【2012年/アメリカ/94min.】
1965年、アメリカ、ニューイングランド沖に浮かぶ全長26キロの小島、ニューペンザス島。
ボーイスカウトのキャンプから、12歳の少年サムが消える。
実はサム、一年前に運命的に出逢った同じ年の少女スージーと計画的に駆け落ちしたのだ。
捜索の末ふたりは発見されるが、この事件を機に、孤児のサムは里親から見放されてしまう。
取り敢えずシャープ警部に引き取られるが、再びスージーと共に大人たちの目を盗み…。
『ファンタスティックMr.FOX』(2009年)以来の
ウェス・アンダーソン監督作品。

監督のみならず、脚本、製作も手掛ける。 共同脚本には、ロマン・コッポラも。
時代は1965年。 舞台は、アメリカの架空の小島、
ニューペンザス島。

物語は、普段は静かなこの小さな島をにわかに騒がせ、人々を変えていく12歳の
恋の逃避行を描く。

子供が主人公だからといって、分かり易い可愛さや健気さを売りにしないのが、ウェス・アンダーソン流。
里親に育てられ、自分の居場所を見付けられない少年サムも、母の情事に気付いている少女スージーも
世知辛い現実を知っているせいか、どこか冷めた12歳。
少年少女のおませな恋愛や結婚式、ふたりに翻弄される周囲の人々と
物語は所々であの『小さな恋のメロディ』(1971年)を髣髴させる。
『小さな恋のメロディ』をウェス・アンダーソン監督独自の感性で解釈し
クールでオフビートな味付けで、郷愁漂うファンタジーに作り替えた
ウェス・アンダーソン監修改訂版『小さな恋のメロディ』といった趣き。
スージー・ビショップ役にカーラ・ヘイワード。
共に映画初出演で、役同様、撮影当時は12歳。
子役選びもウェス・アンダーソン監督ならではで、ふたり共日本人が思わず「可愛いぃ~!」と
目を細めるような媚びたタイプの子供ではない (むしろ可愛くない)。
特に、スージー役のカーラ・ヘイワードが時折り見せる大人びた表情と下着姿、そしてアイメークは印象に残る。
子供のくせに、まぶたには常に水色のアイシャドー。
教会のお芝居にカラス役(…!)で出演するため、楽屋で待機中、
そこに迷い込んできた初対面のサムをビビッと参らせた、あの時のメイクは、こんな感じ(↓)。
カラス版プチ・ナタリー・ポートマン…?
『ブラック・スワン』より邪悪な12歳の黒カラス。 厚化粧が映える顔立ち。
スージーの父ウォルト・ビショップ役にビル・マーレイ、
スージーの母ローラ・ビショップ役にフランシス・マクドーマン、
ひとり者のシャープ警部役にブルース・ウィリス、ボーイスカウトのウォード隊長役にエドワード・ノートン、
年上のいとこベン役にジェイソン・シュワルツマン、福祉局員にティルダ・スウィントン等々。
ビショップ夫妻、一体いくつの時に子を儲けたのよ…?!
ビル・マーレイ&フランシス・マクドーマンだと、12歳の子の両親にしては、年を食い過ぎだが
ウェス・アンダーソン監督の不思議作品の中なら、「まぁいいか」と受け入れられてしまう。
そして、そのビル・マーレイ、締まりの無いボディに派手パンが似合いすぎ。
相変わらずトボケたイイ味出している。
今回の豪華キャストの中で、最も意表を突く起用はブルース・ウィリス。
ギラギラしていて、本来、ウェス・アンダーソン監督の作風にはそぐわない俳優と思われる。
ところが今回は、イメージ一新でマッチョ封印。
頭頂部を覆うひな鳥のような綿毛が(やっぱりズラ?)、余計に哀愁を誘う。
世間での評価はかなり高いみたいだけれど、私にとっては、そこまでではなかった。
これまでのウェス・アンダーソン監督作品、例えば『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001年)や
『ダージリン急行』(2007年)は、物語に詰めの甘さを感じ、手放しで「サイコー!」と絶賛は出来ないけれど
それでも作品が強烈に放つウェス・アンダーソン監督独特のセンスが、私には結構合っていた。
本作品は、これまでのそういう作品と比べ、角が取れた印象。
全体的にまとまりは有っても、ガツーンッと訴えかけてくる個性は薄いような…。
子供が主人公の恋物語という性質上、こうなったのだろうけれど。
細部へのコダワリは相変わらずだし、ファッションもキュートで、視覚的に楽しめる部分は所々に有るのに
何でしょう、何か物足りなさが残った。
支離滅裂でもいいから、ウェス・アンダーソン監督がヲタ道を突っ走る、もっとトンガった作品が好み。
今のところ、一番好きなウェス・アンダーソン監督作品は
実写ではなくパペットアニメーションだけれど、断トツで
『ファンタスティックMr.FOX』で変化なし。
