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映画『クレアのカメラ』

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【2017年/韓国/69min.】
映画祭開催中のカンヌにやって来た映画会社社員のチョン・マニは、
出張中にもかかわらず、女性社長のナムから、解雇を言い渡される。
入社して5年、室長として、ナム社長からも部下からも信頼されていたはずなのに、なぜ…?
取り敢えず現地に残ったものの、途方に暮れるばかりのマニ。

一方、同じく映画祭のためにカンヌへやって来た映画監督のソ・ワンスは、
空いた時間を、カフェで過ごしていると、隣のテーブルのフランス人女性から声を掛けられる。
その女性は、パリからやって来た音楽教師のクレア。
写真が好きで、よくポラロイドカメラで撮影をするという。
話の流れで、二人は、映画会社社長のナムも交え、食事に。
話が写真の事に及ぶと、「私に写真を撮られた人は、その前と後で変わっている」とクレア。
彼女の言っている事が、今一つ理解し難いソ監督とナム社長。

クレアは、海辺で、マニにも会っていた。
クレアと意気投合したマニは、そのまま彼女の部屋に招くが、そこにナム社長から電話が入り…。



女優キム・ミニとコラボした、ホン・サンス監督近年の4作品を紹介する特集上映の一本。

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それら4本とは、日本公開の順に、『それから』(2017年)、『夜の浜辺でひとり』(2017年)、
『正しい日 間違えた日』(2015年)、そして『クレアのカメラ』(2017年)。
内、私は結局、『夜の浜辺でひとり』しか観に行けていない…。
この『クレアのカメラ』は、2作品目。



本作品は、フランス・カンヌを舞台に、出張先でいきなり解雇された映画会社室長マニ、
彼女を解雇した女性社長ナム、ナム社長と男女の関係にある映画監督ソという3人を、
彼らと偶然出逢ったフランス人女性クレアを介し、ユーモラスに描くヒューマンドラマ。

ホン・サンス監督作品には、映画監督、映画学科の学生、教授といった人物がよく登場する。
特に、ホン・サンス監督自身の分身にも思える映画監督は、大抵、だらしなかったり、女性に弱かったりで、
お世辞にも立派な紳士とは称し難い。

本作品も例外ではなく、ソ・ワンスという映画監督が登場。
これまた他作品に登場する映画監督と同様で、悪い人ではないけれど、女性に少々だらしがない。
映画会社の女性社長ナムと大人の関係を続けているが、その会社の社員マニにもちょっかいを出す始末。

二人の女性、マニとナム社長は、相手がソ監督と関係している事など、当初は知らない。
知らず知らずの内に、ソ監督を巡る三角関係が形成されていたのだ。
最初にソ監督の裏切りに気付いたのはナム社長で、私情から社員のマニを突如クビ。

「私が求めるのは正直であること。あなたは素直。でも、素直な人が正直とは限らない」
解雇宣告を受けた時、マニがナム社長から聞いたのは、このような言葉だけ。
その言葉が何を意味するのか、マニは見当がつかない。
この突然かつ意味不明の解雇で幕を開け、徐々にその裏に隠された人間模様を紐解いていくのが本作品。

そして、その3人が織り成す人間模様を第三者的に傍観し、かつ、繋げていくのがフランス人女性・クレア。
ポラロイド撮影が好きなクレアは、「私に写真を撮られた人は、その前と後で変わっている」と言う。
また、撮った瞬間を収めた写真は、後でゆっくり見直せるとも言う。
本作品のタイトルには、
クレアのカメラ=クレアの目を通し見えて来る人々の変化を温かく捉える意味が含まれているのだろうか。




主要キャストは…

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出張先で突如解雇される映画会社室長チョン・マニにキム・ミニ
マニを解雇する映画会社社長のナム・ヤンへにチャン・ミヒ
ナム社長と男女の関係を続ける映画監督ソ・ワンスにチョン・ジニョン
そして、カンヌで彼ら3人と出逢うフランス人音楽教師クレアにイザベル・ユペール


