【1991年/台湾/236min.】
1960年、台湾・台北。上海から渡ってきた両親と暮らす張震は、5人兄弟の4番目で“小四”と呼ばれ、建國中學昼間部への入学に失敗し、夜間部に通い始めた少年。公務員の父は、小四が夜間部で、悪い仲間に影響されるのではないかと心配し、知人の汪に、昼間部への編入を頼むが、そうすぐには叶わない。そんな父自身、台湾へやって来て十年以上が過ぎても、先行き不透明で、言葉には表現できない不安を抱えていた。親の心配をよそに、友達とつるんで授業をさぼったり、撮影現場に忍び込んだりしている小四は、学校の医務室で出会った小明という女の子に関心を抱くようになる。徐々に小明と親しくなっていく小四だが、ある時、彼女に関する噂を耳にする。小明は、小公園のリーダー格・ハニーの恋人で、そのハニーは、敵対する不良グループ217のリーダーと小明を奪い合った挙句、殺害し、台南へ逃亡して、消息が途絶えているというのだ。一方、小四のクラスに、小馬という司令官の息子が転校してくる。前の学校で人を斬ったという黒い噂があり、近寄り難い雰囲気の小馬だが、人違いで不良に絡まれた小四を助けたのを機に、二人は仲の良い友人になっていく。そんなある日、ずっと行方知れずだったあのハニーが台北に姿を現す…。
2007年6月29日、59歳の若さでこの世を去った(→参照)
楊昌(エドワード・ヤン)監督の代表作で、

台湾映画史上最高傑作の一本!と称えられながら、長年お蔵入り状態に陥った不遇の名作。
日本とも御縁のある作品で、第4回東京国際映画祭では、
審査員特別賞と国際批評家連盟賞を受賞。

