【2014年/日本/118min.】
2013年8月、数ヶ月前大宮北署を依願退職した元刑事・藤島昭和の元に
別れた妻・桐子から一本の電話が入る。
桐子が引き取った高校3年生の娘・加奈子の行方が分からなくなっているという。
早速かつて暮らした家を訪れた藤島は、加奈子の部屋で、小遣いでは到底買えない高価な服や
友人たちと撮った写真、さらには注射器や白い粉までを見付ける。
何か手掛かりを掴もうと、加奈子の友人知人を訪ね歩くが、彼らの話から浮かび上がってきたのは
これまで藤島が知り得なかった娘のあまりにも意外な姿であった…。
パク・チャヌク監督2009年の作品ではございません。
紛らわしいタイトルだが、こちらはお尻に“。(句点)”が付き、あちらは“。”ナシ。


私は原作未読のまま本作品を鑑賞。
主人公・藤島昭和は、妻・桐子の浮気相手をボコボコにして、仕事も家族も失った元刑事。
別れた桐子から、彼女が引き取った高校3年生の娘・加奈子が行方不明になっていると知らされ
独自に捜査を開始。
物語は、そこから徐々に浮かび上がってくる真の加奈子像に迫りながら
事件の真相を紐解くミステリーであり
家族を顧みなかった駄目オヤジが、遅ればせながら初めて娘の存在と向き合うヒューマン・ドラマ。
作品は、現在と、加奈子が中学生だった3年前を行ったり来たり。
時系列が混乱し易いので、せめて現在パートだけでも時間を追って頭の中を整理してみると…

藤島は、桐子のクリスマスデートを尾行し、浮気相手をボコボコに。

藤島、勤めていた大宮北署を依願退職し、妻とも離婚。

桐子からの久し振りの電話で、加奈子が行方不明になっていることを知らされ、捜査。
多くの新事実を暴くが、加奈子救出には至らず、依然行方は分からぬまま。

藤島、ついに事件の核心を突き止める。
…このように、現在パートは、
2012年のクリスマスから2013年のクリスマスまで、

藤島が家庭を決定的に崩壊させ、父性に目覚めるまでの一年を描く。
その一年の中でも、作品の多くを占めるのは、8月のたったの5日間に起きる出来事。
あまりにも残酷で濃密な5日間…!
出演は、大宮北署の元刑事で自暴自棄に生きる中年男・藤島昭和に役所広司、
行方不明になった藤島の娘・加奈子に小松菜奈、
大宮北署で藤島の後輩だった刑事・浅井に妻夫木聡、加奈子の担任教師・東里恵に中谷美紀など。
最近観た“父娘モノ”、『私の男』のように、父と娘の比重を同じくらいに描いているのかと予想していたが
本作品は父親を前面に押し出していた。
娘は、父親を描く上で必要不可欠なエレメントではあるけれど、主はあくまでも父親だと感じる。
娘の行方を追っている内に、これまで知らなかった娘の実像を知り、少なからず衝撃を受けながらも
徐々に父性が芽生え、ホンモノの父親になってく姿を過激に描く駄目オヤジの成長記という印象。
なので、父親が箸にも棒にもかからないロクデナシという点では『私の男』に似ているかも知れないが
本質的には『そして父になる』の方が近い(…但し、相当エグイが)。
本作品では、キョーレツな存在感を放つ主演俳優・役所広司の演技を堪能。
こんな過激な役所広司は見たことがない。全編に渡りキレまくり。直情激昂型で、車体側面突撃が得意ワザ。
小松菜奈はモデル出身で、本作品でスクリーンデビュー。頭の中で名前を読む時、切る場所を間違えて
小松・菜奈(こまつ・なな)ではなく、小松菜・奈(こまつな・な)かと思った。![]()

子供の頃のあだ名、“小松菜”だったでしょー?違う…??
小松菜ちゃんは、女優としては新人でも、カメラ慣れしているせいか、とても雰囲気のある表情を見せる。
…が、魔性度が低く、“雰囲気があって可愛いファッション誌のモデル”の域から抜け出せていない。
小松菜奈に、『私の男』での二階堂ふみ並みの妖艶さと演技力が有ったら、本作品にもっと奥行が出たのでは。
ちなみに…
その二階堂ふみは、加奈子の中学校時代の同級生・遠藤那美役で出演。金髪に染め、まるで別人。
二階堂ふみと同じ事務所で、やはり知名度急上昇の橋本愛も、加奈子の高校の同級生・森下役で出演。
男子では、加奈子に想いを寄せる中学の同級生“ボク”に扮する清水尋也が印象に残る。
存在が希薄で、学校でも名前で呼んでもらえることの無いイジメられっ子の“ボク”の雰囲気がよく出ている。
30をとうに過ぎ、爽やか好青年のイメージを打ち破る役にも挑戦し続けているブッキーは
本作品でも“笑顔を絶やさない性悪刑事”を演じている。
前から気になっていたのだが、ブッキーって頬に傷があるでしょう…?!
「せっかくの男前がもったいない…!」と残念に思う人も居るかも知れないが
優しい顔に、ああいう傷が有るのは、想像を掻き立て、何か意味深で案外良い、と今回改めて思った。
初の中華電影となる侯孝賢(ホウ・シャオシエン)監督作品『聂隐娘~The Hidden Heroine』にも期待。
中谷美紀は、予想していたより出番が短い。
な~んだ、『嫌われ松子の一生』で御縁のある中島哲也監督のために、特別出演しただけだったのかぁ~、
…なんて思っていたら、実は大層なキーパーソンであった。
ここまでエグいヴァイオレンス映画を観たのは久し振り。2時間の間に死傷者続出。
観賞中、何度も「うわっ!」「ギャッ…!」と声を漏らしてしまった。
(でも、一番驚かされたのは、桐子の浮気相手のズラが飛び、ハゲだと判明したシーンだったりする。
)

ヴァイオレンスというジャンル自体は否定しないが、本作品の場合、暴力の裏に潜む感情や
暴力に至るまでの心の動きが描き足りず、なんか腑に落ちない薄っぺらな暴力に感じてしまった。
役所広司の存在感は抜群で、鬼気迫る演技には目が釘付けになったけれど
それに呼応できるだけの存在感や演技力が、小松菜奈にまだ備わっていなくて
お飾りに甘んじてしまっているのも、作品を薄っぺらに感じてしまう一因かも。
あのルックスで、二階堂ふみの演技力がつけば最強なのに…。まぁ、まだ一作目だし、今後の成長に期待。
あと、暴力シーンに、エグさから程遠い
明るく爽やかな音楽を付ける演出も、ちょっと薄っぺらい。

1~2度だったら効果的だろうが、何度もやられてしまうと、狙い過ぎているように感じ、鼻に付く。
暴力以外で気になったのは
薬物。

最近、ASKA逮捕とか、相次ぐ脱法ハーブ吸引男の車暴走とか
現実に薬物に関する事件を耳にすることが多くなった。
タバコや、せいぜいシンナーくらいで粋がっていた昔のヤンキーが可愛く思えてくる…。
“誰にでも優しく、誰からも好かれるけれど、魅了された者をドン底に突き落とす”という加奈子って
ドラッグの隠喩だろうか…?それって深読みしすぎ…??
本作品は、「観客の反応は賛否両論!」というのを、人々の好奇心を掻き立てる宣伝文句にしているようだが
私個人的には、それほどの問題作には感じなかったし、特別目新しいとも思わなかった。
それなりに楽しんだけれど、期待していたレベルには到達せず、「まぁまぁ」が感想。