【2012年/日本/129min.】
住田祐一15歳。 大それた夢は無く、願いはただ普通の大人になること。
一見どこにでも居る中学3年生だが、父親は借金を作り、出て行ったきり。
一緒に暮らしていた母親さえも、愛人と共に家を出ていってしまう。
茶沢景子の夢は、愛する人と守り守られ生きること。
同級生の住田は気になる存在。 どんなに邪険にされても追い続け、彼の貸しボート屋を手伝うように。
震災の被災者たちも交え、束の間、穏やかな日々が流れるがその日常を壊すかのように、住田の父が戻ってきて…。
つい数ヶ月前『恋の罪』が公開されたばかりなのに、早くも新作が登場の
園子温監督。

2011年第68回ヴェネツィア国際映画祭で、主演の若いふたりが

園子温監督にとって初の“原作モノ”である点にも注目。
原作は、古谷実の同名コミック。

園子温監督は、2011年3月11日に起きた東日本大震災に感じるところがあり
急遽原作にアレンジを加え、実写化したらしい。
私は原作コミックをまったく知らないので、比較は出来ない。
物語の主人公は、どこにでも居そうな15歳の同級生同士、住田祐一と茶沢景子。
夢見るお年頃でありながら、住田の願いは冷めていて、“普通の大人になる”こと。
なぜなら、父は借金まみれの暴力男、母は愛人と駆け落ちと
住田は“普通ではない”親の間に生まれた息子だから。
茶沢もまた親からきちんと愛情を受けずに育った少女。
どこか通じるふたりは、絶望的な世界で束の間ささやかな日常を得るが、ある事件を機にそれさえも失う。
深く暗い闇に落ちた住田と、住田を救いたい茶沢、魂のレベルで通じ合う15歳のヒリヒリ痛い青春映画。
タイトルの『ヒミズ』を、ずっと“歪み(ひずみ)”と勘違いしていた。
ゆがんだ青春を描いた作品なのかなぁ~と (それも満更間違いではない)。
本当は、モグラの一種で、漢字では“日不見”と書くらしい。
猛獣ではなく、おとなしい小動物のようなのに
様々な不条理から、太陽の当たるキラキラ明るい場所では生きられない主人公は、まさにヒミズなのかも。
あぁー、なんて暗い青春映画…。
ただ、ハッピーとは言い切れないエンディングにも関わらず
未来に繋がる微かな光が感じられ、後味ドヨォーンではないのが、良い意味で園子温監督作品ぽくない。
震災の直後に撮った作品で、作中にも全てを失い、それでも生きていく被災者たちが登場するし
園子温監督は、こんな時だからこそ、絶望感だけで幕を下ろす作品にはしたくなかったのかも知れない。
自分の青春時代とは重なる部分があまりにも無く、まったく共感できないお話だけれど
それでも引き込まれるのは、主演の若いふたりの魅力が大きい。
住田祐一は染谷将太、茶沢景子は二階堂ふみが、それぞれ演じる。
染谷将太は、これまでにも出演作が多く、すでに“次世代の実力派”と目される存在ではないだろうか。
普通こういう子役出身の童顔男子って、可愛いさがウリにならなくなった時点で消えていくものだけれど
染谷クンは、見た目のイメージをブチ壊す演技をし、作家性の強い映画にも重用される俳優に成長しつつある。
二階堂ふみは、
ドラマ『テンペスト』でしか見た覚えがない。

いや、それさえも、ヴェネツィア受賞のニュースを見て
「えっ、この子、『テンペスト』の思戸だったの?!」と、ようやく気付いたくらい。
こんなにジックリたっぷり彼女を見たのは、この『ヒミズ』が初めて。
たまにふとした表情が宮崎あおいに見えることがある。
そんな癒し系の顔立ちでありながら、彼女もそのイメージを裏切るキレッぷり。
二階堂ふみちゃんも、第二の満島ひかりになるかもねぇ~。
脇を固める俳優陣は、黒沢あすか、渡辺真起子、神楽坂恵、吉高由里子、光石研、
吹越満、でんでん、西島隆弘などなど、過去の園子温監督作品出演者が盛り沢山。
熱過ぎる教師と冷めた住田、そんな住田に夢中の茶沢。
三者の過剰なやり取りが繰り広げられる冒頭から、呆気にとられながらも見入る。
基本的には、演じていないような自然な演技が好きだけれど
有り得ないほど行き過ぎた演技や演出は、呆れや戸惑いをも超越して、容認されてしまうようだ。
何度も繰り返される「たったひとつの花なんだ!」というSMAPのような呼び掛けを
鬱陶しく感じながらも、ついつい食い付いてしまった。 掴みOK。
その後も、次から次へと見せ場が有る怒涛の展開。
だだじっと座って映画を観ているだけなのに、なぜかドッと疲労感…。 不思議と心地よいラストが救い。
全体の感想は、これまでの園子温監督作品と同じで
自分好みとは言い切れないが、観応えがあり、印象には刻まれる。
あっ、でも、これまでで一番好きな園子温監督作品かも。
主人公が中学生ということもあり、純粋さに胸が締め付けられるような作風で。
もっとも、これまでの園子温監督作品も、ある意味ピュアな人々を描いてはいるけれど
そのピュアさが爆走し過ぎで、アザトいのよ、エグイのよ。
そういうとこ、韓国のキム・ギドク監督と通じる。

本作品も充分アザトいけれど、過去の作品との比較で、案外あっさり受け入れられてしまう。
尺が、『愛のむきだし』の半分程度というのも有り難い。
本筋からはズレるが、なぜかクロージングクレジットが短いのも、印象に残る。
これまでの園子監監督作品で、印象的な演技をしてきた俳優たちが、その後どんど飛躍していったように
本作品主演の若手ふたり、染谷将太と二階堂ふみの将来も楽しみ。
同世代のアイドルたちとは異質の気を放つ存在に成長して欲しいと期待。
テレビでの発言が本当ならば、園子温監督の次回作は
妊婦が主人公のほのぼのとした作品とインドのミュージカルだとか(…!)。 これまたガラリと方向転換。
本当に“ほのぼの”なのか確認するためにも、観に行く気がする。