2018年3月末、衛星劇場でスタートした大陸ドラマ、
『琅琊榜(ろうやぼう)<弐> 風雲来る長林軍~琅琊榜之風起長林』が、約半年後の9月初旬、全50話の放送終了。
あれこれ書き綴っていたら、思いの外長くなってしまったので、
この『琅琊榜<弐>』に関しては、以下の3部構成で掲載いたします。
概要、物語、キャストなどについて
その他のキャストについて

吹き替え、所作、音楽などについて
では、最終章、行きます。
★ 吹き替え
摩訶不思議キャラ・濮陽纓役の郭京飛(グオ・ジンフェイ)が、
妖艶な声で、自らアフレコ作業を行った旨を記したついでに、
他のキャストの声についても、軽く触れておく。
まず、男性陣。
重要な役についているベテラン俳優の多くは、自らアフレコ作業を行っている。
具体的には、長林王・蕭庭生役の孫淳(スン・チュン)、蕭平章役の黃曉明(ホァン・シャオミン)、
梁帝蕭歆役の劉鈞(リウ・ジュン)など。勿論、前出の濮陽纓役・郭京飛も。
意外なところでは、王宏(ワン・ホン)も、地声が使われていること。
王宏って誰よ?!という方…
前作『琅琊榜(ろうやぼう)麒麟の才子、風雲起こす~瑯琊榜』では、宗主の配下・黎綱の役で、
この続編では、天牢の主管役でちょこっとだけ顔を出す、本シリーズの助監督。
同じく裏方さんでありながら、前作では重要な悪役の夏江、
続編では濟風堂の黎老堂主の役で出演する王永泉(ワン・ヨンチュエン)の御子息でもある。
(詳しくは、“大陸男前名鑑:『琅琊榜』の麗しき殿方たち②”を参照。)
つまりは、この王宏、専業俳優ではないのだけれど、
『琅琊榜』シリーズ両作品で、声優に任せず、自分でアフレコをやっているの。
余談になりますが、その王宏、私生活では…
いつの間にか、パパになっておられた。夏江も、孫をもつおじいちゃまになったのですね~。
話を戻して、自らアフレコ作業にあたった女性陣。
こちらは二名。荀皇后役の梅婷(メイ・ティン)と、蕭元啟の母、萊陽太夫人役の劉琳(リウ・リン)。
男性でも女性でも、これらアフレコを行った俳優さんたちは、
いずれも実力派と称される大物ばかりだけあり、台詞回しや微妙な声の表情の出し方がとても上手い。
特に私の印象に残っているのは、濮陽纓(郭京飛)と荀皇后(梅婷)。
★ お作法あれこれ
『宮廷の諍い女~後宮甄嬛傳』で注目されて以降、俄然レベルが向上した大陸ドラマの所作。
『琅琊榜』シリーズでは、その『宮廷の諍い女』の所作指導、
及び、溫太醫役で出演し、有名になった張曉龍(チャン・シャオロン)のお弟子さん、
李斌(リー・ビン)が所作を担当している。
ちなみに、この李斌先生は、多くの他の裏方さんと同じように、ドラマにも俳優として出演。
前作と続編、2作品で、同一人物を演じているのは、李斌先生だけ。演じた役は…
先々帝・蕭選と惠妃の間に生まれた第3皇子で、靖王の異母兄にあたる寧王・蕭景亭。
続編には、白髪の翁になって登場するが、
お肌が明らかにピッチピチなので、老俳優ではないことがすぐに判る。
この李斌先生が担当した前作『琅琊榜』を観て、
うわぁ~、所作の綺麗な男性ってエレガントで素敵~、とウットリしたのは私だけではないはず。
そんな視聴者の想いに応えるべく、続編でも、所作に抜かりナシ。
まずは、クランクイン前、エキストラを含めた出演者は、揃って所作のレッスンを受講。
さらに、主要キャストは、李斌先生が、一人一人に個別指導。
キャラクターの性格や立場などによって、所作も変わってくるので、個別の指導が必要になってくるという。
『琅琊榜<弐>の所作は、』基本的には前作とそう変わらない。
前作には無く、続編で見て、印象に残ったのは、お葬式でのお作法や決まり事だろうか。
(なにせ、続編は、お葬式が多いので。)

