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映画『終戦のエンペラー』

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【2012年/アメリカ/107min.】
1945年8月30日、太平洋戦争に敗れたばかりの日本に、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が上陸、
皇居を目の前に見渡せる千代田区の第一生命館に本部を置く。
GHQ最高責任者ダグラス・マッカーサー元帥から日本通であることを買われ
特命を受けた軍事秘書官のボナー・フェラーズ准将は、早速調査を開始。
この戦争の責任の所在を追求すべく、日本の要人との接触を試みるが、調査は難航。
実はフェラーズ、この特命とは別に、私事でも専属通訳の高橋を通じ、ある調査を進めていた。
彼にはどうしても行方を知りたい女性が居たのだ…。
 
 
 
岡本嗣郎の著書<陛下をお救いなさいまし~河井道とボナー・フェラーズ>
ピーター・ウェーバー監督が映画化。 どうやら日本側から持ち込まれた企画らしい。
 
 
本作品は、1945年太平洋戦争終結直後、敗戦国日本に上陸した
GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が遂行する戦後処理の経緯を描く歴史大作であり
それと並行して、GHQ軍事秘書官ボナー・フェラーズ准将と日本人女性・島田あやとの
時代に翻弄される恋を描くラヴ・ストーリーでもある。
ラヴのパートはまったくの創作。 つまり史実フィクションを融合させた物語。
 
私の興味はもっぱら史実
作品の宣伝で、“日本の運命を変えた知られざる物語”、“知られざる歴史の1ページ”、
“マッカーサーが命じた極秘調査”、“隠されていた真相”などと謳われていたので、興味津々。
…ところが、いざ観たら、本作品で明かされる新事実などほとんど無い (元々そんな予感はしていたが…)。
戦争に関わる御前会議も、玉音の録音から放送までの緊迫した流れも、すでによく知られた話。
もっとも、もし別のところに“本当の真相”が有ったところで
それは十年後も百年後も明かされることなど無いのかも知れない。
ましてや、この一ハリウッド作品が初めて暴く真相など無い方が当たり前だし
無駄にタブーに触れ物議を醸すような真似はするわけが無い。
 
 
強いて興味深いと思えるシーンをひとつ挙げるなら、マッカーサー元帥と昭和天皇が初めて面会する部分。
まず、昭和天皇が、会談場所である駐日アメリカ大使館公邸に向かう際乗っていたお車に注目。
私の間違いでなければ、菊の御紋を付けたロールスロイスだったように見受けた。
当時日本の天皇が、ほんの一ヶ月前まで敵国だったイギリスの車を御料車に用いるなんて
にわかに信じ難い。 現実にはどうだったのか。 
続いて、天皇陛下に謁見する際の決まり事に注目。
陛下は会談の席で飲食をしないとか(毒を盛られる可能性が有るから?)、 陛下に触れてはならない、
目を合わせてはならない、影を踏んではならない、左側に立たなければならない等々…。
そして色々決まり事を教え込まれたマッカーサー元帥が、遂に昭和天皇と面会する運びとなるわけだが
このシーンの両者のやり取りは、どこまで史実に則し、どれ程度想像を交え描いているのだろうか。
マッカーサー、お約束を無視して、昭和天皇をバッチリ凝視しているが。
陛下も、生まれて初めてあんなにマジマジと目を合わされ、さぞや戸惑われたことであろう。
で、会談時のあの有名な写真の撮影風景も、作中再現されている。(↓)
 
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おぉぉ~っ、現人神が、アメリカからやって来た平民からのツーショットのおねだりに応じた歴史的瞬間…!
この写真だと、マッカーサー元帥は昭和天皇の右側に立っている。 ここでも掟破り?
それとも、“向かって左側”だから良いのか?
映画の中のこの写真では、人物の後方に置かれている物なども、かなり忠実に再現されている。
 
 
ラヴのパートでは、実在したボナー・フェラーズ准将と架空の日本人女性・島田あやとの悲恋を描く。
史実ベースの物語にフィクションを盛り込むこと自体は、必ずしも悪いとは思わないけれど
あまりにも現実味が感じられず、私はシラケてしまった。
現実味を感じられない一番の要因は、あやの人物設定。
あやの一家は静岡の準貴族で、父親は大地主。 1932年の時点で、大学教育を受けている日本人女性なんて
それだけでもう相当なインテリで、進歩的で、裕福な家の女性と想像するが
さらにあの時代にアメリカ留学できたのだから、半端じゃない大令嬢のはず。
そんな令嬢が、不安定な時代とはいえ、1940年に教員として働き、
未婚女性が男性と歩いているだけでも白い眼を向けられそうな保守的な田舎町で
ひとり暮らしの質素な家にアメリカ男を連れ込むなんて、いくらじゃじゃ馬お嬢様でも違和感ありあり。
しかも、その後日本を離れたフェラーズは、個人的な感情から、静岡への爆撃を避けるよう部下に命じたという。
静岡県民は、アメリカ軍人を骨抜きにした同県出身の島田あや様に感謝すべし。
 
 
 
