【2012年/香港/90min.】
香港警察の血気盛んな覆面パトカー隊員・陳翔は、行き過ぎる追跡で問題を起こすことしばしば。
コンビを組む、定年を間近に控えたベテラン盧峰は、そんな陳翔をたしなめながらも
若き日の自分を重ね、静かに彼を見守る。
ある日、陳翔は、スピード違反をした男を捕えることに成功。
実はこの男・蔣薪は、収監されている仲間・黄中の脱獄を手助けするために、故意に捕らえられ
警察内部に侵入したのだ。 蔣薪は、計画通り黄中を留置所から逃し、ふたりは用意されていた車で逃走。
慌ててその車を追う陳翔であったが、黒社会の伝説的ドライバー蔣薪に、まんまと逃げ切られてしまう。
当の蔣薪は、黄中から巨大ダイアモンドを使った儲け話を持ち掛けられ、行動に乗り出す。
警察はその情報をキャッチし、陳翔も今度こそ蔣薪を捕えようと、再びハンドルを握る…。
杜峯(ジョニー・トー)プロデュースの鄭保瑞(ソイ・チェン)監督作品が
2013年7月、
wowow“ジャパンプレミア”で放送されたので鑑賞。

本作品、日本の配給会社に買われたことは知っていたが、その後すっかり忘れていたら
映画館でかからぬままwowowへ直行であった。 そして、2ヶ月後の9月18日には
DVDが発売。

それで終わりかと思ったら、DVD発売一ヶ月前に2週間限定で映画館上映されることも急遽決定し
本日8月17日に公開。
作品の内容は、突き詰めると、ドライビングテクニックには自信の有る血気盛んな若き警官・陳翔と
黒社会の伝説的ドライバー蔣薪が、香港の街を舞台に繰り広げる、手に汗握る
カーアクション。

もうそれに尽きる。
追って追われるまでの経緯も勿論有るのだが、あまり重要には感じない。
ずーっと遡ると、現在覆面パトカー隊で陳翔とコンビを組む年上の相方・盧峰が
90年代にすでにある事件で蔣薪を追っており、今回の再会が因縁の対決であることは分かるのだけれど
その過去の事件や、蔣薪と盧峰の関わり、蔣薪の人物描写等が曖昧で、分かりにくい。
アクション以外の部分では、やんちゃな陳翔が、年上の盧峰の言葉に耳を貸さず、反発しているように見え
実は父子のような情で繋がっていることが描かれる。
その盧峰、警察ひと筋に生きてきた家庭を持たない男かと思いきや、ちゃんと妻がいる。
ただ、この妻が、盧峰の妻にしてはやけに若い。 一体この妻といつどこで知り合ったのか、
一体盧峰は私生活でどんな顔を持つ男なのか…、そんな事がどうしても気になってくる。
カーアクションに興味の無い私にとっては、そこら辺の人間ドラマが一番食い付き易い部分なのだが
うーン、今一歩踏み込んで描かれていない。
あと、陳翔に女医・嘉怡との
恋の予感も匂わせるけれど、それも“微かに匂った”程度。

仮に恋愛パートをもう少し突っ込んで描くとしても、そもそも年上の真面目な女医さんが
改造車乗り回しているヤンキー警官と恋に落ちるなんて、現実味に欠ける。
とにかく、本当は恋どころか、♀女性の存在自体が不必要な作品なのかも知れない。
あそこがイマイチ、ここも駄目と、いちゃもんばかり付けたが
別にそれで本作品を否定しているのではない。
カーチェイスこそが本作品の命で、それさえ押さえていれば、全て良し。 他の部分は最初から所詮添え物。

オマケにお味見程度の
ポテト(人間ドラマやラヴストーリー)まで付いてきたなんてお得でしょ、

むしろ感謝しな!って感じ?
陳翔とコンビを組む定年間近のベテラン警官・盧峰に黄秋生(アンソニー・ウォン)、
ふたりに追われる黒社会の伝説的ドライバー蔣薪に郭曉冬(グオ・シャオドン)。
黄秋生と余文樂の共演は、『イニシャルD』(2005年)以来実に7年ぶりなのだと。
えぇー、それって確かな情報? ガッツリ共演しないまでも、カメオ出演等で、出演作ダブっていない??
ふたり共、香港映画10本観たら、その内の7本には出ているような印象さえあるけれど。
とにかく、『イニシャルD』同様、カーアクションに焦点を当てた本作品で
ふたりに再びタッグを組ませたというのが、話題のひとつなのかも。
肩の力が抜けた、ちょっぴりオトナな雰囲気で印象に残っているので
後先考えずに突っ走ってしまう本作品のヤンチャな陳翔は
なんだか10年位前の映画で余文樂を見ているようで、懐かしい感じ。
逆に、実年齢より上の定年間近のベテラン警官を演じているのが黄秋生。
本当は50くらいなのに枯れきって、いかりや長介ポジション(?)に自然に納まっている。
よく持ち歩き、使い込んでいるお気に入りグッズは孔明扇。
近年香港映画への出演が増えている大陸俳優・郭曉冬。
本当は、この手の香港エンタメ映画では無く、もっと大陸の文芸作で見たい…。
最近渋くイイ感じになってきているのに、もったいない。
今回扮している蔣薪の台詞は、広東語ではなく普通話。
蔣薪は香港人ではなく、
大陸から流れてきた悪党という設定なようだ。

