銀河の“中国悪女シリーズ”第2弾として始まった大陸ドラマ
『王の後宮~後宮』が7月半ば、全46話の放送を終了。
「さすがに、これはキツイわ」と、当初スルーするつもりでいたのだが、
時代背景に興味が有ったのと、以前に頭の数話を観たことがあるドラマだったので、ついつい…。
いざ観たら、それなりに楽しめたので、記録を残しておく。
★ 概要
黃建(ファン・ジェンシュン)、何莉萍(ホー・リーピン)共同監督による
拉風娛樂、2011年制作のドラマ。
拉風娛樂のドラマは、あまり日本に入って来ていない。
それと本作品を比べると、多くのキャストがカブるし、テイストもやはり非常に似ている。
(そして、そのテイストが日本ウケすると考えにくい。
→だから拉風娛樂ドラマは日本にあまり入って来ないのかも。)
監督の一人・黃建は、香港のTVB無綫電視のベテランで、1979年の鄭少秋(アダム・チェン)版『楚留香』や
1988年の梁朝偉(トニー・レオン)版『絕代雙驕』といった香港ヒットドラマを手掛けた他、
近年は大陸で、『第九個寡婦~The Ninth Widow』、『天天有喜~A Happy Life』等をヒットさせている。
(広東語読みにすべき香港人の監督に“ファン・ジェンシュン”という北京語風の片仮名表記は違うと思うが、
当ブログでは日本の公式サイトに従った。)
もう一人の何莉萍の方は、2009年の監督作で、
台湾の潘儀君(ジョイ・パン)が主演した大陸ドラマ『紅の雫~難為女兒紅』を中盤まで観たことがある。
諸々の事情で、残念ながら最後まで観られなかったけれど、なかなか面白かった。
この『王の後宮』は、現地から遅れること約2年、2013年に日本でも
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DVDがリリース。
テレビでも、今回のチャンネル銀河が初めてではなく、すでに他局で幾度となく放送済み。
★ 万貴妃
チャンネル銀河の“中国悪女シリーズ”は、
シリーズ第3弾の武則天(624-705)を扱った日本初放送ドラマ『武則天 The Empress~武媚娘傳奇』
を盛り上げるための企画なのかも知れない。
プロローグ的な前2作品は、いずれも日本ですでに紹介済みの古い作品で、
そして、この第2弾で焦点を当てているのは…
日本では通常“万貴妃”と称される明の萬貞兒(1428-1487)。
明朝第9代皇帝、“成化帝”こと憲宗・朱見深(1447-1487)の皇貴妃。
生年を見ても分かる通り、万貴妃は成化帝より19歳も上(…!)の姉さん女房。
成化帝の生母・孝肅皇后周氏(?-1504)は、生年不明であるが、
7歳で宮廷に上がり、皇帝・英宗との最初の子を1446年で産んでいるので、それを17歳と仮定すると、
1429年前後の生まれだったと考えるのが妥当だろうか。
つまり、万貴妃は、お姑サマとほぼ同世代(←お姑サマより年上だった可能性も否定できない…)。
そもそも憲宗(成化帝)は、なぜそんなオバさんなんかに…?
後の憲宗、朱見深は明朝第6代皇帝・英宗と周氏の間に生まれた長男、
つまり皇帝の座がほぼ約束されたような人物であるにも拘らず、幼少期から波乱万丈。
1449年、土木の変(土木堡之變)で、父帝が捕虜となり、代わって叔父が明朝第7代皇帝に即位すると、
始めの内こそ太子の座を守れたものの、1452年、叔父は自分の息子・朱見濟を太子に立て、
甥っ子・朱見深は廃太子に。
1457年、奪門の変(奪門之變)で、父が明朝第8代皇帝に返り咲いたのに伴い、再び太子に封じられ、
1464年、父帝崩御で明朝第9代皇帝に即位している。
後の万貴妃、萬貞兒(←“マン・サダコ”と勝手に日本語風に呼ばせていただきます)は、
4歳で宮廷に上がり、明朝第5代皇帝の皇后・孫氏に宮女として仕え、
成長すると、東宮に配属され、朱見深のお世話係りに。
間も無くして起きた土木の変で、朱見深が従弟に太子の座を奪われ、肩身が狭くなっても、
彼に誠心誠意尽くすサダコ…。
ウブで世間知らずだった朱見深は、人生最悪の時に自分を守り、甲斐甲斐しく尽くしてくれた
一番身近にいたオバさん、サダコに惚れてしまったのですねぇ~。
パパは皇帝の座に復活後、息子がオバさんにヨロメいている事を知り、驚き、若いお嫁さんを宛がうが、
パパ崩御で新皇帝となった朱見深は、ただのベテラン宮婢だったサダコを後宮に入れて寵愛。
その結果、1466年、なんとアラフォーにしてサダコ、男児を出産というミラクルを起こす!
