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映画『レヴェナント 蘇えりし者』

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【2015年/アメリカ/157min.】
1823年、アメリカ北西部で狩猟して毛皮を採取する遠征隊が、
ネイティヴ・アメリカンの一団から激しい奇襲を受ける。
生き残ったメンバーは、船に乗り込み、取り敢えずその場から逃げるが、
その内の一人、ヒュー・グラスが、その船を捨て、歩いて山越えし、基地に向かうことを提案。
グラスは、先住民ポーニー族の女性との間にホークという息子をもち、
彼らの言葉も解するし、土地勘もあるため、部隊のナビゲーター役を担っている男。
しかし、そのグラスが、山中でハイイログマに襲われ、致命的な重傷を負ってしまう。
極寒の山中で、動けないグラスが居ては、他の隊員にも危険が及ぶ。
隊長のヘンリーは、グラスの息子・ホークと共に、隊員のフィッツジェラルドとブリジャーを残し、
残りのメンバーを引き連れ基地に向かうという苦渋の決断を下す。

ヘンリー隊長が出した「グラスの最期を看取り、埋葬すること」という条件をのみ、
3百ドルもの特別手当を受ける約束を取り付けたにも拘らず、
隙を見て、足手まといなグラスに最期のトドメをさそうとするフィッツジェラルド。
ところが、その異変に気付き、父をかばおうとしたホークが、代わりに殺されてしまう。
フィッツジェラルドは、まだ若く純粋なブリジャーを適当な言葉で騙し、彼と共にその場から逃走。
動けず、口もきけず、息子が殺される一部始終をただただ見ているしかなかったグラスは、
内で燃え上がる怒りと復讐心を生命力に変え、
徐々に回復すると、ただ一人でフィッツジェラルドの追跡を始める…。



メキシコのアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督、
『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014年)以来の新作は、
マイケル・パンクの同名小説の映画化で(映画公開ちょっと前に日本語訳版がハヤカワ文庫から発売)、
2016年第88回米アカデミー賞で、監督賞、主演男優賞、撮影賞の3冠に輝いた話題作。

まぁ、私にとって、“アカデミー賞受賞”は特別興味をソソられる売り文句ではないけれど。
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督作品だったら、英語作品より、母国語・スペイン語で撮った
『アモーレス・ペロス』(2000年)や『BIUTIFUL ビューティフル』(2010年)が好きだし。
とにかく、毎度新作はチェックしておきたい監督なので、本作品も鑑賞。




物語は、1823年、罠猟の遠征中、熊に襲われ、重傷を負い、身動き取れなくなっている時、目の前で、
同じ部隊の隊員フィッツジェラルドに息子ホークを殺されたハンターのヒュー・グラスが、
死の淵から這い上がり、極寒の地で、ただ一人フィッツジェラルドを追跡するサヴァイヴァル復讐劇


主人公のヒュー・グラス(1783頃-1833)は、
実在したスコッツ・アイリッシュ系移民の罠猟師で毛皮商の冒険家。
私は知らなかったけれど、アメリカでは結構な有名人で…

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彼の冒険物語は、幾度となく小説となり、語り継がれたり、
その舞台となったサウス・ダコタには、記念碑も建てられているという。

この映画の原案となったマイケル・パンクの小説もまた、ヒュー・グラスの冒険から着想を得て書かれた物語。
あくまでもフィクションだが、かなりの部分で史実と重なるようだ。

基本的には、息子ホークを殺したフィッツジェラルドに対する報復の物語で、
つまりは、白人vs.白人の死闘なのだけれど、
白人(よそ者)vs.先住民の闘いも、現在のアメリカでは考えにくい激しさで、息を呑む。
日本の植民支配に抵抗する台湾原住民・賽克(セデック)族の実話を描いた台湾映画
『セデック・バレ』(2011年)が重なった。



あとは、厳しい環境を生き抜くサヴァイヴァル・ドラマとしての一面。
大怪我を負ったら、その本人が気絶している間に、消毒もせずに、
まるでお裁縫でもするかのように、普通の糸と針で傷口をチクチク縫ったり、
その傷口から血が漏れたら、火薬を塗り込んで、火をつけたり(←これ、どういう効果が?)。
食べ物は、草、動物の骨髄、魚の踊り食い(!)、そして究極のジビエ、血の滴る生肉。
腹を裂いて内臓をゴッソリ取り出した馬を寝袋にして、その体内で暖をとったのにも、驚いた。
このシーンは、私と限らず、海外の人々の脳裏にも焼き付いたようで…

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真似する人まで続出。
この映画を観ると、知らず知らずの内に、様々なサヴァイヴァル術まで学べちゃうわけだが、
呑気に生きている現代人がそれらを実践する機会はそうそう無く、結局、馬の寝袋ごっこを楽しむくらいね。

