2017年2月半ば、両国の江戸東京博物館で始まった特別展、<江戸と北京~18世紀の都市と暮らし>。
北京は大好きな街だし、江戸時代も好きなので、この特別展には興味があったのだが、
両国まで行くのが億劫で、グズグズしていたら、あれよあれよと言う間に日が過ぎてしまった。
会期終了が翌日に迫った土曜日、なんとか滑り込み鑑賞。
結果から言うと、私が想像していたよりずっと充実の内容で、会期中に行けて本当に良かった!
こういう展覧会の場合、上野の東京国立博物館くらいじゃなと、
扱える展示品(特に海外からの貸し出し品)に限界があるのではないかと、
私は心のどこかで過小評価していたのであろう。
残念ながら、私がこうしてブログを書いている今現在、この展覧会はもう終わってしまっているし、
館内撮影禁止だったため、画像資料も不充分なのだが、
“こういう面白い展覧会へ行った”という自分への記録として、簡単にここに書き残しておく。
★ 江戸と北京~18世紀の都市と暮らし:概要
江戸の人口が100万人を超え、都市として発達を遂げた18世紀は、
北京が清朝の首都として最も繁栄を極めた時代。
江戸時代の鎖国下においても、長崎を窓口に、中国交易は公認され、
文物の流れが途絶えることが無かったように、日本と中国には長い文化交流の歴史あり。
この<江戸と北京~18世紀の都市と暮らし>は、
18世紀を中心に、江戸と北京の成り立ち、生活、文化等を展観し、比較する展覧会。
清朝の宮廷文化など、いわゆる“高尚な芸術”を紹介する展覧会は、これまでにも数あれど、
都市生活という観点から、江戸と北京を比較する展覧会は、意外と目新しいし、
江戸東京博物館の性質に合っていると感じる。
本展は、以下の3部構成。
第1章: 江戸・北京の城郭と治世
第2章: 江戸・北京の都市生活
第3章: 清代北京の芸術文化
出展リストを見ると、中国の品は、ごく一部が故宮博物院の物で、ほとんどは首都博物館の所蔵品。
北京の首都博物館は、2006年開館と比較的新しいこともあり、
日本人観光客があまり行かない博物館だが、実はとても面白い場所。
かの<地球の歩き方>が、3ツ星を満点とするお薦め度で、
この首都博物館をたったの1ツ星にしているのを見て、私は編集者の感性を多いに疑った。
もっとも、名所だらけの北京で、故宮、頤和園、天壇公園、長城といった超一級の観光地を3ツ星にしたら、
他を低く評価するのも致し方ないのだが…。
首都博物館も、もしアジアの他の都市に有ったら、充分3ツ星評価になっていたはず。
この首都博物館は、青銅器や陶磁器などのコレクションが立派なのだけれど、
地元北京に関する伝統的な民間風俗の展示も有名。
つまり、江戸東京博物館と似た性質も併せ持つ博物館。
そんな事からも、今回のような江戸東京博物館とのコラボ企画は、非常に合っていると感じる。
★ モンチッチ
で、重い腰を上げ行って参りました、両国の江戸東京博物館。
会場は、建物1階の特別展示室。
まずは
チケット購入。特別展のみだと1400円、常設展との共通券だと1600円。

私はこの後ヤボ用が有り、時間が読めなかったので、取り敢えず特別展のみのチケットを購入。
そして会場前まで行ったら…
中国伝統の花嫁衣裳を身にまとった大きなモンチッチがお出迎え。
えっ、なんでまた懐かしのモンチッチ?!と不思議に思ったら、
この特別展のイメージキャラクターだったのですね。
以下、各章ごとに、ザッと記録。
★ 第1章:江戸・北京の城郭と治世
第1章では、両都市の構造や、そこを治めた将軍、皇帝にまつわる物を紹介。
入ってすぐの展示ケースのみ撮影OK。
右の画像は、<明清北京朝陽門城樓模型>。
北京城の内城9ツの門のひとつ、朝陽門の模型。
左の画像は、<正陽門正脊上銀質圧勝宝盒>。正陽門に収められた鎮具類。
正陽門は、内城9ツの門の内、取り分け重要な正門で、
現在、俗に“前門”と呼ばれ、観光客にもお馴染みの門。
内城や前門については、こちらを参照。
撮影不可になった途端、はい、出ました、大物。
<明黃色納紗彩雲龍紋男單朝袍>。
清宮ドラマでは“④(ヨン)様”の愛称でお馴染み、あの雍正帝の礼服。
そのすぐ横の<鐵嵌末石柄金桃皮鞘腰刀>も素晴らしい。