そのお手柄で、貴妃に冊封されるも、一年もしない内に息子夭逝…。
すでに高齢で、以後二度と妊娠しなかったサダコは、嫉妬に狂い、
他の嬪妃が産んだ子を片っ端から殺していったと言い伝えられているけれど、
現在では、その言い伝えの信憑性に疑問があるようだ。
(本ドラマでは、言い伝え通り、他の嬪妃を嵌めたり、赤子を手に掛けまくっている。)
このように濃いぃ人生を送ったサダコも、1477年、59歳で病死。
成化帝はサダコに恭肅端慎榮靖皇貴妃と諡し、天壽山に葬ると、
哀しさのあまり身体を壊し、数ヶ月後、最愛の人を追うように、41歳で崩御。
なお、成化帝の崩御で、明朝第10代皇帝、“弘治帝”こと孝宗に即位したのは、
紀氏(?-1475)が産んだ朱祐樘(1470-1505)。
紀氏にもまたサダコの魔の手が及んだが、生まれた朱祐樘は太監・張敏に助けられ、
かつてサダコによって廃された吳廃皇后(1448-1509)の元で密かに養育されている。
あと、この頃の明朝でもう一つ注目しておきたいのが、西廠(せいしょう)。
キッカケは、1476年、道士の李子龍が、紫禁城裏の景山に登ったところを、錦衣衛に発見され、
皇帝に殺意ありと見做された事件。
この事で、身の危険を感じた成化帝が、太監・汪直(?-1487)を長に設置したのが、
警察権を行使する朝廷の特務機関・西廠である。
本ドラマでも、汪直と西廠は、重要。
★ 物語
成化帝が天下を治める明代、育ての親の恩に報いるため、身分を偽り、宮女として宮廷に入った春華が、
後宮で繰り広げられる女たちの争いに巻き込まれながらも、純粋な心を失わず、
過酷な運命に立ち向かっていく姿を描く歴史フィクション。
要は、成化帝の時代、寵姫・万貴妃が猛威を振るう後宮を、
架空の女性・春華の目線で、史実とフィクションを交えながら描いた宮廷劇。
“史実ベースの宮廷劇”と言っても、
成化帝は、見ているこちら側が心配になるほど政務をまったくこなしていない。
中文原題の『後宮』が示している通り、後宮での出来事を描いた女たちのドラマなのだ。
★ キャスト その①:大明ロイヤル馬鹿ップル
楊怡(タビア・ヨン):萬貞兒(1428-1487)~息子ほど若い成化帝に愛され続けた寵姫
本ドラマは、香港TVB所属女優(←最近解約)・楊怡の大陸本格進出ドラマ。
私は香港ドラマを観ないし、楊怡は映画にほとんど出ていないから、まったく馴染みの無い女優さん。
辛うじて彼女を知っていたのは、今年、同郷の年下イケメン俳優・羅仲謙(ヒム・ロー)と結婚したから。
本ドラマで初めて演じているところを見た彼女は、いやぁ~、キョーレツですねぇー。
演技にクセがあるわけではなく、顔のインパクトが。一度見たら、絶対に忘れられない顔で…
若い頃の前田美波里にそっくり。
日本人ウケする顔立ちではないと思うが、息子ほど若い皇帝の面倒を幼少期から見て、
物心ついた頃にはすっかり手懐けてしまう、ちょっとした調教師的な超姉さん寵姫にはぴったり。
ちなみに、ドラマの中で、このサダコが暮らしているのは、紫禁城内の“紫雲殿”という宮殿。
明代に建設された紫禁城は、清に王朝交代した際、多くの建物の名称が改名され、
現代我々は、その清代に付けられた最後の名称をそのまま使っている。
例えば、紫禁城の中心的建物として知られる“太和殿”も、明代の名称は“奉天殿”、“皇極殿”である。
このドラマの紫雲殿が、清代のどの宮殿に当たるのか、気になって調べたところ、
東西十二宮(紫禁城の後宮)に、明代そのように呼ばれていた宮殿は無かった。
どうやら“紫雲殿”は、このドラマのために付けられた架空の名称のようだ。
また、実際のサダコが暮らした宮殿も、歴史資料が残されていないようで不明。
