第18回東京フィルメックス、コンペティション部門に出品された中国映画、
『氷の下~冰之下 The Comformist』を鑑賞。
2011年、第69回ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を獲得した
『人山人海~People Mountain People Sea』の
蔡尚君(ツァイ・シャンジュン)監督最新作である。

『人山人海』も、同じく東京フィルメックスで鑑賞。
その後も日本では未公開のままになっているが、私は好きで、この新作にも興味津々。
今年のフィルメックスで一番観たい作品であった。
しかも、2011年、『人山人海』上映時には来日しなかった蔡尚君監督が、
今回は来て、Q&Aをやるというから、迷うことなくチケット購入。
★ 会場
会場は、いつもの有楽町朝日ホール。
平日昼間の上映なので、あまり混んでいない。
(フィルメックスは、平日昼間の上映の場合、早く買うと、チケットが千円ポッキリとお得です。)
★ 『氷の下~冰之下 The Comformist』 蔡尚君監督Q&A
映画『氷の下』は、人気俳優・黃渤(ホァン・ボー)主演作なのだが、
これまでの“黃渤主演作”のイメージからはかけ離れた作品。
決して“容易”とは言えない作品で、
私、現時点では、色んな事がこんがらがって、いっぱいいっぱいの状態。
一度頭の中を整理し直さなければ、何も語れない。
ただ、上映終了後に、蔡尚君監督のお話を聞いたことで、
腑に落ちた部分も結構あり、作品を理解する助けになった。
そんな訳で、上映終了後に約30分に渡り行われたそのQ&Aから、
印象に残った部分をザッと書き残しておく。
司会進行役は、東京フィルメックスの市山尚三プログラムディレクター。

なぜこの題材を選んだのですか?

『人山人海』を撮る前からすでに考えていました。
でも、それから、中国は変化しました。
『人山人海』では、社会に対する怒りを描きましたが、
今度は、社会が変化する中、低層に生きる人や、彼らの魂を描かなければならないと思いました。
中国では、お金持ちが増えているけれど、
その一方で、社会からはみ出した負け犬が、どうやって生きるかを描きたかった。
英語のタイトル『The Conformist』に表れているように、
社会の流れに従い、必死に生きる、でも流されてしまうという虚しさを描きました。

ロケ地について。

中国とロシアの国境地帯です。
ロシア側はハバロフスク、
中国側は、アムール川(龍江)をはさみ、すぐの所にある綏芬河(Suífēnhė すいふんが)です。
中国側から船に乗って十数分でロシアに着くという距離です。
この中ロ国境地帯は、一時期金儲けできる場所で、ロシア、中国、韓国などから多くの人々が集まり、
犯罪の温床にもなっていました。

最後の虎のシーンは幻想だと思いますが、あれを入れた意図は?

あの虎は、主人公の海波です。
脚本を書いている時、最後の5分は、それまでとはまったく違う物にしたいと思い立ちました。
虎は比喩ですが、幻想と考えても良いでしょう。
実は、二人の泥棒が薬物を摂取し、その後、あの虎のシーンが始まるように撮影したのですが、
その部分はカットしました。
虎で、人間の動物的な部分を表現したかった。
場所は、海南の三亞です。
寒い所で暮らしている人は、暖かい場所に憧れるもので、
海南は昨今、中国東北地方やロシアから沢山の人がやって来ています。

中国で増えていることについて。

『薄氷の殺人』も脚本に時間をかけた良い作品です。
『迫り来る嵐』はまだ観ていませんが、良い作品だと聞いています。
フィルムノワールの定義については、今語りませんが、
そのような作品が増えることは、人間の描き方が多様化してきているという事で、良い事だと思います。

監督の作品には強い概念を感じます。脚本を書く時のポイントは。

ストーリーを組み立てる時、因果関係を明確にし過ぎないようにしています。
因果関係がはっきりしているハリウッド的な方法とは、違うやり方です。
1、2、3と順番通りに事を進めるのではなく、
1から3に飛んだり、4でようやく2の理由が判るといった作りが好きです。
最後の
虎のシーンは、あまりにも唐突で、実は、私、かなり戸惑ったのよねぇー。

蔡尚君監督自身が、そもそもまったく毛色の異なるラスト5分にしたかったのだと知り、
“唐突”も意図的だったのかと、納得いたしました。
黃渤の起用については、もっと突っ込んで聞きたかった。
最後に市山尚三PDも言っていたように、
この『氷の下』は、今週末、2017年11月25日(土曜)に発表される第54回金馬獎で、
最佳男主角(最優秀主演男優賞)と最佳音效(最優秀音響賞)の2部門にノミネートされている。
最優秀主演男優賞には、以前、こちらにも記したように、
我が愛しの金城武が『擺渡人~See You Tomorrow』で初ノミネートされている他、
東京国際映画祭で観た『老いた野獣~老獸』の涂們(トゥー・メン)、
ほんの数日前、フィルメックスのオープニングで観たばかりの
『相愛相親(そうあいそうしん)~相愛相親』の田壯壯(ティエン・チュアンチュアン)らが名を連ねる。
涂們も田壯壯も、すごく良いの。
だが、この『氷の下』の黃渤が、これまた良く、これまでのイメージを覆す演技で、圧巻。
本日、『氷の下』を観たことで、お気楽お正月映画でノミネートの金城クンは、
分が悪いという事を、改めて確認(笑)。
金城クンのことは好きだけれど、
今回、この顔ぶれを押しのけ、最優秀主演男優賞を獲るのは、まぁ、ほぼミラクルであろう。
★ サイン会
Q&A終了後は、ロビーで
サイン会。

『人山人海』のDVDにサインをしてもらいたくて、出掛けに家中探しまくったのだが、見付からず…。
普段からきちんと整理整頓していないと、こういう事に…。
結局、時間切れでDVDは諦め、普通にサインしていただいた。
サインと一緒に書いてくれた文は何でしょう。
日本式簡体字で「謝々来看電影」かしら。
蔡尚君監督自身は、スキンヘッドの強面に見えるけれど、穏やかで朗らかな人であった。
私は、蔡尚君監督が、過去に脚本を手掛けた
『スパイシー・ラブスープ』(1997年)や『こころの湯』(1999年)といった人情ドラマが大嫌いなのだけれど、
御本人のお人柄は、近年手掛けるトンがった監督作品のイメージとは異なり、
むしろ過去の脚本作品に近い温厚派って感じ。
映画『氷の下~冰之下 The Comformist』については、また後日。
明日、2017年11月22日の夜9時15分、TOHOシネマズ日劇で、上映あり。
興味のある方は、明日を逃さず!