5年の刑期を終え、ようやくシャバに出たヤクザ者の秦是吾。子分たちに華々しく迎えられると思いきや、刑務所の前で自分を待つ者は誰も居ない。腑に落ちないまま、所属する組・血聯の事務所に一人向かうとなんと組事務所がケーキ屋に化け、すっかりケーキ屋店主に成り変わった組長・麥松奇に迎えられる。なんでも、麥松奇は、最愛の女性・瑪亞の死をきっかけに、組を解散し堅気となり、瑪亞の夢だったケーキ屋をオープンさせたというのだ。戸惑う間も無く、今度は死んだはずのその瑪亞にソックリな“千惠”と名乗る若い娘がケーキ屋に乗り込んで来て、「ここで暮らす!」と一方的に宣言。千惠は実は瑪亞の娘で、日本人の父親が負債を抱えて失踪し、他に行くアテが無かったのだ。こうして、ケーキ屋・瑪亞蛋糕店で、元ヤクザたちと日本人の女の子の共同生活が始まるのだが…。
2014年8月末、ホームドラマチャンネルで始まった台湾ドラマ『ショコラ~流氓蛋糕店』が
年を跨ぎ2015年2月末に全22話の放送を終了。
★ 概要

ぜんぜん知らなかったけれど、このコミックは、2003年、すでに日本でTBSの昼ドラになっているそうだ。
台湾でドラマ化されるのは、もちろん初めて。
プロデューサ兼総監督は、これまで数々のヒット偶像劇を世に送り出してきた馮家瑞(ジェリー・フォン)で
その下では、台湾を拠点に活動する日本人俳優で
『一万年愛してる~愛你一萬年』(2010年)で映画監督デビューも果たした北村豊春もメガホンを握っている。
出演者も、これまでの台湾偶像劇と比べ、日本人が多く起用されているし
スタッフにも、例えば日本の有名スタイリスト伊賀大介が造型指導としてクレジットされている。
物語の設定は、舞台を日本から台湾、主人公を日本人から日本育ちの華僑と、一部変更。
中国語タイトルの『流氓蛋糕店』は、“チンピラのケーキ屋さん”の意。
一時期、台湾の偶像劇と言えば、日本のコミックのドラマ化が特徴的だったけれど
最近はオリジナルものが増えているので、こういうの久し振り。
★ 物語
最愛の女性・瑪亞の死をキッカケに、組を解散し、
瑪亞の夢だったケーキ屋さんをオープンさせ、子分たちと運営する血聯組長・麥松奇。
ある日、そこに、日本育ちの瑪亞の娘・千惠が転がり込み、
ひとつ屋根の下で、元ヤクザ者たちとの共同生活が始まったことで巻き起こる擬似家族の情や恋愛模様、
また元ヤクザであるゆえの葛藤をも描いた物語。
一度足を踏み入れたら、なかなか堅気に戻れないのがヤクザの世界。
血聯は組を解散したところで、長年対立してきた稻重會とのシガラミは消えず、
その事が千惠や元ヤーさんたちの生活や恋愛にも影を落とす。
さらに、千惠の肉親に対する愛憎、是吾が抱く幼少時代の深い闇も、物語の大切な要素。
★ キャスト その①:主人公と彼女を守る二人の元極道


本作品は、長澤まさみにとって記念すべき海外初出演ドラマ。
台詞は、中国語と日本語が7:3くらいの割り合い。
扮する千惠は日本で生まれ育った華僑という設定なので、ネイティヴ並みの発音は要求されないが
それでも、誰でも多少は馴染みのある英語などと異なり
“你好(ニーハオ)”や“麻婆豆腐(マーボー豆腐)”程度しか知らなかったであろう中国語の台詞を覚えるのは
並々ならぬ苦労があったに違いない。
また、長澤まさみは、このドラマで、千惠のみならず…
回想シーンに登場する千惠の母・瑪亞も一人二役で演じている。
どうやら瑪亞は“施”という名字から察するに台湾人なので、中国語も完璧で、こちらは吹き替えによる。
慣れない海外で、初めての中国語の台詞に挑戦した長澤まさみの頑張りは讃えたいけれど
“ガキ”呼ばわりされている千惠の役は、20代ももう後半の彼女には、あまり合っているように思えない。
いい年したオトナの俳優に、子供っぽい役を演じさせるのは、台湾偶像劇の悪しき習慣。
このドラマの長澤まさみだったら、(ズラ感たっぷりの頭部に目が釘付けになってしまう事を差し引いても…)
落ち着いた母親・瑪亞の方が、キャピキャピ千惠を痛々しく演じるより、余程自然で合っている。
…とは言うものの、このドラマ出演を足掛かりに、吳宇森(ジョン・ウー)監督の『太平輪~The Crossing』で
金城武の相手役をも掴んだのだから、それなりに有意義な経験になったに違いない。
ちなみに、TBSの昼ドラ『ショコラ』で主人公を演じた大塚ちひろも、長澤まさみと同じ東宝シンデレラ出身。
『ショコラ』をドラマ化する権利を東宝が持っているのかしら。


