【2013年/台湾/104min.】
偉中と阿鳳は、6歳の息子・阿丸をもつ結婚9年の共働き夫婦。
阿鳳は38歳という年齢もあり、ふたり目の子供を望んでいるが偉中にいつもあやふやにかわされてしまう。
一方その偉中は、人並みの家庭を築き、これまで平凡な生活にもそれなりに納得していたが
下腹も気になる中年となり、最近なんだか気分が冴えない。
ふたり目を欲しがる阿鳳はプレッシャーだし、なかなか身を固めない妹Mandyも悩みの種。
そんなある日、勤務先の眼鏡店に客としてやって来た美しい香港人青年Thomasにひと目惚れ。
結婚後封印してきた同性への想いが湧き上がってきてしまい…。
第22回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で、
陳駿霖(アーヴィン・チェン)監督最新作を鑑賞。

前作『台北の朝、僕は恋をする』がとても気に入った監督なので、新作も楽しみ。
これ、レズゲイ映画祭で上映されるということは、同志片である。
陳駿霖監督作品で、おまけに同志片なんて、最強。
9年前の結婚を機にゲイを封印、息子にも恵まれ、
平凡でもそれなりに幸せな日々を淡々と送る眼鏡店店長・偉中が
香港からやって来た美しい客Thomasにひと目惚れ。
長年抑えてきた本能の目覚めにトキメキながらも戸惑っていたところ、妹Mandyの婚約破棄騒動まで勃発。
物語は、本当の幸せ、様々な愛の形を模索する偉中と彼を取り巻く人々をコミカルに描く
人生色々、男も色々、女だって色々咲き乱れちゃう
ラヴストーリー。

見目麗しい男の子たちか、美容師やデザイナーといったお洒落系、
もしくはLAやミコノスに居そうなギラギラのマッチョが
あーんな事やこーんな事をしちゃうのが、よく有る同志片。
ところが、本作品の主人公ときたら、そこらにゴロゴロ居る人の良さそうなシケたおっさん…!
ささやかな家庭を築き、小さな眼鏡店で店長さんをする凡庸な中年男は
世を(そして自分自身をも)欺く仮の姿。
そう、ひとつだけ違ったのは、旦那様は男色だったのです(←「奥様は魔女だったのです」風に)。
耽美な同志片より、よほどリアリティの有る設定。
結婚を機に男断ち、フツーに生きるゾ!と心に誓ったところで、いきなり性癖がガラリと変わるはずもなく
徐々に蓄積していく悶々とした気持ち。
そんな時、ステキな男の子と出逢い、改めて自分の本能を意識してしまったら?
それでも器用に立ち回れれば良いのだが、ゲイである事実は、その内妻の知るとことなる。
妻にとっては、晴天の霹靂。
ちょっと、そこの奥様、もし御宅の御主人の浮気相手がオトコだったら、どうなさいます…?!
バレた当人も、こうなったら身の振り方を考えざるを得ない。
何が本当の幸せで、どういう選択が自分にとっても家族にとっても最良なのか?
隠れゲイの偉中が、改めて結婚や人生を考え直すことになるもうひとつのキッカケが
妹Mandyの婚約破棄。
韓ドラ好きで、現実逃避しがちなMandyは、結婚後延々と続くであろう平凡な日常に恐怖を覚え
婚約者・三三をカルフールに残し、ドロン…!
で、その
韓ドラ。

前作『台北の朝、僕は恋をする』に、架空のヒットドラマ『浪子情』を登場させた陳駿霖監督、
本作品のためには、なんと韓流ドラマを作ってしまった。
劇中劇でありながら、わざわざ本当に韓国まで撮影に行ってしまったらしい。 本格的。
もうひとつ前作からの流れを汲む陳駿霖監督らしさを挙げるなら、時折り挿入されるファンタジー。
本来そういう非現実的なシーンには否定的な私だけれど、陳駿霖監督作品だと、なぜかOK。
あと、『台北の朝、僕は恋をする』程ではないが、
夜のシーンが多いのも特徴的かも。

