北海道美幌別。生まれつき聴覚障害をもつ小彩は
子供の頃に両親を亡くし、育ててくれた祖父が営む小さな診療所を手伝いながら静かに暮らす。
この村唯一の医師である祖父は、自分自身が重い病に冒されていることを知り
小彩には真実を伏せたまま、診療所を引き継いでくれる新たな医師を探し始める。
東京。永岫は台湾人でありながら、将来日本医学会を担う存在になると目される優秀な外科医。
実は、台北の大病院・永世綜合醫院の長男だが、父親との間に確執があり、日本で働く道を選んでいた。
ある時、世話になっている教授を通し、北海道の小さな診療所で新任の医師を探していると知り、
これこそ自分が求めている医療だと思い、約束された将来を捨て、その仕事を引き受ける。
こうして出逢い、みるみる惹かれ合っていく小彩と永岫。
このまま穏やかな日々が続くかと思えた矢先、永岫の元に、父親が危篤だという知らせが入る。
永岫は、すぐに北海道に戻ると約束し、久し振りに台湾へ帰るが有ろう事か飛行場のエレベーターで転倒。
頭部を強打し、一命は取り留めたものの、全ての記憶を失ってしまう…。
2014年2月、
BS日テレで始まった台湾ドラマ『白色之恋~白色之戀』が

約7ヶ月後の9月3日、全30話の放送を終了。
★ 概要
1995年の
日本のヒットドラマ『星の金貨』を台湾でリメイク。

正確には、『星の金貨』と、その翌年放送の続編『続・星の金貨』を合わせた内容で
舞台を北海道と台湾に移しリメイク。

日本パートは、『午後3時の初恋~沉睡的青春』(2007年)や『聴説~聽說』(2007年)といった映画が
日本でも映画祭で紹介されている鄭芬芬(チェン・フェンフェン)監督。
私は『星の金貨』を観たことが無く、のりぴーが手話で演じた事と
主題歌の<碧いうさぎ>がヒットした事くらいしか、そのドラマに関する知識は無い。
よって、台湾版のリメイクをオリジナル版と比べることは不可能。
リメイクした台湾版でも、女性主人公はやはり言葉が不自由で、他の人との意思疎通は
手話と
筆談。


中国語を解さない日本人とも、日本語を解さない台湾人とも
それがまるで世界共通言語、“手話版エスペラント語”かのように
同じ手話で通じ合っているという不思議現象には、目を瞑りましょう。
台湾で放送されたものは、一話90分、全18話であるが
日本では一話60分、全20話に編集して放送(日台共にCMを含んだ時間)。
この編集が酷く、あまりキリが良いとは思えぬ所で、いきなりCMに行ってしまう上、
CMが終わりドラマに戻ると、少なくとも30秒、多い時は約1分も、前のシーンを遡り重複して流す。
最終回だけ“CM明けの鬱陶しい30秒戻り”が無いのだが、その代わり、一話丸ごと最悪の編集…。
★ 物語
身寄りの無い聾唖の22歳・小彩が、優しく誠実な若き医師・永岫と恋に落ちるも
不慮の事故で永岫は記憶喪失に。小彩は、永岫の父が経営する病院・永世綜合醫院で働きながら
永岫が自分との記憶を取り戻すことを願うが、事態は一向に好転しない。
それどころか、永岫が記憶を失ったのを良いことに、以前から永岫に好意を寄せていた令嬢・祥が
自分は以前から永岫の恋人であると話を創り上げ、彼との結婚に漕ぎ着けようと画策。
どうする事も出来ない無力な小彩であったが、永岫の異母弟・永拓から想いを寄せられるようになる。
このように物語は、本来両想いでありながら、運命のいたずらで離れてしまった小彩と永岫に
小彩を想う永拓、永岫を想う祥が加わり、歪んだ四角関係を形成し
それぞれのなかなか報われない恋の行方を描く切ない
ラヴ・ストーリー。

さらにドラマはラヴ・ストーリーに留まらず、
医院長の座を巡る権力闘争や院内の不正を解明する『白い巨塔』ばりの“病院モノ”の側面、
徐々に紐解かれていく華麗なる一族・楚医院長一家の封印された過去や知られざる実情、
それらに関連して、最後に果たされる復讐劇、…とシリアスな要素を含む。
★ キャスト その① : 恋の四角関係
(クリックで拡大)


透明感のある、台湾ならではの女優さん。日本で放送される出演ドラマで、私が彼女を観るのは
チラッと出ていた『イタズラなKiss~惡作劇之吻』以来ではないだろうか。
さらに遡ると、謝欣穎は、10年以上前に、井上陽水と共演したキリン聞茶のCMで
すでに日本のお茶の間に顔を出している。(→参照)
本ドラマでは、一切言葉を発しない特殊な役どころに挑戦しているけれど
実は同じ年に制作された映画『TAICHI 太極 ヒーロー』でも、聾唖の女性に扮し、手話を披露。
苦労して習得した手話を使いたくて、2本立て続けにこのような役を選んだのかと思っていたが
実は台湾と大陸では、手話が違うらしく、結局2種類覚える羽目になったようだ。
ちなみに、『太極』で謝欣穎の夫に扮しているのは、“蘭陵王”馮紹峰(ウィリアム・フォン)。


