現在紀尾井町で開催中の<空へ、海へ、彼方へ~旅するルイ・ヴィトン展>へ。
ルイ・ヴィトンでちょっとお買い物した時に、この展覧会の事をお店の人から聞いたのだが、
どうせブランドの販売促進的なものだろうと想像し、その時はあまり行く気が起きなかった。
その後、実際にこの展覧会が始まり、早々に行った母から「なかなか面白かった」と詳細を聞かされ、
俄然興味が湧いた。
事前に時間予約した方が入場がスムーズになるとオンライン予約を推奨しているので、
私もそのつもりでいたのだけれど、結局予約せず、他の用のついでに急遽立ち寄ってしまった。
でも、並んで待たされるようなことはなく、充分スムーズに入場できた。
★ 概要
2015年12月から2016年2月にかけ、
パリのグラン・パ・レを会場に行われた展覧会が東京に。

展示品は創業者一族のアーカイブからが中心で、10章のテーマで構成され、
1854年から現在までのルイ・ヴィトン社の軌跡を辿れるようになっている。
それら10章とは…
1906年のトランク~革新的なデザイン
木材~自由へのパスポート:ルイ・ヴィトンの原点
クラシックなトランク~洗練されたキャンバス、シェイプ、ロック
旅の創造
余暇の時間~ルイ・ヴィトンの書の美学
絵画用トランク~アートとの対話
一風変わった興味深いトランク~ガストン・ルイ・ヴィトンによるアンティーク・コレクション
ファッションとビューティー
ミュージックルーム~夢の形にするスペシャルオーダー
インスピレーションの国、日本
この内、第10章の“インスピレーションの国、日本”は、
今回の日本での展覧会のために特別に加えられたもの。
キュレーターを務めたのは、ガリエラ宮パリ市立モード美術館の館長、オリヴィエ・サイヤールで、
空間デザインは、オペラやミュージカルの演出で知られるカナダ出身のロバート・カーセンが担当。
オリヴィエ・サイヤールが監修している事も関係しているのか、
本展覧会でルイ・ヴィトンの品と合わせて展示されている服や小物も、時代を偲ばせる貴重な品々。
主役のルイ・ヴィトン製に限らず、脇役たちからもホンモノのモード史に触れられるというわけ。
そして、この展覧会、なんと誰でも
入場無料で楽しめます。
撮影も自由。


★ 会場

近辺に駅が多いので、案外便利。
赤坂見附駅10番出口と松屋銀座前から
無料のシャトルバスも出ているけれど、
私は徒歩で。


この辺りは、静かな並木道なので、お天気の良い日は、ちょっとしたお散歩が気持ちよい。
駅から歩くこと10分もしない内に、仮設の会場が目に飛び込んでくる。
この場所に仮設の会場を作ったのは、たまたまここに空き地が有ったからだと思っていたら、
実は紀尾井町は、1978年に日本初のルイ・ヴィトン ストアができた所縁の場所なのだと。
こんな都心の一等地に、随分都合よく空き地が有ったものだ。
以前、ここに何が建っていましたっけ?思い出せない…。
会場の前に停車している黄色い車が目を引く。
その昔、フランスのアニエール=シュル=セールで制作されたルイ・ヴィトンのトランクを
注文したお客さんの元に届けるのに使われていたシトロエンのルイ・ヴィトン配送車をイメージした車。
トップに沢山積まれているラゲージは、雨の日はどうなっているのだろう。
★ エントランス
入り口をくぐり、まず迎えてくれるのは、これぞルイ・ヴィトン!と思わせてくれるクラシックなトランクと
創業者ルイ・ヴィトン(1821-1892)若かりし日の肖像画。
トランクは1906年に作られた物。肖像画は古い物ではない。
上海出身、フランス在住の著名な現代画家・嚴培明(イェン・ペイミン※)の手によるもの。
(※日本では、“嚴 Yan”を日本語のローマ字風に読み、“ヤン・ペイミン”と誤表記されることが多い。)
以下、鑑賞の順路を無視し、印象的な展示品を簡単にピックアップ。
★ トランク
なめし皮、キャンバス地、そして今でも人気のダミエ、モノグラムと様々な素材で覆われたトランクは、
シャツ、スーツ、帽子、靴と中に入れる物によって形や大きさも多種多様。
なめし皮製はかなり古い物なのかと思いきや、1903年製で、
ダミエの女性用帽子入れが1895年製と、より古い。
ダミエは、コピー防止のために、1888年に考案されたとのこと。
当時のデザインが、120年以上経った現在、未だ色褪せず、人々を魅了しているとはねぇ。
展示品は必ずしも古い物ばかりではない。例えば、(↓)こんな新しいトランクも展示。
広告写真でしか見たことが無かった物を、今回初めて間近で見た。
2014年、アメリカのフォトグラファー、シンディ・シャーマンとのコラボで生まれたデスク・トランク。
落ち着いた茶系の外観と、中のカラフルな引き出しのコントラストが目を引く。
★ 変わりトランク
トランクはなにも洋服や靴を収納する物ばかりではない。
こちら、ピクニックセットとティーセット。
野外でのランチさえ優雅。
1926年製のティーセットは、バロダのマハラジャ、
サヤジラオ・ガーイクワール3世所有の物とのこと。

