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映画『SPL 狼たちの処刑台』

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【2017年/中国・香港/100min.】
香港警察の李忠志は、男手一つで育てた15歳の娘・詠芝が、友人に会うため訪れたタイのパタヤで、
突如行方不明になったという知らせを受け、慌てて現地へ飛ぶ。
自身も警察である李忠志は、居ても立っても居られず、タイ警察に在籍する華人刑事・崔傑の捜査に随行。
粘り強く監視カメラをチェックしていると、詠芝が海岸沿いで何者かの車で拉致される映像を発見。
さらに調べを進めていく内に、犯人は臓器売買に関連する裏組織であることが判明。
詠芝の父親である李忠志は勿論の事、崔傑もまた警察として必死に事件の解明を急ごうとするが、
そんな崔傑に、妻ソーエイの父でもある警察局長が、「この事件から手を引け」と命令を下す。
実は、この臓器売買には、裏で政府が一枚噛んでおり、
警察ではどうにもできないシナリオがすでに進行していたのだった…。



2018年4月、第37回香港電影金像獎(香港フィルム・アワード)にて、9部門にノミネートされ、
結果、最佳男主角(最優秀主演男優賞)、最佳動作設計(最優秀アクションデザイン賞)、
最佳音響效果(最優秀音響効果賞)の3部門で受賞を果たした話題作。
トロフィ3ツは、許鞍華(アン・ホイ)監督作『明月幾時有~Our Time Will Come』の5部門に次ぐ多さである。

原題は、『殺破狼·貪狼~Paradox』。
その“殺破狼”でピンと来る人も居るであろう。
これ、一応、シリーズ物の3作目である。
前二作は、一作目が『SPL/狼よ静かに死ね(原題:殺破狼~SPL: Sha Po Lang』(2005年)、
二作目が『ドラゴン×マッハ(原題:殺破狼II~SPL 2』(2015年)。

本作の邦題、及び、シリーズ前2作の英語タイトルにある“SPL”とは、
“殺破狼 Sha Po Lang”の頭文字。
中国に宋代から伝わる占術・紫微斗数(しびとすう)にある星々の中でも、
特に人生の吉凶に激しい変化を及ぼすとされる3ツの星“七殺”、“破軍”、“貪狼”を合わせ、
“殺破狼”と呼ぶらしい。
(トン吉、チン平、カン太、3人合わせて“トンチンカン”、…みたいな?違う…??)
この殺破狼が同じ命宮に入ると、何か大きな出来事が起きたり、
また、殺破狼の座命をもつ人は、気性が激しかったり、人生の起伏が激しく、
良い方に傾けば、大物にもなり得るのだとか。
まぁ、私は、そういうのはよく分らないけれど、
日本でも占術が好きな人の間では、殺破狼はそこそこ知られた言葉のようだ。


そんなシリーズ最新作である本作品を手掛けたのは、
『イップ・マン』シリーズの方の最新作『葉問4~Ip Man 4』の公開も待たれる葉偉信(ウィルソン・イップ)監督。
葉偉信監督は、シリーズ第1弾の『SPL/狼よ静かに死ね』のメガホンもとっているけれど、
次の『ドラゴン×マッハ』では、プロデュースに回り、鄭保瑞(ソイ・チェン)が監督。
で、この『SPL 狼たちの処刑台』ではまた監督し、鄭保瑞がプロデュースと、
作品によって持ち回りが変わっております。




本作品は、タイで行方不明になった娘・詠芝を探す内、それがただの失踪事件ではなく、
裏で政治家が糸を引く闇の組織と繋がっていた事が判明し、
大きな陰謀の渦に巻き込まれていく香港警察・李忠志の父親としての葛藤を描く犯罪アクション映画

邦題に敢えて『SPL』と付けることで、
シリーズ過去作品との関連を持たせたかったのだろうと想像していたが、
実際には、これだけで完全に独立した一本の作品になっているので、シリーズを通しで観る必要ナシ。



本作品は、子を持つ親心がテーマと言えるかも。
主人公・李忠志は、妻を交通事故で亡くし、男手ひとつで娘を育てるシングルファーザー。

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幼い頃は、「パパ!パパ!」と懐いていた愛娘・詠芝も、お年頃になると、父離して、
せっかくの父娘デートの時に、学校へも行かずにバイト暮らしをしているヘンリーとかいう男を連れてきて、
彼の子を身籠っているから結婚すると宣言され、李忠志パパ絶句…。
李忠志もここで折れず、警察の部下を使い、そのヘンリーとやらを、未成年者淫行の罪で逮捕させたから、
娘・詠芝から益々嫌われる始末。娘をもつパパはツライよ、って話なわけ(笑)。