台湾若手実力派俳優として伸びてきている鳳小岳だが、テレビドラマで見るのは初めて。
なかなか使いにくいハーフ顔は、“生みの親は事故で死亡”という設定で対処。
日本で働く外科医という役なので、日本語の台詞の多さは、台湾人キャストの中で一番。
発音は勿論我々ネイティヴとは異なるが、“日本語を喋れる台湾人”という設定に違和感の無い自然な口調。
難しい言い回しも多いのに、意外にも上手いので、驚いた。
ドラマ前半は、優しく誠実な彼に惚れたが、誰にでも優しいその性格が、事態を複雑化させる後半は
「ちょっとー、もっとシッカリしてよ!」と叱り飛ばしたくなる。
さらに終盤は、人格があまりにも豹変するので、もう彼が分からなくなった…。
(見る者を戸惑わす終盤の豹変っぷりは、鳳小岳の演技力の問題ではなく、脚本と編集に大いに問題アリ。)


丁春誠扮する永拓は、女たらしのちょっと軽薄な男。映画『一分間だけ』でも、そういう役を演じていたので
“丁春誠=花花公子”が定着しつつあるのかと思っていたら
ドラマ中盤、真実の愛に目覚め、小彩ひと筋に尽くしまくるイイ人に。
いつまでもグダグダしている兄・永岫に、ちょうど辟易し始めた頃だったので、私の心も、弟・永拓に傾いた。
丁春誠は190センチもあるため、180越えで充分長身であるはずの鳳小岳が
並ぶとプチサイズに見えてしまうのは、少々気の毒。
スタイル抜群なので、白衣をはじめ、何を着ても様になるけれど
兄の婚約式で着たレッド&ブラックでコーディネイトしたスーツ姿だけは…
ルパン三世を髣髴させ、ちょっとやり過ぎちゃった感じ。
ヒョローッとした体型は、むしろ小栗旬より実写版ルパン三世向きかも。
顔は相変わらずちょっと情けない感じで“イケメンになったリリー・フランキー”。


“仔仔”周渝民(ヴィック・チョウ)との交際報道で
日本の仔仔ファンからも一気に敵視されるようになったであろう(笑)喻虹淵。
脇役ではあるが、出世作となったドラマ、その仔仔主演の『ブラック&ホワイト~痞子英雄』で演じた
明るくピュアなハンバーガーショップ店員・何小玫から一転、
本ドラマで扮する祥は、何がナンでも永岫との結婚に漕ぎ着けようと画策する愛に貪欲なお嬢様。
こんなに悪役が板に付くとは、喻虹淵アッパレですわ。
この役をもし隋棠(ソニア・スイ)とか白歆惠(ビアンカ・バイ)ような完璧な美女が演じたところで
リアリティが無さ過ぎて、私をここまでイライラさせなかったであろうと推測。
喻虹淵は、親しみ易い笑顔、小柄でちょっぴり大根足…、と日本人男性がいかにも好みそうな
(…が女性からは支持されにくい)現実味のある普通の女の子だからこそ
“身近に存在しそうなイヤな女”にリアリティが出て、女性視聴者をイラつかせるのであろう。
愛が報われず、精神が不安定になる終盤の演技は、表情もコワくて見もの。
★ キャスト その② : 非台湾人キャスト
数多くいる脇を固めるキャストの中から、今回は台湾人以外の俳優に焦点を当ててみる。


香港のシンガー杜偉が、珍しく台湾偶像劇で日本に登場。
50代すでにベテランの域の人気シンガーの出演は、あちらでは結構注目されたようだ。
扮する任文森は、医院長夫人と不倫関係を続けながら、医院長の座を虎視眈々と狙う本ドラマ一番の悪役。
でも、そこは台湾偶像劇。最後はあっさり改心するから、安心して見ていられる。


さすがは元ミス・マレーシア。結婚して、子供を産んで、夫の度重なる浮気が原因で離婚して、
アラフォーになっても、ボロボロに朽ちるどころか、今なお艶が有る。
現在台湾を拠点に活動し、女優以外に実業家としての顔を持つ彼女は
ドラマの中でも、セレブなマダムの着こなしが様になる。
台湾偶像劇では珍しい、日本の大人のオンナも納得の洗練された装いですワ。
ちなみに、2007年に離婚した元夫は、大陸版リメイク『101回目のプロポーズ~101次求婚』で
韓流スタア崔志宇(チェ・ジウ)を相手に中華版武田鉄矢を演じた孫興(スン・シン)で
成龍(ジャッキー・チェン)の息子・房祖名(ジェイシー・チャン)より3年早い2011年、
同じく北京で薬物使用の容疑で逮捕されている。


