【2012年/中国/108min.】
建安14年(紀元209年)、關中の牢に多くの男女が連れて来られる。
それから10年、過酷な訓練を積んだ者の中から選ばれた穆順と靈雎は
曹操暗殺の命を受け、それぞれ銅雀台に送り込まれる。
そこで穆順は宦官となり、美しい靈雎は曹操から寵愛を受けることになるが…。
高額な制作費を投入し、人気スタアを集めて撮った大作の割りに

“チャオ・リンシャン”と監督名を片仮名で表記した日本のチラシを見て
薬師丸ひろ子の懐かCM「チャン・リン・シャン♪」を思い出してしまったのは、私だけか。
趙林山は、これまでに多くのCMを手掛けてきた監督で、本作品で長編映画デビューを果たしたらしい。
三国志の英傑の中から、本作品がスポットを当てているのは、魏の曹操(155-220)。
物語は、覇王・曹操に怨みを抱く者たちが一丸となって曹操暗殺計画を企てる復讐フィクション時代劇。
曹操ほどの大物なら、敵も多く、常に命は狙われていたであろう。
だからと言って、曹操をターゲットにした殺人マシーンを育てる刺客養成所のシーンで
作品が幕を開けたのには、少々意表を突かれた。
“史実”とは言わないまでも、曹操を主人公に、よく知られたエピソードで綴る“三国志スピンオフ”のような
歴史ドラマだと予想していた私は、この冒頭のシーンで、本作が意外にも
ファンタジーの度合いが強い作品なのだと知らされる。
創作のヒントとなったのは、2009年河南省安陽市での曹操高陵発見。
最近、
NHKの『古代中国 よみがえる英雄伝説』という番組でも

吉川晃司が中国へ渡り、曹操のこの陵墓を紹介していた。
番組では説明が無かったが、この陵墓からは、曹操の骨以外に、♀若い女性の骨が発見されている。
この女性は一体誰なのか?趙林山監督は、そんな疑問から空想を膨らませ
愛憎相半ばするこの歴史ヒューマンドラマを創り上げたようだ。
出演は、晩年の曹操に周潤發(チョウ・ユンファ)、
曹操の寵愛を受けながら、暗殺の機会を窺う若き美女・靈雎に劉亦菲(リウ・イーフェイ)、
一緒に成長した靈雎に想いを寄せながらも宦官となる穆順に玉木宏、
曹操に実権を奪われた後漢の獻帝に蘇有朋(アレック・スー)、
獻帝の妃、伏皇后に伊能靜、伏皇后の父・伏完に倪大紅(ニー・ダーホン)、
曹操に仕える太醫、吉本に姚櫓(ヤオ・ルー)、曹操の息子・曹丕に邱心志(チウ・シンジー)などなど。
本作品で特徴的な事のひとつは、無慈悲な暴君・曹操と
その曹操から理不尽に何もかも奪われた可哀想な獻帝という有りがちなイメージに囚われていない点。
実際にはチビだったと言い伝えられている曹操だが、大柄で存在感抜群の周潤發が扮すると
従来の曹操を思わせる威圧感がビンビン。
ところが、話が先に進むと、横暴と取られがちな曹操の行いに正当性が感じられてきたり
血の通った人間らしい一面も見えてくる。
逆に、可哀想な被害者であるはずの獻帝は、本作品だと、立ち居振る舞いが、まるでバカ殿様。
もっとも、言動が若干馬鹿っぽくても、十年もの歳月をかけ、コツコツと曹操暗殺計画を進めてきたのだから
なかなかの策士だし、謀反を起こそうという野心も強く、“無力な皇帝”のイメージではない。
扮する蘇有朋自身、滑稽なまでの大袈裟な演技で、台湾人気アイドル時代のイメージを払拭。
かつてアイドルユニット小虎隊でお仲間だった吳隆奇(ニッキー・ウー)は
二枚目路線で再ブレイクしているけれど、蘇有朋は個性派にシフトかしら。
日本人なら気になるのは、やはり玉木宏。
あまり重要な役ではないと思っていたので、予想していたよりは登場シーンが長く
物語にも結構絡んできている。
中国語の吹き替えが、実際の玉木宏の声よりやや高音なので
彼の渋い低音が好きなファンは、ちょっとガッカリかも。
玉木宏とは反対で、伊能靜は予想より登場シーンが短く、さっさとあの世へ逝かれてしまった…。
それでも、存命中には、太モモも顕わなお色気シーンあり。
前から何となく思っていた事だが、本作品で改めて伊能靜を見たら…
広い額と上向きの小さな鼻がソニンに似ている。年齢不詳の童顔、伊能靜は、こう見えてすでに40半ば。
未だお盛んで、最近は10歳年下の大陸俳優・秦昊(チン・ハオ)との交際が公に。
コブ付きのバツイチでも、小悪魔っぷりは健在。
秦昊、どうもお姐様に本気らしく、微博では、「愛のためにタトゥを入れた」とも取れる発言をしている。
秦昊は真面目で純粋そうだから、経験豊富すぎる靜お姐様に振り回されやしないかと、mango心配ヨ。
伏皇后役の伊能靜より、もっとずっと重要な役についている劉亦菲は、切れ長の涼しげな瞳が美しい。
彼女が扮する靈雎というキャラは奇想天外な設定で、暗に吕布と貂蝉の間に生まれた娘であると臭わせる。
曹操は、靈雎に貂蝉の面影を見い出し、惹かれちゃうワケ。
日本人は出演者の玉木宏のみならず、裏方さんにもおり
種田陽平が美術を、梅原茂が音楽を担当。
趙林山監督のことは知らなかったけれど、監督を支えるスタッフは、日本人と限らず、一流揃いで
衣装デザインでは、香港の奚仲文(イー・チュンマン)も参加している。
奚仲文が衣装を手掛けた周潤發主演の大陸時代劇と言えば
張藝謀(チャン・イーモウ)監督のキンキラ映画『王妃の紋章』(2006年)を思い出す。
あれと比べると、本作品はゴージャスであっても、かなりシックに抑えられている。
本作品は、曹操をモチーフにした創作であって、曹操の伝記映画ではない。
正体を伏せ、敵方に潜伏する物語は、“三国時代版『インファナル・アフェア』”のよう。
あちらの宣伝では、“情色權謀三國殺”と形容されているのを幾度となく目にした。
差し詰め“色仕掛け三国殺”って感じだろうか。“お色気+三国志”だなんて、殿方の好物ダブル盛り♪
でも、実際には、売りにする程エロくないので、世の男性は、無駄な期待を抱かぬよう、お気を付けあそばせ。
私はと言うと、物語が一気に動く終盤はまぁまぁだったけれど、そこに至るまでは退屈してしまった。
最終的には、「さすがは曹操、度量が大きいワ」と印象付けられた作品であった。
趙林山監督は、余程の曹操押しなのであろう。
“曹操がいかに器の大きな人物であったか”、その一点を描きたいがために
本作品を撮ったのではないかとさえ思える。
あと、細かな所では、NHK 『古代中国 よみがえる英雄伝説』の中で紹介された曹操の枕が印象的だったため
映画でも、曹操の寝具についつい目が行ってしまった。
通常、あれくらい地位の高い人の場合、玉の枕を使うものなのに
頭痛持ちの曹操は質素な石の枕を使っていたという。
発掘された曹操の枕は、漬け物石にでもしたら丁度良さそうな本当に地味なグレーの塊り。
が、映画の中で曹操が使っているのは、華やかな錦の枕。
いくら何でも漬け物石では味気ないので、今で言う“枕カバー”を被せたのだ、と理解した。