【2012年/中国・韓国/108min.】
中国山西省。 おばさんの家から通学していた王小波は
小学校を卒業した夏、親友の楊晉を伴い、両親が暮らす運城へ向かう。
ふたりは、土産を買い、乗り物を乗り継ぎ、ようやく遠く離れた小波の実家に辿り着くが
炭鉱で働く小波の父は怒りっぽいし、親戚の家にお使いをさせられるし、ふたりはまったく遊べない。
楊晉はいい加減ここを離れ、自分のおばあさんの家へ行こうとするが、またまた引き留められ
今度は、存在すら知らされていなかった小波の姉・小蘋を訪ねることになり…。
2012年第25回東京国際映画祭、アジアの風で上映された
楊謹(ヤン・ジン)監督作品を鑑賞。

東京国際映画祭に、楊謹監督作品は初登場。
尖閣諸島問題で、今年の東京国際映画祭は、中華圏から華やかな俳優・監督の来日がパッタリ無くなったが
有り難い事に楊謹監督は来日し、上映終了後にQ&Aとプレゼントの配布までやってくれた(→参照)。
さすがインディペンデント系は、政治的不測の事態に強い。
逆の見方をすると、東京国際映画祭は、政治的不測の事態に弱いようで
中華系作品に限って言えば、今年はなんか東京Filmexに近付いた感じ?
本作品は、
中国山西省平陸を舞台に

王小波、楊晉というふたりの少年が過ごすある夏の出来事を描くロードムーヴィー。
小波は、普段叔母の家から街の学校へ通っているが、小学5年生を終えた夏、
親友・楊晉を連れて、実家へ帰る。
小波の実家が有るのは、もう直ダム建設で水の中に沈む村。
楊晉は、小波から常々村の話を面白おかしく聞かされていたのに、いざ小波の実家に到着すると
そこには怒りっぽい小波の父親が居るし、小波のお使いに付き合わされ、彼の親戚訪問をする羽目になる。
小波にしても、せっかく久し振りに帰郷したのに、相変わらず父親からはガミガミ言われるし
退屈な親戚回りをさせられるしで、親友にいい所を見せられない。
少年時代の夏休みだからと言って、キラキラ眩いばかりの想い出を描いているのではなく
トホホの連続を綴っているのが微笑ましい。
舞台となる山西省の村は、ド級の田舎。
商店らしき物は見当たらなく、日本では一年中どこのスーパーにも必ず並んでいるキャベツが
入手困難なレア野菜らしい。 村人が屋外で一緒に
テレビを観ていたりもする。

中国は、都市部と農村との格差が激しいと言うし、この村はきっとこういう所なのだろうと
特別疑問にも感じず受け止めていたが、実は作品の時代背景は、現代ではなく
1995~97年に設定しているとのこと。
中国人は、ラジオ体操のシーンを見ただけでも、おおよその時代が推測できるんですって。
何か事件が起きるわけでも無いシンプルなお話を魅力的にしているふたりの少年のキャラが良い。
58人中54番目という不名誉な成績の小波は、やんちゃでちょっとお調子者。
常に成績トップの楊晉は、眼科医の息子で、口数少なく理知的。
身長も、小波がチビで楊晉はノッポと正反対。 この凸凹コンビの掛け合いに、顔が綻びる。
特に小波のマシンガントーク、最強ですワ。 作品冒頭から捲し立て、掴みOK。
扮しているのは、王小波役が、当時小学3年生の李書晨(リー・シューチェン)で
楊晉役が小学4年の王琛(ワン・チェン)。
クランクインのたったひと月前に、オーディションで選んだ子供たちらしい。
訓練を積んだスレた子役と違い、子供らしい子供なのに、見せる演技が絶妙で脱帽。
小波役の李書晨クンは、顔がまた可愛らしい。 奈良美智が描く子供みたいな利かん坊の顔で。
賢い親友・楊晉(Yáng Jìng)クンは、監督・楊謹(Yáng Jĭng)と名前の発音が似ているが
実際、1981年生まれの楊謹監督自身も、子供時代に、友人の実家に連れて行かれた経験が有り
作中に、自身の想い出が散りばめられているようだ。
あと、所々にアニメーションを挿入しているのが、特徴的。
本当は、実写とアニメを融合させるのは、あまり好みではないのだが
郷愁漂う中国風で、なおかつシュールな絵が、結構好きな感じであった。
ちなみに、楊謹監督自身、少年時代、名前が似ていることから、孫悟空より好きだったという
作中登場する第3の目を持つ楊戩(Yáng Jiăn)は、こんな感じ (↓)
日本では、超有名な孫悟空と引合いに出されるほど楊戩の知名度が高いとは思えないが
あちらでは、孫悟空並みに知られたキャラクターなのであろう。
甄子丹(ドニー・イェン)が孫悟空を演じる3D映画『大鬧天宮~The Monkey King』では
肉体派のイケメン何潤東(ピーター・ホー)がこの3ツ目に扮することになっているけれど(↑画像右端)
この映画、どうなったのだろう。
内容は異なるけれど、凸凹コンビの少年が主人公でチビの方がお調子者、
アニメを挿入した子役が魅力的な作品、…という共通項から、台湾の『Orzボーイズ!』が重なった。
『Orzボーイズ!』同様、本作品も、アンチ子役の私が珍しく気に入った子供を主人公にした作品。
想像していた以上に、チャーミングな小品であった。
