以前、外国人から
「日本の漫画に出てくる串に刺さった三角とか四角の食べ物は一体何なんだ?」と聞かれたことがある。
最初、何を言っているのか、まったく分からなかったのだけれど、その人が描いた絵を見て、すぐに判明。
彼にとっての謎の食べ物は、おでんであった。
我々日本人も、海外の映画やドラマを観ていて、作中登場する食べ物が気になる事って、有りますよね?
私も最近、2本の大陸ドラマの中に出て来る食べ物が引っ掛かった。
★ 『三国志 司馬懿 軍師連盟』の昇進祝賀焼肉ディナー
一本目のドラマは『三国志 司馬懿 軍師連盟~大軍師司馬懿:軍師聯盟/虎嘯龍吟』。
その第8話に、翟天臨(ジャイ・ティエンリン)扮する楊修(175-219)が、
西曹掾に推挙した丁儀(?-220)を家に招き、昇進祝いのディナーを振る舞うシーンがある。
一般的に、中国の史劇の中で、高官レベルの男性が、自分の邸宅に人を招き、食事をする際は、
厨房で調理された膳が、部屋に運ばれ、お酒などを飲みながら、それを食している場合が多い。
ところが、『三国志 司馬懿 軍師連盟』では…
楊修がゲストの前で自ら腕を振るいおもてなし。それは、まぁ微笑ましいとして…
そのおもてなし料理が、卓上に置かれたホットプレート(?)を使っての焼肉って、
いくら何でも現代的過ぎやしないか?
疑問に思い、軽く調べてみた。
焼肉は、かなり早い時点で中国史上に登場したと目されているが、
今現在、その時期を特定するまでには至らず。
しかし、この『三国志 司馬懿 軍師連盟』の時代背景である東漢(後漢)末期には、
すでに焼肉らしき物が確実に有ったことは判明している。
その根拠となる資料の一つが、中国各地で見付かってる漢代の陵墓に残された壁画。
この壁画には、団扇で火をあおぎながら、串刺しのお肉らしき物を焼いている様子が描かれている。
中国に現存する漢代最大の墓、河南省の打虎亭漢墓にある、当時の衣食住を表現した壁画にも、
人々が焼肉をする様子が描かれているという。
さらに(↓)こちら。
これは“上林方爐”と呼ばれる物。
1969年、陝西省西安市の延興門村で出土された漢代の鉄製調理器具。
今で言う“バーベキュー・コンロ”?
漢代の壁画などとも照合し、お肉などを焼くために使われていたと、推測されている。
…と言う訳で、結論。
多少の差異は有ったとしても、『三国志 司馬懿 軍師連盟』の楊修&丁儀焼肉ディナー描写は、
時代考証の面から見て、“有り得る”と判定。
東漢(後漢)末期と言ったら、日本は弥生時代?
邪馬台国の卑弥呼が出現するかしないか辺りでしょう?
大陸の人々は、当時から随分モダンな調理器具を使って、スタミナのある物を食していたのですね。
★ 『月に咲く花の如く』の主人公お気に入りスウィーツ
もう一本のドラマは『月に咲く花の如く~那年花開月正圓』。
その第9話、成り行きで吳家東院の御曹司、何潤東(ピーター・ホー)扮する吳聘の妻になってしまったがため、
義父母から、別院に籠り、両家の奥方に相応しいお作法を学ぶよう命じられてしまった
孫儷(スン・リー)扮する主人公・周瑩だが、
優しい夫・吳聘の計らいで、男装をして、こっそり陽の街に連れ出してもらえることに。
窮屈な屋敷から解放され、ウッキウキで賑わう街を楽しむ周瑩は、好物のお菓子を売る屋台を発見。
気が利く夫・吳聘は、当然それを周瑩に買い与え、彼女を喜ばす。
久し振りに大好物にあり付け、口いっぱいにそれを頬張る周瑩。
そんなに美味しいのか、ナツメ餅。
ナツメは私も好きなので、気になるではないか。
周瑩の好物だというそのお菓子は、日本語字幕で“ナツメ餅”と訳されている。
が、ナツメを意味する“紅棗 Hóngzǎo”や“棗子 Zǎozi”といった単語は、台詞の中に聞こえない。
中国語の台詞の中に聞こえるのは、“Jinggao”、もしくは“Zenggao”の名。
そこで、耳だけを頼りに、辞書を引いてみたところ、…無い!そんな単語、出ていなーい!
次に、ネットで“Jinggao”や“Zenggao”を検索してみたら、今度は、いとも簡単に見付かった。
“Zèng gāo”は、漢字で書くと“甑糕”。
(現地の方言では、正しく“Zèng gāo”と発音しない。
劇中、売り子の発音が、正しい普通話とは違ったのも、私を混乱させた一因。)
うーん、この字面からだけでは、どういうお菓子なのか、想像しにくい。
甑糕は、中国の関中(現在の陝西省渭河平原を中心にした地区)一帯に伝わる伝統的な小吃。
『月に咲く花の如く』は、陝西を舞台にしたドラマなので、まさにその地域のローカル小吃である。
基本の材料は、もち米とナツメ。
もち米65%に対し、ナツメを35%ほど使うというから、
ナツメを大量に消費する習慣の無い日本人とっては、結構贅沢な食べ物と言えそう。
レシピは完全に統一されている訳ではなく、地域やお店によって、
そこにさらに、赤いんげん(レッドキドニー)、レーズン、小豆などを加えることも。
それら赤い実ともち米を釜の中に層にして入れ、
量によって、5時間から10時間じっくり蒸し上げたのが、“甑糕”。
なんとなく、どういう物なのか察しがついた。
甘いヴァージョンの八寶飯(八宝飯)を、ナツメ主体に作った感じではないだろうか。
日本で一番近いのは、お赤飯かしら。
小豆の代わりにナツメを使い(もしくは小豆とナツメ両方)、さらに、モッチリどっしりとした質感にした感じ。
腹持ちよさそうですよね。
吳聘のような優しい夫が「好きなだけお食べ」と大量に買ってくれても、一人で平らげない気がする。
今でも、陝西省辺りでは、甑糕は普通に売られているそう。
このドラマ『月に咲く花の如く』の影響で、今では、全国的に知られるようになり、
観光客なども買い求め、商売繁盛とのこと。
ちなみに、“甑”は、中国で新石器時代から存在する調理器具。
素材は、時代によって変わり、陶器、銅器、鉄器など様々。
小さな穴が開いているため、蒸し器として使うのに最適。
甑糕は、その甑を用いて作る糕(餅)という意味。
私、“甑”なんて難しい漢字は見たことがないと思っていたら、いえいえ、日本にも有るそうで、“こしき”と読む。
(確かに“こしき”で“甑”と一発変換できた。日本の普通の大人は、皆この漢字知っているの?)
広辞苑によると、「米などを蒸すのに用いる器。底に蒸気を通ずる穴がある。後の蒸籠にあたる」という説明。
まさに、中国の“甑”である。
日本の甑(こしき)も、その昔、大陸から伝わって来たのかも知れませんね。
今後、陝西省へ行くご予定の皆さま、現地で本場の甑糕をお試し下さいませ。
当面行く予定が無いという方々は、家で作ってみます?
材料は日本でも揃うので、お料理が得意な人なら、
小さなお椀や菓子型などを使い、勘を頼りに、Sサイズのオリジナル甑糕を作れるはず。
お味のご報告、お待ちしております。

(5年前に記した物なので、情報は若干古し。孫儷、今では一男一女のママです。)