しかし、“日本と御縁”が災いに…。
本作品に関する様々な権利を有していた日本の会社が、バブル崩壊後の2005年に倒産し、
それら権利が黒い会社(!?)の手に渡ってしまったため、
ソフト化も上映も困難になり、実質お蔵入り状態になってしまったと噂されている。
楊昌監督が亡くなった2007年、所縁のある東京国際映画祭が監督の追悼特集を組んだ際も、
一番上映すべき本作品はラインナップから外されていた。
ところが、もう二度と日の目を見ることは無いかも…、と半ば諦めかけていた2016年、
どういう問題解決がなされたのか、マーティン・スコセッシ監督が設立したワールド・シネマ・プロジェクトと
クライテリオン社の共同で、4Kデジタル修復版が制作され、アメリカでソフト化。
地元台湾でも、第53回金馬獎でスクリーンに。
ここまで来たら日本でも…、とほのかな期待を抱いていたら、案の定、第29回東京国際映画祭で上映。
チケット発売時、すでに一般劇場公開が決まっていたので、私は映画祭をパス。
楊昌監督生誕70年、没後10年の節目に当たる2017年3月の公開を心待ちにしていたところ、
主演男優の張震(チャン・チェン)の来日舞台挨拶が発表。
思いが強過ぎて、チケット発売当日は緊張しまくったが、私もお宝チケットの入手に辛うじて成功。
こうして、ただでさえ心待ちにしていた映画を、張震舞台挨拶という大きなオマケ付きで観られる幸運を得た。
ありがたや、ありがたや。(→舞台挨拶については、こちらから。)
舞台は、1960年代初頭の台北。
主人公は、成績優秀でありながら、昼間部への入学に失敗し、建國中學夜間部に通う外省人の少年・小四。
物語は、親の心配をよそに、不良の溜まり場“小公園”という冰菓室に出入りする少年たちとつるむ小四が、
他の多くの男子生徒と同じように、小明という少女にほのかな恋心を抱き、徐々に彼女と親しくなっていくが、
ある時、姿をくらましていた小明の恋人・ハニーが台北に突如戻って来たことで、
ふたつの不良グループ、“小公園”と“217”の対立が激化、
それは、小四と友人、小四と小明の関係にも暗い影を落とし、
ついには殺人事件にまで発展してしまう悲劇を描くダークな青春残酷物語。
本作品は、1961年6月、台北の牯嶺街で、
建國中學に通う山東籍の15歳の少女・劉敏が、同校の浙江籍の16歳の少年に殺害されたという
実際に起きた事件をモチーフにしている。
これは、国民党政府がやって来てから台湾で初めて起きた未成年者による殺人事件で、
加害少年は死刑を宣告されるが、後に判決が覆り、30歳のお誕生日直前に釈放されたらしい。
楊昌監督は、この加害者と2歳しか違わない1947年生まれで、
2歳の時、生まれ故郷の上海から、家族と共に台湾へ渡った外省人。
事件が起きた当時に通っていた学校も、事件当事者と同じ建國中學。
新宿武蔵野館で行われた舞台挨拶でも、余為彥(ユー・ウェイエン)プロデューサーが
「楊昌監督が中学生の頃、台湾で実際に起きた殺人事件が、監督のどこかにずっと残っていて、
映画にしたいと考えていた」と語っていたが、自分と境遇の重なる同世代の少年が起こした惨事が、
中学生だった楊昌監督にとって、色んな意味でいかに衝撃的だったかは、想像に容易い。
そんな訳で、本作品は、一見、恋愛のもつれから起きた痴情事件を描いた作品。
優等生が大胆な事件を起こし、あんな真面目な子がなぜ?!と世間を驚かせる事は、日本でもしばしば。
しかし、牯嶺街の事件の背後にあるのは、当時の台湾独特の事情であり、
本作品も、少年少女の痴情事件を描く一方で、
複雑な歴史に翻弄される人々(さらに言うと、台湾の外省人)を描く戦後台湾の歴史ドラマの側面をもつ。
私が本作品を興味深く観るのも、青春物語の裏に、台湾が歩んだ歴史の一頁を覗けるから。
“台湾独特の事情”とは、終戦と同時に、日本の支配から解放されたものの、
蔣介石率いる国民党政府に接収された事。
1949年頃から、国民党政府と共に大陸から多くの人々が台湾に流れ、ついには定住。
台湾に元々いる“本省人”に対し、“外省人”と呼ばれるこれらの人々は、
昨今、日本統治時代を美化する日本人からは、悪者呼ばわりされることもしばしば有るけれど、
もはや欠かすことのできない台湾の一部だし、外省人の中にも様々な人がいる。
そもそも、後に“外省人”と呼ばれる人々にとって、
大陸から南の小島・台湾へ渡るという事は、かなりの“都落ち”感があったと推測。
本作品が描く、その後の1960年代初頭は、そんな外省人たちにとって、微妙な時期。
良い生活をしている高官や、そこに上手く乗る世渡り上手が存在する一方、
大陸へはもう戻れそうにない、かと言って、台湾でも安定した生活が得られない…、と先が見えず、
不安に襲われる庶民が多数。
本作品も、まさにそんな重苦しい空気が漂う当時の台湾だからこそ起きた事件を描いており、
結果的に起きた事件そのもの以上に、そこに至る背景こそが、作品の核と感じる。
日本人にとっては、作品の中に“未だチラつく
日本の影”が見られるのも、興味深い。