大陸のネットアイドルが台湾偶像劇に。
決して美人ではなく、親近感と愛嬌勝負の大沢あかね系の顔立ち。
これまで映画やドラマにほとんど出ていないにも拘わらず、日本語版wikiに彼女が出ているので驚いた。
本ドラマ出演者で、日本語で紹介されているのは彼女だけ。ス、スゴイ…。恐るべし、ネットの世界。
ドラマの中の役名・翁子園は、もちろん日本のオリジナル“園子”から来ているのだろうけれど
どうしても日本の映画監督・園子温(その・しおん)を連想してしまう。
香港明星・周馳星(チャウ・シンチー)を逆さにすると、日本の作家・馳星周(はせ・せいしゅう)になるように
園子温を逆さにして中国語風に読んだ温子園(Wēn Zĭyuán)が
彼女の役名・翁子園(Wēng Zĭyuán)と酷似なのだが、もしかして意識して役名決めました?
★ ロケ地
永岫・永拓兄弟の父が経営する永世綜合醫院は、確か台北の大病院という設定のはずだが
窓の外に広がる風景は、明らかに高雄。
画像のこの副医院長室は、
高雄・福容大飯店(フーロンホテル)、

プレミアムフロアにある2510号室で撮影したそう。
私はこのホテルの事をよく知らないが、恐らく特別高級ではないはずなので、気軽に泊まれるロケ地と言えそう。
病院の外観は、場所を移動し、大東文化藝術中心。他にも、高雄の風光明媚な場所がいっぱい。

高雄市 鹽埕區 五福四路 45號

高雄市 鳳山區 光遠路 161號
★ テーマ曲

エンディング曲は王宏恩(ワン・ホンエン)の<你說你不快樂>。
毎回、ドラマの余韻に浸りながら、最後に流れてくるこの<你說你不快樂>を聴くと、ジーンと来ちゃう。
でも、良い動画が見当たらなかったので、ここにはオープニング曲<漂流木>の方を貼っておく。
こちらもAggieの透明感のある気だるい声と、ほわぁ~っとした浮遊感が心地よくて、好き。
作詞作曲を手掛けたのは韋禮安(ウェイ・リーアン)。
余談になるが、Aggieのママは、映画『一分間だけ』で丁春誠の上司、Miss Linに扮する佩霞(タミー・ライ)。
一貫して善人だった永岫が、終盤ブラックな顔を覗かせたので、一体どうなってしまうのだろうと戸惑う。
しかし、後で思えば、その戸惑いは、ほんの序の口で、
最終回では、永岫がさらにブラック化し、いきなり復讐の鬼に。
しかも、正気を取り戻した祥から、サラリと身籠っている事を告げられ困惑する永岫であったが
それでも小彩に対する愛はホンモノで、彼女と北海道へ戻ることを決意。
なのに、なのに、最後の最後で、どういう訳か永岫から小彩を譲られた弟・永拓が突如北海道に現れ、
「我愛妳 。君の気持ちが変わるのを百年でも待つよ」って、どーゆー事…??!
良く言えば、ドンデン返しを繰り返す怒涛の展開で、目が離せない最終回だが
ハッキリ言って、最後の最後になって、何の脈絡もなく、ナンでもカンでも詰め込め、
強引に終わらせた、無理矢理な最終回という印象。
永岫のあの心の変化を描くには、最終回の内容を最低でも2話に分けるべきだったのでは。
編集がヒド過ぎる。キッチリ20話に収めるために、最後の1話をコンパクトにしてしまったの…?
…とは言うものの、雑な編集の最終回にさえ目を瞑れば、このドラマは拾い物であった。
元々“お涙頂戴系”が苦手な上、オリジナルの『星の金貨』も観ていないので
日本での放送が発表された当初は、まったく興味がもてず、
それどころか「なぜ今わざわざコレ?!」、「他に放送するドラマ無かったの??」と批判的でさえあった私。
ところが、いざ観始めたら、なかなかではないか。
少なくともホームドラマチャンネルなどで放送しているお気軽な偶像劇よりはずっと本格的なドラマで
観応えがある。どこを“本格的”と感じ、他の偶像劇との差を感じるかと言うと、
脚本ががよく練られ、映像も綺麗、韓流スタアのような陳腐な髪型にしたエリート医師も登場せず、
転んだ拍子にアクシデントでキスしちゃうなどという台湾偶像劇お約束の演出も無い。
映画で充分やっていける謝欣穎や鳳小岳といった若手俳優のキャスティングも良し。
また、“永井拓巳→楚永拓”のように、日本のオリジナルを踏まえた役名を付けているという事を
見せたいがためかも知れないけれど、台湾人登場人物の名前を日本語字幕で妙な片仮名などにせず
きちんと漢字で表記していることも高評価。
結果的に、同時期に視聴していた台湾ドラマの中では、これが一番面白かった。
最後まで邦題『白色之恋』の読み方は分からなかった。『しろいろのこい』?正解は…?

『刑事ジョー パリの犯罪捜査班~Jo』を放送。
せっかくのBS台湾ドラマ枠が…とガッカリする人も多いだろうが
私はドラマ視聴地獄からちょっとだけ解放されることに安堵。
ただ、この『刑事ジョー』はたったの8話しかないみたいだから、2ヶ月後はどうなるのでしょう。