かつて『アウトサイダー~鬥魚』でならず者を演じ、
主演の郭品超(ディラン・クォ)を食ってしまうほど素敵だった藍正龍。
あれから十年、本ドラマでゴロツキ再び。今回も、自分を犠牲にしてでも、
愛する女性や仲間を守ろうとする無口で不器用でストイックな男を演じているが
なにせ作風自体が幼稚なので、どんなに藍正龍が良くても、ピンと来る何かに欠ける。
なお、藍正龍もまた長澤まさみと同じように、自分の親役を一人二役で演じている。


極道役がハマる台湾男優と言えば、あとにも先にも高捷(ガオ・ジェ)であったが
この馬如龍も『モンガに散る』(2009年)で親分を演じてから、台湾を代表する極道男優に仲間入り。
但し、今回は、“元”極道であって、現在は、日本でも女児が憧れる夢のお仕事パティシエ♪
回想シーンのコワモテ極道と、ストロベリー柄のネッカチーフも愛くるしい気さくなおじちゃんパティシエ、
雰囲気の異なる麥松奇を演じ分けている。
この馬如龍と藍正龍、二人の演技力と存在感だけが
おチャラけたしょーもないこのドラマを辛うじて観られるものにしていると感じる。
あっ、そうそう、このドラマで、元組長パティシエ麥松奇が作るケーキは、えらく不味いという設定らしい。
大丈夫?他人事ながら、ヤクザ廃業でショバ代も入らない瑪亞蛋糕店の行く末が気になる…。
★ キャスト その②:脇で気になるあんな人、こんな人

映画『海角七号』で大ブレイクして以来、演技のお仕事激増のミュージシャン應蔚民。
毛根に力の無いひな鳥のような薄毛で、気弱に見える應蔚民だが、演じる修造は一応元極道。
日本語ができるという触れ込みになっているため、千惠の言葉を兄弟分に伝える通訳的役割を担っているが
その能力は限りなく怪しく、長ーい話も、ひと言ふた言の極端に短い文章に端折りがち。

イケメンではないけれど、実力派として最近伸びてきている90年代生まれの若手俳優。
慢性的な若手不足に陥っている台湾芸能界では貴重な存在。
日本でこのドラマ放送期間中に、出演映画『共犯』がちょうど東京国際映画祭で上映されたので
観たのだけれど…
まるで別人!巫建和だと知らずに観たら気付かなかったかも。
ドラマ『ショコラ』でも映画『共犯』でも、“小者”役というのは共通点。

モデル出身の曾珮瑜は、嫌味のない可愛い顔立ちに加え、長身でスタイル抜群。
本ドラマで扮する奈奈は、是吾の元恋人で、現在是吾に想いを寄せる千惠と、微妙な三角関係。
長澤まさみだってスタイル抜群なのに、演じている千惠が子供っぽいから
どうしても曾珮瑜扮する奈奈の方が大人っぽく素敵な女性に見えてしまい、長澤まさみには分が悪い。

お馴染み洪金寶(サモハン・キンポー)の次男・洪天祥は、本ドラマでアクション監督を担当するに収まらず、
俳優として出演もし、是吾と奈奈の幼馴染み・椎名役をねっちり卑屈に演じている。
日本語の台詞も多少あるので、久し振りに聞いたけれど、相変わらず流暢であった。
役名で、日本では名字のハズの“椎名”が、下の名前になっているのが、日本人にはちょっと面白い。
“孫文”より“孫中山”が慣用されている中華圏では、別に違和感ないのかも。
★ キャスト その③:日本人及び日本語要員

このドラマを監督している北村豊晴は、出演も。
演じているのは、パンチパーマというよりアフロヘア、いつも短パンから短いスネを覗かせ、
コバンザメのように大物の威を借り、騒ぎ立てるお調子者で小者のヤーさん。
トゥーマッチな演技は、当初見ているだけで、おなかいっぱいになってしまったが、その内慣れた。

アメリカを中心にモデルとして活動後、俳優に転身した和田哲史も、本ドラマに登場。
演じているのは、血聯と対立する稻重會の二番手で、藍正龍扮する是吾と互角の実力をもち、
組の枠を超え、ある種の友情で結ばれている謝澤という結構重要な役どころ。
この謝澤、無口な男ではあるけれど、たまに喋ると、やたら中国語が上手いっ!と思ったら…
あの那維勳(ナー・ウェイシュン)が吹き替えを担当していた。
とても自然な吹き替えなので、クロージングで那維勳のクレジットを見るまで、気付かなかった。
口の動きが合っているので、吹き替えられるにしても、和田哲史は相当中国語を勉強したと察する。
最後の最後、英語で電話に応対するシーンだけは、和田哲史本人の声ではないかと推測。
最終回でようやく地声を採用してもらえ、良かった、良かった。
なお、那維勳は、吹き替え声優としてのみならず、ヤーさん役でチラッと特別出演もしている。

