【2011年/フランス・中国/105min.】
28歳の中国人教師・花は、北京で付き合っていたフランス人男性ティエリーを追ってパリへやって来るが
彼からはっきり関係の終焉を告げられてしまう。
打ちひしがれていたある日、街中でのちょっとした事故をきっかけに、3歳年下の建設工マチューと出会う。
彼からの誘いに応じ、一緒に食事をした花は、程なくして体をも許すようになり…。
2013年の締めの映画はコレ。
『スプリング・フィーバー』(2008年)以来の婁(ロウ・イエ)監督作品。
過去の婁監督作品と大きく違う点がふたつ。


このように、婁監督が新たな挑戦をしている作品なのに、当初あまり興味をソソられなかった。
大人になってから「ヨーロッパはもう一生行かなくてもいいワ!」くらいに思っている私なので
せっかくの中国人監督作品で舞台がヨーロッパだと、なんか気分が上がらないワケ。
しかも、宣伝でやたら引合いに出されている『ラスト・タンゴ・イン・パリ』(1972年)は
まったく思い入れの無い作品(今観たらまた違う感想があるかも知れないが、当時はガッカリした)。
お気に入りの監督・婁の作品だから重い腰を上げたけれど、他の監督の作品だったらパスしていたかも。
物語は、留学で北京からパリへやって来た若い中国人教師・花が
マチューという建設工と出逢い、すぐに肉体関係をもち、交際に発展するも
やがて生じる様々な歪みの中でゆれる姿を描く息苦しい
愛欲物語。

エロスを耽美でシュールに表現した作品と想像し、爆睡も覚悟していたら
意外にも分かり易いストーリー展開。
少しでもヨーロッパで過ごしたことのある人なら
思わず頷いてしまう“ヨーロッパあるある”が随所に織り込まれ、現実味も感じられる。
私が一番「あるある(…と言うか“居る居る”)」と頷いたのは
ヨーロッパでマチューのような労働者階級の現地人男性と付き合う花のような東洋人女性。
日本でそこそこの家庭に育ち、大学を出た女性が、現地でブルーカラーの男性にゾッコンになるのを
幾度となく見ている。
ヨーロッパのような階級社会だと、現地人同士では、こういう恋愛はなかなか起こり得ない。
さほど階級差の無い日本で育っていると、格下男性にあまり抵抗が無い上、
相手が“外人”というだけで、数ランク素敵に見えてしまうようで、かなり身持ちの堅い日本人女性が
優しく微笑み「あなたは美しい」と言いながら、ドアを開けてくれたドアマンに夢中になってしまったりする。
それで一生甘い夢を見ていられれば幸せだろうけれど、残念ながら徐々に夢は醒め、現実が見えてきて
相手と自分の差をハッキリ認識→そして
破局…。

