【2016年/韓国/145min.】
1939年、日本統治下の朝鮮半島。“藤原伯爵”を名乗る男ナムは、華族の令嬢・秀子が相続した莫大な遺産を狙う朝鮮の詐欺師。幼少期に両親を亡くした秀子は、後見人である叔父・上月の屋敷で暮らす孤独な女性。そんな秀子をトリコにし、名古屋へ渡って結婚式を挙げ、彼女の財産を我が物にしようと考えた藤原伯爵。まずは協力者にスッキを選択。窃盗団の中で育てられた孤児のスッキは、得た財産の一部を報酬としてもらう約束で、この計画に便乗。早速、純朴な下女に成りすまし、上月家へ。ここでスッキは“珠子”という名を与えられ、令嬢・秀子に仕えるよう命じられる。着々と遂行される計画。しかし、実際に秀子を紹介されたスッキは、思わず息を飲む。藤原伯爵からは何も聞いていなかった、秀子がこんなに美しい女性だったなんて。しかも、屋敷の中で孤独に育った秀子は、容貌のみならず、心まで清らかで美しい。計画が進み、藤原伯爵の魔の手が秀子にのびるのを目の当たりにし、スッキは嫉妬にも似た感情を抱くようになり…。
韓国の
パク・チャヌク監督最新作は、

イギリスの作家
サラ・ウォーターズの小説<荊の城~Fingersmith>の映画化。



予習で原作小説を読んでおきたかったのだけれど、間に合わなかったぁー…!残念!!
結局、原作未読のまま映画鑑賞。
舞台は、1939年、日本統治下の朝鮮半島。
物語は、窃盗団に育てられた孤児・スッキが、藤原伯爵と名乗る詐欺師から持ち掛けられた計画にのり、
令嬢・秀子に彼を近付ける手助けをするため、自ら下女となり、秀子に仕えるようになるが、
不覚にも、スッキ自身がターゲットである秀子に惹かれてしまったのを機に、計画が二転三転し、
騙し騙されの複雑な駆け引きになっていく様を官能美を交えて描くミステリー。
Q.そもそも秀子お嬢様はなぜ狙われるのか?
A.超お金持ちだから。

華族の令嬢・和泉秀子は子供の頃に両親を亡くし、莫大な財産を相続。
まだ幼かったので、叔母夫婦に引き取られるが、その叔母も死に、叔母の夫・上月のもと成長。
この上月、秀子の財産目当てで、血縁は無いとはいえ姪っ子である彼女を娶ろうと画策中。
そんなオイシイ話を上月なんかに持って行かれてなるものか!と、秀子お嬢様争奪戦に参戦するのが、
“日本の藤原伯爵”を名乗る、実は日本人でも伯爵でもない詐欺師。
藤原伯爵は、秀子に近付くため、手始めに孤児のスッキを上月家へ送り込む。
スッキは上月家で“珠子”と名付けられ、秀子付きの下女になり、孤独な彼女の心の隙にまんまと入り込むが、
想定外だったのは、スッキもまた秀子に惹かれてしまったこと。
つまりは、“ミイラ取りがミイラ”になってしまったワケ。
…と、だいたいここまでが、第1部。
実はこの作品、3部構成になっている。
私を『お嬢さん』の世界に充分引き込んでくれた第1部は、実は物語の序章でしかなく、
以降、登場人物たちの思惑が、別の視点で描かれ、彼らの関係性も二転三転していく。
エロ要素ばかりが注目される本作品であるが、
最後まで観ると、男性からの支配とか性とか、様々な束縛から女性たちが解放され、自由に飛び立っていく
なかなか清々しい同志片の純愛映画であり、青春映画でもあると感じる。
また、本作品の特徴を一つ挙げると、作品の性質上、日本語が多い。
こんなに日本語が多い韓国映画を観たのは、多分初めて。
韓国人俳優の日本語が下手で聞き取れない、なぜ日本語の台詞にも日本語字幕を付かなかったのか、
といった批判的な声も、日本の観衆の間からは結構出ているようですね。
確かに聞き取りにくい箇所もいくつか有ったのは確かだが、
私は皆さまの御意見とは逆で、韓国人俳優たちの日本語が達者なことに単純に驚いた。
同じく日本語が多い台湾映画『KANO』(2014年)を観た時は、台湾人俳優たちの日本語がボロボロで、
まったく聞き取れず、なぜ日本語字幕を付けなかったんだ?!と憤ったが、『お嬢さん』は許容範囲。