亡くなった蕭平章の出棺の時、先頭に立った弟・平旌の「噫興!噫興!」という雄たけびに続き、
他の兵士たちからも「噫興!噫興!」の声が上がる。
私が持っている辞書には出ていないこの“噫興(Yīxīng イーシン)”は、中国人にとっても耳慣れない言葉で、
多くの人は、このシーンで、平旌何叫んでんの?とチンプンカンプンらしい。
李斌先生曰く、この“噫興”の出典は<禮記•檀弓下>。
“噫”は、悲痛や嘆きを表す語気詞。
通常、出棺の前、その場に居る人々は皆泣き止まなければならず、静寂になったところで、
中心となる人物が「噫興!」を連続3回叫び、死者の魂を呼び覚ます。
このシーンでは、蕭平旌と、あの場に立ち会った兵士たちの、
蕭平章に対する悲痛なまでの哀悼の念を、あの「噫興!」の雄たけびに込め表現している。
…と、こうも抽象的だと、気になるのが、あのシーンの日本語訳。
中国人も聞いたことの無い悲痛な雄たけびを、どう訳すのか…?(しかも、ここ、重要かつ感動的なシーン。)
日本語字幕では、「魂は消えず!」の連呼になっている。
なるほど。良いのではないでしょうか。これ、翻訳者さん泣かせのシーンだったに違いない。

最初にそれを見られるのは、確か、梁帝蕭歆崩御の時、
蕭平旌が遠く都を離れた軍営から、亡き皇帝を弔うシーン。
これが非常に独特で、足で拍子をとりながら、
敵を威嚇する時のゴリラ風に(?)、拳をつくった両手で、バーン!バーン!と力を込めて胸を打つの。
(前作では、腕を胸の高さで真っ直ぐ前へ伸ばし、パーン、パーンと打つ方法なら有った。)
李斌先生曰く、これも<禮記•檀弓下>に記載されているもので、“辟踴”という。
今どきの言い方をすると、怒ったり悔しい時に、胸を叩き、地団太を踏む様を表す四字熟語“捶胸頓足”。
つまりは、悲痛を極めた時、自然と内から出る感情を、そのまま体現したのが、
あの哀悼のお作法になったのであろう。
父の死で、皇位を継承したプチ皇帝・蕭元時も、
伯父にあたる長林王・蕭庭生が亡くなり、長林王府を弔問した際、同じように拳で胸をバンバン打っている。
実は、これはマナー違反。
なぜなら、長林王・蕭庭生は伯父とはいえ、蕭元時にとっては臣下だから。
通常、君主が臣下に対し、このように恭しく哀悼の意を表すのはNG。
それでも、このシーンで、プチ皇帝・蕭元時に、敢えてマナー違反をさせ、
胸をバンバン打って長林王を弔わせたのは、長林王に対する蕭元時の深い後悔の念を表現するため。
蕭元時が何を悔やんでいるのかは、ドラマを観た人なら、分かりますよね…?
制作者は、時に敢えて誤った所作を取り入れることで、その人物の内面をも表現しているわけ。
(が、所作が正しいか間違っているかさえ判断のつかない我々日本人だと、
そこまで深い意図は汲みにくいですよね。)

