Quantcast
Channel: 東京倶樂部★CLUB TOKYO
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1332

映画『哭声/コクソン』

$
0
0
イメージ 1

【2016年/韓国/156min.】
韓国・谷城。
普段は静かなこの村で、残忍な殺人事件が発生し、
警察官のジョングは、珍しく朝っぱらから呼び出しを食らう。
その後も、不可解な死を遂げる村人が続出。
一向に真相が掴めず、得も言われぬ恐怖に包まれた谷城では
「山奥に潜むよそ者が怪しい」、「あの日本人が来てから事件が続くようになった」と噂が広がり始める。
その頃、ジョングの娘・ヒョジンにも異変。
義母の勧めで、厄払いのため祈祷師を呼んだところ、彼は、山に居るよそ者が元凶だと断言。
ジョングは、日本語を喋る神父ヤン・イサムを通訳として連れ、怪しいよそ者との接触を試みるが…。


韓国のナ・ホンジン監督による長編監督作品第3弾。

ナ・ホンジン監督作品は、前2作、『チェイサー』(2008年)も『哀しき獣』(2010年)も嫌いじゃない。
この第3弾は、映画館で予告を観て、前2作以上と予感し、公開を楽しみにしていた。



舞台は韓国・谷城(コクソン)。
物語は、普段は静かな片田舎で奇妙な殺人事件が次々と勃発、
山の奥に潜む謎の日本人が怪しいと噂される中、
事件を担当する警官・ジョングは、娘ヒョジンのただならぬ異変に気付き、
彼女を救うため、その日本人を追い詰めていくが、事態は好転するどころか、益々混乱し、
なかなか真相に辿り着けない恐怖を描くサスペンス・スリラー

日本の配給会社が“サスペンス・スリラー”と位置付けているので、ここでも一応それに従っておくが、
ふぅ~ん、“サスペンス・スリラー”ねぇ…。

事前にあまり情報を入れずに鑑賞した私自身、
本作品を、“奇怪な殺人事件を解明していくミステリー仕立ての犯罪サスペンス”と漠然と考えていた。

ところが、映画が始まり一時間くらいしてからだろうか、
本作品が私の予想とは違う方向にどんどん進んでいる事に気付いた。
作品が予想通りだと、安心感が得られる反面、退屈になりがちだから、
予想を裏切り、新鮮な驚きを与えてくれる分には構わない。
…が、しかし、本作品の裏切りは、私にとって、ポジティヴな裏切りではなく、ネガティヴな裏切り。
嗚呼、裏切られたぁぁぁー…!と、ガクッと拍子抜け。

だって、これ、犯行を解明していく犯罪サスペンスなどではなく、
理屈でも科学でも解明できない超常現象連発のオカルト映画ではないか。
もっと言うと、“韓国現代版『エクソシスト』(1973年)”。
実際、本作品にも、エクソシスト(祈祷師)は登場する。ついでに言うと、殭屍(キョンシー)的要素もあり。


ちなみに、韓国の原題は『곡성 哭聲』
私、韓国語はチンプンカンプンなのだけれど、
“哭聲”は、日本語の“哭声(こくせい)”と同じで、“泣き叫ぶ声”という理解で良いだろうか。
英語のタイトルも、泣き叫んだり、嘆き悲しむことを意味する『The Wailing』なので。
で、その“哭聲”と、韓国語で同じ発音なのが、物語の舞台となる寒村“谷城(곡성 コクソン)”。
架空の村ではなく、実際に、韓国全羅南道の北東部に位置。
つまり、タイトルは、“哭聲”と“谷城”の掛け言葉になっているワケ。




イメージ 2

主な出演は、谷城の警察官・ジョングにクァク・ドウォン、その娘・ヒョジンにキム・ファニ
山の中に潜む怪しげなよそ者に國村隼、事件収束にあたる祈祷師にファン・ジョンミン等々…。

私が思う本作品一番の見所は、3人の名優、クァク・ドウォン×國村隼×ファン・ジョンミンの演技。

主演のクァク・ドウォンは、一般的な“韓国映画の主演男優”のイメージからは程遠いユルさ。
見た目からしてユルく、プルプルのおなかを丸出しにして横たわっている姿は、
まるで岸に打ち上げられた脂がのった(…のり過ぎた)トド。
“体脂肪率ひと桁じゃなければ韓流スタアじゃない!”って感じのかの国では、貴重な存在。
扮するジョングがまた御人好しで、
日本人からすると、父権の印象が強い韓国において、婿養子のように、妻の母親と同居。
職業は一応警察官だが、長閑な田舎町なので、普段は大した仕事が無いのではないかと想像。
村で奇妙な殺人事件が起きたため、珍しく朝っぱらから呼び出しを食らい、慌てて出掛けようとするが、
お姑サマから「まぁ、とにかく、朝ゴハンでも食べてから行きな」と言われたら、
この人、本当に、のそのそと朝ゴハンを食べ始めてしまう。そんなに緊張感なくて、大丈夫なのか?!
私、警察官・ジョングは、この冒頭のシーンで、好きになれた。