皇后レベル、もしくは後の皇帝を産んだ嬪妃くらいじゃないと、
女性は記録を残してもらえないものなのです。
蔣毅(ジャン・イー):憲宗・朱見深(1447-1487)~明朝第9代皇帝 通称“成化帝”
本作品は、成化帝時代の後宮を舞台に、成化帝を巡る女性たちの争いを描いたドラマではあっても、
当の成化帝が魅力的な男性主人公というわけではない。
メインはあくまでも女性たちであって、成化帝は彼女たちが争う動機でありながら、添え物的な印象すらある。
そんな訳で、やや影が薄いのだけれど、それこそが本ドラマでの成化帝の持ち味。
成化帝が絶対的存在感のある、いかにも“君主!”というタイプでは、このドラマは恐らく成立しないし、
彼が萌えキャラである必要もない。
演じている蔣毅には、母親ほど年の離れたサダコに手懐けられ、簡単に丸め込まれてしまう
腑甲斐ない皇帝の雰囲気がある。
でも、この蔣毅、1980年生まれで、実はサダコ役の楊怡と、一歳しか違わない。
それを知ると益々正解のキャスティングだったように思えてくる。だって、19歳差に見えるもの。
★ キャスト その②:主人公とその親友(…?)
安以軒(アン・アン):邵春華~本名は李紫雲 邵家への恩返しで、邵家の娘に成り済まし宮女に
大陸に拠点を移し幾久しい台湾女優・安以軒。
チャンネル銀河では、“中国悪女シリーズ”の一作として本ドラマを放送したけれど、
この物語の主人公は悪女・万貴妃ではなく、安以軒扮する架空の女性・春華。
普段のインタヴュなどを見ると、勝ち気で高飛車な印象さえある安以軒だが、
ドラマでは、けな気な女性がお手の物。本ドラマの春華も、その例外ではなく、ひたすら正直でひた向き。
春華が主人公なので、本人が望まなくとも、その内皇帝に見初められ、側室になるのかと思いきや、
親友二人が側室になっても、彼女だけ宮女のままだったのは予想外であった。
(努力家で人望もあるので、一応、ただの宮女から、樂工局の掌樂には昇格する。)
脚本が悪いと言ってしまえばそれまでだが、役がブレブレで、
最後の最後で汪直に対する不義理とも取れる行動を起こし、楊永の元へ飛び込んで行く彼女を見て、
軽蔑に近い失望を感じた。
元々凡庸で魅力に欠ける主人公だったけれど、あれは酷い。春華、オトコ見る目なさすぎ。
劉庭羽(リュウ・ティンユー):柏含香~春華の親友 浣衣局の宮婢から皇帝の宸妃に大出世
この柏含香は、成化帝の側室の一人、柏賢妃(?-1527)がモデルではないかと想像。
実際の柏賢妃は、成化帝の父・英宗に選ばれ、宮廷に上がり、賢妃に冊封され、
成化帝にとっては第二子となる朱祐極を産むも、その子は夭逝。サダコによる毒殺という説もある。
ドラマの柏含香は、お洗濯担当の宮婢でありながら、音楽の才能を生かし、樂工局の楽師に昇進。
同僚の楊永に想いを寄せるが、琵琶の演奏を成化帝に気に入られ、望みもしない宸妃に大出世。
たとえ成化帝を愛していなくても、懐妊を機に、母として生きると決意するも、サダコの陰謀で流産。
心に深い傷を負い、体調まで崩し、若くして亡くなる悲劇の宸妃。
実際の柏賢妃も、幸せではなかったかも知れないが、80歳前後まで生きた御長寿だったのが、異なる点。
ちなみに、宸妃に冊封された含香が暮らすのは、“同心殿”という宮殿。
サダコの紫雲殿と同じように、同心殿という名称も架空みたい。
呂一(リュイ・イー):邵清姿~本名は邵春華 清姿と名を変え、恩人・潘洪の養女として後宮入り
邵賢妃に冊封され、サダコの毒牙を恐れ、こっそり男児を出産するこの清姿は、
同じようにサダコを恐れ、安樂堂でひっそり後の皇帝・朱祐樘を出産した紀氏(?-1475)をベースに、
