【2011年/中国/90min.】
大学を卒業したばかりの青年・周小輝は、カリスマ編集長Alexから“Patrick”という名を与えられ
一流ファッション誌<名尚~Celebrity>の編集部に採用される。
それから3年後、副編集長にまで上り詰めていた小輝は、今や中国ファッション界で誰もが一目置く存在。
ところがある日、突然、理不尽な解雇通告…。
憤慨した小輝は、独立して一から新たなファッション誌を作ろうと一念発起。
だが、そんな小輝を信じ、ついてきてくれた部下は、英紅と小胖という冴えないふたりだけ。
さらに、学生時代からの親友で、お坊ちゃまの武陽の力を借り、カメラマンやアートディレクターも雇い
<摩登~Modern>の創刊に向け、始動するが…。
2012年秋、東京中国映画週間で観逃した作品を、中国文化センターの中国映画上映会で鑑賞。
ここは一種のコミュニティセンターといった施設で
映画上映している横で開催されている写真展にやって来た人々の喋り声は聞こえるし
照明も充分に落とされないし、映画鑑賞に適した環境とは言えないけれど、なにぶん無料。
文句など有ろうはずがございません。
多少鑑賞環境が悪くても、私が本作品を観たかったのは
これが尹麗川(イン・リーチュアン)監督作品だったから。
尹麗川は、父娘の関係をさり気なく描いた『公園』(2007年)を観て以来、注目している大陸の女性監督。
本作品の舞台は、
中国北京。

主人公・周小輝、通称“Patrick”は、一流ファッション誌<名尚~Celebrity>に配属され3年もせず
副編集長の座に就き、今や中国ファッション界に大きな影響力をもつ、やり手のファッションエディター。
だが、その実力が災いし、上司Alexにハメられ、突然の解雇。
だったら自分の手で<名尚>を越える雑誌を作ってやる!と奮起し、自分に賭けてくれた部下の英紅や小胖、
学生時代からの親友・武陽らと<摩登~Modern>創刊に向け始動するも、一難去ってまた一難…。
そう、物語は、地に落ちたカリスマが、素人集団を従え、衝突しながらも、人として成長し、
仲間との結束を強め、人気ファッション誌を作り上げるまでを
時にファッション界を揶揄しながら、時にコミカルに描く
サクセスストーリー。

鑑賞前、作品のスチールを見た時は
ドンくさい女の子が、ひょんな経緯で、場違いなファッション誌の編集部で働くようになり
厳しい上司の下、どんどん洗練されていく様子を描く、中国版『プラダを着た悪魔』を想像したが
ちょっと違った。
また、厳しい上司が♀女性である『プラダを着た悪魔』と異なり、本作品では♂男性なので
鬼上司とドンくさ部下が、恋愛関係に発展していくストーリーをも想像したが、それもちょっと違った。
いや、最終的には
ラヴストーリーなのだけれど、ラヴの要素は薄い。

恋愛に発展していくプロセスや微妙な心の動きが、あまり描かれていないため
最後のキスシーンを見て、「えっ、あなた方、いつの間にそんな仲に…?!」と、やや唐突に感じてしまった。
出演は、<摩登>の創刊に乗り出す若手ファッションエディター周小輝に台湾の周渝民(ヴィック・チョウ)、
<名尚>を解雇された小輝についていく万年雑用係・英紅に、同じく台湾の徐若瑄(ビビアン・スー)、
小輝をファッション界に導いた<名尚>の名物編集長Alexに香港の譚詠麟(アラン・タム)、
小輝の親友で、金持ちの放蕩息子・武陽に中国の喬任梁(キミー・チャオ)。
喬任梁は、分かり易いアイドル顔ではないので、『加油!好男兒(頑張れ!いい男)』出身という経歴に
これまでどうも納得がいかなかったが、本作品のお気楽放蕩息子(実は結構イイ奴)の役は
スネ夫っぽい見た目も含め、なかなか合っている。
還暦過ぎた譚詠麟扮するAlexは、エルトン・ジョン並みに年甲斐もなくギンギラギンに装い、
昨今の日本なら、草刈正雄や船越英一郎が演じそうな役。
周渝民&徐若瑄の台湾コンビが共演するのは、
ドラマ『Love Storm~狂愛龍捲風』以来8年ぶりらしい。

『Love Storm』では、世間知らずのお嬢様に扮していたビビスー、年齢不詳の若々しさは相変わらずだが
本作品では、冴えない雑用係に扮し、衣装の大半はジャージ(色はジャージの定番色、赤と青)。そこで…
本作品を、『しあわせの雨傘』、『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』、
『ジャージの二人』、『ごくせん』と並ぶ“ジャージ作品”に、
また、徐若瑄を、上記作品の出演者同様、
ベスト・ジャージストに認定させていただきます。

他には、<摩登>が起死回生の策で出演交渉をする大スタア齊西に余男(ユー・ナン)、
<摩登>に採用される結婚写真専門のカメラマン王に筷子兄弟の王太利(ワン・タイリー)、
隠居してしまった伝説のカメラマン秦風に、なんと香港の林雪(ラム・シュ)なども出演。

撮影中の仔仔(=周渝民)が目撃された三里屯SOHOのシーンも(→参照)、案の定あり。
あの頃、三里屯SOHOはまだグランドオープンしていなかったから、撮り易かったのかも。
ちなみに、本作品、何種類かポスターが有るのだが、その内のひとつが、現地中国で…

これは、…やっちゃたかもね(笑)。
パクリと言えば、劇中、小輝が、“Barberry”と書かれた服を着ている部下に
「“Barberry”じゃなく“Burberry”だろ!ファッションに携わる人間がパチなんて買うな!」
とお怒りになるシーンが、なんか微笑ましかった。
こういう昔ながらのパチは、さり気なく、それっぽいスペルに変えているところが
今どきの完璧なスーパーコピーより奥床しく、可愛げがあるではないの。
作品全般は、様々な困難を乗り越え、ひとつ事を成し遂げる『プロジェクトX』的な話で、珍しさは無いが
真の裏切り者が判明するくだりには、ちょっとだけ驚かされた。
両岸三地のスターを集結させたお洒落なエンターテインメント作品は、気楽に楽しむにはもってこいだけれど
尹麗川監督作品だと思うと、まったく物足りない。
尹麗川監督の個性は感じられず、誰が撮っても似たり寄ったりのテレビの2時間ドラマのようで凡庸。
台湾ドラマが好きな仔仔ファンなどは試しに観るのもよいだろうが
私個人は、もっと低予算でも尹麗川監督色をしっかり出した作品を撮ってくれるよう次回に期待したい。
ちなみに、中国映画週間名物の日本語字幕は、マシになったとはいえ、本作品もやはり“難あり”であった。
字数が多過ぎて読み切れなかったり、やたら場違いなお堅い表現を使っているかと思えば
逆に男性の台詞がマイルドなオネェ言葉だったりと、相変わらず。
但し、本作品はファッション業界を描いているという性質上、
男性の台詞を故意にオネェ言葉に訳しているともとれ、判断がビミョー。![]()