血統的には金城武(?)、日台ハーフで、ドラマ『悪魔で候~惡魔在身邊』の陽平役などで注目されたYukiが
久し振りに日本のお茶の間に。
なんでも一時期台湾芸能界を離れ、日本でサラリーマンをしていたらしいが、数年前に復帰。
すっかり変わってしまった!太った!とも言われていたが、1982年生まれで、もう30も過ぎているのだから
いつまでも爽やかアイドルのままだったら、その方がむしろイタイでしょう…?!
こんなサラリーマンだったら、日本の会社で同僚OLたちにモテたと思うわ。
台湾芸能界復帰後、演じる役は悪役が多く、本ドラマでもキレた男。
本当はペラペラなはずの日本語は封印し、台詞は全て中国語。今後は個性派として注目。

鄭有傑は、國立臺灣大學卒業のエリートで、映画監督。
これまでにも俳優として、映画やテレビにボチボチ顔を出しているけれど、今回は結構大きな役。
扮する達人は、高校時代から千惠ひと筋で、ついにはケーキ屋にまで押しかけてきて、ケーキ職人に。
掴み所の無い“不思議ちゃん”なのだが、私は、その度を越えたイイ人っぷりに心を打たれた…!
ドラマに登場する全男性の中で、私のナンバーワンは彼…!!
なお、達人が千惠と話す時の台詞はいつも日本語。
鄭有傑は、父親が日本育ちの華僑であるため、
自身は台湾育ちでも、幼い頃から家で日本語を話していたらしい。
私は、『ヤンヤン~陽陽』の監督として鄭有傑が東京国際映画祭に参加した時、見に行ったが
日本人とまったく変わらない日本語で、観客からの質問に答えておられた。(→参照)
さらに言っておくと、高校生に扮しても違和感の無い年齢不詳の鄭有傑であるが
実は、1977年生まれ、結婚して、二人の子をもつアラフォーのパパ。
★ コアラ
スポンサー様の名前や商品をガンガン視聴者にお見せするのが、中華なドラマの鉄則だが
本ドラマで特に目につくのが、(↓)こちら…

部屋でカサ張るから、もらったら絶対に迷惑な特大サイズのぬいぐるみから
バッグにちょこっと下げられる小ぶりの物まで。
こんなグッズが出ていたなんて知らなかった。
もしかして、市販品じゃなくて、宣伝用のノベルティグッズ?
★ テーマ曲

エンディングは洪天祥(ジミー・ハン)の<不容易>。
ここに貼るのは、えーと、どちらでも良かったのだけれど
エンディング曲しか公式動画が見付からなかったという理由で、<不容易>の方を。
洪天祥は、このドラマでアクション監督のみならず、出演もしていると前述したけれど
実はさらに音楽も手掛けている。<不容易>は歌唱のみならず、作曲も。多才デス。
<ショコラ>は二度もドラマ化されているということは、面白いと評判の人気コミックなのだろうか。
台湾版のこのドラマを観る限り、その良さがまったく理解できない。
ヤーさんがパティシエに転職しても別に構わないけれど
敬虔なクリスチャンが台湾の極道と駆け落ちとか、その娘の音大生までもが組に乗り込んできて、
挙句、刑期を終えたばかりのチンピラにフォーリンラヴとか、現実味が無さ過ぎるし、
ドタバタの作風も幼稚で、どうも物語に入り込めない。
取り留めの無い話をどう収束させるのと思ったら
最終回は(具体的なオチはここでは触れないが…)『インファナル・アフェア』方式で都合よくまとめ、
台湾偶像劇らしく、あっけらかんとハッピーエンディング。
とてもツマラなかったけれど、中国語で演じる長澤まさみには興味が有ったので
それだけを楽しみに、最終回まで漕ぎ着けた感じ。
彼女が存在する意味はやはり大きく、“長澤まさみが出ているから”という理由だけで
台湾偶像劇デビューする日本人視聴者も結構居たのではないだろうか。
しかし、不出来なこの『ショコラ』では、そういう日本の人々を、台湾偶像劇のトリコにするのは難しい。
せっかく日本で台湾偶像劇ファンの裾野を広げられるチャンスだったのに…。
今となっては何を言っても後の祭りだが、台湾偶像劇は題材選びからキャスティングまで
もっとオトナの視聴にも堪えられる成熟した物に変わっていかないと、お先真っ暗ヨ。

張翰(チャン・ハン)&趙麗穎(チャン・イーリン)主演の大陸ドラマ、
『お昼12時のシンデレラ~杉杉來了』が放送開始。
監督は台湾のヒットメーカー劉俊傑(リウ・ジュンジエ)なのだけれど、どうなのでしょう。
あまり期待はしていないが、私は、張翰より黃明(ホァン・ミン)が気になるので、一応視聴予定。