【2016年/中国/124min.】
1941年、戦時下の中国山東省南部・魯南地区。棗莊駅の運搬係りとして働く馬原のもと集まった労働者たちは、列車を襲撃しては逃走し、日本軍を手こずらせ、いつしか“飛虎隊”と呼ばれるように。しかし、所詮は素人のゲリラ部隊。いつも思うような結果が出せる訳ではない。そんなある日、馬原らは、追っ手から命からがら逃げて来た八路軍の負傷兵・大國を助ける。なんでも、日本軍の運輸に甚大なダメージを与えられるであろう韓莊大橋の爆破を命じられたものの失敗、多くの仲間を失い、彼一人こうしてなんとか逃げてきたと言うのだ。もう虫の息の大國は、ろくに動くことさえままならない。大國に代わって、その任務を成し遂げようではないか…!素人集団の飛虎隊は、韓莊大橋爆破計画という危険な大仕事に初めて挑もうと立ち上がるが…。
『ラスト・ソルジャー』(2010年)、『ポリス・ストーリー/レジェンド』(2013年)に続く、

過去2作品は、『ラスト・ソルジャー』はイマイチ、『ポリス・ストーリー/レジェンド』はまぁまぁであった。
成龍主演に縛られなければ、実際に起きた俳優・吳若甫(ウー・ルオフー)誘拐事件を、
劉華(アンディ・ラウ)主演で撮った『誘拐捜査』(2015年)は、結構面白かった。
だからと言って、丁晟監督は、私にとって、何がナンでも新作をチェックしたい程の監督さんではない。
今回の新作には、元ネタあり。
大陸随一の石炭の産地として知られる山東省・棗莊を、1938年、日本軍が占領後、
貧農出身の炭鉱夫・洪振海(ホン・ジェンハイ 1910-1941)をリーダーに、抗日ゲリラ部隊が結成され、
主に鉄道を利用したゲリラ戦を展開したという史実があるらしい。
この話を元にした小説が、1954年に発表された
劉知俠(リュウ・チーシャ)の<鐵道游擊隊>。

『レイルロード・タイガー』の原作でもあるこの小説は、過去に幾度となく映像化されているので、
中国では、そこそこ知られた抗日英雄伝なのではないかと想像。
そんな訳で、本作品は、戦時下の棗莊附近で、
日本軍の物資を盗むなど、小さな抵抗を続けていた馬原を中心とした庶民の男たちのチーム“飛虎隊”が、
負傷した八路軍兵士・大國から、運輸で大きな役割を果たしている韓莊大橋の爆破を託され、
日本のプロ軍人を相手に、初の大仕事に奮闘する様子を
アクションや笑いを交えて描く、中国素人部隊の手に汗握るレジスタンス活劇…!
小説<鐵道游擊隊>を映像化した過去の作品は観たことが無いのだが…
ポスターやスチール写真などからは、昔ながらの相当生真面目に撮られた抗日英雄伝という印象を受ける。
『レイルロード・タイガー』は、成龍主演作なので、
人々が想像する通り、笑いを交えたハチャメチャなエンターテインメントに仕上げている点が、
これまでの<鐵道游擊隊>映像化作品とは異りそう。
あと、成龍と言えば、アクションであるが、そこに期待しちゃうとねぇ、うーん、肩透かしを食らうかも。
過去の丁晟監督作品を観ている人なら分かると思うが、
丁晟監督は、いわゆる“アクション映画監督”とは違う。
伝統武術の素養を要する肉vs肉!みたいなカラダを張ったアクションは少なめで、銃撃戦などが多い。
出演者をザッとチェック。
まず、
中国側。飛虎隊隊長・馬原に成龍(ジャッキー・チェン)、