明朝第12代皇帝・世宗朱厚熜の祖母で、後に孝惠皇后と呼ばれる邵氏(?-1522)の要素を
足した人物ではないかと想像。
ドラマの中の清姿は、一度は宮仕いを逃れたものの、家庭の事情が変わり、結局宮廷に上がる羽目に。
養父の潘洪と、先帝の皇后である錢太后は、一族の地位を確固たるものとするため、
可憐な美女・清姿を、成化帝をオトす最終兵器として投入するのだ。
…が、その清姿に扮する呂一が役不足。決してブスではないけれど、下膨れの庶民的な顔立ちは、
“城下町で評判のマントウ屋の看板娘”程度がいいところ。
せめてもの救いだった善良な性格も、中盤に崩壊。
春華と含香への彼女の手の平を返したような態度は、
不運続きで、疑心暗鬼になっていたという致し方ない事情を考慮しても、同情の余地なし。
終盤、七巧に騙されていた事に気付き、心を入れ替え、春華・含香との友情も復活するけれど、
私だったら、あんなに簡単に態度をコロコロ替える人なんか信用できない。
美人女優なんか腐るほど居る大陸で、わざわざ呂一をキャスティングした理由はナンなのでしょう…?!
実際の成化帝は、邵氏の美しい容姿のみならず、彼女の詩才を愛したと言い伝えられている。
北京舞蹈學院卒の呂一扮する清姿の武器は、やはり舞踊。
普通の踊りではなかなかオチなかった皇帝も、
清姿が起死回生の策で舞ったセクシーでエキゾチックなベリーダンスでは、いとも簡単にコロッ!
ちなみに、この清姿のお住まい“倚霞殿”も、紫雲殿、同心殿と同じように架空の名称。
史実では、紀氏が朱祐樘を出産したあと、永壽宮を宛がわれた事、
邵氏が太極殿に暮らした事が分かっている。そのいずれも西宮である。
★ キャスト その③:その他の女性たち
陳莎莉(サリー・チェン):錢太后(1426-1468)~明朝第6/8代皇帝・英宗の皇后
史実の錢太后は、明朝第6/8代皇帝・英宗の皇后でありながら、子供に恵まれなかったこともあり、
朱見深(後の成化帝)を産んだ周氏と対立。
ドラマでもそれは同じ。ドラマではさらに、サダコの後ろ盾という設定で、
ライバル周氏を制圧するため、サダコと成化帝の婚姻を後押しする。
サダコ役の楊怡に負けず劣らずキョーレツな顔立ち。
このコッテリ毒々しいコンビで、終盤まで暴走するのかと想像したけれど、錢太后は案外あっさり崩御なされた。
何賽飛(ホー・サイフェイ):周太后(?-1504)~明朝第6/8代皇帝・英宗の貴妃 成化帝の生母
ライバル錢太后の死で、独走態勢に入ったのが、成化帝の生母であるこの周太后。
ドラマの中で、亡くなった錢太后が英宗と合葬されることに猛反対し、
「先帝と合葬されるのは、皇帝を産んだこの私!」と大騒ぎするのは、言い伝え通り。
扮する何賽飛は、“ちょっとキレイめな泉ピン子”という感じのふてぶてしさがよろしい。
今回の周太后は多少面倒でも、充分許容範囲の真人間に感じてしまった。
そもそも、可愛い息子が、自分と同世代のオバさんを娶り、しかも彼女の言いなりになっているのを見たら、
普通の母親なら不快でしょー?!私には息子はいないけれど、周太后に自分を重ね、
すっかりお姑サマ気分で、テレビの中のサダコを睨み付けてしまった。
劉娜萍(リュウ・ナーピン):凌七巧~司正である凌錦雲の姪 野心家で、春華に執拗なまでの敵対心
七巧は架空の人物。司正である叔母の権力を笠に着て、
同時期に宮廷に上がった大嫌いな春華を失脚させようと、次から次へと策を講じる、本ドラマの悪役。
ただ、その策がことごとく下策で、その都度その都度、七巧が馬鹿を見て一件落着するので、
見ている視聴者は、正義が勝ってスカッとするはず。
まぁ、七巧は、悪役といっても、所詮小賢しい小者なのだ。
