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映画『T2 トレインスポッティング』

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【2017年/イギリス/117min.】
スコットランド・エディンバラ。
20年前、仲間たちを裏切り、金を独り占めして、アムステルダムに逃亡したマーク・レントンは、
久し振りに故郷のこの街の土を踏む。
実家で迎えてくれた父からは、マークの不在中、母が他界したことを聞かされる。
古い仲間の内、お人好しだったスパッドを訪ねると、なんと自殺を試みている最中。
なんとかそれを食い止めたものの、当のスパッドは相変わらずどっぷりヘロイン中毒で、人生を悲観。
メンタルを変えろ、他に夢中になれる事を探せ!と彼を励ますマーク。
そんなスパッドからの勧めもあり、マークは次にサイモンを訪ねる。
叔母からパブの経営を引き継いだサイモンだが、昔と同じようにコカインを常用し、
若いガールフレンドのヴェロニカと組んで、恐喝で荒稼ぎ。
マークの裏切り行為は、20年経っても、忘れることなく、二人の再会には不穏な空気が流れる。

その頃、あのベグビーは、まだ塀の中。
限定的責任能力を主張し、仮出所させろ!と弁護士に詰め寄るも、事は上手く運ばず。
遂には、自ら故意に怪我を負い、病院に入り、そこからまんまと脱走に成功。
マークもスパッドもサイモンも、あの危険な男ベグビーが野に放たれたことなど知る由も無く…。



ダニー・ボイル監督、1996年のヒット作『トレインスポッティング』の続編が、
まさか20年もの時を経て、今になって制作されるとは!

大ヒットした前作は、アーヴィン・ウェルシュの同名小説<トレインスポッティング>の映画化。
脚本を手掛けたのは、多くのダニー・ボイル監督作品の脚本を担当するジョン・ホッジ。
この新作もまた、アーヴィン・ウェルシュが2002年に発表した小説<ポルノ>をベースにしており、
脚本を担当したのはジョン・ホッジ。
私は未読なので、断言は出来ないが、
その原作小説<ポルノ>が、そもそも<トレインスポッティング>の9年後を描いた続編らしい。
タイトルが<ポルノ>なのは、前作の面々が、今度はポルノ映画を撮って儲けようゼ!という物語だからみたい。



ここでまず、1996年の『トレインスポッティング』を簡単におさらい。

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舞台はスコットランド・エディンバラ。
スパッド、シック・ボーイ、ベグビーというジャンキー仲間とつるみ、怠惰な生活を送っていた青年レントンが、
何度目かの挑戦で、ようやく薬断ちに成功し、ロンドンでまともに不動産屋の職に就くが、
古い仲間たちから、上物のヘロインを売ってボロ儲けしようという話を持ち掛けられ、これに便乗。
作戦は成功し、4人は16000ポンドもの大金を手にするが、
祝賀会の翌朝、まだ皆が眠っている隙に、レントンが金の入ったボストンバッグを一人で持ち逃げ。
人のいいスパッドにだけ、4000ポンドを残し、姿をくらます。

この前作『トレインスポッティング』は…

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古田新太が朝ドラ『あまちゃん』でのあのお馴染みの腕組みポーズの参考にしたと言うほど、
ミニシアターブームに沸く日本でヒットし、サブカルチャーに影響を与えた作品。



で、大金の入ったボストンバッグを抱え逃走するレントンのウッハウハの笑顔で幕を下ろしたそんな前作。
続編小説では、9年後を描いているそうだが、映画で描かれているのは、20年後。
映画が幕を上げて早々、その後、レントンはオランダ・アムステルダムに高跳びしていたことが判明。

この続編は、46歳になったマーク・レントン(呼び名は“レントン・ボーイ”から“マーク”へ)が、
故郷エディンバラへ戻り、スパッドや、“シック・ボーイ”ことサイモンと久し振りに再会し、
最初こそ気マズイ雰囲気になるが、徐々に絆を取り戻し、
サイモンが経営するパブを改装し、一緒に風俗店をやろう!と計画が動きだした矢先、
服役中のベグビーが脱走し、20年前に金を持ち逃げしたマークの所在を執拗に探り始めたため、
事態が暗転していく様子を描く、老いてなお残念であり続ける男たちの2度目の青春物語(?)。

