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映画『一分間だけ』

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【2014年/台湾・日本/110min.】
雑誌<Marie Claire>に採用され、晴れてファッションエディターの道を歩み始めた琬真は
取材先で出逢ったゴールデンレトリバーの子犬に“里拉”と名付け、一緒に暮らす恋人・浩介と飼い始める。
どんどん成長する里拉に台北の家が手狭になったため、ふたりは郊外の広い家に引っ越すが
そのせいで琬真の通勤時間は片道2時間に。
会社を辞め、のんびりしようと決心した矢先、編集長に大抜擢。
夢にまた一歩近付き、ガムシャラに働く琬真だが、やがて仕事に忙殺され、心に余裕が無くなり
浩介も去って行ってしまう。
そんな時、里拉に異変。癌が見付かり、もう長くは生きられないと宣告されてしまう…。
 
 
2014年5月31日に日本公開予定の日台合作作品を、ひと足お先に完成披露プレミアで鑑賞。
上映前には、監督、プロデューサー、出演者、日本版主題歌担当歌手による舞台挨拶も。(→参照
 
原作は、日本の原田マハの同名小説。監督したのは、台湾の陳慧翎(チェン・フイリン)
陳慧翎監督作品は、これまでに3本のテレビドラマを観ているが、作風はバラバラ。
要望に器用に応じられる監督なのであろう。
韓流テイストのお涙頂戴『秋のコンチェルト~下一站,幸福』は嫌いで、
玉の輿狙いの女豹モデルを主人公にしたゴージャスなラヴコメ『王子様の条件~拜金女王』は楽しかった。
でも一番好きなのは、八八水災をテーマにした『あの日を乗り越えて~那年,雨不停國』
ひと頃の台湾映画を髣髴させる雰囲気のあるドラマで、いわゆる偶像劇とは趣きが異なる。
私はこれを観た時、陳慧翎監督は映画もイケるはず!と確信。
 
で、今回の『一分間だけ』だが、私は原作小説を知らない。
あらすじに目を通すと、私が苦手な“お涙頂戴モノ”を予感させる。
と言うことは、『秋のコンチェルト』系か…?そんな不安を抱きながら鑑賞。
 
 
主人公は、夢にまで見たファッションエディターの職を得た女性・琬真。
仕事にかまけ、心がささくれ、同居していた恋人・浩介も出て行ってしまい
愛犬・里拉とのふたり暮らし(一人と一匹暮らし)が始まった矢先、その里拉が重病に冒されている事が発覚。
残された時間を里拉と過ごすと決め、日々看病をしている内に、見失っていた大切なものに気付き
自らが再生されていく姿を描くヒューマン(&ちょっぴりドギー)ドラマ
 
私は猫より犬派で、飼っていたこともある。でも、動物や子供を売りにする映画は基本的に嫌いで
本作品の懸念材料もそこであった。だが、いざ観たら、懸念していたほどベタベタではなく、案外アッサリ。 
陳慧翎監督もまた小っ恥ずかしいベタベタ動物映画が苦手なのかも知れない。
上映前には「私は犬を飼ったことがなく、当初主人公・琬真には共感できませんでした。
でも、映画化のお話を受けてから、ある知人が亡くなって、飛行機で台北に戻ることになり
機内で色々な想いが込み上げてきました。それで、映画では、犬に限らず、
人が抱く心の繋がりや愛情を表現しようと思いました」といったような事も言っていたし。
 
そんな訳で、作品に描かれているのは、必ずしも犬に注ぐ愛情とか、愛犬との永遠の別れだけではなく
むしろ、心に余裕が無くなった時、人が忘れがちな思い遣りや犯してしまいがちな過ち、
男女間に有りがちなスレ違いといった“人間”の部分で、私にとってもそちらがより興味深かった。
 
主人公の琬真と浩介は、いつの間にか女性が外で働き、男性が家を守るようになったカップル。
仕事が忙しくなるにつれ琬真は、浩介に対し「何もせずに家に居られるのは幸せ」、
「どうせ暇なんだから、それくらいやって」といった言葉をポロッと吐くようになり
悪意は無くても、浩介をグサグサと傷付ける。これ、日本でもよく男性が奥さんに言う嫌味よねぇ…?
浩介の場合、「主夫には365日休みなんて無いの!」、
「主夫の家事労働を換算したらいくらになると思っているの?!」などと反発せず
黙ってジーッと耐えているから、益々しおらしい…。
身も心も消耗し、知らず知らずの内に暴走する琬真を自分に重ね、反省するのであった…。
 
 
 