余談になるが、寝袋になってしまったこのお馬さんは…

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まるでダルメシアンのような白地に黒ブチ柄が珍しい。






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出演は、ナビゲーター兼ハンターとして罠猟隊に参加しているヒュー・グラスにレオナルド・ディカプリオ
グラスとポーニー族の間にできた息子ホークにフォレスト・グッドラック
グラスと同じ隊のメンバーで、ホークを殺すジョン・フィッツジェラルドにトム・ハーディ
フィッツジェラルドの言葉を信じ、グラスを放置してしまう青年ジム・ブリジャーにウィル・ポールター
そして彼らを率いるチームの隊長アンドリュー・ヘンリーにドーナル・グリーソン等々。

本作品は、レオナルド・ディカプリオに、“5度目の正直”で、
ついに悲願のアカデミー主演男優賞をもたらした作品としても話題。
私は、童顔男子が好きではないため、『タイタニック』(1997年)で人気に火がつき、
“レオ様”と騒がれた若い頃のレオナルド・ディカプリオには、まったく興味が無かったし、
このまま年を取ったら、“おじさん子供”みたいな痛い中年になってしまうのではないかと、案じてもいた。
でも、実際には、私の心配をよそに、いい具合に貫禄が出て、素敵な俳優さんに。
アカデミー主演男優賞も、これまで、「なんでレオ様が獲れないの?!」とお怒りのファンも多かっただろうが、
私は今が受賞の正しいタイミングだったように思えてならない。


本作品で演じているヒュー・グラスは、前述のように実在の人物。

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ヒュー・グラス本人の肖像画は、レオナルド・ディカプリオより面長で、もっと北方のヨーロピアンぽい顔立ち。
180年以上前に亡くなっている人で、実際はどうだったかなんて分からないし、
肖像画に似てる/似ていないは気にならない。
レオナルド・ディカプリオは、瀕死状態であるにも拘らず、内から湧き出る怒りをモチヴェーションに命を繫ぎ、
復讐に駆られるグラスを怪演。台詞は少なくとも、発する雰囲気に鬼気迫るもの有り。
あと、この作品を観ると、俳優という商売は、過酷な肉体労働でもあるのだと思い知らされる。
多くのスタッフが居て、ちゃんと準備された中で演じるにしても、相当キツそう…。


まぁ、レオナルド・ディカプリオが光るのも、敵対するフィッツジェラルドに扮するトム・ハーディが居てこそ。
ただ単に凶暴な悪役ではなく、むしろせせこましい男で、言動がいちいちふてぶてしい。
小者感ぷんぷんでありながら、ものすごい存在感。

あと、そのフィッツジェラルドに騙され、
図らずも共犯者になってしまうジム・ブリジャーを演じるウィル・ポールターが、意外と良い。
いまいち洗練されていない“ひと昔前”の青年の顔立ちも、
人の良さや気の弱さが感じられるオドオドした態度も、現実味があり、印象に残る。

息子ホークを演じている俳優は、
本作品がスクリーンデビューとなるまだ十代のネイティヴ・アメリカンの男の子らしいけが、
演技がどーのこーのという以前に、“Goodluck”という姓が気になってしまった。本名?
なんか“ラッキー池田”みたいで、忘れられなくなる。





アカデミー賞3賞受賞の効果か、昼間の上映回は混み混みで、空いているのは朝か夜だけ。
朝っぱらから観るような作品ではないと思ったが、夜が苦手な私は、朝を選択。
多くの国民が自宅のテレビで朝ドラ『とと姉ちゃん』を観始める朝8時に、
まさか“モーニング『レヴェナント』”しちゃうとは(笑)。
まぁ映画館の中はどうせ暗いので、爽やかな朝の雰囲気を断ち切り、すぐに作品の世界に入り込めたけれど。

本作品で取り上げられているテーマには、元々特別興味は無かったし、
実際、観終わっても、「これ大好き!」、「感動で打ち震えた!」とは思わないが、
そんな私でも食い付いてしまう要素が所々に散りばめられており、2時間40分という長さも気にせず、鑑賞。
主人公グラスの心理状態や、復讐の顛末も勿論気になるけれど、それ以上に観入ったのは映像かも。
これ、どうやって撮影したの?!と目を見張る驚愕映像が多数。中でも一番驚かされたのは…

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主人公グラスが熊に襲われるシーン。
まさかレオナルド・ディカプリオが、あんなに大きなホンモノの熊に、
本当にブンブン振り回されちゃったワケないだろうし、熊さんが演技指導通りに手加減して演じるワケもない。

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結局のところ、グレン・エニスというスタントマンが、ブルーのコスチュームを着て
レオナルド・ディカプリオに襲い掛かっているところを撮影し、あとで映像処理しているのだが、
スクリーンの中で見る限り、やけにリアル。
ブルーのアメフト選手みたいのが、あの熊になるなんて信じられない…!最近のVFXは凄い。

エグいシーンが結構有るので、「こういうの苦手…」という人も多いかも知れないけれど、
映像は一見の価値あり。映画館の大きなスクリーンで観ておいて良かった。

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