しかも、『お嬢さん』の中で使われている日本語の台詞は、
『KANO』とは比較にならないほど長く、内容も複雑。
よく言われているように、日本語と韓国語は似ているのであろう。
韓国人俳優が喋る中国語の発音は悲惨だと感じるが、日本語だと上手いもん。
それに、日本語が完璧であることは、本作品にとって重要ではない。
本作品は、不完全であることさえ、完璧な作品世界を創り上げるための一要素であるかのように感じる。
それは、リュ・ソンヒが担当した美術やチョ・サンギョンが担当した衣装にも言える。
和洋折衷の豪邸も、お嬢さんのお召し物も、タメ息が出る美しさ。
ただ、時代考証に即しているかというと、それは必ずしも“YES”ではない気が。
実際のあの時代、あの場所は再現されておらず、
欧米の昔の映画に見られるような、“なんちゃってオリエンタル”な要素が僅かに散りばめられている。
しかし、無知からそうなったのではなく、“狙ってそうした”としか思えない。
敢えて遊びを入れ創り上げられた『お嬢さん』の世界観は非常に独創的。
現実社会から離れ、映画の中の不可思議で耽美な世界に酔う。
(衣装では、子供の頃からずっと秀子に手袋を付けさせている理由が知りたい。)
主な出演は、和泉秀子お嬢様にキム・ミニ、秀子の下女になる“珠子”ことスッキにキム・テリ、
財産目当てで秀子に接近する藤原伯爵にハ・ジョンウ、秀子の後見人である叔父・上月にチョ・ジヌン。
主演のキム・ミニは、つい最近、第67回ベルリン国際映画祭にて、これとはまた別の映画、
ホン・サンス監督作品『On the Beach at Night Alone 밤의 해변에서 혼자』での演技が認められ、
見事
主演女優賞を受賞。

ベルリンで韓国人女優がこの賞を受賞するのは初めてのことで、大変な名誉なわけだが、
(↑)この画像でも、ガッチリお手々を繋いでいるホン・サンス監督との不倫関係で非難ゴーゴーのため、
韓国国内は必ずしも祝福ムード一色ではないようですね。
私ももし韓国人なら、「妻子ある22も年上の監督と不倫だなんて、どんだけガッツイているのよ、この女!」
くらいの悪口は言ったかも知れないが、
『お嬢さん』を観てしまうと、それくらいスレた所のある不良だから、秀子を演じられたと思えてしまう。
映画の中の秀子は、前半こそ穢れを知らない孤独な令嬢だが、実のところ、相当計算高い策士。
裸にもならないといけないし、大胆なベッドシーンもあるので、身体が綺麗なことも重要。
一般女性程度のボディだと、妙な現実味が滲み出てしまうが、キム・ミニくらいスタイルが良いと、絵になり、
セックスシーンさえ幻想的で、変なイヤラシさが無い。
あと、ずーっとおしとやかだった秀子が、いきなり下女を装い、ズーズー弁(日本語)で
「オラの大切な下女が狂っちまった」と呟いた時には、吹き出しそうになった。
まぁ、キム・ミニに関しては、人間性と俳優としての資質は必ずしも一致しないという好例でしょうか。
(素か?とも思えるちょっと不良っぽいキム・ミニを、そのまま見られる作品だったら、
まるでドキュメンタリーかのように撮られた『女優たち』が面白い。)
映画では、この秀子の子供時代も少し描かれる。
日本語が上手いから、もしかして日本の子役?とも思ったけれど、チョ・ウニョンという韓国の子役らしい。
この子、日本で子役に言わせたら社会問題になるであろう、かなりキワドイ日本語の台詞も口にしている。
おかっぱ頭は似合っていて、可愛らしい。
キム・テリは、これまでCMや短編作品の経験はあっても、長編商業映画の経験はなく、
この度オーディションで選ばれた、実質“新人”の女優さんらしいが、新人とは信じ難い演技を披露。
扮するスッキは、地味で素朴な下女に見えるけれど、実は有名な女泥棒が産んだ娘。
孤児になり、窃盗団の中で育てられたから、のほほと生きてきた女の子とは違い、若くても世間をよく知っている。
