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映画『李小龍(ブルース・リー)マイブラザー』

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【2010年/香港/117min.】
1940年11月27日、夫である広東オペラ役者・李海泉の公演に伴い渡米した何愛榆が
サンフランシスコの病院で、元気な男の子を出産。 夫婦はこの子を“Bruce ブルース”と名付ける。
しばらくアメリカに留まった一家は、久々に香港へ帰国。
日本の侵攻が進み、不穏な空気が流れる香港であったが、祖母らは新しい家族ブルースとの対面を喜び
彼を“細鳳”と呼び、可愛がるようになる。
やがて戦争も終わり、徐々に活気を取り戻す香港。 李家にもまた多くの友人知人が集うように。
そんなひとりからの勧めで、細鳳は子役として映画に出ることとなり…。
 
 
葉偉民(レイモンド・イップ/イップ・ワイマン)&文雋(マンフレッド・ウォン)共同監督作品。
日本では、李小龍(ブルース・リー)没後40周年に当たる今年に公開の運びとなったが
実は2010年、李小龍生誕70周年を記念して香港で制作されたもの。
李小龍の実弟・李振輝(ロバート・リー)が記した著書、<李小龍 My Brother~李振輝回憶録>
ベースにしており、その李振輝が映画の製作総指揮をも務める。
 
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李振輝は、さらに姉・李秋源(フィビー・リー)と共に、作品冒頭にも登場。(↑)
 
 
本作品をひと言で説明すると、李小龍(1940年11月27日~1973年7月20日)の伝記映画
ただ、世界中の誰もが知る大スタアについても、衝撃の死についても触れず
アメリカで生まれ、香港で育ち、訳有って再びアメリカへ渡るまでの人生前半の半生限定。
つまり、後に“world famous ブルース・リー!”となる“細鳳”と呼ばれた男の子の物語で
言うなれば、“細鳳 before ブルース・リー”。
 
あまり知られていない無名時代を、身内の監修下で描いているのがポイントで
あの李小龍を主人公にしているにも関わらず、アクションの扱いは小さく
ファミリー・ストーリー青春物語に重きが置かれている。
 
アメリカ生まれであること、ドイツの血が入っていること、香港では元々有名な子役だったこと等は
すでによく知られた話。
驚異的な身体能力を誇りながら自転車に乗れなかったことや、チャチャを踊るのが得意だったことも
今や随分知られている。
本作品を観て、私が一番意「へぇー」と感じたのは、李小龍の家庭環境。
 
父親が名の知れた粵劇(広東オペラ)の役者・李海泉という芸能一家で育ったことは、勿論知っていた。
だが、“有名な粵劇役者”と聞いて、漠然と思い描いていたのは
失礼ながら、“役者=身分が低い、ドサ回りの一座”といった庶民的な、…いや、庶民以下のイメージ。
ところが、本作品に登場する李サンのお宅が、旅芸人の住まいにしては、やけに立派。
李振輝曰く、このセットは、実際に暮らしていた家をかなり忠実に再現しているとのこと。
しかも、そこに出入りする友人知人も、当時の香港芸能界を牽引していたV.I.P.ばかり。
 
中独混血の専業主婦という知識しか無かった母・何愛瑜に関しては
父・李海泉の「君のようなお嬢様が、私みたいな役者なんかに嫁いでくれ…」という台詞からも
お嬢様育ちであることが推測される。
でも、当時役者などに嫁ぐお嬢様なんて、どうせ大したお嬢様ではなく
“香港三丁目で一番繁盛している雀荘の娘”くらいだろうと侮り、試しにちょっと調べてみたら
なんのなんの、本当に香港屈指のお嬢であった。
何愛瑜は、香港の富商・何東(ロバート・ホートン卿)の異父弟・何甘棠の養女。
マカオのカジノ王、かの何鴻燊(スタンレー・ホー)は、何東の弟・何福の孫に当たる。
つまり、李小龍は何鴻燊の遠縁で、香港随一の名門一族の一員ということになる。
李小龍の屈託の無さや、彼が醸すあの華やいだ雰囲気、カリスマ性は
そのような血筋、生まれながらのセレブリティという身分に由来していたのだと、やけに納得させられた。
 
 
本作品には、そんな李小龍の家族のみならず、実在の人物が多数登場。
勿論物語も、実際に起きたエピソードを元に綴られており、実存する写真から再現されたシーンもいっぱい。
 
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画像上から順に、 小さな息子の顔にイタズラをする父・李海泉、
馮峰(フォン・フォン)監督の映画『細路祥』に出演する子役時代の細鳳、家族の記念写真、
弟とコンビを組んで出場したチャチャのコンテストで優勝する細鳳。
無抵抗なまま不細工な顔にされたベイビー小龍の可愛らしいこと…!
 