馬原のもと飛虎隊に集まる隊員は、仕立て屋の青年・大海に黃子韜(ファン・ズータオ)、
大奎に桑平(サン・ピン)、銳歌に房祖名(ジェイシー・チャン)、
のちに飛虎隊に加わる麺屋の経営者・范川に王凱(ワン・カイ)、
飛虎隊に韓莊大橋の爆破を託す負傷兵・大國に王大陸(ワン・ダールー)など。
成龍は、もうお年なので、本作品では、派手に一人で立ち回るようなことは、あまりない。
成龍の存在が色んな意味で頂点であることには変わりないが、若い衆を見守り、まとめるリーダーで、
本作品は、成龍を主軸にした“群像劇”といった印象。
現地では、成龍以上に、
韓流ユニットEXOの元メンバー“TAO”こと黃子韜をお目当てにする女の子が多いみたい。
同じように“元EXO”である鹿(ルー・ハン/ルハン)や吳亦凡(クリス/ウー・イーファン)に比べ、
映像作品への出演がまだ少ないから、『レイルロード・タイガー』は、黃子韜をスクリーンで拝む貴重な機会。
そんな彼、黃子韜は、鹿や吳亦凡以上に、見た目に韓流色が濃く出ていて、苦手なタイプだったのだが、
本作品は、戦時下の話ということで、金髪とアイラインを封印。そうしたら、案外好青年で、イイ感じ。
声や喋り方も、おっとりとしていて可愛らしい。
でも、若いお嬢さん方は、金髪&ばっちりアイラインの黃子韜クンの方が、やっぱり良いわけ?!(笑)
私のお目当ては、若い黃子韜ではなく、もっと熟した王凱!
『琅琊榜(ろうやぼう)麒麟の才子、風雲起こす~瑯琊榜』の“靖王”王凱が演じている范川は、
実は凄腕スナイパーと噂される麺屋のオーナー。
登場早々、自分は狙撃の名手なんかじゃないと、
指が細く長い綺麗な手を見せるシーンがある。

王凱の場合、上半身裸の入浴シーンなんかより、お手々を見せる方が、ファンにとってはサービスシーン。
あのシーンは、やはり王凱ファンを意識した演出か…?
今回、王凱と初共演した成龍が、「王凱は、撮影初日、台詞を喋るのがゆったり過ぎた!2日で適合したけれど」
と言っていたので、早口で捲し立てる台詞が多いと予想していたのだけれど、
実際には、特別勢いよく喋るシーンは無く、まぁ、普通。
台詞なら、喋る速度や勢いより、私は日本語に食い付いた。
王凱の日本語は、ドラマ『歡樂頌~Ode to Joy』で、「ありがとう」のひと言を聞くことができるが、
本作品では、「座れ!」に始まり、「君と同じだ」、「手を上げろ」、「失礼だ」、「閉めろ!」と、
今パッと思い出せるだけでも、5パターンの日本語を口にしておられた。
中国語作品は、“ドラマは観ず、映画だけ”という日本人が注目するのは、王凱以上に王大陸?
主演作『私の少女時代』(2015年)が大ヒットしたのを機に、
下積み時代お世話になった台湾の事務所を解約し、“大陸”という名前通り、大陸に進出した王大陸。
地元台湾では、“恩知らず”と叩かれもしたが、私は、そういう“恩”とかナショナリズムとか関係なく、
単純に、王大陸は大陸で通用するのか?という疑問を抱いた。
大沢樹生や松村雄基のような、ちょと古臭い、90年代のニオイがする王大陸は、
『私の少女時代』の役がたまたま合っていたものの、他でツブシが効くのか?!という疑問。
進出するのは勝手だが、容姿でも演技力でも、ハイレベルがザックザクと腐るほどいる大陸芸能界で、
王大陸程度の俳優がやって行くのは厳しいのではないか…、と。
彼の場合、かなりのコネクションが有っての大陸進出で、採算通り、コンスタントに仕事はしているけれど、
逆に言うと、そのコネの割りに、人気には繋がっていないようにも見受ける。
『レイルロード・タイガー』では、実は出演シーンが少ないので、一概には言えないが、
話題になっているのは黃子韜、次いで王凱であり、王大陸に関しては、あまり語られていない。
それでも、王凱と共に、丁晟監督の次回作にも続投。
その新作とは、あの『男たちの挽歌』第4弾、『英雄本色4』!
オリジナルの吳宇森(ジョン・ウー)監督版に敬意を払いながら、現代風にアレンジしたリメイク作品とのこと。
王大陸が演じているのは、誤報でなければ、オリジナル版で周潤發(チョウ・ユンファ)が演じた馬克(マーク)。
『男たちの挽歌』や周潤發の馬克は、我々日本人が思っている以上に、中華圏での人気が絶大。
それを、王大陸が、あの演技力のままやったら、今度こそ大バッシングが起きそうな予感も…。大丈夫…?!
出演シーンが少ない王大陸とは逆に、意外にも沢山出ていたのが、成龍の息子・房祖名。
『レイルロード・タイガー』は、2014年、お薬で御用となった房祖名(→参照)の復帰作。
彼が映ったスチールなどは、ほとんど出回っていなかったので、
この作品は、大衆の拒否反応を和らげるための“プレ解禁”で、申し訳程度に出演させ、
この先、徐々に復帰させていく目論見なのだと思っていたら、なんの、なんの、実は主要キャストの一人!
以前と同じ、屈託のない房祖名で、父・成龍との絡みもある。もう絶対に再犯なんて事が無いよう祈ります!
最近、スクリーンで目にする機会が増えた桑平は、本作品にも飛虎隊隊員・大奎役で出演。
横に並ぶと、182センチの王凱が小さく見える桑平の身長は、なんと196センチ!
首都体育學院卒の元ボクサーで国家一級運動員という異色の経歴をもつ俳優。
桑平が演じている、おつむは弱いが力持ちの羅士信は、結構好き。
この映画で演じている大奎も、その羅士信に近いキャラ。
続いて、
日本側出演者。日本軍の憲兵隊隊長・山口に池内博之、