藤原伯爵が秀子と結婚し、財産をせしめた暁には、ちゃんと分け前を受け取るはずであったが、
実際に秀子に会ったら、あまりの美しさにポーとし、その後どんどん彼女に惹かれていってしまう。
キム・テリは、キム・ミニに比べ、良くも悪くも野暮ったいから、下女の役にぴったり。
でも、純朴な下女を演じられる若手女優なら沢山いても、スッキを演じられる女優はそうそう居ないであろう。
スッキは見た目こそ純朴でも、スレた策士の顔を覗かせたり、お嬢様に床での振る舞いを直々伝授。
このキム・テリ、顔立ちは似ていなくても、“大胆さ”という点では、池脇千鶴に近いニオイを感じる。
今後、どういう女優さんに成長していくでしょうか。
ハ・ジョンウ扮する日本人・藤原伯爵は、本当は日本人ではなく、ましてや伯爵のわけもなく、
済州出身のただの作男。優雅な伯爵を装い、世間知らずの令嬢・秀子を恋の罠にかけ、名古屋で結婚し、
彼女の財産をゴッソリ頂戴してしまおうと企む悪い男。
…が、女心をも利用する冷血な悪人という感じではなく、どこか抜けていて、嫌いになれないキャラ。
“日本統治時代朝鮮半島版ジョナサン・クヒオ大佐”って感じ。
ハ・ジョンウは、極悪人を演じると凄みがあるが、こういう抜けた男も上手い。
主要登場人物の中で、一番ユーモアがある。
チョ・ジヌンは、ハ・ジョンウと2歳しか違わないアラフォーなのに、今回は、すっかり老け役。
演じている男は、“上月(こうづき)”という日本の姓を名乗ってはいるけれど、日本人ではない。
日本文化を崇拝し、社会的地位欲しさに、家柄の良い秀子の叔母と結婚。
今度は姪っ子の秀子をも娶ろうと目論むが、莫大な財産のみならず、美しい秀子本人にも興味津々。
単純な肉欲だけではなく、秀子に官能本を朗読させる会を催すところ等に、変態度の高さが窺える。
朗読させていた本って、<金瓶梅>よねぇ…?!お話の中に、西門慶が出てきていたし。
他、脇で(↓)こんな女優も出ていた。
上月家に仕える佐々木夫人(←実は上月の元妻)にキム・ヘスク、秀子の叔母にムン・ソリ。
ムン・ソリは、久し振りに見たら、一瞬誰だか分からないくらいスッキリしていた。かなり痩せたのでは?
パク・チャヌクは基本的に好きな監督だが、フィルモグラフィの中にも、好きな作品とそうでもない作品はあるし、
『オールド・ボーイ』(2003年)で受けた衝撃は、以降、あまり感じられないでいた。
しかし、この『お嬢さん』では、久々にガッチリ心を掴まれた。
物語自体の面白さ、美術や衣装の美しさ、俳優の演技…、どこを取っても私好み。
もしかして『オールド・ボーイ』以上?パク・チャヌク史上最高傑作か?!とさえ思える。
同志片としてみても、傑作。
気のせいか、男×男の同志片に比べ、女×女の同志片には秀作が少ないように感じる。
『お嬢さん』は、女×女の同志片の中でトップレベル。
韓国語はチンプンカンプンだが、『お嬢さん』という邦題は、
恐らく原題の『아가씨』をそのまま直訳したのであろう。
私は、このタイトルから、小津安二郎監督1930年の同名作品『お嬢さん』を思い浮かべた。
邦題を命名する際、小津安二郎監督作品を意識したかどうかは分からないけれど、
とにかく、シンプルでキャッチーで、インパクトのある良い邦題だと思う。
ちなみに、英語のタイトルは、『お嬢さん』とは逆の『The Handmaiden(小間使い)』。
映画館には、男性客多し。…しかも、かなり高齢の。
アジア映画を上映する映画館で、ここまで多くの高齢男性客を目にしたのは、
“映画史上初の3Dエロ映画”を謳う『3D SEX & 禅』(2011年)以来。
お父サマ方にとっては、“堂々と観に行けるエロ映画”という括りなのだろうか。
ただね、この『お嬢さん』は、お父サマ方のエロ需要を満たすためだけの映画などではない。
『3D SEX & 禅』がお馬鹿なB級エロ映画なのに対し、こちらは芸術性も高いので、
美意識の高い女性などでも楽しめるはず。