武帝・劉徹が第7代皇帝につく紀元前2世紀、前漢の中国。朝廷の奸臣の悪行が横行し、民の生活は困窮。さらに水害が国を襲い、家族と離ればなれになってしまった幼い女の子・衛子夫は、偶然出会った気を失いかけている男性・易寒に、持っていたなけなしの食べ物を分け与え、彼から代わりに「不爭、不露、不顯(争わず、目立たず、ひけらかさず)」という言葉をもらう。やがて美しい女性に成長した衛子夫は、仲の良い異父弟・衛青と共に、時の皇帝・劉徹の姉である平陽公主の屋敷・平陽府の使用人となり、そこで偶然にも、幼い頃出会った易寒と再会。易寒は、平陽府で厨房を任されていたのだ。ある日、この平陽府で、皇帝・劉徹を迎え、酒宴が催される。宴の席で、急遽舞いを披露することになった衛子夫は、その清らかな美しさで一瞬にして劉徹の心を奪い、寵愛を受け、平陽公主の後押しと易寒の機転もあり、宮廷にあがることに。しかし、劉徹の皇后である陳嬌らからの猛反発に遭い、冊封は見送られ、下級の宮女として、後宮に残ることを許されるが…。
2015年2月、
チャンネル銀河で放送された中香合作ドラマ『賢后 衛子夫~衛子夫/大漢賢后衛子夫』。

何話か観たものの、途中で録画をしくじり、視聴の継続断念。
話の続きが気になっていたら、数ヶ月後の5月に同局で再放送。
今度こそ頑張る!と、月曜から金曜まで平日毎日一話ずつの進行をコツコツと追うことに。
そして、7月下旬、ついに全47話を放送を終了。
★ 概要
本作品は、大陸の華策影視と、香港のnow頻電視が組んだ中香合作ドラマ。


出演者も、大陸と香港(あとちょっと台湾)から程よくキャスティング。
このドラマ、そもそもは47話完結として制作された物だが、あちらでは、38話版と47話版が存在。
と言うのも、中国の建国記念日にあたる国慶節を前に、
大陸のラジオ、テレビ、映画といったメディアを管理する國家廣播電影電視總局、通称“廣電總局”が、
2014年9月3日から10月末までの間、ゴールデンタイムに、
愛国主義と反ファシズムをテーマにしたドラマを放送するようにと、テレビ各局にお達し。
そこで、8月20日から毎日3話ずつ放送の本ドラマを、期限ギリギリの9月2日までに終了させるため、
微調整を重ね、38話版を制作したのだとか。“苦肉の策の38話版”ってこと。
相変わらず日本人の感覚では分かりにくい面倒が色々有る不思議国家でございます。
ま、とにかく、大陸でも、その後、11月に入ってから、47話の完全版が放送されている。
日本に入ってきている物も、もちろん47話の完全版。
★ 物語
時代は紀元前2世紀、前漢の中国。
物語は、貧しく辛い幼少期を送った少女・衛子夫が、美しく控え目な女性に成長し、
弟・衛青と共に、平陽公主の屋敷の使用人になったことで、
平陽公主の弟である時の皇帝、武帝・劉徹に見初められ、宮廷にあがり、様々な困難に直面しながらも、
劉徹と国の発展を一番に思い、その聡明さと誠実さで、劉徹の寵愛と信頼を得、
賢后として中国史上に名を残すまでを描いた♀女の一代記。
簡単に言ってしまうと、平民から皇后にまでのし上がった衛子夫という女性のサクセス・ストーリー。
運命的に出逢った夫・武帝と深い絆で結ばれ、共に国を盛り上げた
メオト愛の物語でもある。