あまりにも面倒を起こすので、頼りの綱の叔母・凌司正からも突き放され、遂には自業自得の惨死…。
演じている劉娜萍は、目鼻立ちの整った美人さんだが、額が広過ぎるのが難点。
この人、前髪を上げ、おでこを全開しちゃうと、どうしても間抜けな顔になっちゃうのよねぇ。
★ キャスト その④:その他の男性たち
馮紹峰(ウィリアム・フォン):楊永~兄・楊洛の死の真相を探るため宮廷に上がった楽師
楊永は、科挙を受けるため都にやって来た青年。ところが兄・楊洛が無残に殺され、人生が一転。
悲観に暮れ、自分で作曲した兄を悼む曲を、得意の笛でピロピロ演奏していたところ、
その悲愴感漂うメロディが、ちょうど子を亡くしたばかりのサダコの心に響き、すっかり気に入られ、
楽師にスカウト。楽師に興味など無かった楊永だが、兄の死の真相を探る良いチャンスと捉え、宮廷入り。
そして、そこで出逢った同僚の春華や含香と、淡い恋心が芽生える。
男性陣の顔ぶれを見て、馮紹峰扮するこの楊永こそが、本ドラマ一の萌えキャラと単純に思った私。
ところが、ドラマ後半、ダークホースにその座を奪われ、楊永は魅力も存在感も一気にダウン。
兄の復讐に執着し、都に居座り、春華に面倒なお願い事をした際には、私の堪忍袋の緒も切れて、
テレビの中のあの馮紹峰サマに「いい加減にして。もうサッサと田舎に帰りなヨ」と吐き捨ててしまった…。
譚耀文(パトリック・タム):汪直(?-1487)~世渡り上手でズル賢く、西廠の長にまで上り詰める叩き上げ
サダコからも成化帝からも重用され、西廠が設置されるとその長の座につく太監・汪直は、実在の人物。
ドラマでは、実際には分からない子供時代から描かれる。そのプチ汪直を演じているのは…
飛流は、あんなに可愛かったのに、本ドラマのプチ汪直は、恩をサラッと仇で返す小悪魔。
これ見ると、性善説ではなく、性悪説の方を信じたくなる。
その後、小悪魔は、本当の悪魔のように残忍な男に成長。
小賢しいだけの七巧が可愛く思えるほど、汪直は危険な悪役。
…しかし、そんな汪直が、かつて自分を助けてくれた少女・春華と再会し、フォーリンラヴ。
そこからの汪直の見返りを求めない彼女への献身っぷりがスゴイ。
次第に春華が乗り移った私ってば、すっかり情にほだされ、
あの馮紹峰扮する楊永より、この譚耀文扮する汪直の方が素敵に見えてきてしまったから、不・思・議。
陸霖(ルー・ユーリン):袁放~楊永の友人で清姿に密かな想いを寄せる
陸霖は、本ドラマのイケメン枠で、馮紹峰に次ぐNo.2美男であろう。
…が、潘洪の家で出逢った清姿と心を通わせたり、その潘洪に才覚を見い出され、役人に推薦されたり、
鉄仮面つけて世直ししたり、ちょこちょこと物語に絡んでくる割りに、それ以上の見せ場の無い役。
この人、一体何をしたかったのだろう?袁放は、最終的に、私の中でほとんど印象に残っていない。
★ キャスト その⑤:安鈞璨
決して大きな役ではないけれど、本ドラマには台湾の安鈞璨(ショーン・アン)が
春華と仲良しの小安子役で出演。
そう、かつて王傳一(ワン・チュアンイー)、曾少宗(フィガロ・ツェン)らと共にアイドルユニット、
可米小子(コミックボーイズ)に所属し、
2015年6月、肝臓癌のため31歳の若さで亡くなった、あの安鈞璨。
この御長寿の時代に、可米小子のメンバーがアラサーで病死するのは、安鈞璨でなんと2人め。
命って、儚いですね…。
生前の安鈞璨は、本ドラマの主演女優・安以軒とは名字が同じであることから、
“安氏企業”という芸能界お友達グループを作り、非常に仲良く交流していたことで知られる。
また、安鈞璨の大陸進出が決まった際には、大陸進出台湾明星の先輩として、