続いて“移動書斎”。
書籍は勿論のこと、タイプライターまで収納。

このタイプライターを収納できるライブラリー・トランクは、
創業者の孫で、執筆や読書を愛したガストン・ルイヴィトン(1883-1970)が自身のためにデザインした物。
別荘で過ごす時などに重宝したのでしょうか。
♂男性向けの物も色々。左は、なんとも贅沢な工具入れ。
右は、1931年製、男性用化粧道具ケース。表面がアザラシの皮で、内側はパイソン。
画像左、キラキラ輝く3ツの内、奥の一番大きなトランクは、銅製。
ルイ・ヴィトンのトランクは、ただでさえ重いのに、銅製って、どうなのだろう…?!丈夫そうではある。
画像右は、中に折り畳みベッド(…!)が収納されているトランク。
★ 旅のスタイル
私も旅行用のラゲージは全てルイ・ヴィトンで揃え、それ以外では買わないと長年決めているが、
クラッシックなトランクは、どんなに素敵でも、カサ張り過ぎるし、重過ぎて、さすがに今の時代には不便。
時代に合わせた進化は必要不可欠。(…でも、私がもし19世紀末生まれだったら、
ルイ・ヴィトンのあのクラシックなトランクを、2個も3個も絶対に買っていたハズ。)
この展覧会では、人々の移動手段が、
船、
車、
列車、
飛行機と変わる中で、




ルイ・ヴィトンのバッグも、その旅のスタイルや需要に応え、進化していく様が分かる。
例えば、左の画像のスティーマー・バッグは、豪華客船での旅が流行した時代に生まれた物。
船旅の時、折りたたんで収納でき、着用済みの衣類を入れられる利便性が受けたという。
つまりは、高価なランドリーバッグ。
右の画像の黄色い物は1924年製。
ちょうどシトロエンが自社のハーフトラックによる探検旅行を実施していた頃。
これも、サハラ砂漠・アフリカ奥地縦断行“黒い巡洋艦隊”のためにカスタムメイドされた物でなの、
車の内部の形に合わせ、すっぽり収まるよう、一部が欠けた変わった形になっている。
★ アートとルイ・ヴィトン
ルイ・ヴィトンと
アートの融合。

左は、イギリスの現代芸術家ダミアン・ハーストとの2009年のコラボ。
国際赤十字150周年記念プロジェクトのために、ダミアン・ハーストがデザインしたメディカル・キャビネット。
(撮影ブレブレに失敗してしまったため、広告写真を借用。)
右は、村上隆がモノグラムをモチーフに描いた2003年の<EYE LOVE SUPERFLAT>と、
それをそのままキャンバスにプリントしたモノグラム・マルチカラーのスピーディー。
日本からは他にも、草間彌生や川久保玲とコラボしたバッグが展示されている。
★ 映画とルイ・ヴィトン
ルイ・ヴィトンのラゲージは、
映画の中でもよく見掛けるし、愛用する女優さんも多い。

映画だと、1900~40年代を舞台にした作品で、
当時の上流階級の人々を表現する小道具に使われるケースが特に記憶に残るが、
現代モノで、ルイ・ヴィトンをお洒落に印象的に使っている作品と言えば、
ウェス・アンダーソン監督作品『ダージリン急行』(2007年)が忘れ難い。
今回、その映画のために制作されたラゲージの一部が展示されている。
女優さんの所有物では、上から順に、キャサリーン・ヘップバーンのワードローブ・トランク、
グレタ・ガルボのシューズ・トランク(
中の靴は全てフェラガモで、同じくグレタ・ガルボのコレクション)、

そしてエリザベス・テイラーのスーツケース、バニティケース、バッグ。
★ 日本
今回、日本のために新たに設けたという
日本をテーマにした展示が、殊の外面白い。

日本の家紋からインスピレーションを得てモノグラムが生まれたと言い伝えられているように、
一族がコレクションしていた日本の品々も展示。
画像中央に置かれているのは、黒漆塗りに平蒔絵を施した江戸時代の木箱。
形も、ルイ・ヴィトンのトランクに通じるものがあるかも。
その昔、香港でルイ・ヴィトンの
麻雀牌ケースを見て、お国柄を感じたが、