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                                                          (クリックで拡大)
出演は、GHQ最高責任者ダグラス・マッカーサー元帥にトミー・リー・ジョーンズ、
マッカーサーの部下で軍事秘書官を務めるボナー・フェラーズ准将にマシュー・フォックス、
アメリカ留学中フェラーズと恋に落ちる日本人女性・島田あやに初音映莉子、
アヤの叔父で軍人の鹿島大将に西田敏行
 
マッカーサー中心かと思ったら、フェラーズに重きを置いた話であった。
よってトミー・リー・ジョーンズよりマシュー・フォックスの方が出番が多い。
誰もが知るマッカーサーではなく、知名度の低いフェラーズに焦点を当てている点は評価できるが
だったら架空の恋物語など割愛して、実際のフェラーズ像をもっと解明して欲しかった。
あの時代に日本の文化や精神性を解するアメリカ人なんて、かなり珍しかったと思うので
彼が知日派になった本当の理由を知る方が、架空の恋物語などより、私にとっては余程興味深い。
扮するマシュー・フォックスは、大学生役にはいくらなんでも老け過ぎであったが
あとは良い意味で“印象に残らない普通のアメリカ軍人”風情で、役に合っている。
 
あや役の初音映莉子は綺麗。 何度も記した通り、本作品にラヴ不要と思っている私でさえ
彼女の透明感ある美しさには魅力を感じる。
初音映莉子の出演作は何本か観ているはずなのに、まったく記憶に無かった。
1982年生まれで30を過ぎているというのに、初々しく楚々とした佇まい。
 
あやの叔父・鹿島大将も架空の人物。 扮する西田敏行が、英語の台詞に挑戦するのは、もしかして初めて?
こちらはとっくに還暦越え。 その年齢でよく頑張った。 相当特訓したのでは。
ずっと若い初音映莉子より発音良いし。
 
 
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                                                        (クリックで拡大)
 
日本の戦後を描いているという特質上、他にも多くの日本人俳優が出演し、実在した人物を演じる。
東條英機に火野正平、近衛文麿に中村雅俊、木戸幸一に伊武雅刀、関谷貞三郎に夏八木勲など。
 
確かにハゲ繋がりとは言え、東條英機役に火野正平とは意表を突いたキャスティング。
でも案外似ているかも。 他も、写真を並べ、改めて比べてみると、なかなか上手い人選と分かる。
関谷貞三郎という人物は知らなかった。 昭和天皇を補佐していた宮内次官だったらしい。
今年2013年5月に亡くなったばかりの夏八木勲が扮していて、なんかグッとくる。
関谷貞三郎本人は知らなくても、夏八木勲が醸す上品で控え目な雰囲気がまさに宮内次官で、印象に残る。
 
 
キャスティングするのも演じるのも一番難しかったのは、あまりにも有名な昭和天皇だったのでは。
まだ多くの人々の記憶に残る超有名人に扮するなんてプレッシャー。
 
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アレクサンドル・ソクーロフ監督作品『太陽』(2005年)では、イッセー尾形が昭和天皇に扮し
当時かなり話題にだったけれど、本作品では歌舞伎・松嶋屋の片岡孝太郎が役に当たる。
1968年生まれの孝太郎、終戦時44歳だった昭和天皇と年齢はバッチリ。
見た目はソックリではないが、雰囲気はある。 そして恐る恐る耳にした第一声。 なんかイイ感じじゃない?
下手に真似たら滑稽になりそうな昭和天皇独特の口調を、孝太郎なりに上手く表現。
歌舞伎チックな発声とも言える。 とにかく、昭和天皇のイタコと化した孝太郎の第一声で、鳥肌立った。
その後はもう孝太郎が昭和天皇にしか見えない。 やはり天皇のような浮世離れした人物は
現代日本で最も特殊な世界のひとつ、梨園の御曹司に演じさせるのが合っているのかも知れない。
 
 
 
無意識の内に期待が大きく膨らんでしまっていたのか、凡庸なハリウッド作品に感じた。
衝撃の新事実など無く、タブーにも触れず、当たり障りの無い物語で、なんか物足りない。
これがハリウッド作品で描ける日本の戦後の限界であろう。
おまけに、漏れなく付いてくるファンタジーとしか思えないラヴ・ストーリー…。
戦争を題材にしたエンタメ作品と割り切って観れば、良く仕上がっていると認めるし、それなりに楽しめるが
私が本当に求めるものとはズレている。
さらに言ってしまうと、これ、純粋なハリウッド作品というより、日本からの受注でハリウッドが制作した
ハリウッド・ブランドを付けた一種の“OEM生産”日本映画という印象を受けた。
狙いが当たったのか、日本では公開以来、シニアを中心に大ヒットしているらしいが
恐らく日本限定ヒットに終わり、『ラストサムライ』のような世界的ヒットは望めない気がする。
同意する、しないは別として、作中、気になる言葉はいくつか有った。
近衛文麿が言う「日本がやった事は、アメリカ、イギリス、フランス等が過去にやってきた事に倣っただけ」
といった内容の台詞や、鹿島大将が言う「日本人に私欲など無い。 ひとつの信奉のために
時として口にはできないほど残酷な事もしてしまう」といった台詞など。

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