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映画『プンサンケ~豊山犬』

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【2011年/韓国/121min.】
その男は依頼を受けると、38度線を飛び越え、ソウル・ピョンヤン間を3時間で行き来し、何でも運ぶ。
誰も彼の正体を知らない。 分かってるのは、彼が北朝鮮製の煙草“豊山犬(プンサンケ)”を吸うことくらい。
ある日、男の元に、亡命した北朝鮮元高官のために、彼がピョンヤンに残した愛人イノクを
ソウルに連れてきてくれという依頼が舞い込む。
いつになく困難な仕事となり、イノクと共に命懸けの逃走をする内、
互いに何とも言い知れぬ感情が芽生える。
なんとか約束の3時間でソウルに戻り、依頼者の韓国情報員に、無事イノクを引き渡す男。
ところが、報酬を得るどころか、韓国情報員の裏切りで、拘束されてしまう…。
 
 
キム・ギドク監督作品『絶対の愛』『ブレス』で助監督を務め
『ビューティフル』で長編監督デビューを果たしたチョン・ジェホンの最新作。
脚本を書き、製作総指揮にあたったのは、師匠のキム・ギドク。
昨年、第12回東京フィルメックスに出品された韓国映画は、『ムサン日記~白い犬』と本作品が
偶然にも“犬”繋がり。 気になったけれど、その時はどちらも観逃した。
 
 
本作品の主人公は、飛脚?メッセンジャー?トランスポーター? とにかく違法の運び屋
品物を短時間で海外に届けるのだから、DHLFedexのようなものだが
この運び屋の場合、配送範囲が非常に限られている。
えー、じゃぁ、使いものにならなーい…!などと早まってはならない。
だって、この運び屋さんが専門にしているのは
他社が決して参入したがらない韓国⇔北朝鮮間なのだから。
速さも売り。 ソウル⇔ピョンヤン間の往復が、なんと驚愕の3時間ポッキリ!(←物理的に可能なの?)
どんな仕事でも、あまりにも特殊過ぎると、ビジネスとして成り立たない恐れも有るが
この運び屋さんは、離散家族というニッチな市場で重宝されている。
南と北に分断されてしまった家族のために、手紙やビデオメッセージを届けるのが、主な業務。
 
そんな運び屋の存在を、韓国情報院が知る。
そして、韓国で保護している脱北した北朝鮮元高官のために
彼の愛人イノクをピョンヤンからソウルに連れてきてくれと依頼。
いつもより面倒な“ブツ”に手こずるが、命懸けの道程を経て、約束通り依頼主様の情報員にイノクをお届けし
ミッション・コンプリートかと思いきや、運び屋の正体に疑念を抱いた情報員に裏切られ、拘束。
 
その後、イノクとの再会を果たしたのも束の間、イノクと運び屋の仲を疑い、嫉妬に狂う北朝鮮元高官や
この元高官を狙い、ソウルに潜伏している北朝鮮工作員らも介入し
それぞれの思惑を交叉させながら展開する朝鮮半島南北抗争サスペンスが、この作品。
 
前半は、運び屋が繋ぐ北と南の家族のささやかな人間ドラマ
中盤、運び屋とイノクのラヴストーリーに発展しかけ
後半は、ソウルに潜伏する北朝鮮工作員と韓国情報院のバトルロワイヤルばりの死闘が勃発。
最終的には、同じ民族同士で反目し合うことの愚かしさを批判したメッセージ作品であった。
運び屋が、北の人間なのか、南の人間なのか、最後まで明かさない事で
中立的な立場から、“どっちもどっち”であると描こうとしている。
 
 
出演は、正体不明の運び屋にユン・ゲサン、脱北した北朝鮮元高官にキム・ジョンス
その元高官の若い愛人イノクにキム・ギュリ。 皆、無報酬で本作品に参加したらしい。
 
運び屋には一切台詞が無い。 発する声は、うめき声くらい。
これまでのキム・ギドク監督作品にも、口をきかない主人公は、幾度となく登場しているので、珍しくは無い。
運び屋が言葉で説明しなければ、話が絶対に進まないシチュエーションが何度か出てくるけれど
それでも運び屋には喋らせず、話を先に進める誤魔化しの演出が上手い。
最後の最後で、運び屋が口を開き、ボソッとひと言「サランヘヨ…」などと呟くクサい演出が無いのも良い。
(←実は、そういう演出が有るのではないかと、内心びくびくしながら観ていた)
 
上記3名の内、良くも悪くも最も印象に残ったのは、キム・ジョンス扮する北朝鮮元高官。
一般的に良しとされる“さり気ない演技”とは真逆の過剰なキレッぷりに後退りしながらも
次は何を言い出すのだろうという怖いもの見たさで追ってしまう。
 
この元高官、何かにつけ溺愛する愛人をイノク、イノクと呼ぶ。
日本語字幕では、“イノク”と表記されているが、耳から入ってくる音は、“イノク”より“イノキ”に近い。
初老のおじさんがデレデレになって「イノキ、会いたかったよ」、「イノキは誰よりも可愛いなぁ」などと言う度に
反射的にあのアントニオ猪木が頭に浮かんでしまい、可笑しくて可笑しくて仕方が無かった。
 
 
他、注目の出演者は、オダギリジョー
 
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北朝鮮兵の役で、チラッとカメオ出演しているはずなのだが、見逃してしまった…。
上映中居眠りした覚えなど無いのだけれど、瞬きしている間に消えちゃったの…?
 
 
 
 
観ているだけでおなかいっぱいになってしまうこの感覚は、キム・ギドクに通じる。
ただ、演出も、出演者も、出演者の演技も、キム・ギドク監督作品より、娯楽色が濃い。
幼稚園児から老人まで、誰もが楽しめるお気楽なエンタメ作品とは異なるけれど
もう少し作家性の強い、アート系の作品を期待して観たので
この予想外の商業映画的な仕上がりに、肩透かしを食らう。
もっとも、それがチョン・ジェホン監督のカラーならば、本作品からその余分な娯楽色を取り除いたら
キム・ギドク監督作品との違いが益々無くなり、キム・ギドク監督作品のコピーに成りかねない。
ツマラナくはなく、それなりに面白いけれど、絶賛も出来ない。 
こういう映画、すでに以前観たことがあるかも…、と思ってしまう作品であった。
  
実は、この作品を観たのは、『I'M FLASH!』の代わりであった。
9月1日の映画の日に、何も考えずにふらーっとユーロスペースに行ったら、珍しくホールが大混雑。
その時初めて、『I'M FLASH!』の舞台挨拶が行われることを知る。
チケットを買おうとしたら、「お立見になります」と言われたため
咄嗟に空いている『プンサンケ』の方に乗り換えてしまった。
『プンサンケ』も観たかったから、良いのだけれど、結果的に自分好みとは言い切れない作風だったし 
後になって、『I'M FLASH!』の舞台挨拶に松田龍平も登壇したと知ってしまったので
あぁ~、立ち見でも『I'M FLASH!』にしておけば良かったぁ…、とちょっぴり後悔。

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