前作を観ている者にとって、まず気になるのは、
あんなにハチャメチャだった青年たちが、どういうオトナになり、今何をしているのかという点。
20年前、アムステルダムに逃げたマーク・レントンは、
奪ったお金で、会計士の講習に通い、小さな会社に就職。
オランダ人女性と結婚し、ジェームズとローラという一男一女にも恵まれ、平穏な暮らしを送っている。
一方、マークに裏切られ、エディンバラに残された3人は、スパッドがヘロイン中毒、
サイモンは表向きパブの経営者だが、売春や恐喝で稼ぐヘロイン常用者、ベグビーは20年前から収監中。
仲間を裏切りお金を得た者と、裏切られお金を得られなかった者で、明暗クッキリ。

ところが、後になって、マークが、自分の人生を“盛って”旧友に語っていたことが判明。
実際のマークには、子供はいない。急性冠不全症にかかった上、
勤めていた会社が合併したことで、大した学歴の無い彼はリストラの対象。
故郷に錦を飾りたがるのは万国共通で、マークも自ら飛び出した外の世界で上手くやっていると、
昔の仲間に自分を大きく見せたかったのであろう。でも、本当の事を告白し、気が楽になり、
仲間の方も、マークが未だ残念なマークでいることに、ザマー見ろ!と、
嘲りとも安堵ともとれる気持ちが湧いてきて、両者の間に連帯感が復活。
そこで、マークは、すでに関係がギクシャクしていた妻と離婚し、エディンバラに残ることを決意。

で、前述ののように、原作小説では、サイモンを中心に、ポルノ映画の制作に乗り出すそうだが、
映画では、サイモンが叔母から譲り受け経営しているパブを改装し、風俗店を開店しようとする。
前作からの9年後を描く原作小説とは異なり、映画では20年も後に設定変更したのは、
そこにダニー・ボイル監督の意図した何かがあるのだろうか…?

私が判ったのは、その20年の間に、世の中がガラリと変わったという事。
例えば、作品前半、マークが20年振りに故郷の土を踏むシーン。
「エディンバラへようこそ!」とお出迎えをするキャンペーンガールに、
マークが出身地を尋ねると、返ってきた答えは「スロヴェニア」。
サイモンが肩入れしている若いガールフレンドも、
原作小説だとイギリス人女子大生だが、映画ではブルガリア人。
この20年の間に移民がドッと増えた現実が、映画の中でも分かる。
そういう移民問題も一つの要因となり、EU離脱が決まったイギリスだが、
その選挙で、スコットランドは過半数がEU残留支持。
自分たちの意見が通らなかったスコットランドでは、イギリスからの独立熱が、益々高まったとも言われている。

そこで本作品に登場するのが、、
その風潮に逆らって世間から取り残された連合王国統一派の人々が集まるパブ。
マークとサイモンは久し振りの“お仕事”で、
そのパブに集う人々のバッグやポケットから次々とクレジットカードを盗む。
盗むなら現金でしょー!クレジットカードなんか盗んでも、簡単に使えるわけないじゃない!と思ったら、
マークとサイモンは、それらを使い、いとも簡単に、ATMから現金を引き出すのだ。
なぜそんな事が可能なのかと言うと、
統一派の人々は、カトリックのジェームズⅡ世率いるアイルランド軍と、
プロテスタントのウィリアムⅢ世率いるイングランド軍が戦い、
イングランド軍の勝利で、イングランド王位を決定的にしたボイン川の戦いが起きた“1690”年を、
クレジットカードの暗証番号に設定しているの、…皆がみんな。
「人に悟られ易い数字を暗証番号に使うのはやめましょう!」とよく言うのにねぇ。
ここ、政治色が非常に濃く、ブラックな笑いを誘うシーン。