私が見てきたそういう女性たちを、無意識の内に主人公・花を重ね
「こういう事あるある…!」、「こういう事言う人、居る居る~」と頷きながら
知らず知らずの内にすっかり物語の世界に引き込まれていってしまった。
原作者・劉捷の実体験を基にしているというだけあり
基本的には、そのように作り話とは思えないリアリティをビンビン感じながら鑑賞したが
そんな私でも、花の奔放な男性関係は理解しきれない。
北京で付き合っていたティエリーを追ってフランスに渡るも
→あっさりフラれ(ティエリーにしてみれば所詮異国でのアヴァンチュールだったに違いない)
→絶望していた時に偶然出会ったマチューと付き合う、…という流れは分かり易いけれど
物語も後半に差し掛かった時、北京でケンカ別れした中国人の恋人・丁一が登場し、「えっ…?!」。
花は、渡仏する前、ティエリーと丁一を同時進行で付き合っていたのかしら。
あと、パリに暮らす中国人男性・梁彬とも、もしかして一線を越えている…?
ここまで食い散らかしていると、「心の隙間を埋めるために、男性との肌の触れ合いを求めてしまうの…」
などと言い訳もしにくい。
実際花はそのような聞き苦しい言い訳をしないし、根っからの尻軽にも、ギラギラの肉食系にも見えず
案外アッサリした印象で、同性の私に嫌悪感を与えないから不思議。
それは、やたら注目される“激しい性描写”が、そんなにスキャンダラスにエロくないからかも知れない。
むしろ、被写体がちょいブスで、体型も崩れ気味の女性だと、もっと生々しくエロい画になりそうだが
花だとあまり動物的ではなく、エロさより美しさが際立つ。
婁監督は、日活ロマンポルノ、特に神代辰巳監督作品を観て、濡れ場の研究をしたのだとか。
出演は、パリに留学する28歳の中国人教師・花に任潔(コリーヌ・ヤン)、
花が付き合う25歳の建設工マチューにタハール・ラヒム。
ふたり共、私にとっては初めて見る俳優。
知った顔じゃないから、先入観に捕らわれることなく、花とマチューそのものに感じられた。
任潔は、香港系のフランス華僑。ほぼスッピンと思われるが、なかなかの美人。
他の婁監督作品のヒロインと同じように、退廃的でウラブレた表情に魅力がある。
また、ファッションや無造作にまとめた髪型のせいか、中国育ちの中国人とは何かが異なる
“フランス育ちの中国人”という雰囲気を醸している。
でも、この髪型は、普段のままの任潔ではなく、実は婁監督の提案で決まったらしい。
婁監督は、任潔が出演したテレビドラマを観て、彼女の起用を決めたという。
本作品は、台詞の大半がフランス語なので
任潔がフランス生まれで、フランス語ペラペラの中国人だったことは、大きいであろう。
しかし、本作品には、実は北京語の台詞も少々有るのだ。
任潔は両親が香港出身なら、中国語を喋れたとしても、広東語の可能性が高い。じゃぁ北京語は…?
そんな疑問を抱いたら、案の定彼女は北京語がまったく駄目で、台詞は吹き替えなのだという。
ただ、吹き替えるにしても、口の動きを合わせる必要が有るので、北京語の猛特訓を受けたとのこと。
マチュー役のタハール・ラヒムは、ぜんぜん私好みの顔立ちではないけれど、ドンピシャなキャスティング。
もろフランスの労働者階級顔。やけに似合う紺色のドカジャン(?)を着ていると
ビートたけしが扮する“土方の鬼瓦権造おフランス版”って感じ。
突っ張っているのだかオドオドしているのだか分からない“小者感”もリアル。
脇ではひとり知った顔も…(↓画像右)
北京の大学に勤める花の恋人・丁一に扮する張頌文(チャン・ソンウェン)。
『スプリング・フィーバー』で譚卓(タン・ジュオ)が勤務する工場の工場長・韓明に扮していたあの張頌文。
一見婁監督作品には合わない丸顔のフツーのおっさん風情でありながら
郝蕾(ハオ・レイ)や秦昊(チン・ハオ)と同じように、婁監督作品に複数回お呼ばれしている
もはや“婁監督御用俳優”。こういう普通のおっさん風の俳優さんも必要不可欠よねぇ。
今回、主人公・花の行いで唯一納得できたのは、散々心の赴くままに男性遍歴を重ねてきた彼女が
最終的にこの張頌文扮するやけに普通で面白味には欠けるけれど堅実に生きている丁一を
結婚相手に選んだ点であった。
石橋を叩いて叩いて叩きまくって渡るタイプの私は、あの場合やはり安全牌をとるであろう。
主人公・花に自分を重ねられる部分はほぼ皆無で、共感から好きになる作品ではないけれど
不思議な魅力が有り、引き込まれた。
予想に反しストーリー性が有ることと、単純に作品が発する雰囲気が私好みだったことによる。
共感はしにくい花でも、彼女自身や映像から醸される浮遊する感じや不安定な感じには惹かれる。
あと、舞台は全編パリだと思っていたのに、後半に少し北京が出てきたことで、得した気分も。
その北京のシーンで、フランスのメディアが「あなたは反体制ですか?」と質問するあのくだりは
婁監督自身の答えであろうか。
まぁとにかく、さほど期待していなかったのに、殊の外気に入った。
2014年、『二重生活』の邦題で日本公開が予定されている次の『浮城謎事~Mystery』はさらに楽しみ♪
そう言えば、今回映画館で周囲を見渡したら、どうやら私は唯一の女性であった。
観客は♂男性ばかり。しかも婁監督作品とは縁遠いように見受けるシニアが大半。
“赤裸々で過激な性描写”という宣伝文句に食い付いたのだろうか。
これ、『3D SEX & 禅』を観に行った時にも思ったのだけれど
わざわざTSUTAYAでAVをレンタルするのは気恥ずかしくても、まともな映画館で知的に適度なエロ体験をし
妄想の中で肉欲に溺れたいというおじぃちゃまは世の中に結構多いようだ。
つまり、シニアに“ソフト・エロ需要”あり。![]()

ますます高齢化が進むここ日本で、ミニシアターが生き残るには、こういうシニアをターゲットに
たまに“ソフト・エロ特集上映”を組むのも一案かも知れません。