【2011年/中国/109min,】
後漢末期、建安5年(200年)の中国。
一度は曹操と手を組んだ劉備玄徳であったが、表紹の曹操討伐計画に引き入れられ、敵対関係に。
徐州に猛攻撃をかけるも、曹操に、關雲長(関羽)と許嫁・綺蘭を捕虜としてとられてしまう。
關雲長の才能を買う曹操は、なんとか彼を自分の臣下にしようと試みるが
關雲長の劉備への忠誠はまったく揺るがない。
遂に根負けし、綺蘭と共に關雲長を劉備の元へ返すことにする。
ところが、曹操の臣下の中には、この決断に不服な者も多く、曹操の目の届かぬ所で
執拗に關雲長を狙うようになり…。
『インファナル・アフェア』シリーズの香港脚本家コンビ、

昨年5月、北京へ遊びに行った際、街のあちらこちらで、この作品の広告を目にした。 (→参照)
それがもう日本上陸。 中国映画としては、早い方なのでは。 さすが三国志関連は強い。
非常に長い話で、自ずと登場人物もやたら多い三国志。
本作品でスポットを当てているのは、魏の曹操と、劉備玄徳率いる蜀の武将・關雲長(関羽)。
前半は、捕虜にした關雲長を自分の臣下にしたくて、曹操が必死に口説く様子を描き
後半は、ようやく釈放されたものの、行く先々で曹操の臣下たちに命を狙われる關雲長を描く。
前半は“静”、アクション満載の後半は“動”という印象。 私が好きなのは断然前半。
曹操の捕虜となった關雲長は、“捕虜=敵軍に捕われ、過酷な労働を課せられる者”ではない。
捕虜だからといって、びくびくオドオドしておらず、むしろ曹操に対してツレない態度。
曹操はホレた弱みで、そんな關雲長に振り回され気味。
このふたり、現代の♂♀男女関係と何ら変わらない。
男A(曹操)は、ライバルB(劉備玄徳)の恋人C(關雲長)に横恋慕しているけれど
CはBと相思相愛で、Aのことなど見向きもしない。 そこで、思い余ったAは実力行使に出て、Cを拉致。
自分の元に束縛し、彼女の心変わりを期待して、尽くしまくるも
「カラダはここに捕らわれていても、心までは捕えられないわ。 私の心はずっとBのものよ」と
ツレなく言い放たれ、決して手に入れることの出来ない高嶺の花に益々想いを募らす、…みたいな (笑)。
自分から積極的に告白したり、デートでの割り勘に抵抗の無い昨今の日本人女子を見ていると
女の子が自分を安売りしている上に、男子の狩猟本能を衰えさせ
草食化を加速させているように思えてならない私。 人は、手に入らない物ほど欲しがるもの。
オンナの価値を上げることを知らない今どきのお嬢さん方に、關雲長の爪の垢を煎じて飲ませてさしあげたい。
…なぁ~んて、どうでもいい事を考えながら、本作品を鑑賞。
出演は、モテモテ關雲長(関羽)に甄子丹(ドニー・イェン)、メロメロ曹操に姜文(チアン・ウェン)。
甄子丹は、今や日本で公開作品が最も多い中華明星のひとり。
本作品も、三国志関連であることに加え、甄子丹主演であることが決め手になって
日本公開が早かったのかと想像。
ただ、甄子丹のコッテリ濃い顔と、ハリウッドスター並みに白く輝く歯は、時代劇では浮いてしまうような…。
私のイメージする關雲長像とは掛け離れていて、お約束の長い髭を装着していても
甄子丹は最後まで甄子丹にしか見えなかった。
もっとも、多くの甄子丹ファンが彼に求めるのは、“甄子丹が甄子丹らしくあること”だろうから、これで正解か。
私のお目当ては、曹操役の姜文の方。 大陸で好きなオヤジ5人に確実に入る。
曹操が關雲長にゾッコンのくだりは、小説の中で、とても微笑ましいエピソードだけれど
この映画でも、見た目渋い姜文版曹操が、意中の人になかなか振り向いてもらえず
時折りトホホ感さえ漂い、お茶目な一面を覗かせる。
少なくとも、『レッドクリフ』で張豐毅(チャン・フォンイー)が扮する威厳ある曹操とは異なる。
關雲長本人に、さり気なく、でも真顔で、「私はそなたが好きだ」と素直に告白しちゃったりして。
日本語字幕だと、それなりに時代劇の武将風だが、「我就喜歡你…。」という中国語の台詞は
偶像劇でよく耳にする若い男女の告白と何ら変わりなく、乙女ちっくだし
さもなければ、まるで♂+♂同志片のようで、吹き出してしまった。
プッ…!

なお、日本での上映は北京語版だが、広東語版だと
劉青雲(ラウ・チンワン)が姜文の声を吹き替えているようだ。 劉青雲も好き。
男くさい話に花を添えるのは、關雲長と共に捕虜となった綺蘭。
劉備の第二夫人として嫁ぐことが決まっている女性。 演じているのは孫儷(スン・リー)。
また范冰冰(ファン・ビンビン)だったら、どうしようかと思ったが、違っていて、少しは新鮮。
実は孫儷、サントリー烏龍茶のCMでは、范冰冰よりずっと先輩で
もう何年も前に日本のお茶の間でお披露目済み。
当時、中華電影ファン以外には、まったく話題にならなかったけれど
冬の川辺で太極拳をする孫儷の表情が凛としていて、そのCM私は好きだった。
ユニクロも、上海旗艦店オープンの際、広告に孫儷を起用。 (→参照)
パッチリお目々のお人形さん顔の孫儷が、モード系に変身していてフレッシュな印象であった。
一方この映画だと、彼女本来のお姫様キャラで、ハマリ役ではあっても、当たり前過ぎて、面白味には欠ける。
従来のイメージに捕らわれない分、孫儷の別の一面を引き出している
日本企業の広告の中で見る彼女の方が、私には魅力的に映るワ。
麥兆輝×莊文強コンビが手掛けた甄子丹主演作ということで、香港電影マニアには概ね好評と見受けるけれど
うーン…、可もなく不可もなし。 やっぱり過保護、香港電影マニア (苦笑)。
近年、香港人監督がどんどん大陸進出し、撮る作品も大作化。
香港人監督にとって、お金がたっぷり使えるのは有り難いことかも知れないが、作品はどんどん退屈に。
芸術や文化は、グローバル化などせず、ローカル色を濃く出した方が、より個性的で魅力的。
本作品の場合、悪人とも捉えられがちな絶対的権力者・曹操の乙女な部分が覗ける三国志のエピソードに
アクションをふんだんに絡め、テンポの良いエンターテインメント作品に仕上げているのは
強いて言えば“香港らしさ”かも知れないけれど、別に麥兆輝×莊文強コンビじゃなくても…、って感じ。
香港人監督の作品だと思わなければ、ツマラない訳ではないし、まぁ平均点以上かも。
私にとっては、好きな俳優・姜文が出ていることくらいが、評価に値する点であった。
姜文が關雲長を演じても良かった気がする。
もっとも、後半のアクションシーンには、甄子丹が不可欠だったのだろうけれど。