武則天、楊貴妃、西太后等々、中国史に名を残した女性は数多く居れど、
衛子夫(紀元前2世紀-紀元前91年)はここ日本では馴染みが薄い。…が、ちゃんと実在の人物。
私がドラマで衛子夫を見るのは初めてだと思っていたけれど、
すっかり忘れていただけで、『美人心計 一人の妃と二人の皇帝~美人心計』の後半に…
ちょこっとだけ登場。『美人心計』で張檬(チャン・モン)が扮していた女性が衛子夫。
このドラマ『衛子夫』では、その主人公・衛子夫は勿論のこと、登場人物の多くは実在した人物。
私がこれまでほとんど無関心だった前漢の武帝年間や、衛子夫という人物を学べる史劇としても面白い。
もちろん全てが史実ではなく、このドラマなりの解釈で演出されており、
特にラストは美しい良い話にまとめられている。
実際には、晩年、老害ふりまく暴走老人と化した武帝から厚い信頼を寄せられ、
水衡都尉にまで出世した江充(?-紀元前91年)が、敵対する太子・劉拠が次期皇帝に即位することを恐れ、
その周囲の者たちに巫蠱(ふこ=人を呪う術)の嫌疑をでっち上げ、
次々と抹殺するという事件“巫蠱之禍/巫蠱之獄(巫蠱の乱/巫蠱の獄)”が起き、
巻き込まれた衛子夫もまた皇后を廃され、自害を強いられ、命を落としているけれど、
ドラマでは、武帝は、爰樞という怪しい男の話を一時は鵜呑みにして、衛子夫を殺そうとまで考えるが、
「夫・武帝が後々“冤罪で賢后を殺した暗君”と汚名を着せられるくらいなら、自ら命を絶つ!」と
自己を犠牲にしてまで夫を想う衛子夫の深い愛に心を打たれ、
メオトは改めて絆を取り戻しラヴラヴという、悲惨な史実とは異なるハッピーエンディングになっている。
史実で、武帝からの寵愛も失せ、皇后を廃され、自害までさせられたお気の毒様な衛子夫の扱いが
その後どうなったかと言うと、曾孫の劉詢が漢の第9代皇帝・宣帝に即位すると、
皇后の位が回復され、“思皇后”という諡號(おくりな)を贈られている。
そんな訳で、晩年は決して幸せだったとは言い難い衛子夫だけれど、
武帝の皇后として在位した38年は、中国史上2番目に長い皇后の在位期間で
(トップは、明朝第14代皇帝・萬曆帝の皇后、孝端顯皇后の42年)、諡號をもった最初の皇后でもあるそうだ。
ドラマでは、そもそもがハッピーエンディングなので、そこの辺の史実は説明されていない。
★ キャスト その①:愛と信頼で結ばれ漢に繁栄をもたらす運命のメオト

2007年のヒットドラマ『奮鬥~Struggle』で人気急上昇した頃から気になっていた王珞丹。
舒淇(スー・チー)や周迅(ジョウ・シュン)のように目と目の間が離れていて、
下手すればブス枠に組み込まれそう顔なのだが、それが逆に個性的でスタイリッシュ。
同じ年の女優・白百何(バイ・バイホー)にも似たサッパリ系美人。
私は、『衛子夫』を途中で休み、取り敢えず映画『いつか、また』(2014年)で王珞丹を見たけれど、
たっぷり彼女を堪能するなら、やはりこちらのドラマ。
キャリア十年目にして初めて挑戦する史劇で彼女が演じる衛子夫には、
目頭切開でパッチリお目々にした昨今の安っぽいアイドル女優には真似できない
上品で洗練されされた古典的な美しさがある。
本ドラマでのスタイリングは大きく別け2種類。
髪型も、Before皇后とAftere皇后(皇后になる前と皇后に冊封された後)で変わる。
どちらもお似合い。特に皇后になる前の、耳をすっぽり覆い隠した髪型は、清楚さが際立つ。
衛子夫は性格も見た目通りで、極めて清らか。私利私欲が無く、常に世のため人のため。
豊かな暮らしや地位を手にしても、貧しかった頃の気持ちを忘れぬよう、
子供の頃に教わった「不爭、不露、不顯(争わず、目立たず、ひけらかさず)」という言葉を生涯戒めに。
皇后にまで上り詰めると、さすがに優しさだけではやっていけず、それなりの貫録も。
罪人に対し、自ら初めて死刑を言い渡すシーンは、皇后としてひと皮剥けた“NEW衛子夫”誕生の瞬間。
とにかく、この『衛子夫』で、私はすっかり王珞丹ファンになってしまいましたー!
『衛子夫』の後は、映画出演もドッと増え、
彭順(オキサイド・パン)監督の『宅女偵探桂香Detective Gui』では周渝民(ヴィック・チョウ)、
林超賢(ダンテ・ラム)監督の『破風~To The Fore』では彭于晏(エディ・ポン)といった具合に
香港のメジャーな監督の作品でメジャーな男優とも共演しているし、
私が大好きな張震(チャン・チェン)との共演作『悠長駕期~Drive Me Crazy』も控えている。
映画ファンにも要注目の女優さん。