架空の王朝を舞台にしながらも、ベースは南北朝時代と言われている『瑯琊榜』シリーズ。
そこで、お茶の入れ方も、唐代以前の方法が採用されている。
ドラマの中では、その唐代以前のお茶のお点前全プロセスを、じっくり見ることはできない。
方法を念の為記しておくと、まず、茶餅(茶葉を圧縮しまとめた物)を直火で炙る
→それを袋に入れ砕き、粉状にする→その粉末茶葉をお湯に入れ煮る→最後に、塩で味を調える。
唐代以前は、お茶の製法技術がまだ完全ではなく、お茶に苦みや渋みがあったので、
それを抑えるために、塩を入れたという。
塩以外では、椒(サンショウ)、薑(生姜)、桂(ニッケイ)等を混ぜることも。
『琅琊榜<弐>』の中で、お茶に白っぽい粉を投入しているシーンを見たら、
それは、お砂糖ではなく、ましてやクリープでもなく、エグミを抑えるお塩の可能性が高いというわけです。
★ 音楽
音楽も前作からの続投で、孟可(モン・クー)が担当。
これは、監督も言っている事なのだけれど、
義兄弟の情や文人気質を表現している前作に対し、続編はより“武”を押し出した作品。
そこで、音楽も、前作では抒情的な物が多かったのに対し、
続編では熱情的な物や高揚感のある曲が増えている。
オープニング曲は、前作のオープニング曲をベースにアレンジしたインストゥルメンタル曲。
前作のをあまりにも聴き慣れ過ぎた耳で、ビミョーに違う続編のオープニング曲を聴くと、
最初、「アレ?!なんか半音ズレた?!」と、モヤモヤしてしまうのだが、慣れると、これはこれで良い曲。
エンディングは<清平願>という曲。
これもね、前作で胡歌(フー・ゴー)が歌っているエンディング曲<風起時>と比べると、
確かに、より“武”を感じる力強く勇ましいメロディである。
同じ曲を、前半は女性の黃綺珊(ホアン・チーシャン)が、
後半は男性の多亮(ドゥリャン)が歌っているヴァージョンに変えているのも特徴的。
私は、この曲の場合、どちらかと言うと、前半で流れる女性ヴォーカルの方が好きかも。
でも、ここには最近聴き慣れている多亮版の方を貼っておく。
★ LINK
『琅琊榜<弐>』放送中、ブログに記した過去記事の内いくつかを、最後にまとめてリンクしておく。
林奚役の張慧雯(チャン・ホイウェン)について。
長林軍の親衛・東青役で主演している夏凡(シア・ファン)について。日本と御縁のある俳優さんです。
他、濮陽纓や、“中国版呪いの藁人形”扎小人(針刺し小人)について。
他、蕭平章の幼少期を演じる子役・章哲諭(ジャン・ジャーユー)クン等について。
他、所作指導の李斌先生扮する寧王・蕭景亭や、萊陽侯・蕭元啟役の吳昊宸について。
長林王・蕭庭生想い出のお品・金絲軟甲(金の鎖帷子)や、カメオ出演の孔笙(コン・ション)監督について。
他、禁軍大統領・荀飛盞に扮する張博について。
他、東海の墨淄侯に扮する名優・成泰燊(チェン・タイシェン)等について。
他、芡州の将軍・岳銀川に扮する金澤灝(ジン・ザーハオ)等について。
映画でもドラマでも、続編でこのレベルの感動と満足感を得たのは、もしかして初めてかも。
マスターピースに認定させていただきます。
最近、大陸ドラマは豊作で、楽しんで追っている作品が複数本あるのだが、
作風が私の好みに合うという点では、もう断トツでこの『琅琊榜<弐>』であった。
映像、脚本、演出、出演俳優の選択に至るまで、映画的で、重厚感あり。
まぁ、映画もピンキリで、よく「女性はラヴストーリーが好き」という思い込みから、
ベタベタに甘ったるい作品を売り込みたがる傾向が日本にはあるけれど、私にはそういうの不要ですから!
逆に言うと、昭和的な壁ドンとか、若手イケメンのシャワーシーン等に身悶えしたい人には、
『琅琊榜<弐>』の世界観はストイック過ぎるであろう。
“続編”と聞くと、前作未見の人は楽しめるのか?という点が、気になる人も居ますよね?
時代設定に約50年のズレがあり、登場人物もほぼ一新しているので、
独立した一本の作品として鑑賞することは、まぁ可能だと思う。
…が、私自身が前作のファンで、もはや“前作未見の人”にはなれないため、
そういう人々が、実際にはどう感じるかまでは、もう絶対に分かり得ない。
さらに言うと、これは、やはり、前作のファンこそがより楽しめる作品。
確かに約半世紀も違う時代を、ほぼ一新した登場人物で描いているため、一見前作とは別モノで、
いわゆる“続編”のイメージとは違う。
でも、まるで目には見えない霊魂の如く、所々で前作の影をチラつかせる演出があり、
それが前作のファンの心を揺さぶる仕掛けにもなっている、ちょっと変わったタイプの巧妙な続編なの。
前作未見だと、それら仕掛けを恐らく汲み取り切れないであろう。
もちろん、前作未見だからこその楽しみ方も有るのかも知れないけれど…。
ちなみに、現時点で、色んな意味で取り分け印象に残っている部分は、以下の通り。















他にも色々有ったけれど、今、パッと思い浮かんだのは、これら。
皆さまの心に刻まれた名シーンは、どこですか?
さて、この『琅琊榜<弐>』、2018年10月9日(火曜)、早くもチャンネル銀河にやって来るという。
まだ前作『琅琊榜』を観ていないという人は、出来ればそれまでに観終え、続編に備えるべし。
欲を言うなら、平日午後1時枠ではなく、夜の放送にして欲しかった。
これ、真っ昼間に、お煎餅をバリバリ頬張りながら観るドラマじゃない。
夜の静寂の中、誰も居ない部屋で、ドップリこの世界だけに浸って鑑賞したくなるドラマ。
録画して観る人も多いだろうから、まぁ、結果的にそうなるんでしょうけれど。