第28回東京国際映画祭で、
台湾の林書宇(トム・リン)監督最新作『百日草~百日告別 Zinnia Flower』を観賞。
これはとても観たかった作品。私と同じように、この作品に注目している人が多いように見受けたので、
チケット発売日には、真っ先にこれを押さえた。
案の定、間も無くしてソールドアウトになったので、無事チケットを取れた事に安堵。
本作品の上映は、10月24日(土曜)、25日(日曜)、28日(水曜)の計3回。
内、週末に上映される2回は、監督と主演男優“石頭”こと石錦航(シー・チンハン)のQ&A付き。
私は、土曜の上映へ。
★ 『百日草』林書宇監督&石頭Q&A
私がナマで林書宇監督を見るのは、同じく東京国際映画祭で『九月に降る風』が上映され、
Q&Aが行われた2008年以来。(→参照)
改めて考えると、えぇーっ、もう7年も前…?!光陰矢のごとし…。
その時、林書宇監督が、ジャケットの下に
あだち充の漫画に出てくる女の子をプリントしたTシャツを着ていたことばかりが、やたら鮮明に記憶されている。
今回も、Tシャツ+ジャケット+パンツという似たようなカジュアルスタイルなのだが、
Tシャツが黒無地でアダルトになっておられた。
そして今回は主演男優の“石頭(シートウ/ストーン)”こと石錦航も同伴。
石頭は人気バンド五月天(Mayday)の
ギタリスト。

尖閣問題が勃発して以降、中華圏の明星は釜山へは行っても、東京国際映画祭にはパッタリ来なくなり、
仮にQ&Aが行われるとしても、登壇するのは大抵監督のみという状況が続いている中、
石頭レベルの大物がよく来てくれたと嬉しく思う。
会場には石頭や五月天ファンと見受ける人も多く、心なしか他の上映より熱気が感じられる。
上映終了後、そんなお二方を迎え、
東京国際映画祭プログラミング・ディレクター石坂健治を司会進行役に、約30分のQ&Aがスタート。
以下、気になったお言葉のみをピックアップしておく。

二人の主演俳優、石頭と林嘉欣(カリーナ・ラム)はどうだったか?

役を決める時には、すでにこの人をキャスティングしたらどうなるかが僕には見えています。
この二人なら大丈夫だと確信していたし、実際、結果的にそうなりました。

監督から初めてこの話をいただいた時は、このような役に責任を負えるのかと緊張もしましたが、
監督の過去の作品が好きで、五月天のMVも撮ってもらっていますから、結局出演を決めました。

撮影はどのように?

林嘉欣は香港に家庭があり、普段はあちらに暮らしていますから、彼女のパートはまとめて撮るようにして、
次は石頭のパート、という感じです。
撮影の順番は、ほぼ脚本の流れ通りでした。

息子との結婚も決まっていた女性に対し、彼の親の態度が冷たかったり、
日本とは感覚が違うように思えましたが…。

僕の作品の中で描かれている事が台湾を代表しているわけではありません。
ただ、親は子供の死に対し憤りがあり、時に礼儀を欠いてしまう事があるのも、また事実です。

作中流れるショパンなど、音楽はどのように選んだのですか?

ショパンのエチュードは、慰め、愛、哀しみが表現できる曲は何が良いかと
ピアノの先生に相談して決めました。
プロのミュージシャンでもある石頭にも相談し、音楽の分析を色々聞かせてもらい、決めていきました。

ショパンに対しては、この映画を撮る前と後とでは、印象が変わってしまいました。
撮影中もずーっとショパンを聴いていたので、聴くと役の気持ちになり、悲しくなってしまいます。

主人公を一人にして、その一人を掘り下げるという方法もあったと思いますが、
なぜ二人にしたのですか?

哀しみの出口を見付ける方法は、僕自身が経験した方法だけではなく、色々です。
例えば、出口を見付けようとする鼠でも、箱の中をぐるぐる回って出口を探る鼠もいるし、
あちこちぶつかりながら探す鼠もいるけれど、どちらの鼠が早く出口を見付けられるかは分かりません。

男性主人公・李育偉が、事故で怪我した腕のギプスをいつ外すのかと気にして見ていましたが、
結局ずっとつけっ放しでした。

実は、石膏のギプスを腕から外したシーンも撮影しています。
一度ギプスを外すのですが、哀しみから回復したくないという気持ちから、またギプスを付けてしまうのです。
あのギプスは、役を演じる上でも重要で、僕はあの石膏のギプスを付けていることで、
自分は“李育偉”なんだと思えました。

二人の主人公が悲しみを乗り越える方法が似ているけれど、それは華人ならではのものなのか?