外省人の中でも比較的裕福な人は、眷村(けんそん)には暮らさず、日本人が遺した立派な木造家屋に住み、
その屋根裏で見付けた日本刀や日本人女性の写真が、少年たちの興味の対象になっているシーン等がある。
最後に殺人の凶器になるのも、日本のいわゆる“ドス”である。
父親が公務員の主人公・小四の家も、ややお粗末ながら日本式家屋。
夕食時、御近所から漏れ聞こえる音楽は、日本歌謡。
有難迷惑なBGMが流れる中、小四の母が、
「日本と8年戦って、今暮らすのは日本家屋で、耳にするのは日本の歌…」とボソッと呟くシーンも。
出演は、まず、“小四”こと張震に張震(チャン・チェン)、
小四が想いを寄せる女学生・小明に楊靜怡(リサ・ヤン)。
『牯嶺街少年殺人事件』は、今や国際映画祭の常連で、中華圏を代表する俳優になった張震が、
14歳にして、初めて主演を飾った記念すべき作品。
(二世俳優である張震は、それ以前にもちょっとした映画出演経験が有るので、
よく“『牯嶺街』がデビュー作”と言われているけれど、正確には、本作はデビュー作ではない。
“初出演作”ではなく、“初主演作”であり、“実質的デビュー作”。)
どこの国でも、大成する子役出身者はあまり居ない。
子供の頃からチヤホヤされ過ぎて、自分を見失ってしまう場合もあるだろうが、
仮に自分をしっかり持っていても、子役と大人の俳優では、求められる物が違うから、
その需要に巧く応じながら大人にシフトすることに失敗して、潰れていくケースも多いのでは。
子役に求められるのは、可愛さだったり健気さだけれど、大人だと、それだけじゃ駄目。
見た目も、特に男性の場合、子供の頃に「カワイイ~」と誉められる人は、
大抵、とっちゃん坊や風の痛いオジさんと化してしまう。
むしろ子供の頃、老けているだの器量が悪いだのと貶される人の方が、カッコイイ大人の男に成長するものだ。
ところがさぁー、40歳の今カッコイイ張震は、14歳の『牯嶺街』で、私の定説を覆す可愛さ。
単純に顔立ちが整っていて可愛いし、
醸す少年らしい雰囲気が、難しいお年頃の小四にぴったり。
小明に、「僕はハニーとは違う。君を守って、安定を与えるから」と言うのだが、
それを見ている第三者の私に、「いやいや、君には無理でしょ」と思わせてしまう幼稚な一生懸命さが良いワ。
あの真っ直ぐな青臭さや危うさは、14歳のあの時にしか出せなかった物だと感じる。
そんな小四が想いを寄せる小明は、学園のマドンナ。
同世代の少年のみならず、もっと年上の男性からもモッテモテ。しかも、自分でもそれを分かっている。
決してウブではなく、すでに“オンナ”の一面をもつ、なかなかの小悪魔。
扮するは楊靜怡。
楊昌監督は彼女と出逢ったことで、『牯嶺街』を撮ろうとしたほど、監督に霊感を与えた女の子。
それだけの事あり、清楚な中に芯があるというか、何か凛とした物を感じさせ、
小四よりすでに精神的にずっと大人な小明に合っている。
本作品での演技が認められ、金馬獎で主演男優賞にノミネートされた張震と同じように、
楊靜怡もまた主演女優賞にノミネートされるも、その後の人生の選択は張震とは違い、
彼女はあっさり芸能界とはサヨウナラ。
アメリカで学び、現地で会計士となり、韓国系アメリカンの男性と結婚し、3人の子をもうけ、NY在住。
普通の新人女優だったら、“楊昌監督に見出されたミューズ”の名にシガミ付きそうなものだけれど、
なんとも潔い楊靜怡。ロスで行われた楊昌監督の葬儀の際、一度だけメディアに登場したのを見たが、
すでに一般人なので、それっきり。
そうしたら張震が昨年、自身の微博に、(↓)このような写真を投稿。
20年以上の時を経ても、小明の面影ありますね~。でも、映画の中の小明よりずっと幸せそうな笑顔。
非常に登場人物の多い群像劇なので、他の出演者についてはサラッと。
小四の家族は現在も芸能の世界で活躍中の人が多いので、今のお姿と比較しながら。
公務員の父・張舉に張國柱(チャン・クオチュー)、教員を休職中の母・金先生に金燕玲(エレイン・ジン)、
一番上の姉“老大/大姐”張娟に王娟(ワン・ジュエン)、“老二”こと兄・張翰に張翰(チャン・ハン)、
二番目の姉“老三/二姐”張瓊に姜秀瓊(チアン・ショウチョン)など。
父と兄は、張震の実際の父と兄。
といったヒットドラマが日本にも入ってきているので、映画を観ない台湾ドラマニアでも知った顔であろう。
ドラマで見る張國柱は、濃過ぎるドーランばかりに目を奪われてしまうが、
私生活で、ふた回りも若い女性と再婚しただけあり、70近い現在も充分イケている素敵なおじ様。
『牯嶺街』に出演したのは、今の張震とほぼ同世代の40代前半だが、今の張震以上の美男子で、
融通が利かず、立ち回りの下手なインテリを演じている。
それでも出演ドラマがボチボチ日本に入って来ている。
あのドラマでストーカーJerryに扮しているのが、張震のお兄サマです。
私は、張翰出演ドラマだったら、李雲嬋(ロビン・リー)が監督し、今をときめく彭于晏(エディ・ポン)や
張鈞(チャン・チュンニン)も出ている『ハチミツとクローバー~蜂蜜幸運草』が好き。
♀女子の部では、母親役の金燕玲が、還暦過ぎても、映画で大活躍。
一番上の姉・張娟役の王娟は、台湾偶像劇の母親役が定着し、すっかりオバちゃんのイメージがあるので、
久し振りに観た『牯嶺街』で、小さな弟妹をもつ妙齢の女性を演じているのが不思議な感じ。
もう一人の姉・張瓊役の姜秀瓊は、その後、表舞台から裏方さんの監督に転向。
4人の監督による4話のオムニバス映画『昨日的記憶~When Yesterday Comes』(2011年)の一篇、
彼女が手掛けた『迷路~Healing』では、『牯嶺街』で弟を演じた張震を主演男優に起用。
また、近年は、永作博美を主人公に、『さいはてにて やさしい香りと待ちながら』(2015年)という
日本映画も撮っている。
他、印象に残るのは、小四の親友で、歌の上手い“小貓王”こと王茂に王啟讚(ワン・チーザン)、
同じく親友の飛機に柯宇綸(クー・ユールン)、転校してきた司令官の息子・小馬に譚志剛(タン・チーガン)、
逃亡先の台南から突如戻って来た小公園のリーダー格ハニーに林鴻銘(リン・ホンミン)等々。
この中で、今でも現役バリバリの俳優は、柯宇綸だけ。
彼もまた、張震と同じように二世俳優で、父は俳優で監督の柯一正(クー・イーチェン)。
パパが楊昌監督と親しかったこともあり、『牯嶺街』に出演。
13歳にして、『牯嶺街』はすでに5本目の映画出演だった柯宇綸だが、
映画に全ての情熱を注ぐ楊昌監督と仕事をしたことで、人生にかなりの影響を受けたようだ。
(↓)こちら、2013年3月号の
台湾版<美麗佳人 マリクレール>。