私は香港ドラマをまったく観ないので、香港ドラマ出演の多い林峯は、
歌手としての活動をたまに芸能ニュースで目にするくらいで、これまで演じているところは
映画『楊家将~烈士七人兄弟の伝説』で楊延/楊五郎に扮しているのをチラッと見たことがあるくらい。
ジックリ見たのは今回が初めてなのだけれど、林峯扮する夫の武帝・劉徹は
美しい妻・衛子夫と釣り合いのとれたなかなかの二枚目である。
…が、普段の私なら、こんな二枚目に瞬時にホレてしまうところなのに、今回は簡単にオチなかった。
と言うのも、私は、林峯扮する劉徹からそこはかとなく漂う皇帝らしからぬ
(もっと言ってしまうと…)中条きよしにも近い“ホスト臭”のような“Vシネ臭”のようなお水っぽいニオイを
敏感に嗅ぎ取ってしまったのであります…。![]()

この役、もし陳曉東(ダニエル・チャン)が演じていたら、私も即メロメロになっていたに違いない。
しかしそうすると『蘭陵王』の宇文邕(奇しくもあちらも“武帝”、ただし北周の)とキャラが被るので
やはり林峯が演じることで、新鮮味があり、結果的に良かったのかも知れない。
余談になるが、近頃私は、前漢の武帝・劉徹のお誕生日が7月14日で、
方大同(カリル・フォン)と同じであると知った。もっとも武帝・劉徹の方が2140歳も年上(!)だけれど…。
★ キャスト その②:身内だからこそ恐ろしい最強お姑サマ・小姑サマ軍団…!

台湾のベテラン女優・陳莎莉。
混血っぽい顔立ちは、『僕たちのプリンセス~全民公主』にも出ている同世代の台湾女優、
夏台鳳(シア・タイフォン)にとてもよく似た雰囲気。現代の感覚からすると、かなり暑苦しく、
キョーレツな印象を残す顔だが、あの時代は、こういう感じが美人女優だったのであろう。
扮する太皇太后は、漢の武帝・劉徹の祖母。目が不自由で、魔女のような大きな杖をついている。
うん?あらら、こういう人、他にどこかで見た覚えが…
そう、『美人心計 一人の妃と二人の皇帝~美人心計』で林心如(ルビー・リン)が演じている
前漢第5代皇帝、文帝・劉恆の皇后になる竇漪房。そう言えば、『美人心計』も前漢の物語。
失明している太皇太后と大きな杖を見て、あのドラマの後半が、この『衛子夫』に繋がっていくのだと、
ようやく時代背景が掴めた。

柳影虹は香港の女優さん。扮する館陶公主は漢文帝・劉恆と太皇太后の間に生まれた娘で、劉徹の叔母。
甥っ子・劉徹の皇帝即位を後押しし、自分の娘・陳嬌も、劉徹に嫁がせ、皇后にする。
一度見たら忘れられないキョーレツな顔は、母の太皇太后にも負けず劣らず。
メイクの影響も大いに有るが、京唄子や小林幸子と同種のオーラを発する館陶公主。