二人が向き合う悲しみは似ていても、それぞれの心境は違うように描いたつもりです。
ちゃんと質問を聞いていなかったので不確かだが、
観客から「似ている」と指摘された二人の主人公が悲しみを乗り越える“方法/行為”は、
性行為の事を指していたのだろうか。
私は、それが“華人ならでは”の手段だとは、まったく思わなかったけれど、
非常に誠実な感じがする二人の主人公が、いくら悲しみで我を忘れたからといって、
知人と関係してしまうのはどーヨ?!と、少し戸惑わされたのは確か。
育偉だけならまだしも、心敏までもが義弟と崩れ落ちていった時には、「心敏、お前もか…」と。
このQ&A、私にとっての興味深い質問は出ず、今一入り込めなかったのだけれど、
奥方の死から3年ほど経っているとはいえ、その死を思い起こさせる自身の作品について、
静かに淡々と語る林書宇監督の姿は印象的であった。
あっ、別に冷淡だとかそういう批判的な意味ではなく、林書宇監督にとっては、百日の法要と似た感覚で、
映画を撮る事で、故人への想いを自分の中で整理しながらその人を供養する、
という一種の禊(みそぎ)になっているようにさえ感じた。
ちなみに、石頭が言っていた、林書宇監督に撮ってもらった五月天のMVとは、
こちらの楽曲、
<如煙>のこと。

林書宇監督は、私が好きな方大同(カリル・フォン)のMV
<Nothing's Gonna Change My Love For You>も撮っているが、どちらも郷愁を誘う雰囲気が共通。
★ フォトセッション
Q&Aの後は、
フォトセッション。

それまで椅子に座っていた観客も立ち上がり、写真をバシバシ。
いつも以上に熱心に撮影する観客が多いように感じるのは、やはり石頭が居るからだろうか。
私が想像していた以上に、石頭ファンは日本に多いようです。
こうして、上映終了後の約30分のQ&Aセッションはおしまい。
石頭は、日本語で「またね」と言いながら、舞台袖へ消えていったのであった…。
★ オマケの『レイジー・ヘイジー・クレイジー~同班同學』チーム
通常、Q&Aが終了すると、外でサイン会が始まるので、私も取り敢えず会場を出ると、
ホールに人垣が出来ている。
何かと思って覗いてみると、この後上映を控えている香港映画、
『レイジー・ヘイジー・クレイジー~同班同學』のメンバーたちが取り囲まれていた。
画像は、プロデューサーの彭浩翔(パン・ホーチョン)と出演の3人娘、
郭奕芯(クォック・イッサム)、廖子(フィッシュ・リウ)、麥芷誼(マック・チーイー)。
彭浩翔、この時のお召し物は、
ミスターハリウッドのジャケット(恐らく、日本のブランドNハリウッドの神宮前にある旗艦店の事だと思う)、
アメリカのスケボーブランドHUF(ハフ)のTシャツ、コム・デ・ギャルソンのジーンズ、
そしてメゾン・マルタン・マルジェラの靴でコーディネート。
彭浩翔は、レッドカーペットでも、コム・デ・ギャルソンの短パンを穿いていたし、
東京国際映画祭に出席する時は、お召し物に日本の物を取り入れるというお気遣いがあるようです。
この『同班同學』、私は結局鑑賞を諦め、
同時刻に東京・中国映画週間で上映の『愛のカケヒキ~撒嬌女人最好命』の方を優先してしまったのだが、
彭浩翔の微博によると、この晩、『同班同學』のQ&Aでは、登壇した廖子ちゃんが、日本語で
「実は私のアイドルは三上博史さんです。彼にもこの映画を観て欲しいな」と御挨拶したそうで。
若いのに趣味が随分渋いですねー。
私からも三上博史に、この映画を是非観るようにお願いしたい気持ちになったわ。
(念の為申し上げておきますと、↑上の画像で、3人娘の間に立っているお姐サマは、私とは一切無関係。)
★ 林書宇監督&石頭サイン会
『同班同學』チームに気を取られている間に、建物の外が慌ただしく。

私も下へついて行き、すでに始まっていたサイン会の列に並んだが、
係員が「もう受け付けは終了しました!これから並んでもサインはしてもらえませんっ!」と無情に宣言し、
私の数人前でブチッと切られてしまった…。
はっ…?!“受け付け”ってナンなのよ…?!希望者を募っていたなんて話、聞いていませんでしたけれど…。
まったく腑に落ちないが、ゴネたところで、何も変わらないと判断したので、
さっさと列を抜け、お二方がサインをしている所を見に行った。
そこもすごい人垣ができており、通りすがりの人から「誰が居るんですか?」と聞かれた女性が
「台湾のMaydayという、すごく有名なバンドのギタリストですっ!
日本でも武道館でコンサートをやるくらい人気なんです!日本の所属はアミューズです!」
と質問者の疑問に充分過ぎるほどの答えを捲し立てておられた。ファン心理ですねぇ~(笑)。
この映画『百日草~百日告別 Zinnia Flower』については、また後日。
東京国際映画祭では、あともう一回、明日28日(水曜)に上映あり。