あと、印象に残った部分の一つは、走るシーン。
前作『トレインスポッティング』や、日本のSABU監督初期作品には、“走る映画”というイメージがある。
登場人物が、とにかく走って、走って、走りまくっている印象。
この続編では、登場人物たちもオッサン化したので(しかも、若い頃から薬漬けなので、身体は恐らくボロボロ)、
さすがにもう走れないだろうと思っていたら…

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続編もやはり“走る映画”であった。不健康に生きてきた中年でも、逃げ足なら速いようだ。






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出演は、オランダから帰郷したマーク・レントンにユアン・マクレガー
ヘロイン中毒で、妻子にも愛想をつかされたダニエル“スパッド”マーフィーにユエン・ブレムナー
パブを経営しながら、ユスリで稼ぐサイモン“シックボーイ”ウィリアムソンにジョニー・リー・ミラー
そして、20年前から収監されっ放しのフランシス“フランコ”ベグビーにロバート・カーライル

主要登場人物を演じた4人の俳優が、20年の時を経て、そのまんま再集結!
一番若いジョニー・リー・ミラーで1972年生まれの44歳、
一番年長のロバート・カーライルは1961年生まれの55歳。
昨今、80歳、90歳まで生きる人なんてザラで、40代、50代なんて、バリバリの働き盛りではあるけれど、
その一方、病気や事故でポックリ逝っちゃう人もいるし、世知辛い芸能界を去って行く人も多いから、
この世代の俳優4人が誰も欠けずに、20年後に再集結するのは、ほぼ奇跡にも思える。

前作がヒットした後、一番出世したのは、間違いなくユアン・マクレガー。
今やハリウッド俳優で、ずっと表舞台に出続けている彼は、
徐々に年を重ねていく過程を見続けているので、一気に老けたという印象は無い。
でも、ハリウッド俳優として見慣れてしまった分、近年はハッとさせられることも少なくなってしまった。
そうしたら、この『T2 トレインスポッティング』よ。
ハリウッド大作で見るユアン・マクレガーより、
原点回帰というか、ホームグラウンドでお馬鹿な40代を演じている彼の方が、ずっと魅力的。
いや、正確に言うと、本作品でも、最初の内は、特別良いとは思わなかったのだが、徐々に良く見えてきて、
最後の最後でガツンとやられた。子供の頃からずっと変わらないままの実家の自室で、レコードに針を落とし、
流れだしたイギー・ポップの<Lust For Life>に合わせ、46のオッサンが一人でヨレッと踊るラストシーン。
このラストシーン、本当にシビレましたワ。


ユアン・マクレガーとは逆で、変化に一番驚かされたのは、スパッド役のユエン・ブレムナー。
近年の出演作もボチボチ観ているはずなのだけれど、彼、こんなでしたっけ?
もしかして、今回、役作りのために激痩せした?中高年になると、きれいに痩せないというが、あれは本当だ。
ユエン・ブレムナーも、顔がシワシワで、オジさんを通り越して、おじいさんみたい。
そのやつれた老けっぷりが、“長年藥漬けで体ボロボロの中年ジャンキー”の雰囲気にぴったり。
中身は相変わらずのお人好し。中年になっても、スパッドは憎めない人。


4人の中で一番の美男子だった“シックボーイ”サイモンは、20年後も一番の美中年。
そんな彼にも、老いはやって来ているようで、
上部から捉えた映像だと、頭頂部の髪が淋しくなっていることが分かる。
なのに、ブロンドを維持するため、未だにマメにヘアダイを欠かさないサイモン。
「毛根痛めるから、いい加減やめなヨ」と助言したくなった。


ロバート・カーライルを見るのは久し振り。
実際4人の中で最年長なので、オッサン化は一番進んでいるが、黙っていればナイス・ミドル。
でも中身は20年前のベグビーのまんまで…