鄭媛元は、この『衛子夫』で一躍注目を集めた大陸女優。
演じているのは、太皇太后に可愛がられている外孫で、子供の頃から一緒に育ち、
ずっと好きだった従兄の劉徹に嫁ぎ、皇后となる陳嬌。しかし、当の劉徹からは、政略結婚としか見做されず、
子にも恵まれず、ただでさえ不安なところに、衛子夫が出現したため、衛子夫を逆恨みし、彼女を潰すために、
母の館陶公主とタッグを組んで、ありとあらゆる悪事を重ねる。優しく甘い顔に似合わず、かなりの悪役。
しかし、なかなかの美人さんにも拘わらず、何をやっても、何を言っても、演歌っぽい湿っぽさを感じるのは
なぜだろうと不思議に思いながら見ていて、ある時、ふと気が付いた。
あまり共感されないかも知れないけれど、
目と目の間の幅が狭く、中央に全てのパーツがギュッと集まった泣き顔の彼女もまた小林幸子系。
当初、陳嬌の甘い顔は館陶公主にまったく似ておらず、母娘に見えない!と思っていたが
実は二人は小林幸子で繋がっていたのだ。これに気付いてからは、案外上手いキャスティングと感心。

息子・劉徹が皇帝に即位し、自分も皇太后になったのだから、大威張りできそうなものだが、
威圧感ハンパ無いお姑サマと小姑サマがバリバリに健在なため、いつも気を遣い、小さくなっているお嫁さん。
大陸時代劇史上、最も控え目でおとなしい皇太后かも知れない。
…が、お姑サマ崩御で、形勢急変。それまで溜め込んでいたストレスが爆発したのか、
自身がお姑サマや小姑サマにされた仕打ち以上の暴言暴挙で、理不尽な嫁イビリを開始。
標的にされた衛子夫はたまったものではない。ワケの分からない因縁をつけられ、どんなにイビリ倒されても、
お姑サマを敬い、耐え続けなければならないから、中国のお嫁さんは大変…。

冷静で聡明な平陽公主は、自分の屋敷で使用人をしていた衛子夫の優れた人間性を見抜き、
弟・劉徹に嫁がせようと尽力。その後も衛子夫が苦境に立たされる度に、彼女に助け舟を出す。
嫉妬や陰謀渦巻く女の戦場において、理性で事を対処できる唯一のマトモな存在。
…だったハズなのに、愛する衛青との結婚が叶わなかったことで、その理性を失い、
衛青の姉・衛子夫への態度を一変させ、逆恨みの猛攻撃を開始。でもそんな攻撃も比較的短期間に収まる。
やはり元々はマトモな人だから、一時の気の迷いだったのね、…と私をホッとさせておき、
終盤もう一波乱起こすも、ついに衛青のお嫁さんになる夢を叶え、またもや真人間に。
結局のところ、オトコとの関係が上手くいっているかどうかが露骨に表面に現れる案外平凡な女であった。
★ キャスト その③:衛子夫を守るナイトたち

このドラマ、衛子夫を守る忠実なナイトたちも、結構な二枚目揃い。
まず沈泰。『宮廷の泪 山河の恋~山河戀·美人無淚』に皇太極(ホンタイジ)の側近・鳌拜(オボイ)役で
チラッと出ていたあの男優。沈泰自身、満族らしい。演技を学んだ北京電影學院では、
『宮廷の諍い女~後宮甄嬛傳』の果郡王、李東學(リー・トンシュエ)と同級生。
本ドラマでは、皇后の姉・衛子夫と共に、将軍として皇帝を支える衛青を演じ、出演シーンも激増。
この衛青は、姉と同じように、ひた向きで清廉潔白なお人柄に加え、よく見るとなかなかの美男子で、
角度によっては、『宮廷女官 若曦(ジャクギ)~步步驚心』の⑬様・袁弘(ユアン・ホン)を彷彿。
そんな素敵な沈泰であるが、この『衛子夫』出演の後、
夜のカフェで有名プロデューサー于正(ユー・ジョン)をブン殴り、3日間拘留。
一説には、『大漢情緣之雲中歌』で約束されていた主役の座をいきなり降ろされ、
陸毅(ルー・イー)に取って代わられたことに激昂してしまったのだとか。
結構な逸材の割りに、近年出演作が少なめなのは、
大物プロデューサーを敵に回してしまった事が影響しているのだろうか…?
沈泰クンよ、どんなに頭に来ても、少しは計算することも覚えましょう!