日本にも、日本ならではオーダーをする人がいるのですね~。
一つは、ダミエの
茶道具入れ。野点の時などに使うポータブル茶道具セットなのだろうか。

茶道に必要な道具は、恐らく炉以外全て、それぞれぴったりサイズで収納されている。
林博樹氏という方の所有らしい。どなたでしょう。茶人というより、個人の趣味でお茶をたしなむ男性だろうか。
もう一つは、鏡台トランク。
<歌舞伎役者のための鏡台トランク>と題され、所有者の名前は伏せられているが、市川海老蔵の物で、
ちゃんとエビ様の“寿海老(ことぶきえび)”の紋も入っている。
エビ様も自身のブログで、「今ルイヴィトンさんで、私の鏡台が展示されているそうです。
以前ルイヴィトンさんが作ってくださり、プレゼントしてもらいました!」と書いている。
えっ、プレゼントなの…?タダ…???
もっと歴史的なお品だったら、こちら。
モノグラムのビステンとスティーマーバッグは白洲次郎(1902-1985)の所有物。
白洲次郎の旅行鞄がルイ・ヴィトンだったことは、あまりにも有名だが、
意外なのは、もう一つ、レイエ・キャンバスのトランクの方。
所有者は、あの板垣退助(1837-1919)。
“自由民権運動の庶民派”のイメージが強い板垣退助がルイ・ヴィトン…???
昨今、政治資金問題が話題なだけに、「板垣退助は生まれた時代が良かった」と思いましたわ。
もし現代の政治家で、こんな高級トランクを持っている事がバレたら、世間から即吊るし上げ。![]()

昔と現代だったら、私は基本的には現代の方が幸せな時代だと思っているけれど、
ある部分では、昔には有った夢や自由が、現代失われてしまっていると、
こういう品々を見ながら感じるのであった。
(別に某知事を擁護しているのではない。あれは随分セセコマしい男とむしろ軽蔑。)
この日本のコーナーは、主役の展示品が、日本人にとって興味深い品であるのは勿論のこと、
それら主役を見せるための仕掛けにも抜かりが無く…
畳縁がモノグラム…!一体どこの畳屋さんに発注したのでしょう…?これ、欲しがる人、結構居そう。
★ その他
ルイ・ヴィトンのラゲージのみならず、それらが生まれた背景に触れられる様々な資料も展示。
画像は、制作に必要な木工用具、1872年のお店の売り上げ台帳、
そして下段は、顧客記録の中から、クリスチャン・ディオールとジヴァンシーのスペシャルオーダーの詳細。
最後は、実演コーナー。
会場に備え付けられたモニターには、職人の手元を大きく映し出している。
あと、出入り口附近には、
カフェと
ブックストアを併設。


「なかなか面白かった」と聞いてはいても、所詮仮設会場での実施だし、
実際、現地で目にしたその会場が、“やっぱり仮設”って感じのシンプルでこじんまりした外観だったため、
過度な期待を抱かず入場。
ところが、内部は、外観からは想像できなかった広さで、空間演出も仮設とは侮れない立派さ。
肝心な展示物は充実しており、見せ方も上手い。
ルイ・ヴィトンの歴史を辿ることで、モード史や人々が歩んできた歴史にまで触れられる。
お金を払ってでも観に行きたいこのレベルの展覧会が無料とは、太っ腹!
「どうせブランドの販売促進的なものだどうと想像し、興味が湧かなかった」と前述したが、
これ程のものをタダで見せるのは、やはりブランドのプロモーショであり、
その裏には、“消費者の目を育てる”という目的があっての事であろう。
ファストファッションが市場を席巻しているのは、なにも日本に限ったことではなく、全世界的な傾向。
そのようなファストファッションとハイブランドの品には明らかな違いが有るが、
一般消費者がその違いを理解していない(もしくは、理解していても興味を示さない)のが現実。
自社の、ひいてはヨーロッパのこのような文化を存続させるには、長い時間をかけてでも、
“良い物は良い”、“そういう物をいつか自分も持ちたい”と消費者に思わせるような教育が必要と感じ、
わざわざこのような立派な展覧会を無料で公開しているのだと想像する。
実際、この展覧会を観ると、ルイ・ヴィトン製品の素晴らしさを、イヤでも感じる。
日本だと、ヨーロッパの一流品を身に着けている人を、“ブランド好き”などと言って見下す傾向があるが、
それは、特にバブル期に、それまでブランド品とは無縁だった庶民が、
質の良し悪しも分からぬまま飛びついた過去があったり、
“シャネルと言えば泉ピン子とハイヒールモモコ”、“ルイヴィトンと言えばプロ野球選手”といった
悪趣味な成金のイメージが染み付いているのも一因なのでは。
でもね、ホンモノに触れれば、その内の何人かは、“良い物は良い”と感じると思う。
せっかくの無料公開、興味のある方は紀尾井町へ。
◆◇◆ 空へ、海へ、彼方へ~旅するルイ・ヴィトン展 Volez, Voguez, Voyagez – Louis Vuitton ◆◇◆
紀尾井町特設会場:東京都 千代田区 麹町 5丁目



