【2017年/日本・香港・台湾・ドイツ/129min.】
龍は、新たな仕事を請け負い、はるばる高雄から東京へやって来た、ナイフ使いが得意な台湾の殺し屋。
あろう事か、仕事をしくじり、逆に日本のヤクザに取り押さえられてしまうが、
なんとか相手の不意を衝き、その場から逃走し、とある田舎町へ辿り着く。
大怪我を負った龍を助けてくれたのは、薬漬けのシングルマザー莉莉と暮らすジュンというまだ幼い少年。
ジュンと度々顔を合わせるようになった龍は、莉莉に薬を断たせ、母子の食事の世話までするように。
そんな龍の手料理を偶然にも口にした村の人々は、その味に感激し、商売をすることを勧める。
お節介な村人に乗せられ、あれよあれよと言う間に、龍は牛肉麺の屋台を開くこととなり…。
ずーっと観たいと思っていた
SABU監督最新作。

この秋、第30回東京国映画祭で上映された際に観逃したので、一般劇場公開を楽しみに待っていた。
思い入れの有る作品だが、Yahoo!ブログの不具合で、長文投稿できない状態が続いているので、
以下、詳細を泣く泣く短めにまとめます…。
本作品は、任務に失敗し、日本の片田舎に逃げ延びた台湾の殺し屋・龍(ロン)が、
ヤク中のシングルマザー莉莉(リリー)、その息子ジュン、お節介な村人らと出逢い、
意に反し、流れで牛肉麺の屋台を営むようになり、
今まで無かった穏やかな生活を掴みかけた矢先、
再びそれを踏みにじる事件に巻き込まれていく様子を描くハートウォーミング犯罪劇。
物語の舞台は台湾と日本。
台湾の方は、作中、そこが高雄であるとハッキリ示され、
文武聖殿、華王大飯店、洲西餐廳など実在の場所がそのまま出てくるので、
ロケ地巡りをしたい人はどうぞ。
日本の田舎町の方は、クロージングをチェックすると、栃木県で撮影されたことが判る。
龍が逃げ込む田舎町は足利で、温泉旅行で訪れるのは日光。
物語の中では、田舎町の名前は明示されず、通称で“すっぽん村”と呼ばれている。
一度噛みついたら放してくれないお節介な人が多いから“すっぽん村”。
台湾の殺し屋・龍も、そんなお節介で人懐っこい村人たちに、どういう訳か食い付かれ、
ぜんぜん乗り気じゃないのに、牛肉麺の屋台を出すことになる。
龍はパスポートを失くし、お金も無かったので、
横浜から密航で高雄に戻るまでの小銭稼ぎのつもりだったのだが、この商売が意外にも繁盛。
龍の牛肉麺は味が良いし、龍本人も、オバちゃんたちから“龍(ロン)様”と呼ばれ大人気。
(「龍様って、韓流?」、「いえ、台湾らしいわ」なんて、日本のオバちゃんに有りがちな会話も。)
龍は、この村で、もう一組、
シャブ中の台湾人女性・莉莉と、その息子・ジュンという母子とも出逢い、交流を深める。
莉莉はなぜ日本で薬に溺れていったのか?なぜシングルマザーになったのか?
その辺りを紐解く、ジュンの父親である日本人男性・賢次とのラヴ・ストーリーは、
本作品でもう一本の重要な柱として描かれる。
主な出演は、台湾の殺し屋・龍に張震(チャン・チェン)、
龍が日本の田舎町で出会うシャブ中の台湾人シングルマザー・莉莉に姚以緹(イレブン・ヤオ)、
莉莉の一人息子・ジュンに白潤音(バイ・ルンイン)、
そして、莉莉の恋人でジュンの父親でもある賢次に青柳翔。
本作品は、大好きなSABU監督作品に、大好きな張震が主演すると知った瞬間に、
ツマラナいわけ無いっ!とググっと惹かれた。
張震が、日本人監督の作品に出演するのは、行定勲監督の『遠くの空に消えた』(2007年)以来の2度目。
行定勲監督作品は元々私の好みに合わない場合が多いので、
『遠くの空に消えた』もイヤな予感を抱きながら観て、結果、やはり“張震の無駄遣い”に感じてしまった。
一方、SABU監督は、…取り分け初期の作品は、あのオフビートな感覚が、張震の個性に合うと予感。
張震自身、SABU監督作品のファンで、映画祭などで顔を合わせていた監督とは相思相愛。
今やビッグスタアにも拘わらず、低予算の本作品に、出演を快諾したという。
扮する龍は、ナイフ使いが得意な殺し屋だけに、包丁さばきも上手く、料理の腕が一流。
張震本人は、日本語で簡単な日常会話くらいできるはずだが、龍が日本語を口にすることは無い。
今回は、日本語と限らず、中国語もあまり喋らず、少ない台詞で、ひたすら寡黙な男を演じている。
そんな無口な殺し屋なのに、日本の田舎で、与えられるがまま着る服が、
パフュームのツアーTシャツという、この抜け感に、日本の張震ファンは、クスッと笑えること請け合い。
浴衣を着て、ニッポン伝統の“温泉卓球”をするシーンも、かなりツボ。
ヒロインも台湾からで、姚以緹。
1986年生まれの元ハンドボール選手で、試合に出場した際、芸能事務所の目に留まり、芸能界入り。
私が観た過去の出演作は『TOP GUY トップガイ(原題・想飛)』(2014年)のみ(←つまらない映画だった…)。
美人の割りに、これまで露出が少なかったのは、
母親の死などプライベートでの停滞期や(肩にはその母親の名“嬌”のタトゥ)、
事務所のギャラ未払い問題など、色々なゴタゴタが有ったからなのだろうか。
この『ミスター・ロン』で扮している莉莉は、薬を買うために体を売るまでに堕ちたシングルマザー。
普通の台湾アイドル女優なら避けそうな“ヨゴレ”に挑み、何かひとつ壁を突破した印象。
これを機に、活動の場が増えるかも…?