沈泰以上の美男がこちら徐正曦。
上海出身、2005年<MEN7S UNO>のモデルコンテストで、両岸三地の頂点に立ち、
香港の事務所と契約し、香港で芸能のキャリアをスタート。
私が初めて演じている彼を見たのは、このドラマより少々前、
彭順(オキサイド・パン)監督×郭富城(アーロン・クォック)主演作『冷血のレクイエム【極限探偵+B】』の
修理工役であった。あちらでは確か“ジェレミー・シュウ”の名で紹介されているけれど、同一人物。
(だから名前くらい漢字で表記しろ!と常々言っているのです。)
本ドラマで扮する段宏は、架空の人物。
国と皇帝に忠誠を誓い、衛青と共に前漢の発展に大いに貢献する重臣。
子供の頃からずっと片想いしていた衛子夫が、皇帝に嫁ぎ、少なからずショックを受けるが、
それでも生涯一途に彼女への報われない愛を密かに貫き通し、窮地から何度も彼女を救う。
蘭陵王の妃となり、主従関係になってもずっと雪舞を守ろうとする『蘭陵王』の韓曉冬に近いキャラかも。
但し、段宏は韓曉冬よりずっとハンサムで、地位も高い。良き友人と割り切り雪舞に尽くす韓曉冬と違い、
いつまでも未練がましく“LOVE衛子夫”なのは、一途な愛の度が過ぎ、禍を招き、迷惑千万であった。
私生活では、このドラマを機に、平陽公主役の年上女優・周麗淇と恋仲に(最近別れたという噂も)。
平陽公主のお相手は、衛青ではなく段宏だったのですね~。

易寒は、幼い衛子夫に食べ物を恵んでもらった代わりに「不爭、不露、不顯」という言葉を授け、
衛子夫の運命を切り開き、彼女が後宮に入ってからもずっと支え続ける人物。
上記の二人に比べると、ルックスでは劣るが、易寒も衛子夫を守るナイトで、とても良い人。
料理番にしては博学なのは、人には言えない“過去”があるから。
演じている彭皓峰は、香港の俳優で、香港ドラマを中心に活躍しているため、私は知らなかった。
英語名を“Peter Pang(ピーター・パン)”にしているのは、随分狙っちゃった感が…。![]()

ドラマ『王子様の条件~拜金女王』で那維勳(ナー・ウェイシュン)が扮するオネェなマネージャー、
“潘彼得(パン・ピーター)”を思い出した。
★ キャスト その④:悪党

韓嫣は、ドラマ前半部一番の悪役。
武帝・劉徹と子供時代一緒に机を並べた仲であることから、何をやっても許されると過信し、
民を苦しめた上、館陶公主&陳嬌母娘と結託し、悪事を働く。
ゴム製人形のような顔立ちで、ふてぶてしくもナヨッとした物言い。
後々登場する悪役たちと比べると、大した策も無く、ただ単に図に乗っているだけにも思えるので、
“奸臣”と言うより、“性悪のオカマ”といった印象。

かつて欽ちゃんファミリーの一員として一時話題になった斎藤清六を油ギラせた雰囲気で、
コナカや青木のヨレた背広を着て町役場の出納係りでもやっていそうな、ごくごくフツーのオジちゃん顔なのに、
このドラマで演じている爰樞は、皇帝と衛子夫に強い恨みを抱く怪しい祈祷師というミスマッチ。
架空の人物であるが、前述の武帝に信頼され“巫蠱の獄”で暗躍した実在の人物、
江充(?-紀元前91年)をモデルにしているのではないかと推測。
ドラマの爰樞は、本ドラマ一の黒幕で、本人は表には出ず、人に策を授け、
間接的にじわじわと漢室崩壊を目論むけれど、
武帝が聡明で、爰樞が仕込んだ捏造や虚言になかなか引っ掛かってくれない。
そんな武帝も最後には遂に罠にハマりそうになるが、最後の最後で真実が暴かれ、
爰樞が斬られるのは、実際の江充と同じ末路。

