【2012年/台湾/中国/128min.】
台北。 心霓は、何不自由なく育った大学生。 父の恋人は気にくわないけれど
映画監督を夢見るボーイフレンドの阿凱、大親友の宜珈という、彼女を支えてくれる大切な存在も居る。
ところが、宜珈の妊娠を機に、3人の関係が崩れてしまう…。
メディアも注目する華やかな美女・柔伊が付き合う男性は、学生時代から金持ちばかり。
現在交際中の陸平は、バツイチの中年男。 欲しい物は何でも与えてくれるが、なぜか虚しさを感じる柔伊。
そんな時、小というどもりの純朴な青年と出逢い…。
四合院を購入しようと北京へ飛んだ台湾の若き実業家・馬克。
地元の不動産屋社員・小葉の不手際で、とんだドタバタに巻き込まれ、彼女に嫌悪感さえ抱くように。
ところが、小葉が女手ひとつで育てる幼い息子・豆豆からひょんなキッカケで父親だと思い込まれてしまい…。

『モンガに散る』(2010年)に続く長編劇場映画第3弾。
2012年10月、東京中国映画週間で上映されるも、都合がつかず、観逃したら
今度は、歓楽春節・中国映画週間で再度上映。
この“歓楽春節”は、10月に上映した作品を、虎ノ門の中国文化センターで、改めて紹介するプチ映画祭。
会場は、ちゃんとした映画館ではなく、センターの一角。
スクリーンは小さいし、照明も完全に落とし切れず、落ち着かない雰囲気だが、料金は
無料。

観たかった作品を、日本語字幕付きで、しかもタダで観せてくれるのだから、感謝こそしても、文句など無い。
本作品、内容は…



徐々に人間らしい感情を取り戻していく青年実業家
…と、台北と北京という二都市を舞台に、8人の男女が織り成す
様々な愛の形を描いた物語。

3ツの物語は、それぞれに独立しているようで、実はあちらこちらでちょっとずつ繋がっているから
“3話から成るオムニバス”というより、色々な愛が詰まった大きなひと塊りのラヴストーリーといった感じ。

例えば、北京で四合院購入を考える馬克が、不動産屋・小葉と待ち合わせるのは、恭儉胡同。
愛新覺羅サン、葉赫那拉サンなど満族の会合が行われ会場は
京劇の名優・梅蘭芳の食卓を再現したレストランとして知られる
梅府家宴 (ちなみに鈕承澤自身満族)。

小葉の息子が通う小学校は、西城區の
西什庫小學。 ここ、清朝光緒年間の創立で

現在の北京では珍しい、その頃の面影を残す、歴史的価値の高い小学校らしい。
場所を移して台北。 セレブの遊び場として登場するホテルは、
台北W酒店 W Taipei。

先日台北でWに泊まった時、ロビー脇で
本作品のDVDが販売されていたり

出演者のサインが展示されていたので(↑)、なぜだろうと疑問に思ったが
実は本作品には、ここで撮られたシーンが随分沢山有ったのだ。
出演は、裕福な家庭で育った美術系大学生・陸心霓に郭采潔(アンバー・クォ)、
まさかの妊娠をしてしまう心霓の親友・李宜珈に陳意涵(アイビー・チェン)、
映画監督を夢見る心霓のボーイフレンド阿凱に彭于晏(エディ・ポン)、
情に欠ける若き実業家・馬克に趙又廷(マーク・チャオ)、
馬克に物件を案内する北京のシングルマザー金小葉に趙薇(ヴィッキー・チャオ)、
男性に頼って生きてきた自分に嫌気がさしてきた美女・方柔伊に舒淇(スー・チー)、
そんな柔伊と真っ直ぐに向き合う吃音の青年・李小寛に阮經天(イーサン・ルァン)、
そして、柔伊を囲うバツイチの資産家・陸平に、本作品の監督でもある鈕承澤(ニウ・チェンザー)。
心霓(郭采潔)と宜珈(陳意涵)は、どちらも小動物系のカワイ子ちゃんで、顔の種類が似ているから
阿凱の一時の気の迷いも理解できる。
その後、心霓に許しを請うため、阿凱がとった行動といったら、「・・・・・。」
糞尿浄化槽への懺悔のダイヴは、お芝居だと分かっていても、う゛う゛っ、気持ち悪かったーっ…!
両岸の大物女優、舒淇と趙薇の起用にも注目。 役回りを見て思った、さすが大物待遇と。
本作品では、阮經天、趙又廷、彭于晏という鈕承澤監督の秘蔵っ子が総動員され
まるで兄貴分から、お姐様方に誠心誠意お仕えするよう命じられたかのように、お務めに励んでいる。
(唯一難を逃れ、若人チームに回された彭于晏 …笑)
ドラマ『ブラック&ホワイト~痞子英雄』でも、映画『モンガに散る』でも、真っ直ぐな青年を演じた趙又廷が
本作品では、冷めた実業家に扮しているのは新鮮。 スーツ姿が素敵すぎる。![]()