そういうユルさとは対極にいるのが、あとの二人の俳優。
ファン・ジョンミンは、祈祷のシーンだけでも、合格点を差し上げられる。

イメージ 3

細長い手足でダイナミックに舞う祈祷は絵になるし、どこかにイッちゃっている不気味さが最高。
あと、ファン・ジョンミンでもう一つ記憶に焼き付くのが、ゲロのシーン。
最初血を吐き、次第にそこに何だか分からない白い吐瀉物が混ざり、ゴーゴーと吐き続ける。
その量と勢いは、マーライオンの如し。
今後、 シンガポールを取材した旅番組で、マーライオンが映る度に、
私は豪快にゲロを吐くファン・ジョンミンを重ねてしまうことでしょう。



そして、國村隼。
國村隼が出演しているのは、私が本作品を観たかった大きな理由の一つ。
國村隼は、本作品での演技が認められ、日本人でありながら、
韓国の映画賞、第37回青龍映画賞で、男優助演賞と人気スター賞をダブル受賞。

イメージ 4

外国人俳優の受賞は、青龍映画賞37年の歴史の中でお初なのだと。おめでとうございます♪
海外でこうして認められ、誰よりも國村隼本人が感激したと思う。
いつか日テレ『アナザースカイ』に出演するとしたら、自分の“アナザースカイ”に韓国を選ぶに違いない。
ま、このように、受賞の話は日本でも報じられていたので、どんな役を演じているのか、益々興味が湧いた。

演じているよそ者は、日本人という設定なので、台詞も日本語。
(韓国の人々とは、日本語を喋るヤン・イサオという神父を介し、意思疎通。)
とは言っても、台詞の量は少なく、醸す雰囲気と存在感で勝負。

鑑賞前、一つ気になっていたのは、(↓)こういうカメラを構えたようなポーズ。

イメージ 5

韓国メディアが、『哭声』に出演した國村隼を報道する際、このような画像をよく使っていたので、
それが何を意味しているのか疑問に思っていた私。
作品を観たら、物語後半に、実際このようなシーンが有った。
薄暗い洞窟で、キョンシー國村隼withカメラ…。確かに印象に残るシーン。
それと、還暦過ぎた國村爺、柔肌顕わな“純白の越中ふんどし姿”も要注目です。





うぅぅーん、世間での高評価が、理解できず…。
私は、ハードルを上げ過ぎてしまったようだ。
最初からオカルト映画だと分かっていたら、きっとここまで失望しなかった。
元々、オカルト、ホラー、そしてSFさえも、私にとっては、どうでもいいジャンル。
怖いからではなく、非現実的な話には、まったく惹かれないから。
例のゲロのシーンとか、目が赤くなるシーンとか、思わず吹き出してしまいそうなシーンは有ったけれど、
真剣にスクリーンに食い付いている周囲の観客に申し訳ないので、笑いをぐっと嚙み殺した。

これ程度の内容で、2時間半は長いっ…!
この前に観た尺4時間の『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』の方が、むしろ短く感じた。あちらは必要な4時間。
2時間に感じる4時間の映画もあれば、4時間に感じる2時間半の映画もアリ。

まぁ、観衆をただただ脅かせば良いオカルト映画ではなく、
「勝手な思い込みや先入観で、仮想敵を作ってはいけない」というメッセージは発信しているように感じる。
世界がどんどん内向きになり、異民族や異教徒といった、自分とは異質の存在を排除し始めた今だからこそ、
ナ・ホンジン監督は、その危険性を、この作品を通し、伝えたかったのかなぁ~と想像。
特に、日韓関係はピリピリで、互いを敵視しがちなので、
わざわざ日本人俳優を起用し、このような作品を撮ったことは、意味が有る。
…でも、オカルト映画という形にはしなくて良かったと思うワ。 ホント、興味ないし、オカルト…。
まったく興味の対象外でありながら、辛うじて観られたのは、
クァク・ドウォン、ファン・ジョンミン、そして國村隼という3人の俳優の名演技のお陰でございます。

Viewing all articles
Browse latest Browse all 1332

Trending Articles