爰樞は見た目があんなにフツーのオジちゃんなのに、女性の好みが相当特殊なゲテモノ趣味。
この魔界系美女・楚服に本気でゾッコンとは、
ああ見えて、実はそこらの平凡な男たちとは異なる感性の持ち主で、タダ者ではないと思わせる。
楚服は、見ようによっては、香港の故・梅艷芳(アニタ・ムイ)にも似ているが、化粧が濃過ぎて摩訶不思議。
真面目に歴史を描いた時代劇には通常登場しないタイプで、アニメにでも出てきそうなキャラクター。
一見して怪しいのに、館陶公主&陳嬌母娘はこの楚服に簡単に傾倒し、衛子夫潰しの共同戦線を張る。

楚服亡き後登場するのがもう一人の弟子、慕容鳳。
こちらは男性だが、楚服と同じように常にばっちりメイクを施し、ヴィジュアル系バンドのメンバーのよう。
爰樞自身はフツーのオジちゃんなのに、弟子はナゼ二人とも厚化粧の魔界系なのだか…。
姉弟子・楚服に比べると、やや存在感の薄い慕容鳳だが、調香の技術は一流。
慕容鳳が調合した“天香丸”とやらを、爰樞が宮廷に送り込んだ李夫人に服用させたところ、
武帝・劉徹はその香りに誘われ、李夫人に入れ込んでしまう。
皇帝をもメロメロにする香りを調合できるパフューマーなんて、
現代に生きていたら、おフランスの一流香水メーカーから引く手あまたじゃない…?
★ テーマ曲

陳國樑(ジャッキー・チャン)が担当。
オープニング曲の<江山背後>もエンディング曲の<守衛>も、
歌っているのは“武帝”林峯(レイモンド・ラム)。
ここには<守衛>を。あまり時代劇らしい曲ではないかも。
これ、インストゥルメンタルでも何パターンか有って、劇中よく流れるので、なんとなく耳にしていたら、
いつの間にか、綺麗なメロディだなぁと自然に思うようになっていた。
結局のところ、常日頃から人に優しく、誠実に生きていれば、窮地に陥った時に、皆が味方してくれる、
“情けは人のためならず”ですヨ、と教え諭すドラマであった。
しかし、誠実に生きていても、絶対権力をもったボケた老皇帝の前では、真も虚となり、
冤罪で無残に殺されるしかないというドロドロの史実を知ってしまうと、
あのラストのまとめ方は綺麗過ぎるようにも感じるが、それでも最後の一話まで毎回ハラハラどきどきの連続。
ラストの描き方のみならず、主人公のキャラクター設定も、ここまで控え目で利他的な人格者だと、
逆にイラッとしてしまう人が居るかも知れない。
でも、私は、例え理想でしかなくても、“良い人は報われる”、“善行は認められる”、
“正義は勝つ”という正統派の勧善懲悪に、案外ホッとさせられた。
皇帝や衛子夫を貶めようとする出来事が次から次へと起きるが、いつも最終的に悪事が暴かれるのは、
『半沢直樹』のスタイルにも似ており、スカッとさせられる。
それに、主人公の衛子夫が現実では有り得ないほど理想的な人物である分、
脇を固めるキャラクターに(こちらも現実では有り得ないほど)キョーレツなのが多いので、
まぁバランスはとれているのでは。
全般的にとても良くできたドラマで、時代はややズレるけれど、漢を描くドラマだったら、
私には『美人心計』より、こちらの方がずっと面白かった。
衛子夫という歴史上の人物を学んだことや、
彼女に扮する王珞丹という素敵な女優さんをじっくり鑑賞できたのも良し。
今回『賢后 衛子夫』を観逃した皆さま、朗報です。

一方、私が『衛子夫』を観ていた月曜から金曜までの夜11時の枠は、この後、昨日7月22日(水曜)から
『岳飛伝 THE LAST HERO~精忠岳飛』を再放送している。
黃曉明(ホァン・シャオミン)主演だしぃ…と、初回放送の時2~3話観たのだけれど、
ホコリっぽい戦闘モノが、どうも私の好みには合わず、視聴を中断。今回の再放送でも追わないつもり。
チャンネル銀河では他にも7月20日(月曜)から『宮廷の諍い女~後宮甄嬛傳』も放送している。
こちらは清宮ドラマの最高峰!もう視聴済みの人も多いと思うけれど、まだならこの機会に。