十人の有名人が20年前を振り返るという特集で、柯宇綸が挙げているのは、やはり『牯嶺街』。
大人になった柯宇綸が建國中學の制服を着て撮った再現写真、面白いですね~。
映画撮影当時の柯宇綸は、一歳しか違わない張震より、ずっとちっちゃくて、可愛らしい。
“ちっちゃくて可愛い”と言えば、小貓王(リトル・プレスリー←中華圏では、“貓王”がプレスリーの愛称)!
扮する王啟讚は、柯宇綸と同じ1977年生まれだが、柯宇綸以上のプチサイズ。
この小貓王は、本来、小馬役の譚志剛にやらせる予定だったところ、譚志剛がガンガン成長してしまい、
役に合わなくなってしまったので、代わりに王啟讚がキャスティングされたらしい。
代役とは思えない程のハマリ役で、プレスリーに憧れ、一生懸命英語の歌詞を覚え、
お立ち台にのって、少年らしいソプラノで歌う姿は印象的。
その後も俳優業を続けた王啟讚の出演作で、私が最後に観たのは、
名作ドラマ『ニエズ~孽子』のはずなのだが、記憶ナシ。どこに出ていたのだろう?
結局、彼は芸能界を離れ、
車の改造工場を開き、商売に専念しているとのこと。

江湖感漂うハニーは、楊昌監督のお気に入りキャラで、声の吹き替えも監督自らが担当。
私にとっては、お気に入りキャラという程ではないが、
海軍のセーラー服(しかも、すンごいベルボトム!)を着た変テコなチンピラを、
日本では見たことが無かったので、やけに異国情緒を感じ、ずーーっと記憶に焼き付いていた。
演じている林鴻銘は、このハニーで一気に名を馳せたものの、その直後、バイク事故で足に大怪我を負い、
長期間治療に専念している間に、次々とチャンスを失い、芸能界からフェイドアウト。
…が、『牯嶺街』で助監督を務め、後に台湾偶像劇の有名監督となる瞿友寧(チョウ・ヨウニン)が、
林鴻銘を探し出し、同監督が演出した2001年の公視のドラマ『天空之城』に出演させている。
これが、『牯嶺街』後の最初で最後の林鴻銘出演作。
現在は結婚し、子供もいて、台北のコーヒーショップ
喜朵咖啡館のオーナーさん(場所は信義路2段18號)。