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相変わらずのキレ芸(笑)。あの頃、吠えていた君は、今もやっぱり吠えていた。
もうワケ分かんないの、このオジちゃん。自分が人生の落伍者なのに、
ちゃんと大学でホテル経営を学ぶ息子フランクJr.に、自分と同じ轍を踏まそうとするの。
(Jr.も素直に、父親の悪行に付き合ってあげるのだが、
結局「父さん、ゴメン。僕、そういうのにやっぱり興味がもてない」と大学の勉強に戻ってしまう。)





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女性陣もちょっと見ておくと、
サイモンが想いを寄せる若いブルガリア娘ヴェロニカ・コヴァチにアンジェラ・ネディヤコバ
弁護士のダイアン・コールストンにケリー・マクドナルド等々。

アンジェラ・ネディヤコバは、今回大抜擢された、ブルガリア・ソフィア出身の新進女優らしい。

いや、それより、弁護士ダイアン。
そう、前作で、マーク・レントンが一目惚れした色っぽい美女で、関係を持った後、まだ女子高生だったと判明し、
さすがにマズイと動揺してしまった、あの小悪魔ダイアン。

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当時から冷静で、マークに「ジギー・ポップなんかに夢中になって、部屋に籠っているようじゃ駄目」
→マーク「いや、“ジギー・ポップ”じゃなくて“イギー・ポップ”だから」
→ダイアン「どうせ死んでいる人なんだから、同じ」
→マーク「いやいや、死んでいないよ。最近またコンサートをやったばかり」
→ダイアン「とにかく、前に進まなきゃ」と言っていた彼女は、クズどもとは違い、弁護士になっていたのですね。





本作品は楽しみにしていた反面、失望しそうな予感がチラついていたのも事実。
昨今、続編やリメイクが激増しているのは、映画になりそうなオイシイねたが切れしてしまったため、
そこそこ話題になることが見込める過去のヒット作に頼る傾向があるように見受ける。
『トレインスポッティング』は、“若さゆえ”の感覚が魅力で、
ユースカルチャーに多大な影響を与えた作品なのに、
オッサンになったあのジャンキーたちを今さら再集結させたところで、
過去の栄光に泥を塗るだけになるのでは…、との懸念もチラホラ。
私は、オジちゃん、オバちゃんになったかつての人気アイドルたちが、
茶髪にしたり、ミニスカートを穿いて集結する“同窓会コンサート”なども、冷めた目で見てしまう人間なので。
そんな複雑な気分で、この『T2 トレインスポッティング』も、恐る恐る鑑賞したけれど、
いやぁ~、これは、“続編に名作(ほぼ)ナシ”の定説を覆す面白さ!珍しく良くできた続編。
20年の時を経て、世の中様変わりしても、クズはやっぱりクズだった!というだけの作品が、
なぜこんなにも面白く、愛おしいのだか。
長い時間を置き、監督も出演者も年を重ねた場合、
ノスタルジーか、説教臭くなるかのどちらかに走りそうなところ、
この『T2 トレインスポッティング』は、それらどちらにも陥っていないのが、勝因か。

映画館には、前作公開時に、まだ生まれてもいなかったような若い子が意外にも多く、驚いた。
伝え聞いた“伝説の映画”のその後に触れてみたかったり、90年代カルチャーへの憧れがあるの?
そういう子たちが、これを観て、どう感じるのかは、分からないけれど、
前作をリアルタイムで観て、何らかの影響を受けた人たちなら、楽しめる確率は高いと思う。
若い子たちも、ネットやDVDで前作を鑑賞済みなのかも知れないが、
リアルタイムで観て、肌で捉えた“時代感”のような物は、永遠に分からないわよ、きっと。
続編の『T2 トレインスポッティング』に、より興奮できるのは、早く生まれた者たちの特権ヨ、ふふふ。


最後に、イギー・ポップの<Lust For Life>を。


『トレインスポッティング』と言えばこの曲!って感じ。
(MVの中で、前作『トレインスポッティング』の映像も見られます。)

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