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映画『私の少女』

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【2014年/韓国/119min.】
小さな港町・麗水の派出所に所長として赴任してきた女性警官・ヨンナムは、
この町に着いて早々、ドヒという14歳の少女と出会う。
なんでもドヒの母は、彼女を置いて蒸発し、
一緒に暮らす継父のヨンハとその母は、日常的にドヒに暴力をふるっているという。
見かねたヨンナムは、ヨンハからドヒを引き離すため、彼女をしばし自分の家に匿うことに。
信頼できる大人との穏やかな生活で、ドヒは徐々に子供らしい明るさを取り戻すが、
逆にヨンハはヨンナムへの不満を募らせる一方。
そんなある日の晩、偶然にもヨンナムの過去を知ったヨンハは、
それを利用し、彼女を追い詰めようと画策し…。



2014年第15回東京フィルメックスで、『扉の少女』のタイトルで上映された
韓国の女性監督チョン・ジュリの長編デビュー作で、プロデュースしたのはイ・チャンドン

監督とキャストが来日して、Q&Aを実施したフィルメックスの贅沢な上映で観たかったのだけれど
都合がつかず断念。それから半年もしない内の一般劇場公開は、予想より早くて嬉しい。


物語の舞台となる小さな港町・麗水(ヨス)は、チョン・ジュリ監督の故郷。
主人公は、ソウルからその麗水の派出所に所長として赴任してきた女性警官ヨンナム。
彼女は、着任早々、継父ヨンハから日常的に暴力をふるわれている14歳の少女ドヒと出会う。
物語は、それぞれに孤独な女性警官ヨンナムと母に捨てられた少女ドヒが出会い、
束の間穏やかな時を過ごすも、ある事を機に社会から再び疎外され、追い詰められてしまうが
二人で手を取り、新たな一歩を踏み出そうとするまでを描くヒューマン・ドラマ

年配のおじちゃんたちを部下に、いきなり所長に就任する主人公ヨンナムだが
“中央から派遣されてきたエリート女性警官”というより
“何らかの問題を起こし左遷されてきた女性警官”であることは、我々観衆もかなり早い内に察する。

お酒をわざわざミネラルウォーターのペットボトルに移し替え、
まるで本物の水の如く、ガブ飲みしている事からして、かなり怪しい。
ヨンナムは、お酒で失敗したアル中か…?

その後、麗水の派出所に、ヨンナムを訪ね、ソウルから若い女性がのりこんで来る。
元交際相手の奥さんが、不倫略奪愛に激怒し、復讐の殴り込み…?!
そうか、ヨンナムは男性問題で身を滅ぼしたのか、…と思いきや、
実は女性問題での左遷だったという意外。
ヨンナムが同性愛者だったという事実が、後々ある疑惑を招き、事件へと繋がっていく。

邦題が『扉の少女』から『私の少女』に変えられたのは、
浅野忠信&二階堂ふみ主演映画『私の男』をちょっと意識?それとも、ただの偶然…?
両者とも、コミュニティとは距離を置き(もしくは、疎外され)、
理解し合う一人の大人と一人の少女が二人だけの世界を築いているお話。
但し、『私の男』の養父は養女と肉体関係が有るけれど、
『私の少女』の女性警官ヨンナムは、自分を頼りにする少女ドヒを助けたかっただけで、
後ろめたい事は何もしていない。
なのに、同性愛者に対する偏見が、人々の憶測を逞しくし、無実の善人を罪人にしてしまう恐ろしさ…。

事がこじれたのは、そこが保守的な田舎町だったのも大きな要因。
作品からヒシヒシと伝わってくる田舎ならではの理不尽や閉塞感…。
また、家庭内暴力やセクシャルマイノリティに対する偏見のみならず、外国人労働者の不法就労など、
昨今よく語られている韓国が抱える社会問題が折り込まれているのも、興味深い。




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出演は、ソウルから麗水の派出所に赴任してきた女性警官イ・ヨンナムにぺ・ドゥナ
母が蒸発し、継父とその母親と3人で暮らす14歳の少女ソン・ドヒにキム・セロン
ドヒの継父パク・ヨンハにソン・セビョク、ヨンハの母ジョムスンにキム・ジング
ヨンナムの同僚オム班長にソン・ジョンハク
ソウルからヨンナムを訪ねてくる女性ウンジョンにチャン・ヒジン等々…。


ぺ・ドゥナは、私の“韓国女優ランキングBest5”に入るお気に入り女優。
本作品は、私の知らないチョン・ジュリという新人監督の作品なので、
イ・チャンドンのプロデュースで、このぺ・ドゥナが主演でなければ、
気が付かず、スルーしてしまっていたかも知れない。