芸能界引退どころか、この世から去ってしまったのが、
前述のように、本来予定されていた小貓王から小馬の役に変わった子役出身の譚志剛。
その後、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督にも気に入られ、
侯孝賢プロデュースの『少年吔,安啦!~Dust of Angels』(1992年)に主演し、前途洋々と思われたのに、
1993年、不慮の事故で死亡。享年18歳。
他にも、あーんな人やこ~んな人が多数出演。
一部挙げると、小明の叔父さん役で金士傑(ジン・シージエ)、
217太保幫の山東の子分・嘴子役で劉亮佐(リウ・リャンズオ)、
お医者さんの婚約者・香莉役で陳湘(チェン・シアンチー)、
女性警官役で郎祖筠(ラン・ズーユン)等々…。
久し振りに観たことで、えー、こんな人がこんな役で出ていたんだぁ、という驚きがいっぱい。
関羽に青龍偃月刀、李小龍(ブルース・リー)にヌンチャク、スケバン刑事にヨーヨー(!?)といった具合に、
昔から人気キャラにはお約束の武器や道具が付き物で、
『牯嶺街少年殺人事件』の小四が大切にしているお約束は、大きな懐中電灯。
懐中電灯でずっと闇を照らしていた小四自身が深い闇に落ちた時、懐中電灯をドスに持ち替え、
変えられると信じていた理不尽な世界で起こしたあの悲劇…。
鮮血に染まったTシャツで立ち尽くし、一拍置いて、もう後には戻れない現実を目の当たりにし泣き崩れる小四。
嗚呼、青春がヒリヒリと痛い…。
本作品は、長年封印されていた事で、私の中で想いが膨らみ過ぎているのではないかとの懸念もあったが、
やはり台湾新電影の最高峰の一本、…いや、全台湾映画の中でも、最高の一本。
ビリヤード、チンピラ、作業服のような制服、いかがわしい空気、青春、不条理、ロングショットの長回し等々、
私が思い浮かべる“これぞ台湾映画!”が全部詰まっている。
大好きな作品と言っていた割りに、詳細をすっかり忘れていたので、
まるで初見の作品かのように、新鮮な気持ちで観ることもできた。
また、その封印期間に、私も随分大人になり、
以前より歴史に詳しくなって、作品に対する理解が深まったような気がしなくもない。
その代償に、昔はストレートに感じた物が、今は感じられなくなっている可能性も。
映画は観る年齢や時期などによって、受け止め方が変わるものだと思うので、まぁ、それはそれで良いかと。
『牯嶺街少年殺人事件』を傑作と見做す思いは、今も昔も同じ。
(もしかして、日本語字幕は改めた?とても分かり易くなっているのだけれど…。)
現時点で、“外省人モノ”の傑作は…


(ドラマは、『ニエズ』と同じ原作者&監督コンビによる『一把青~A Touch of Green』も、
観たら、“外省人モノ”の傑作に加わりそうな予感。)
私と限らず、本作品を大絶賛する声は多いけれど、実のところ、万人向きだとは思わない。
特に、ここ数年で台湾エンタメに魅せられた人が、
世間での高評価に乗せられて、この映画を観たら、恐らく失望すると思う。
昔と今とでは、台湾エンタメの趣きが相当違うから、
ましてや台湾偶像劇が台湾エンタメの全てになっている人が観ても、きっと退屈なはず。
私は、最近の台湾映画に失望することが多いので、今回改めて『牯嶺街少年殺人事件』を観たことで、
あの頃が台湾映画界の黄金時代だったのだシミジミと感じ、
状況が変わってしまった事や、楊昌監督がもうこの世に居ない事を淋しく思うのであった…。
まぁ、嘆いたところで、仕方が無いのだけれど。
『牯嶺街』は、もうちょっと待てば、
DVDが出ると信じてよろしいでしょうか…?!出たら絶対に買う。

でも、この手の作品が好きな人には、DVDを待つより、まずは映画館の暗闇で観ることをお勧めしたい。
約4時間という長尺なので、おトイレ問題を考えたら、家でDVD鑑賞の方が断然気楽だけれど、
気楽に流して観たら、もったいない作品。覚悟を決めて観に行くだけの価値あり。

来日した主演男優・張震とプロデューサー余為彥による舞台挨拶については、こちらから。