棗莊駅の駅長・佐々木に矢野浩二、日本軍の女性長官・由子に張藍心(ジャン・ランシン)など。
この映画、池内博之がせっかく出演した成龍作品だから、日本で公開してくれないかしらぁ~と期待する反面、
“抗日”という言葉にやたら敏感な昨今の風潮で、お蔵入りの可能性も高いと見ていたが、
なんとか日の目を見て、良かった、良かった。
池内博之が演じる帝国軍人というと、『イップ・マン 序章』(2008年)の三浦将軍が記憶に鮮明。
丁晟監督も、『イップ・マン』で見た池内博之を気に入り、直接出演オファーをしてきたとの事なので、
本作品で演じている山口にも、当初、あの三浦将軍の雰囲気をイメージしていたら、
実際には、もっとコミカルであった。
『イップ・マン』に限らず、池内博之には、いつも気難しい顔をしている印象があったので、
へぇー、こんなコメディもやるんだぁ~と、新たな一面を見せてもらった感じ。
飛虎隊最大の敵で、本作品一の悪役だが、現地での評判も上々と見受ける。
役を離れれば、和気藹々。撮影中、
お誕生日を祝ってもらったのだろうか。

甄子丹(ドニー・イェン)に続き成龍と、2大アクションスタアとの共演を果たすなんて、
羨む日本人俳優がいっぱい居そう。
吳宇森(ジョン・ウー)監督が手掛ける『君よ憤怒の河を渉れ』(1976年)のリメイク、
『追捕 MANHUNT』の公開も控えているし、日本に納まらない益々の活躍に期待。
佐々木駅長役の矢野浩二は、中国でずーーっと頑張ってきた日本人俳優。
2005年制作の
ドラマ版『鐵道游擊隊』では、岡村という日本軍憲兵隊長を演じている。