 
あと、本作品を観ていて驚いたのが、50年代の映画の撮影方法。
なんと口パクで演じる俳優に合わせ、声優が現場で同時に直接声を当ててしまうのだ。 神業…。
高度なテクニックを要するし、俳優と声優の息が余程合っていないと成り立たない。
これだったら、俳優が自分の声で演じた方が、ずっと簡単で手間も掛からないと思うが…。
 
 
 
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出演は、“細鳳”こと後の李小龍に李治廷(アーリフ・リー)、
父・李海泉に梁家輝(レオン・カーフェイ)、母・何愛瑜に鍾麗緹(クリスティ・チョン)
 
子役出身で多くの資料が残されている上、未だ人気の衰えぬ李小龍に扮することは
李治廷にとって相当なプレッシャーだったに違いない。
李治廷は、よく王力宏(ワン・リーホン)似と称される二枚目で、実際の李小龍よりやはりずっと現代的。
洗練されたシャープな印象だが、李小龍特有の愛嬌には欠けている気がする。
でも、あまり知られていない十代の李小龍を演じているためか
危惧していた程は抵抗感も無く受け入れられることができた。
恐らく『ドラゴン危機一髪』(1971年)以降の李小龍に扮する方が、モノマネに陥り易く、難しい気がする。
 
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ちなみに、李小龍の子供時代は、彭根(パン・ゲン)という子役が扮する。
小生意気な顔で、雙節棍(ヌンチャク)の如く腸詰めを振り回すイタズラッ子(↑)。
実際に李小龍が雙節棍と出会うのは、諸説有るが、もっとずっと先になる。
 
 
梁家輝には、当初別の役が考えられていたらしいが、本人の希望で、父・李海泉役に決まったとのこと。
化粧を施し、衣装を身に付け立ち回る粵劇役者風情が様になっている。
他の誰よりも深みのある演技で、断トツ印象に残る。 父親役で正解。
最初に用意されていた役って、どれだったのだろう。 阿片シンジケートの親分とか…?
 
 
鍾麗緹扮する母・何愛瑜は、優しくも芯の強い良妻賢母で、好感度は高い。
ただ、実際の何愛瑜は中独ハーフで、もっとバター臭い顔だったのではないかと想像する。
こちら(↓)ホンモノの何愛瑜。
 
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李小龍の弟・李振輝に扮する子役の孫林(ディラン・スターリング)がまったくのガイジン顔なので
(実際の李振輝も子供時代の写真を見ると、李小龍よりずっと西洋の血が濃く出た顔で、この子役に似ている)
両親がこてこてオリエンタルな梁家輝&鍾麗緹だと、本当はどこんちの子なんだ?!という疑惑が。
 
 
 
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細鳳を巡る女子ふたりも見ておこう。 
ビミョーな関係で誤解が生じてしまう幼馴染みの梁文蘭に貢米(ゴン・ミー)、
細鳳が密かに想いを寄せる初恋の対象・曹敏兒に謝婷婷(ジェニファー・ツェー)
 
梁文蘭は、俳優・梁醒波(リョン・シンボ)の娘。
扮するの貢米は、張柏芝(セシリア・チャン)のコピーだとか、張柏芝風にお直ししただのと
一時話題をさらった大陸女優。 本作品だと、確かに何となく張柏芝に似ているけれど
もう少しふっくらしていて、レトロな雰囲気。 広東語の台詞は、吹き替えと想像する。
 
初恋のお相手・曹敏兒の父親もやはり俳優で、あの『如來神掌』にも出演する曹達華(チョウ・ダーワー)
扮する謝婷婷は、貢米に似ている張柏芝の別れた元夫・謝霆鋒(ニコラス・ツェー)の妹。
 
あっ、そう言えば、本作品の中には、謝(ツェー)さんファミリーのネタがもうひとつ。
作中、「細鳳の姉フィビーはモテモテで、パトリック・ツェーも毎晩電話をしてくる」という台詞が。
私は広東語がまったく分からないので、日本語字幕からでしか情報を得られないのだが
この“パトリック・ツェー”って、もしかして謝霆鋒&謝婷婷兄妹の父・謝賢(パトリック・ツェー)のこと…?
姉にアタックしまくっていた真相は未確認だが、謝賢が李小龍と面識が有ったのは、事実なようだ。(↓)
 
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本作品、映画としてのレベルは決して高くない。 偉人の無名時代を描いたテレビの2時間ドラマといった趣き。
なので、心に響くものはほとんど無いけれど、気楽に鑑賞できるエンタメ作品ではある。
李小龍に焦点を当てた作品でありながら、男臭いアクション映画にはなっておらず
むしろ香港40~50年代の懐かしい雰囲気に浸れたり、当時の香港芸能界が覗けるので
これまで李小龍にもアクションにも無関心だった女性でも楽しめそう。

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