陳翔が興味を抱くミステリアスな女医・嘉怡に徐熙媛(バービィー・スー)、
盧峰の妻に葉璇(ミシェル・イェ)、
捜査の指揮を執る盧峰、陳翔の女上司Madamに何超儀(ジョシー・ホー)等。
台湾の徐熙媛は、広東語に吹き替えられている。
出演シーンは、予想していたよりずっと少ない。
葉璇扮する盧峰の妻は、前述のように盧峰には若過ぎる。
加藤茶のような年の差夫婦なんて実際にいくらだって居るのだから、有り得ない!と否定はできないけれど
これから夫と余生を楽しもうとしているプレ年金生活者の雰囲気ではない。
警察内部で捜査の中枢を担う指令室では、やり手女上司に扮する何超儀より
彼女の下で働く役名も無い警察官に扮する區軒瑋(アウ・ヒンワイ)が気になった。
いつも数シーンだけで、おびただしい数の香港映画に顔を出すこの(↓)俳優。
本筋とはぜんぜん関係無いけど、本作品で見て、ふと思い出した。
區軒瑋、NHK『おとなの基礎英語』第1シーズンの香港編で、漢方医の役で出ていたわよねぇ…??
確か、主人公の肘井美佳が腹痛を訴え、ご近所の林さんに連れて行かれるクリニックのお医者さん役。
NHKの教育番組に突然見知った顔が出てきたので、おぉ~香港映画みたい!とちょっと感動した。
始まって30分、「まだ面白くないけれど、盛り上がるのは、きっとこれから」と信じ観続け、さらに30分経過。
終盤でガーッと行くと思いきや、結局私の興味にまったく引っ掛かる物が無いままThe End…。
カーアクションに興味の無い人をも惹き付けるには、充分な脚本では無いように感じる。
昔の香港映画のように、コンパクトにきっかり90分以内で終わってくれるのが、まだ救い。
元々カーアクションや改造車が好きな人なら、何も考えずにスカーッと楽しめるのかしら。
見せ場のひとつ(…いや、最大の山場?)は、主人公・陳翔が犯人を捕まえるために
ある究極のドライビングテクニックを取得できるか否か、という点であろう。
そのテクニックとは、限られた土地に建物が密集する香港ならではの狭い路地で役立つスピーンターン。
“84回転で時速2キロ”、これが奥義。
カーアクション映画の見せ場が、“狭い路地でのスピーンターン”というのは、地味過ぎやしないか。
映画館で観ていたら、レディースデーで千円だったとしても、損した気分になっていたかも。
観なければ観ないで、「もしかして面白いかも知れないのに観逃しちゃった…!」と悔やみそうだし
wowowで観ることができて良かった。 観れば取り敢えずノルマは果たした安心感が。
本作品は、そんな風に、wowow→映画館→DVDという、変化を加えた新パターンであるが
最近、短期間限定で劇場公開され、直後にDVD化される中華作品、特にアクション系の作品が
激増しているように見受ける。 シネマートで上映される香港映画は、だいたいそんな感じ。
なんで? 作品購入の際の条件や、資金の回収、儲けのマニュアルに、近年変化が有ったのか?
私は、“映画は映画館派”なので、スクリーンで観る機会ができるのは、それなりに嬉しいけれど
上映期間があまりにも短く、DVD発売があまりにも早いのは、いかがなものか。
仮に致し方ない事情が有るのだとしても、それが伝わってこず、なんか有り難味に欠けるし
配給会社の作品に対する思い入れや、その作品を大切に扱っているという印象もどんどん薄れてきている。
だいたい彭浩翔(パン・ホーチョン)監督作品とか他にもっと入れるべき香港映画が有るはずなのに
実際に買われて日本に持ち込まれるのがイマイチなアクション映画ばかりで、ゲンナリ…。