雍正帝の第4子で、同じく“④様”である乾隆帝がコレクションしていた刀。
“天字大號”、“月刀”、“乾隆年制”の字が刻まれ、
透かし彫りになっている金属部分には、トルコ石の象嵌が施されており、鞘は南方産黄金桃の樹皮。
鞘に
桃の樹皮を使うなんて、意外な気もするが、悪霊退治に効果があるとされていたらしい。

★ 第2章:江戸・北京の都市生活
第2章では、“住まう”、“商う”、“装う”、“歳時”、“育てる”、“遊ぶ”といったテーマ別に、両都市を比較。
この特別展の趣旨に最も相応しい部分で、それゆえ展示品のヴォリュームもここが一番。
目玉は、以下3幅の絵巻。
日本からは、神田今川橋から日本橋までの賑わいを描いた<熈代勝覧>。
中国からは、康熙帝60歳の祝賀を描く<康熙六旬萬壽盛典圖>の内、
西郊の離宮から紫禁城までを描いた41~42巻。
乾隆帝80歳の祝賀を描く<乾隆八旬萬壽慶典圖卷>の内、
西直門から紫禁城までを描く下巻。
いずれも長---い絵巻なので上に挙げた画像は、そのごくごく一部。
中国の2作品が、祝賀の様子を描いているのに対し、
日本の<熈代勝覧>は、江戸の日常の賑わいを描いており、
日本橋に近付けば近付くほど、人の数が多くなっている。
当時の日本橋が、江戸の玄関口で、交通や商業の中心だったのが、見て取れる。
<乾隆八旬萬壽慶典圖卷>は、緻密さと色の鮮やかさとビックリ。

若冲は、子供の頃に一度象を見たことがあると言い伝えられているが、
記憶もおぼろげな珍獣を、こういう中国の絵などを参考に、イメージして、描いていたのかも知れない。
これら絵巻の中にも描かれている行商人が使っていた背負い箱、駕籠、看板といった品々は、
実物も見ることができる。
昔のお金・元宝を抱いたおサルさん<木猴>は、帽子屋の看板。
清代の北京では、招き猫ならぬ、招き猿?
おサルのモチーフを帽子屋の看板にしていた例は他にも有るらしい。
なぜ“おサル=帽子屋”なのかは不明。
“装う”のコーナーで目を引くのは(↓)こちら。
<女性婚服> ピンク色が可愛らしい女性の婚礼衣装。
本展イメージキャラクターのモンチッチが着ている服も、これを元にデザインしたのであろう。
一緒に、金属製の長ーい付け爪<金鏨蓮花紋金指甲套>や、
満州族女性版ハイヒール<盆底靴>も展示。いずれも、清宮ドラマニアにはお馴染みの品ですよね。
清宮ドラマでお馴染みと言えば、男性が親指に付けている指輪・扳指と
それを収納するケース・扳指盒の展示もある。扳指については、こちらを参照。
内側に乾隆帝御題詩を刻んだ玉製の<黃玉刻詩扳指扳指>という扳指自体は、珍しい物ではないのだが、
<繡花小件黃>と題された扳指収納ケース・扳指盒は、
私がこれまでに見た物の大半が金属製だったのに対し、
刺繍を施した女性的なデザインの物だったので、可愛らしくて、印象に残った。
“育てる”のコーナーで気になったのは<抓周用品一組>というもの。
首都博物館では<紅木抓周盤>の名で展示しているみたい。
これだけパッと見せられても、何だかよく分からないお道具箱だが、“抓周”という儀式に使う物。
中に、針、糸、ハサミ、お金、本、筆、スプーン、そろばん等を入れた箱で、
一歳の誕生日の時、子供がこの中から何を掴むかで、その子の将来を占うという。
うーん、それで一生が決まってしまったら、哀しいかもぉ…。
日本にも、“選び取り”という似た儀式をやる地方があるんですってね。
これだけパッと見せられても、何だかよく分からないお道具箱だが、“抓周”という儀式に使う物。
中に、針、糸、ハサミ、お金、本、筆、スプーン、そろばん等を入れた箱で、
一歳の誕生日の時、子供がこの中から何を掴むかで、その子の将来を占うという。
うーん、それで一生が決まってしまったら、哀しいかもぉ…。
日本にも、“選び取り”という似た儀式をやる地方があるんですってね。
このコーナーの江戸の方では、お食い初め用のお椀やお膳が気になった。
気になったのは、その品自体ではなく、説明書き。
漆のお椀は、男児用には全て朱塗りの物、女児用には内側だけ朱の物を用意すると説明されていたのだ。
日本人をずーーとやってきて、“男児=全朱”、“女児=朱&黒”なんて、知らなかった…!