これ、『レイルロード・タイガー』で池内博之が演じている山口に当たる役かしら…?
今回演じている佐々木は、日本鬼子という感じではなく、むしろ気の弱い駅長。
緊張し過ぎると、つい引きつった笑みを浮かべ、相手を苛立たせてしまうこういう人、実際にも居る。
池内博之に比べ、役は小さいが、認知度は高いので、現地では、
「演技が上手い!」、「良い俳優なのに、出演シーンが少なすぎる!」という意見から、
「こんな映画に出て、日本で右翼に攻撃されやしないか…」といった心配の声まで出ている。
確かに、矢野浩二は、日中関係に色々と翻弄され、領土問題勃発以降は、中国で仕事がしづらくなり、
活動拠点を日本に移さざるを得なくなったわけだが(日本ではまったく報道されていないが、
その母国・日本では、妙な愛国日本人から、反日呼ばわりされ、ブン殴られるという事件も起きている)、
また徐々に状況が好転してきているのか、黃軒(ホアン・シュエン)主演の話題の超大作…
ドラマ『九州·海上牧雲記~Tribes and Empires-Storm of Prophecy』にも南枯祺という役で出たみたい。
これ、予告を観る限り、スケールや映像のレベルが、
『レイルロード・タイガー』など比較にならないほどスゴイ。
もう、ついでなので、その『九州·海上牧雲記』の映像、貼っちゃいます!
改めて言いますが、これ、映画ではありませんので。
中国のドラマって、もうこういうレベルにまで来ちゃっているのです。
矢野浩二は、6分37秒の所でチラッと映るギロチンに首を掛けている男だと思う。
これ、黃軒主演だし、観たーいっ…!
日本軍の女性長官・由子に扮しているのは、日本人ではなく、中国人の張藍心。
成龍に見出され、『ライジング・ドラゴン』(2012年)でスクリーンデビューを飾った元テコンドー選手。
身長177センチで、長ーい美脚という抜群のスタイルと、キレのあるアクションで注目された。
確かに、こんなボディのアスリートがいたら、芸能界が放っておかないであろう。
日本のCanCamモデル程度では、恥ずかしくて横に並べない…。
今回はその抜群のボディを軍服で覆い隠し、日本軍人を演じている。
ドラマ『偽裝者~The Disguiser』で松峰莉璃が演じた南田洋子(ミナミダ“ヨウコ” …笑)を重ねてしまった。
画像は、『偽裝者』で南田洋子を演じる松峰莉璃、及び、血まみれでも手が美しい王凱とのオフショット。
中国の皆々様も薄々気付いているとは思うが、
当時の日本は、女性が軍の上官になれるほど、男女平等ではないんだけれどね。
『レイルロード・タイガー』や『偽裝者』のように、
中国の作品が、リアリティを無視して、女性軍人をしばしば登場させるのは、作品を華やかにするための演出?
映画の最後には、大物が特別出演。
スペシャルヒントは、『私の少女時代』と同じ。…ネタバレも同然ですね(笑)。
こういう作品というのは、基本的に単純なので、
馬原らが乗り込んだ列車が、韓莊大橋まで走り、その上で
ドカーンと大爆発を起こし、橋を崩壊させ、

スカッとThe END!という展開を予想していたら、
列車が燃料切れで、韓莊大橋の手前で止まってしまうという想定外が起きた。
実は、そこに至るまでは、結構退屈してしまい、幾度か睡魔にさえ襲われたのだが、
その想定外で、急に興味が湧いてきた。
ラストで、橋が爆破されるのは、ほぼ間違い無いであろう。
では、列車が止まってしまった状態から、どう爆破に繋げるのか?!という点が気になり、
終盤でようやく作品にのめり込んで行けた。
これ、大陸より、むしろ台湾で高評価を得ているので、何故だろと疑問に思っていたのだが、
実際に観ても、よく分からなかった。台湾人は、申し訳程度でも王大陸が出ている事が嬉しかったの…?
大陸では、房祖名をこの作品でコソコソと復帰させたことに、拒絶反応を示す人がかなり居るようで、
「成龍まで、こんなクダラない抗日神劇に出て、薬をやった息子を復帰させるなんて!」といった
手厳しい意見が溢れている。親が有名人なら簡単に社会復帰できる薬物使用者に対する嫌悪感に加え、
“抗日神劇”に食傷気味で、作品の評価がイマイチになったと見受ける。
私個人的には、“可もなく不可もなし”くらい。
私がこれまでに観てきた丁晟監督作品の中では、
本作品が一番コメディ要素が強いので、観易いことは観易いが、
あまりコメディやアクションに期待すると、そうでもなく、まぁ、平均的な出来という印象。
ちなみに、映画の幕が上がってから早々に出てきた日本語は、案の定「やめてぇ~」であった。
(日本のAVが人気の中華圏では、「やめてぇ~」は広く知られた日本語デス。
)

成龍主演作は、『絕地逃亡』(2016年)が、
『スキップ・トレース』という邦題で、すでに2017年9月の日本公開が決まっているらしい。
そちらは、『レイルロード・タイガー』と違い、堂々と宣伝をし易そう。
(逆に言うと、宣伝しにくい内容にも拘わらず、『レイルロード・タイガー』を日本に入れ、観せてくれたことに、
より有り難味を感じる。)
カンフーとヨガを合体させた斬新な中印合作映画『功夫瑜珈~Kung Fu Yoga』も、
もう日本公開が決まっているんでしたっけ?これは、楽しそう。