その莉莉と、日本人男性・賢次との間に生まれたジュンを演じる白潤音は、実際に日台の混血。
2009年生まれで、SABU監督によるこの日本映画の他、
台湾映画『上岸的魚~A Fish Out of Water』がサンセバスチャンやトロントで入選したことから、
早くも“小さな国際派”と称する台湾メディアが。
本作品での役名“ジュン”は、彼本人の名“白潤音”の“潤 Run”の字を日本語風に読ませたものと推測。
クロージングでも、私の見間違いでなければ、“Bai Runyin”ではなく、“Bai Junyin”とクレジットされていた。
それが単純な誤表記なのか、意識的に“Jun”にしたのかは不明(←恐らく誤表記)。
日本からは、賢次役で青柳翔。
メインキャストという認識だったのに、登場早々あっさり御臨終で、「へっ…?!」。
そうしたら、その後、莉莉との恋物語が回想でセカンドストーリー的に描かれており、
ちゃんと主要登場人物であった。
交際を始め間もない頃、莉莉から台湾の高雄が故郷だと聞かされるが、
高雄を知らず、真顔で「台湾のどこ?香港?」と尋ね、
莉莉に「賢次ってバカなのか?!」と言われるシーンが面白かった。
他、すっぽん村の面々で、忠雄に諏訪太郎、久美子に大草理乙子、電気屋に水澤伸吾、
莉莉を薬漬けにするヤクザ者・和田に岸建太朗など、曲者バイプレイヤーも多々出演。
台湾人では、最近、東京MX『明日、どこ行くの!?~明天去哪儿!?』にたまにレポーターで出ている
南施(ナンシー)と愛絲(アイス)が、台湾パブのホステス役で一瞬チラリと出ていた。
この子たち、一応“台湾人タレント”という肩書きなのだが、『明天去哪儿』以外で見たことが無いので、
日本で一体どうやって生きているのだろうかと不思議に思っていたのヨ。
同郷の大物スタア主演映画に出演できて良かったですね~(…共演シーンは無いけれど)。
少々ベタな演出もあるのだが、そういう部分も含め、良い意味で、想像通りの作品であった。
私が望んでいた通りのSABU監督初期作品のテイストで、そこに張震という個性が上手くマッチ。
張震を好きな監督が、“こんな張震を見たい”、“カッコイイ張震はこうであって欲しい”と
作品の中で意のままに張震を遊ばせ、張震の魅力を引き出そうとしているのが分かる作品とでも言おうか。
だから、同じように張震を好きな日本のファンのツボにはハマるはず。
これ、数ある張震出演作の中でも、“張震を愛でる”という点では、私にとってはベスト5に入る。
張震?興味無いしぃー、という人でも、もしSABU監督初期作品のノリが好きなら、お薦め。
小品ながら、なかなかの秀作なのに、宣伝がほとんどされていないのは残念。
公式サイトの情報量は微々たるものだし(上映中の映画館が、当初“上映劇場”に記載されていなかった)、
公開時にパンフが間に合っていないとか、配給会社は宣伝する気があるのだろうか…。
あっ、でもねぇ、上映館・新宿武蔵野館では…
SABU監督、張震、青柳翔、白潤音、有福正志のサイン入りポスターや、作品をイメージしたディスプレーが。
さらに…
劇中、張震扮する龍が着ているパフュームTシャツのロゴに似せた“ミスター・ロンTシャツ”も売られている。
買うべきだったかしらー?!色はネイビー、サイズはユニセックスでS・M・L。