出演は、妻帯者の隠れゲイ鄭偉中に任賢齊 (リッチー・レン)、
偉中の妻・阿鳳に范曉萱(メイビス・ファン)、
偉中の妹Mandyに夏于喬(シア・ユーチャオ) 、Mandyの婚約者・三三に石頭(ストーン)。
夏于喬は、日本だと今のところドラマの脇役くらいでしかお目に掛かれないが
徐若瑄(ビビアン・スー)に似た愛らしい顔立ちは、日本人にも好かれそうな気がする。
陳玉勳(チェン・ユーシュン)監督久々の長編映画『總舖師~Zone Pro Site』にも出演しているし、注目。
その夏于喬以外の3人が、芸能人とは思えないほど質素な市井の人々に化けていて、驚かされる。
取り分け任賢齊の劣化っぷりには、目を見張るものが。
中年以降、良き家庭人のイメージで、女性ウケも上々の任賢齊は、映画でも誠実な男役が十八番。
近年は悪役にも挑戦し、少々話題にもなったが
本当に新境地を開いたと言えるのは、本作品の偉中役でしょー。
とにかく地味! 加えて隠れゲイ…! こんな任賢齊、見たこと無い。
ステキな男の子と出逢い、内から自然と溢れ出てしまう幸せそうな笑顔が、やたら自然。
俳優としての任賢齊を、初めて心底素晴らしいと思えた。
本業はミュージシャン、五月天(メイデイ)のギタリスト石頭が演じているのを見るのは、私は今回が二度目。
以前観た『五月の恋』では、実名で本人役。 なので、他人に成り切る演技を見るのは、今回が初めて。
決して美男子ではないけれど、人気バンドのメンバーである石頭は
一応世間では“カッコイイ”と称される存在であるはず。
その“カッコイイ”ポジションをかなぐり捨てた本作品での渾身の役作りに拍手。
メインの男性はまぁそんな風に地味で、目の保養にはならないが、脇にはちゃんとイケメン枠が。
偉中がひと目惚れする香港人のお客さんThomasに黄嘉樂(ステファン・ウォン/ウォン・カーロッ)、
阿鳳の会社の上司・大誠に藍鈞天(ギャビー・ラン)、そして韓ドラの主人公に李海祐(イ・へウ)。
ドラマ出演の多い香港の黄嘉樂を、今回初めて映画で見たけれど
枯れた中年同志のハートを掻き乱すのに充分な美しさ。
御曹司集団・時尚F4出身の藍鈞天は(→参照)
この日併映された陳駿霖監督のショートフィルム『ベスト・フレンド?~Do You Andy…你願意了嗎?』
にも主人公として出演。 イケメンと言うより個性的な顔? 相変わらず吳建豪(ヴァネス・ウー)に似ている。
李海祐という韓国人俳優は新人なのだろうか。 後頭部からゴッソリ前髪もってきた髪型とか、服装とか
“韓ドラの主人公こうあるべし”というほど正しい韓ドラ主人公タイプ。 台詞はもちろん韓国語。
脇でもうひとり忘れてはならないのが
偉中の昔からのゲイ仲間“Stephen”こと張添財に扮する柯宇綸(クー・ユールン)。
前作『台北の朝、僕は恋をする』に続き、陳駿霖監督作品に続投。
前作ではヘンテコな役を演じていたが、本作でも負けず劣らずヘンテコ。
Stephenは、偉中と異なり堂々とゲイ。 レズビアンの妻と形ばかりの結婚をしている。
美意識が高く、たまに毒吐くオネェな柯宇綸、ハマリ過ぎ。
なお、本作品の英語タイトルで、作中、阿鳳がカラオケで
揺れる心中を吐露するかのように歌う
<Will You Still Love Me Tommorow>は

アメリカの4人組黒人ガールズグループThe Shirellesによる60年代のヒットナンバー。
このパートナーは正しい相手なのか?とか、残りの人生もこのままこんなものなのだろうか?というモヤモヤは
なにも同性愛者じゃなくても、多くの中年が一度は感じる焦燥なのかも。
結構ブルーなテーマを扱っているにも関わらず、重くならず、何度も笑わせてくれ、
しかも観終わった後にもヌク~ッと続く幸福感…。 とても楽しくキュートな愛すべき作品。
本作品といい、『GF*BF』といい、最近観た台湾映画は
大当たり。

ちなみに、本作品も、『GF*BF』の楊雅(ヤン・ヤーチェ)監督の前作『Orzボーイズ!』も
女優・李烈(リー・リエ)のプロデュース。 李烈、プロデューサーとしてもやり手。
ただ、どうでもいい中華作品(そのほとんどがアクション映画)がバンバン日本で公開されている割りに
私が気に入った物に限って公開に至らないのが、残念でならない。
日本の配給会社って、一体どういうセンスしているの…??
現状で儲かっているなら納得もするが、どうせヒットなんか出していないではないの。