女性経験皆無のどもりの青年に扮する阮經天もすごく上手いし、すごく良い。
(
除隊おめでとうございます。 今後の活躍に益々期待。 結婚より仕事!でお願いいたします)

そして、忘れてはならない自作自演の鈕承澤。
今回の役は、同じく自作自演のドラマ『墾丁(ケンディン)は今日も晴れ!~我在墾丁*天氣晴』での役の
延長線上とも思える、そして、鈕承澤本人をも匂わせるちょい悪セレブ。
中華圏の監督兼俳優で、姜文(チアン・ウェン)とこの鈕承澤は、自分がかっこいいオヤジだと分かっている
(だから痛い若作りなんかしない。50過ぎてなお茶髪にしがみ付く佐○浩市とかさぁ、見習っていただきたい)。
悔しいけれど、実際、趣味が良く、カッコイイ。
台湾は、気の置けないオジちゃんやヤーさん役がハマる味のある男優は豊富に居ても
リアルなセレブ感を醸せる男優となると、慢性的な人材不足なので、鈕承澤は貴重な存在。
本作品では、両岸大物女優のお世話を弟子たちに任せ切りにせず
自らも率先して接待 (…職権乱用とも言えるが)。
作中、舒淇扮する柔伊を囲っているのは、見ての通り。
趙薇扮する小葉とは、何の接点も無いように思えるが、いやいや、間接的に“相手役”。
小葉の昔の男、彼女の息子のパパは、鈕承澤扮する陸平だと断言いたします…!


「その彼女とはもう数年音信が途絶えている」と語る。

どうヨ。 そう、鈕承澤監督は、自作の中で、大物女優ふたり共と肉体関係を持っていたのだ(←勿論設定上)!

でも、最初から、お気楽娯楽映画という心構えで観れば、この手の作品としては上出来で、充分楽しめる。
衣装や美術のセンスも良く、女子をワクワクさせてくれる仕掛けがいっぱい。
物語が分かり易く、ドラマでお馴染みの俳優たちが多数出演しているので、普段映画を観ない台湾ドラマニアや
チンピラを主人公にした前作『モンガに散る』はどうも苦手という女性には、特に良いかも。
同じように北京(+中華圏のもう一都市)を舞台にした小ジャレたラヴストーリー、
彭浩翔(パン・ホーチョン)監督作品『恋の紫煙2』と比べてしまうと、私は
『恋の紫煙2』に軍配を上げる。

鈕承澤監督は最大公約数を狙った正しい娯楽作品を撮り、彭浩翔監督は娯楽作品にさえ毒を盛るから。
最後に、今や楽しみにしている人さえ居る中国映画週間名物の
日本語字幕にも言及しておく。

以前と比べ随分マシになっているので、最初の内は、これが中国映画週間という事を忘れ、作品に没頭。
ところが、鈕承澤扮する陸平最初の登場シーンで、「…??」。
囲っている女・柔伊へ掛ける言葉がオネェ言葉では、陸平のちょい悪オヤジっぷりも説得力無いわよねぇ~。
あの字幕を読んで、“見た目は男でも心は女、悩める柔伊のよき相談相手”が陸平の役設定なのかと思った。![]()

逆に、大学生役の彭于晏が、ガールフレンドと喋る時、「しかし、私は…」とやたらお堅いのも、まぁ御愛嬌…?
日本語ネイティヴに監修させる事だって可能だろうに、このおかしな字幕をやめないのは
もしかして、これを楽しみにしているマニアの存在を意識した上でのウケ狙いなのか…?