ぺ・ドゥナが今回扮するヨンナムは、最初の内から何やら“ワケあり”である事を匂わすが、
それを過剰に表現せず、あくまでも静かに淡々と演じ、ヨンナムが抱える孤独をじんわり醸す。

「ぺ・ドゥナが好き」と言っている割りには、作品として苦手な物も結構有り、
例えば、よく代表作に挙げられる『グエムル~漢江の怪物』(2006年)などは
これっぽっちも良さが分からないのだけれど、
本作品は“ぺ・ドゥナ主演作Best5”に入るのではないかと思うくらい、作品自体が良いし、
作品の中のぺ・ドゥナの自然な佇まいが良かった。



もう一人の主演女優、『冬の小鳥』(2009年)で知ったキム・セロンももう14歳。
(あっ、そう言えば、『冬の小鳥』もまたイ・チャンドのプロデュース作品であった。)
ドヒに扮する本作品で見て、もはや“子役”ではないと感じた。
血の繋がらない継父と祖母から来る日も来る日も暴力をふるわれる女の子なんて、
まだ若い彼女には、精神的に辛い役だろうが、
それ以上に彼女の女優魂を感じたのは、終盤の継父を誘惑するシーン。
あのシーンを観て、「この子、もうずっと女優をやっていく気なのね」と、強い覚悟をビシバシと感じ取った。

顔立ちは、昨今の韓流女優お直しトレンドからは若干ズレており、
鼻が大き目だし、まぶたも厚い、ややノッペリ系で…

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同じく子役出身の、中国の徐嬌(シュー・チャオ)にどことなく似ている。
『ミラクル7号』で男の子を演じ注目された徐嬌は、1997年生まれで、キム・セロンより3ツ年上の17歳。

キム・セロンは、大鼻だろうポッテリまぶただろうと、実力が有るのだから、
個性を大事に(そもそも私はこの顔が良いと思っている)、素敵な女優さんに成長していただきたい。
周囲の風潮に流され、安っぽい大量生産の“韓流顔”なんかに作り替えたら、その時点で女優生命の終焉ヨ。


ソン・セビョク扮するヨンハは、酔って暴言を吐いたり、ドヒに暴力をふるうだけでなく、
不法滞在する外国人労働者の弱みにつけ込み、拘束し、劣悪な条件で働かせるといった
法に触れる行為も行っており、普通に考えると、かなりタチの悪い男。
しかし、よくよく考えると、逃げた女が勝手に残していった血縁の無い子を養わされている彼だって、被害者。
外国人労働者の違法雇用も、確かにいけない事ではあるけれど、
町の人々は、それを正論で改めようとするヨンナムを白い眼で見て、悪者のハズのヨンハに味方。
決して裕福ではないこのような地方都市では、正論では暮らしが立ち行かず、
ヨンハのようなヨゴレ役が居るお蔭で、色々な事が上手く回っているのだ。
人々にとっては、突然外からやって来て、田舎町の暗黙のルールを破り、
生活をかみ乱そうとするヨンナムの方が、よっぽど邪魔者。
例え世間の常識からは外れている事でも、何が善で何が悪と決め付けず、グレーな部分を残している点に
理屈だけでは処理できない田舎町の現実が感じられる。


ヨンハの母親ジョムスンに扮するキム・ジングは、
くるくるパーマに浅黒い肌で、こめかみに湿布みたいのを貼っているし、ホンモノの土地の人にしか見えない!

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バイクで走行している最初の登場シーンからキョーレツ。
この物語の中のお笑い担当で、“愉快なジョムスンばあさん”を演じるのかと思ったら、
息子ヨンハに負けず劣らずキレ易い凶悪老女であった…!





暴力を描く韓国映画は、観ているこちらまで体力を消耗するギンギンに熱い物が多いけれど、
本作品は、そのような“The 韓国映画!”より明らかに数度温度が低く、
一歩引いた所から、静観しているような感じ。
そういう視点が女性監督らしいし、淡々と描くことで、
二人の女性の孤独がより際立ち、抱えた心の痛みがジワジワ伝わってきたような気が。
主として子供の虐待問題を取り上げた作品かと思いきや、
一種の同志片だったのは予想外の流れで、先が気になり見入り、あっと言う間の2時間であった。
ラストに希望が感じられたのは、ホッとした。

社会問題なども絡めた、基本的にはシリアスな内容だけれど、重過ぎず、
特に、ヨンナムもドヒも同じ美容院でカットして、同じ冴えないおかっぱ頭にされてしまうくだりには、クスッ。
村にバーバー吉野という理髪店が一軒しか無く、
村の少年少女が全員“吉野刈り”なる同じヘアスタイルにされてしまうという荻上直子監督作品、
『バーバー吉野』(2003年)を思い出した。

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