 
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主演は、ファッションエディター蔡琬真に張鈞(チャン・チュンニン)
琬真と同居し主夫をする恋人・沈浩介に何潤東(ピーター・ホー)という
 
本作品で一番の問題は、恐らく“琬真の出世が順調すぎる”という点であろう。
大したキャリアも無いまま<Marie Claire>に採用され、ようやく夢の舞台に立てたかと思ったのに
ファッションとは関係の無い犬の取材に回され、その犬の記事さえボツにされた琬真が
社運を賭けた節目の年に編集長に大抜擢!って、その人事、リスキー過ぎるでしょ…。
台北3丁目のタウン誌などではなく、一応天下の<Marie Claire>なんだからさぁー。
まぁ、そんな不可解な人事にさえ目を瞑れば
勝ち気でちょっと身勝手な所もあるけれど、明るくハキハキした女の子が
仕事にのめり込む内に、心に余裕をなくし、周囲をピリピリ緊張させるキツイ女に変化する様子が
上手く演じられている。
知性派、清純派のイメージがある張鈞は、案外かわいげの無い女も上手いのです。
 
何潤東は、これまで定番だったマッチョなヒーローやセレブのイメージを封印し、性格温厚な主夫を演じる。
衣装はヨレたTシャツに短パンといった軽装が多く、脱がない。
…“脱がない”、ただそれだけの事なのに、何潤東なら画期的。
韓流の影響も有るのだろうか、近年、無駄に身体を鍛え上げる男優や
そういう男優の脱衣シーンを無闇に取り入れる作品が激増し、私はすっかりおなかいっぱいになっていたので
服を着ていてくれるだけで、ホッとする。こういう点でも、女性監督・陳慧翎の感性には共感できる。
女性の観衆を喜ばすサーヴィスシーンになると思い込み、男優の裸体を無意味に作品に挿入するのは
女性監督より、むしろ男性の監督ってことなぁーい…?!
オジちゃんたち、オンナを分かっていないんだからぁ~。
ちゃんと服を着た何潤東が、大きな身体でポツネンと佇む様子は、肌をさらしている時より、ずっと萌えるワ。
 
 
他、ファッション業界に名を轟かす敏腕エディターMiss Linに佩霞(タミー・ライ)
琬真に積極的にアプローチしてくる同僚の色男・陳立翔に丁春誠(ディン・チュンチェン)
琬真のアシスタント小南に大嘴巴(Da Mouth)の薛仕凌(MC40)
里拉を診察する獣医に監督業もこなす鄭有傑(チェン・ヨウチエ)など。
 
Miss Lin、目鼻立ちがハッキリした混血で短髪という共通点から、前田美波里を髣髴。
丁春誠は、現在日本で放送中のドラマ『白色之恋~白色之戀』と少しカブる女たらしを演じる。
 
 
日本からは、わがままモデル杏子の役で池端レイナが出演。
登場シーンは少なく、台詞も日本語だが、監督らとコミュニケーションが取りたくて
撮影前に2ヶ月間台湾に住み込み、中国語をマスターしたのだと。
 
この杏子と一緒に日本からやって来る有名アートディレクター田村正和、
…もとい、神谷正和に扮する男優に見覚えがあると思ったら
そう、人気主婦モデル“マエノリ”こと前田典子の夫で、『セデック・バレ』にも出演している(→参照
モデル兼俳優の日比野玲であった。
 
 
 
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また、ゴールデンレトリバーの里拉は、クロージングに4~5匹の犬の名がクレジットされていた。
“わさお”などとは異なり、一匹の犬が演じているのでは無いようだ。
“里拉(リラ)”という名前が、桃源郷“香格里拉(シャングリラ)”に由来するというのは
日本の原作も同じなのか、はたまた台湾映画でのアレンジなのか。
ちなみに、主人公・琬真の母が経営する美容院も“香格里拉美髮院”。
ママの居る実家は、クタビレた琬真が素に戻れる理想郷?
 
 
 
 
陳慧翎監督作品の中では、『あの日を乗り越えて』ほど好きではなく、
『秋のコンチェルト』ほど嫌いでもない、という位置付け。
興味の無い題材の割りに、懸念していた程のベタベタなお涙頂戴にはなっていなかったし
柔らかな光を感じる映像は魅力的であった。
ドン臭いくらい人が好く、大きなガタイでヌボーっとした何潤東も、他の作品で見るよりずっと好みであった。
ただ、私が期待する“陳慧翎監督作品”のレベルには及んでおらず
作家性と一般ウケとの妥協点で折り合いを付けた結果こうなった、という印象。
 
 
 
なお、新宿バルト9で行われた『一分間だけ』完成披露プレミアの舞台挨拶の模様は、こちらから。

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