大人は別に何色を使っても良いのだろうか。
気になったのは、その品自体ではなく、説明書き。
漆のお椀は、男児用には全て朱塗りの物、女児用には内側だけ朱の物を用意すると説明されていたのだ。
日本人をずーーとやってきて、“男児=全朱”、“女児=朱&黒”なんて、知らなかった…!
大人は別に何色を使っても良いのだろうか。
“学ぶ”のコーナーで、忘れてはならない中国らしい制度と言えば科挙。
このコーナーでは、貴州畢節出身の張鳳枝という人物の科挙最終試験答案用紙<殿試卷>で、
その達筆ぶりに驚かされる。頭の良し悪しのみならず、字の上手い下手も重要なのでしょう。
このコーナーでは、貴州畢節出身の張鳳枝という人物の科挙最終試験答案用紙<殿試卷>で、
その達筆ぶりに驚かされる。頭の良し悪しのみならず、字の上手い下手も重要なのでしょう。
しかし、その答案用紙以上にビックリなのが<夾帶>。
“夾帶”とは、中国語でカンニングペーパーのこと。
プチサイズの巻物に、虫眼鏡が無いと読めないような細かい字がビッシリ!
極細ペンなんて無い時代に、これを筆で書いたんでしょ?!もの凄いテクニック!
しかも、あんなにビッシリだったら、どこに何が書かれているか、普通は分からなくなるはず。
それが分かるのだから、かなりの記憶力。
カンニングに力を注ぐより、普通に勉強をした方が、合格への道が近いという気がしなくもない。
プチサイズの巻物に、虫眼鏡が無いと読めないような細かい字がビッシリ!
極細ペンなんて無い時代に、これを筆で書いたんでしょ?!もの凄いテクニック!
しかも、あんなにビッシリだったら、どこに何が書かれているか、普通は分からなくなるはず。
それが分かるのだから、かなりの記憶力。
カンニングに力を注ぐより、普通に勉強をした方が、合格への道が近いという気がしなくもない。
このコーナー、江戸の方の説明によると、日本にも科挙に似た“学問吟味”という制度が有ったのだとか。
学校の日本史の授業で習いましたっけ?お恥ずかしいながら、私、知りませんでした…(汗)。
実施されたのは、1792年から1868年の間に計19回。
受かると、仕事をする上で何らかのメリットは有っても、直接登用には繋がらなかったという。
それが、科挙に似た学問吟味が日本に根付かなかった理由の一つかもね。
学校の日本史の授業で習いましたっけ?お恥ずかしいながら、私、知りませんでした…(汗)。
実施されたのは、1792年から1868年の間に計19回。
受かると、仕事をする上で何らかのメリットは有っても、直接登用には繋がらなかったという。
それが、科挙に似た学問吟味が日本に根付かなかった理由の一つかもね。
★ 第3章:清代北京の芸術文化
最後の章では、緻密で華麗な北京の宮廷芸術や、江戸の知識人が憧れた北京の文人文化、
また民間の工芸品や優れた職人技を紹介。
大きく取り上げられているのは、清代の画家・沈銓こと沈南蘋(1682-?)。
中国絵画好きで知られる第8代将軍・徳川吉宗に招聘され、1731年に来日し、2年近く長崎に滞在し、
絵画の技法を伝え、江戸時代の日本の画家に多大な影響を与えた人物。
(↓)こちらは、その沈銓の作品<芝鹿 圖>。
濃く色付けした下地に、色や輪郭をボカす手法が特徴的。
ふんわりと浮いているようで、今にもこちらに飛び出してきそう。
このコーナーで特に気に入ったには、(↓)こちらの<博爾濟特式彩繡地藏經典>。
この画像ではまったく分からないだろうが、白いシルク地に、赤い糸で経文を刺繍した地蔵経本。