安以軒が色々サポートしたと言われている。
このドラマで安鈞璨扮する小安子は、安以軒(春華)を助けるために、命を落とす。
その後、実際に安鈞璨が逝っちゃうことを知っているので、見ていて切ない。とにかく、御冥福を祈ります。
★ ここが変だよ『王の後宮』
色々ツッコミだしたらキリが無い粗削りな『王の後宮』。
ここには、どうしても気になってしまった部分を4ツだけ挙げておく。
本ドラマのポスターを見た時、瞬間的に張藝謀(チャン・イーモウ)監督2006年の映画、
多少アレンジはしているものの、ゴールド・フレーム使いから、
キャスト→タイトル(中文)→タイトル(英文)という文字のレイアウトまで、まんま
『王妃の紋章』。
私は、そもそも大陸時代劇のキンキラ化が進んだのは、
『王妃の紋章』の影響だと踏んでいる。
あの映画を観て、多くのドラマ関係者が「こんなにキンキラにしてもいいんだぁ」と気付いちゃったわけよ、多分。
でも、巨額を投じて創り上げた張藝謀監督の世界観を、表面的に真似ても、安っぽいだけ。
本ドラマでも、高貴な女性が身に付けている宝飾品の金色が、一見して軽そう。
このドラマを観ていて最初にギョッとしたのは、楊永の兄・楊洛が景山で仲間と共に捕らえられた挙句、
免罪で処刑され、見せしめのため、その遺体が城壁に晒されたシーン。
その様子はまるで“紫禁城に吊るされたジャンボてるてる坊主”(←ジャンボな割りにショボく、しおれ気味)。
悲劇ではなく、喜劇。
あのてるてる坊主と向き合いながら、爆笑するどころか号泣する馮紹峰に、私は役者魂を見た。
(楊永の兄・楊洛が捕らえられてしまう紫禁城を一望できる山・景山に関しては、
こちらを参照。)
本ドラマでは、主人公・春華が樂工局に配属されることもあり、楽器や音楽が重要な要素。
作中、演奏のシーンはとても多い。
…にも拘らず、登場人物たちが楽器を奏でる手元が、耳から入って来る音とズレまくり!
演奏のレパートリーが3曲程度しかないのだから(←宮廷の楽師が、たったの3曲しか弾けないのも問題)、
音と手元を合わせる工夫が必要。
音楽を流しながら撮影すれば、それらしく合わせられるはずなのに、そうなっていないという事は、
使う音楽が決まらないまま無音で撮影しているのかも知れない。
紫禁城を舞台にした本ドラマは、
ホンモノの紫禁城とほぼ同スケールのセットがある店影視城で撮影されている。
横店では、セット内の調度品など細々した部分は、作品によってその都度替えているのだろうけれど、
本ドラマでは、扁額に替え忘れを一度発見。
紫禁城内の建物には、明代、漢字で書かれた扁額が掛けられていなければならないが、
一度、城内のあずまやに満州文が併記してある扁額が掛かっていたのだ。
成化帝の時代にすでに明朝滅亡、清との王朝交代を予感させる不吉な扁額(苦笑)。
また、清の乾隆帝が作らせた九龍壁も、ドラマの中に数回映し出されてしまっている。3百年早いわヨ…。
(乾隆帝が作らせた九龍壁については、
こちらを参照。)
★ テーマ曲
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音楽は、オープニング曲が、柏含香役の劉庭羽と袁放役の陸霖のデュエット
<不悔>、
エンディング曲が、一加一組合の<孤單的習慣>。
一加一組合というのは、和匯慧(ショーン・ハー)と王梓同(ジュリアン・ワン)による男性ユニットで、
自分たちの曲は勿論の事、他のアーティストにも曲を提供している。
ドラマのエンディング曲<孤單的習慣>は、その一加一組合の代表的な曲でもあるので、ここにはそれを。
このドラマ、最終回で全てがブチ壊しじゃない…?!
