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映画『サイレント・ウォー』

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【2012年/中国・香港/120min.】
中華人民共和国建国まもない頃。
国共内戦に敗れた国民党は台湾に去ったものの、未だ両者の対立が絶えることは無い。
共産党は秘密裏に“701”という諜報機関を組織し、国民党の無線通信を傍受し続けていたが
ある日プツリと通信が途絶えてしまう。
そこで、組織の責任者“老鬼”こと郭興中は、微かな通信音をも探り出せる聴覚に優れた者が必要と判断し
女性諜報員・張學寧に羅三耳というピアノ調教師と接触するよう命じる。
任務を遂行するため早速上海へ渡った張學寧は、偶然にも羅三耳の助手である何兵という逸材と出会う。
13歳で視力を失った何兵は、驚異的なまでに発達した聴力の持ち主であった。
張學寧は、何兵を連れ部隊に戻り、通信技術を指導。
すると何兵は、予想通りみるみる内に技術を習得し、即戦力となるが…。
 
 
麥家(マイジャー)の小説<暗算>の映画化。
監督したのは、『インファナル・アフェア』シリーズの脚本家コンビ、
麥兆輝(アラン・マック)莊文強(フェリックス・チョン)
過去のふたりの共同監督作品には『三国志英傑伝 関羽』(2011年)などがある。
 
 
幕開けは1949年。国共内戦に敗れた蔣介石率いる国民党は去ったものの、
両者間の緊張は依然強く、水面下での激しい対立が続く頃。
物語は、共産党が秘密裏に組織した“701”の女性諜報員・張學寧、
驚異的な聴力を持つため、彼女に見出され、701に協力することになる盲目の男・何兵を中心に
暗い時代の影で、人知れず大きな力に呑み込まれていく者たちの姿を切なく描くヒューマン・ミステリー
 
まぁ、平たく言ってしまえば、スパイ映画
表向き実業家で裏の顔はスパイとか、色仕掛けで敵に近付く美人スパイとか
これまでにも数多くのスパイ映画が作られているけれど、盲人に諜報活動をさせるスパイ映画は珍しいかも。
この盲目の何兵という男は、聴力が尋常ではないほど発達しているため
敵の無線通信を傍受させるのに適任。
並みの人間では到底聴き取れない微かな音もキャッチし、党に貢献する。
指先をトントンしながら通信するモールス信号のシーンでは
麥兆輝&莊文強が脚本を手掛けた『インファナル・アフェア』を思い起こす。
 
 
 
 
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主な出演者は、701の女性諜報員、コードネーム“200”の張學寧に周迅(ジョウ・シュン)
驚異の聴力を生かし、無線信号の傍受に携わる盲目の男・何兵に梁朝偉(トニー・レオン)
張學寧の上司・郭興中、通称“老鬼”に王學兵(ワン・シュエピン)
後に何兵の妻となる沈靜に范曉萱(メイビス・ファン)など。
 
 
本作品では、周迅を堪能。元々原作小説に、この役は無いらしいが
映画のために、周迅を念頭に当て書きしただけの事はあり、彼女の個性にぴったり。
感情は爆発させず、常に抑え気味。
それでいて、ふとした瞬間に、気持ちの“揺れ”が見え隠れする繊細な演技。
彼女が装う50年代初頭のレトロなファッションも素敵♪
 
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文念中(マン・リムチョン)が手掛けた衣装は、本作品の見所のひとつ。
でも、懐古調に装うのも楽ではなく、周迅は撮影中毎朝4時から髪のセットを開始していたのだと。
 
 
梁朝偉は、『楽園の瑕』(1994年)、『偷偷愛你~Blind Romance』(1995年)、
『サウンド・オブ・カラー~地下鉄の恋』(2003年)に続く4度目の盲人役。
梁朝偉のスパイ役と言えば『ラスト、コーション』(2007年)を思い出すため、
本作品もややへヴィな作風を想像していたのだけれど
いざ観たら、梁朝偉扮する何兵という男には、コミカルとまでは言わないまでも、飄々としたな部分が有り、
『サウンド・オブ・カラー~地下鉄の恋』の盲人にも通じていたのが、予想外であった。
なんでも、『太陽の少年』(1994年)での馮小剛(フォン・シャオガン)の演技が
印象に残っていた莊文強監督は、原作小説を読んだ当時、何兵役に馮小剛を思い浮かべたのだとか。
そう聞くと、梁朝偉が本作品で案外軽妙な何兵を演じているのも、なんか納得。
 
“老鬼”郭興中に扮する王學兵は、最近久し振りに『ラストエンペラー』を観たこともあり
時折り阪本龍一とダブった(但し、斉藤洋介風味をミックスした阪本龍一)。
 
 
あと、張之亮(ジェイコブ・チャン)監督が、張學寧と接触する麻雀の役で特別出演していた。
この麻雀が、お仲間と5人セットで国民党の大物スパイ“重慶”だったというオチは
『MAD探偵~7人の容疑者』『ドラッグ・ウォー~毒戦』といった杜峯(ジョニー・トー)監督作品のよう。
 
 
このように両岸三地の俳優たちの共演が当たり前になった昨今の作品で悩ましいのが言語問題。
北京語版での梁朝偉の吹き替えに批判が多いと聞いていたが、日本公開版は広東語であった。
お蔭で梁朝偉は自然だけれど、代わりに、周迅の第一声を耳にして、「ん…?違う…」と多少の違和感。
一応、ちょっとカスレた周迅の声に近い声優を選んでいるという努力は感じられるし、直に耳慣れるが
建国間もない頃の中国で、公用語が広東語になっているという設定上の不自然さは否めない。
私は声も俳優の一部だと思っているし、中華圏でも徐々に吹き替えに対する不満と
“地声要求”が高まってきているように見受けるので
地域の枠を超えた共演が益々増えるであろう今後、言語対策は重要な課題になっていくかも知れない。
(個人的にも、“吹き替え当然”という中国の吹き替え文化に意識改革が起きる事に期待。)
 
 
 
 
 
終盤、“200”とだけ彫られた張學寧の素っ気ない墓石の前で
何兵と沈靜が「701の特務が表沙汰になることは決して無い…」と諜報員たちの哀しい末路をポツリと呟くが
その割りには、張學寧の葬儀が盛大に執り行われたあの矛盾はナンなのでしょう…?!
党のために殉職した張學寧は手厚く葬られ、そこに大勢の人々が参列し、
遺影にも堂々と彼女の写真を掲げていたわよねぇ…??!
 
俳優の演技は良いし、映像の雰囲気も好き。取り上げた題材も興味深いものなのに
良い素材を生かし切れていないような残念な印象で、物語の世界にドップリ入り込むことが出来なかった。
期待が大きく、ハードルを上げ過ぎたのも、いけなかったかも。
 
劉偉強(アンドリュー・ラウ)と組んだ監督作では、スマッシュヒットを飛ばしているけれど
莊文強との共同監督だと、まだ私にズドンと来る作品を出していない気が…。
 
そして、この『サイレント・ウォー』と、たった数ヶ月の間に3本も立て続けにウォーウォーウォーと
安直に“ウォー尽くし”の邦題で作品を世に送り出す日本の配給会社のセンスって、どーなのヨ…?!
中華作品、取り分け香港絡みの映画の邦題が軽薄すぎる…。しかも、どれも似ていて記憶に残らない。
本作品の場合、『聽風者』とういう中文原題をどうにか生かせなかったものかと、残念に思う。

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