あまりにも刺繍が緻密すぎて、普通の印刷物にしか見えないから、
皆さん、この展示ケースをスルーしてしまっていた。
地の布のみならず、糸もシルク糸なのであろう。赤い文字に光沢があって美しい。
★ ミュージアムショップ
見学のあとは、ミュージアムショップへ。
ポストカード、クリアファイル、マスキングテープといった定番商品は勿論のこと、
中国の物産の販売や、実演コーナーもあり。
中国風婚礼衣装のモンチッチは、ここでも様々なグッズになって、売られている。
目に飛び込んできたのは、(↓)こちら。
最近、北京の故宮博物院が“萌え路線”に走り、
萌えグッズの販売で、結構な売り上げを出しているという話は、記事で読んで知っていた。
おおぉ~、これだったか。実物を見たのは、初めて。
まぁ、これだったら北京へ行った時に買えば良いと思い、スルーしたのだが、
私からこの展覧会を薦められ、会期最終日の本日に滑り込みで観に行った母が、
やはり萌え皇帝グッズに食い付き、メモ帳を2冊購入してきて、私に一冊くれるという。
そんな訳で、千秋風ポーズの康熙帝ではなく、JKっぽい決めポーズの雍正帝の方を頂戴いたしました。
★ ついでの常設展
特別展を約3時間じっくり見ても、ヤボ用までまだちょっと時間があったので、ついでに常設展にも立ち寄る。
通常、常設展のみのチケットは600円なのだが、
私は、すでに払った特別展1400円と、特別展&常設展共通券1600円の差額200円を払うだけで、
チケットを再発行してもらえた。親切!
常設展では、大きく江戸ゾーンと、明治維新後の東京ゾーンに分け、この街の歴史や文化を紹介。
(常設展は、
撮影OK。フラッシュや三脚の使用は駄目。)

ここは、ジオラマ好きにはタマラないスポットですわ。
実際、ここに居座り過ぎて、時間が無くなった…。
他も軽く触れておくと…
<助六>の舞台の再現。
中村座前では、お江戸風マジック“和妻”のパフォーマンス。
大勢の外国人来場者が多い博物館なので、ちゃんと英語通訳付き。
東京ゾーンの方からは、例えば(↓)こちら。
高度成長期1962年頃、住宅不足解消のために建設された
ひばりが丘団地の一室を復元。

テレビ、冷蔵庫、炊飯器は勿論の事、ミキサー、トースター、そしてバヤリースオレンジまで。
うわ、昭和っぽ~い。『Always三丁目の夕日』の世界。
あと、駕籠に乗って、大名気分を味わったり、
15キロもある纏(まとい)を持ち上げ、火消し気分も味わってみた。
話戻って、特別展<江戸と北京>。
仮に美術や工芸に興味の無い人でも、大陸の清宮ドラマニアなら必見!の楽しい展覧会であった。
…なんて言ったところで、本日で終わってしまったので、お薦めしたところで無駄なのだが。
今回逃した方々には、北京の首都博物館をお勧めいたします。
大量のコレクションを有しているし、
江戸東京博物館では禁止だった写真撮影も、首都博物館なら撮り放題なので。
ただ、首都博物館では、一点一点の展示品に対する説明がほとんど無い。
今回、江戸東京博物館では、丁寧な説明書きが添えられていたため、
それぞれの展示品や、その背景にある文化や歴史まで、とてもよく理解できた。
本当に楽しかったわ。ありがとう、江戸東京博物館!
◆◇◆ 江戸と北京~18世紀の都市と暮らし
Edo and beijing Cities and Urban Life in the 18th Century ◆◇◆