本作品の売りの一つは、ホン・サンス監督にとっての韓仏二人のミューズが共演している事であろう。
韓国のキム・ミニは、不倫で騒がれたので、今更言うまでもなく、
ホン・サンス監督近年の絶対的ミューズである。
もう一方のイザベル・ユペールは、大変有名なフランスのベテラン女優でありながら、
彼女もまた、過去にホン・サンス監督作品への出演経験がすでにアリ。

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『3人のアンヌ』(2012年)がそれ。
2012年、第13回東京フィルメックスで『3人のアンヌ』が上映された際、
来日してQ&Aを行ったホン・サンス監督によると(→参照
パリで監督の回顧展が開催された時に、イザベル・ユペールとランチをする機会に恵まれ、
その後、今度はソウルでイザベル・ユペールの写真展が開催されたので、再会し、
2ヶ月後には、もう『3人のアンヌ』の企画が動き出していたようだ。
起用の動機について、「私は、イザベル・ユペールが好きだから、撮りたかった」とも語っていた。
河直美監督も、カンヌでジュリエット・ビノシュと出逢い、意気投合してから、あっと言う間に
『Visione -ビジョン-』(2018年)のクランクインに漕ぎ着けているし、
海外ウケする監督はモタモタせず、スピーディに事を運びますよね。
(これは、他の分野にも通じる。)

このように、イザベル・ユペールとはすでに仕事仲間だったこともあり、
2016年、第69回カンヌ国際映画祭が開催された時、
『エル ELLE』で参加のイザベル・ユペールと、『お嬢さん』で参加のキム・ミニを起用し、
僅か数日で撮り上げたのが、この『クレアのカメラ』。
映画祭のためにカンヌを訪れた映画会社社長&社員、そして映画監督により綴られる本作品は、
映画祭の舞台裏では本当にこういう事件が起きているかも?と思わせる。
まぁ、事件と言っても全然大それた物ではなく、あくまでも個人的なささやかな出来事を綴った
ホン・サンス監督らしい“裏・カンヌ国際映画祭”のお話。


諸悪の根源であるソ監督に扮しているチョン・ジニョンは、
これまで娯楽作品でばかりよく目にし、演技も娯楽作品向けのやや大袈裟な印象があったけれど、
本作品で見ると、肩の力が抜けていて、
ちゃんとホン・サンス監督作品に登場する映画監督的なトボケた味を出していた。



ちなみに、本作品に衣装デザイナーは存在せず。
イザベル・ユペールのインタヴュによると、
ホン・サンス監督からの指示通り、スーツケースを持って行ったところ、
監督がそのスーツケースを開き、中をチェックし、
ものの5分で、「これとこれとこれ」と、服を選び、コーディネイトしていったという。
黄色いコートとブルーの小さなバッグ、…といった具合に、色を基準に選ぶようだ。
イザベル・ユペール曰く、衣装を選ぶホン・サンス監督は、「まるで絵を描いている画家」。
…と言うわけで、クレアのお召し物は、イザベル・ユペールの自前です。
キム・ミニに関しては、その手の記事を読んでいないため、未確認だが、やはり自前の確率が高いかも。
マニのお召し物も、茶系の服に赤のミュールといった具合に、アクセントとなる強い色をもってきているし、
それが、ホン・サンス監督が好む色合わせなのかも知れない。





本作品は、69分という小品。
ホン・サンス監督×イザベル・ユペールのコラボ作2本を比べた場合、
観応えという点では、『3人のアンヌ』に軍配を上げる。
キム・ミニとのコラボ作で、この前に私が観た『夜の浜辺でひとり』と比べても、
やはり、そちらの方が観応えはあった。
でも、ユーモアがあってキュートな憎めない作品。
尺が短く、展開がシンプルなので、
“カンヌの空き時間に撮ったやっつけ仕事”と失望する人も居るかも知れないけれど、
あの時期のカンヌで即興的に撮ったからこそ(←実は計算もされており、完全な“即興”ではないと思うが)
取り込めたあの場の空気もあるような気がして、私は結構好き。

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