でもね、パパはどんなに嫌われても、娘のために必死なの。
詠芝が、パタヤで行方不明になったと知ると、すぐさま現地へ飛び、地元警察に勝手に同行し、捜査開始。
警察も色々調べているから、詠芝が父親を嫌っていることも知っていて、
最初は「家出じゃないの?」なんて言われてしまうのだけれど。

この李忠志に協力するのが、タイの華人刑事・崔傑。
崔傑は、ソーエイというタイ人の妻が妊娠中で、彼もまた父親予備軍である。

その妻ソーエイは、警察で崔傑の上司に当たる局長の娘。
局長だって、本来は正義の人だが、娘婿・崔傑に詠芝の案件から手を引くように勧告する。
なぜなら、事件の裏に、大物政治家が絡んでおり、
これ以上捜査を進めたら、ソーエイの身に危険が及ぶと脅迫されたから。
局長も、世の人々を守る警察である以前に、我が娘を守りたい一心のしがない父親だったのです…。





“殺破狼”を演じる主要キャストは…

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娘・詠芝の行方を追う香港警察の李忠志に古天樂(ルイス・クー)
李忠志に協力し、一緒に捜査を進めるタイの華人刑事・崔傑に吳樾(ウー・ユエ)
バンコク市長選有力候補アジズの補佐役・鄭漢守に林家棟(ラム・カートン)

この3人が、順に、殺破狼の、破軍、七殺、貪狼に当たる人物なのであろう。
紫微斗数に詳しい人なら、それぞれの性格設定が分かり易いのでは。
私はチンプンカンプンなので、そこら辺はスルー。

古天樂は、本作品で、第37回香港電影金像獎の影帝に輝いたので、その演技を楽しみにしていた。
特に印象に残ったのが、臓器密売組織の隠れ蓑になっている精肉工場で、
探し続けた娘・詠芝の変わり果てた姿と対面した時の表情。
見開いた目が文字通り血まなこになり、極限の悲しみと怒りで狂わんばかりの表情を見て、
なぜ古天樂がアクション映画で、最優秀主演男優賞を獲れたのか、分かった気がした。

ちなみに、役名の李忠志は、前作『ドラゴン×マッハ』で、
第35回香港電影金像獎の最佳動作設計(最優秀アクションデザイン賞)を獲得した
李忠志(ニッキー・リー)へのオマージュで、拝借して命名。


だが、私のお目当ては、影帝・古天樂以上に、実は吳樾であった。
この映画、日本では、まるで古天樂×トニー・ジャーのダブル主演作かのように宣伝。

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こんなポスターを見たら、確かに誰もがそう思うであろう。
チラシ裏の解説でも、吳樾に関しては一切触れていない。
(誰が主演かという以前に、ポスターのデザインのこのダサさ、どうにかならないものか…。
作品の内容をまったく表していないだけではなく、ただただひたすらに悪趣味…。)

『SPL 狼たちの処刑台』は、実際には、古天樂×吳樾のための作品である。
前作『ドラゴン×マッハ』に出演のトニー・ジャーは、本作品の舞台が地元タイということもあり、特別出演で、
まぁ色々有って、作品中盤で消える。
本作品でアクション担当の大本命は吳樾なのだ。
私は、この作品は、日本で本格的に吳樾の名を知らしめるためだけに存在するとさえ思っていたのに、
宣伝での扱いが、あまりにも小さくて、ガックリよ…。

かく言う私も、吳樾が本作品でどのような役を演じているのかまでは、知らなかった。

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(↑)このようなスチールをよく目にしていたので、てっきり悪役だと思っていたら、善人であった。



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1976年、河北省張家口出身、回族の吳樾は、5歳で武術を始め、
国から最高ランクの武英級の称号を与えられた本格的にアクションが出来る俳優。

(↓)こちらは、成龍(ジャッキー・チェン)が還暦を過ぎ、おとなしくなってから、
中華圏のアクション映画で特に活躍の目立つ俳優陣を集め、以前当ブログに投降した画像。

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上段左、今や大御所の甄子丹(ドニー・イェン)を筆頭に、吳京(ウー・ジン)、張晉(マックス・チャン)、
下段へ行って、吳樾(ウー・ユエ)、そして、元リアル少林僧の二人、
釋延能(シー・ヤンネン/シー・イェンノン)と王寶強(ワン・バオチャン)。