危険を冒してまで春華を守り続け、最後に彼女のために痩せ我慢して男らしく身を引いた汪直に対し、
ちゃんと心から感謝し、淡い恋心も抱いているかのように見えた春華であったが、
その直後に楊永探しを始めるなんて、彼女の変わり身の早さに唖然…。
これといった魅力の無い平凡な彼女の取柄は、利他的で、どこまでも清らかな心くらいだったのに、
最終回、最後の最後のこの豹変で、一気にただの馬鹿オンナに
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格下げ。
春華の軽率な行為で、親友の小安子が犠牲になったのに、
川にプカプカ浮いた手作りイカダみたいな小舟の上で、
笛吹くことくらいしか能が無い甲斐性なしの楊永と肩寄せ合ってウットリしているラストシーンを見て、目が点。
“終わりよければ全て良し”と言うではないか。このドラマは、あのラストが、それまでの全てをパーにしている。
イケメン馮紹峰扮する楊永より、非イケメン譚耀文扮する汪直の方が次第に素敵に見えてきてしまうのは、
脚本にある種の力があるからと評価もするが、でも全体的には粗い脚本で、スキだらけ。
例えば、中盤に発覚する“汪直が宦官であるにも拘らず実は去勢していなかった”というマサカの事実。
汪直は、死んだ友人の性器を、さも“Myイチモツ”かのように持参し、入内していたのだ。
最終的に春華と結ばれるというラストが待っているならば、このエピソードも生きてくるけれど、
結局どうにもならないのなら不要。別に“汪直=去勢したホンモノの宦官”という設定で良かったはず。
そもそも、汪直と春華の最初の接点は、幼かったプチ汪直の密告により、春華の家族が崩壊した時なのに、
そのエピソードも、いつの間にかスーッと消えている。
春華が親を失った原因を知ったことで、汪直との関係に決定的な亀裂が入るという展開を想像していたのに…。
脚本がいい加減ゆえに、このドラマは、ある意味、驚きの連続であった。
映像も安っぽいし、出演者の顔ぶれも日本人視聴者好みではないし、文句を言ったらキリが無いけれど、
適度に史実が織り交ぜられているので、万貴妃と成化帝の時代の明朝を知るのには悪くないドラマで、
結構お勉強にもなった。
チャンネル銀河の“中国悪女シリーズ”の他の二人、西太后と武則天に比べ、
万貴妃の知名度や人気が今ひとつなのは、
猛女と化し、男性並みに(いや、それ以上に)政治的手腕を発揮し、中国史に足跡を遺した前二者に対し、
万貴妃の悪女っぷりは、“所詮オンナ”と言われてしまうような、皇帝の寵愛を巡る嫉妬に起因するもので、
後宮の中のチマチマした争いに留まっていたからなのかもね。
それでも、約20歳も下の男の子(…しかも若いだけじゃなく、天下人)をメロメロにしたという事実には、
感心させられる。
(その昔、ダイアナを捨て、カミラに走ったチャールズ皇太子に、「えっ、なんでこんなオバさん…」と絶句したが、
チャールズが選んだオバさんは、実は彼より一歳しか年上ではない。)
“十人十色”、“蓼食う虫も好き好き”を歴史が証明。熟女好きって、いつの時代もいるのですね。
熟女の私が言うのもナンですが、私が皇帝なら、色々選択肢がある中で、
わざわざ母親ほど年季の入ったオバさんを選ぶことなど無いと思うワ。
万貴妃の何がそんなに良かったのだか…。
まるでヒナ鳥が、初めて見た大人を親と思い込んでしまうかのように、動物的な“刷り込み”の本能が働き、
幼い頃から幽閉されていた成化帝も、身近に居た数少ない献身的な女性・万貴妃を
生涯“イイ女”と思い込み続けたのかも知れない。
参考までに、紫禁城(北京故宮)の後宮、東西十二宮について、(↑)こちらも併せてどうぞ。
間接的に“ロケ地”である北京の故宮を見学しておくと、
明代、清代を扱った宮廷ドラマを視聴する際、理解度がまったく違ってくるので、お薦め。
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チャンネル銀河の“中国悪女シリーズ”、2016年7月18日(月曜)からは、いよいよこのシリーズの大本命、
范冰冰(ファン・ビンビン)主演『武則天 The Empress~武媚娘傳奇』が放送される。
今回から放送形態が変わり、月曜から金曜までの夜11時に毎日一話ずつの進行。
これまでの毎日2話進行は、追うのが本当にキツかったので、この変化は私には有り難いし、
毎日翌日午後1時に、前夜の再放送があるのも嬉しい。これ、録画し損ねた時などに便利。
まぁ、全82話という長さには怖気づいてしまうけれど、頑張って追うつもり。