この中で、日本での知名度が最も低い最後の大物だったのが吳樾。
私の一押し吳樾は、ただの肉体派というわけではなく、
中央戲劇學院で学んだキチンと演技のできる俳優である。
この『SPL 狼たちの処刑台』では、古天樂以上にアクションを披露しているけれど、
扮する崔傑は、案外フツーの男。
一警察として必死に詠芝の行方を追っているのに、なぜか義父から捜査から手を引けと諭され、
訳が分からなくなっている。
こういう普通のイイ人は、素の吳樾に近い感じかも。

この崔傑は、タイ人の妻を娶り、タイに暮らす華人警察という設定で、
さらに、相手役が香港の古天樂なので、言語は基本的にタイ語と広東語。
以前読んだ記事によると、確か、タイ語と北京語は吳樾自身の地声で、
広東語部分だけ声優による吹き替えとのことだった。
吳樾の地声はちょっとクセが有るので、タイ語の部分も、私には声優による吹き替えに聞こえたのだけれど、
外国語だとノドの使い方が違うせいか、声が若干変化することもあるので、きっと情報が正しいのでしょう。
違和感なく、本人の地声と声優の声が馴染んでいますね。
でも、北京語ってどこよ…?
鼻歌で<月亮代表我的心>を口ずさむシーンくらいしか、北京語は無かったように記憶。

ついでに、その<月亮代表我的心>を、古天樂&吳樾でデュエットしているMVを。


これまでに何度もカヴァーされている70年代のヒット曲。
有名なのは、麗君(テレサ・テン)版。
私は、ジャズっぽアレンジの方大同(カリル・フォン)版も好き、…余談になりますが。

この映画では、普通にイイ人だったが、もっとキレたイヤな吳樾を見たい人は、
屈折した阿里不哥(アリクブカ)を演じているドラマ『フビライ・ハン~忽必烈傳奇』を是非。
アクションはほとんど無く、演技で印象に残るドラマ。



林家棟は、古天樂や吳樾に比べ、出番は少な目。
今回は悪役なのだけれど、白髪+眼鏡+スーツという私の好物3点盛りで、サイコーであった。


あっ、あと、李忠志の亡き妻が…

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シンガポールの鄭雪兒(ミシェル・チェン)であった。

ドラマ『花より男子Ⅱ~流星花園Ⅱ』で…

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窮屈な生活から逃れ、気ままな生活をしているブータンのお姫様(!)葉莎を演じていた、あの鄭雪兒。
最近、見なくなったと思ったら、商売の方に力を入れるため、芸能活動は休止していたらしい。
『SPL 狼たちの処刑台』では、特別出演程度の小さな役だけれど、これをキッカケに本格再始動でしょうか。





私は元々アクション映画命!ではないし、香港系のこの手のジャンルは食傷気味になっているので、
この『SPL 狼たちの処刑台』も、手放しの絶賛はしないけれど、
怒りや悲しみが表情に滲み出る古天樂の演技には引き込まれたし、
何より、私の押し吳樾の本格的日本お披露目作品なので、御祝儀で、ちょっと高めの評価をさせて頂きます。
トニー・ジャー見たさに映画館へ足を運んだアクション映画ファンは、
お目当てのトニー・ジャーが中盤で殉職し、
代わりに見たことも聞いたことも無い“吳樾”なる俳優がたっぷり出ていて、失望したであろう。
でもね、失望するより、期せずして吳樾に出逢えた事を喜んだ方が良いかも知れません。
なぜなら、アナタ様が知らなかっただけで、吳樾は有名かつ優秀な俳優で、
日本でもこの先人気に火が付く可能性を秘めているからです。
同じ葉偉信監督の新作で…

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甄子丹(ドニー・イェン)主演のシリーズ最新作『葉問4~Ip Man 4』にも出ております。
『SPL 狼たちの処刑台』の配給会社も、宣伝で吳樾に一切触れないなんて、
中華芸能に疎いのだか、ただ単に見る目が無いのだか…。(多分両方であろう。)
せめて、ポスターは、もう少しマシなデザインにして欲しかった。
アクション映画のポスターに、無駄に炎を描き込む悪習はいい加減断たないと、客層が広がらない。
アクション要素を押し過ぎて、人間ドラマの要素もあることをこれっぽっちも感じさせない宣伝だって、
如何なものか。
色んな意味で、葉偉信監督作品は、『葉問4』の方に期待。

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