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映画『女優たち』

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【2009年/韓国/105min.】
2008年12月24日。
韓国版<VOGUE>は、世代の異なる女優を6人集め、表紙とグラビアを飾る創刊記念号を企画。
こうして、クリスマスイヴのスタジオに、韓国を代表する女優たちが一人、また一人とやって来る。
編集部のスタッフたちは、ただでさえ、それぞれに個性の強い女優たちの扱いにピリピリしているのに
撮影に使うジュエリーが、天候不良で届かず、頭を悩ます。
そうこうしている内に、チェ・ジウとコ・ヒョンジョンが衝突。
相手の言動にカチンときたチェ・ジウは、ついにスタジオから姿を消してしまい…。


イ・ジェヨン監督2009年の日本未公開作品を、wowowが放送。
2015年3月に初放送があったのだが、気付くのが遅く、結局30分程度しか観られなかった。
それから待つこと約2ヶ月。5月の2度目の放送で、今度こそちゃんと録画し、ようやく全編鑑賞。

イ・ジェヨン監督作品と言えば、『冬のソナタ』で日本のおば様方のハートをワシ掴みにしたペ・ヨンジュンが
微笑みの貴公子のイメージを覆すかのように好色な両班を演じた『スキャンダル』(2003年)が取り分け有名。
確かにあれもそれなりに面白かったけれど
あの作品で私がイ・ジェヨン監督の大ファンになることはなかった。他の作品も然り。

そんな訳で、この『女優たち』も、wowowがわざわざ初公開してくれるのだからと、消極的に観始めたら、
知らず知らずの内に、どんどん作品の中に引き込まれていってしまった。
30分だけでは当然物足りず、2度目の放送を待った、待った。

私がそれまでに観たイ・ジェヨン監督作品は、恐らく3本程度と特別多くはないので、
“イ・ジェヨン監督カラーとはこういうもの”という定義づけはしにくいけれど
この『女優たち』は、少なくとも、私が抱いていた“イ・ジェヨン監督の作風”とは大きく異なる。


本作品を簡単に説明するなら、虚構の物語をさも現実かのように撮った、いわゆる“モキュメンタリー”
主人公の6人の女優たちは
“雑誌<VOGUE>の撮影のためにソウルのスタジオに集められた”という設定の中で
皆自分自身を演じている。
撮影の待ち時間には、彼女たちの仕事や私生活、プライド、嫉妬、悩みなど、様々な事が語られるが
非常に生々しく、どこまでが現実でどこからが虚構、
どこまでが素でどこからがお芝居なのだか、まったく分からない。




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とにもかくにも、まずは、主演の6人の女優たちをチェック。
雑誌の特別企画のために、20代から60代までの韓国トップ女優を集めたという設定なので、年齢に幅あり。
年長者から順に、ユン・ヨジョン、イ・ミスク、コ・ヒョンジョン、チェ・ジウ、キム・ミニ、キム・オクビン


韓ドラをまったく観ない私にとっては、この中で、コ・ヒョンジョンとキム・ミニが、あまり知らない女優。

ベテランのユン・ヨジョンは、私が好きなホン・サンス監督の作品に出ていることもあり、特に好き。
ホン・サンス監督作品の中では、すっとぼけたおばちゃんという印象だが
本作品で、バッチリ決めてスタジオ入りする最初のシーンを見ると、やはり“私は女優よ”オーラを発している。
ベテランの大女優は、着てきたコートを「素敵なミンクのコートですね」と褒められれば、
「ミンクじゃなくてセーブル」と価格及び品質の上方修正をしたり、
若い編集者に「ユン・ヨジョンさん」と気安く呼ばれることに不快感を示したり。
韓国語が分らないので、日本語字幕からだけの理解だが、
韓国芸能界では、ベテラン俳優のことは“○○先生”と呼ぶのが礼儀なのだろうか。
日本でもかつては、山田五十鈴や杉村春子などが、後輩女優たちから“○○先生”と呼ばれていたが。

別にユン・ヨジョンが大物風を吹かせて威張っているという印象はまったく無く、
むしろ弱気で、「私は肌が良くないから、ギャラを値切られても、仕方なく受けてしまう」と発言したり、
<VOGUE>の撮影も、本命の誰かがキャンセルした代役に呼ばれたのではないかと気にしたり…。
離婚に関しては、「フラれたのは私の方なのに、相手にある事ない事吹聴され、離婚を私のせいにされた」、
「(先輩から)あんな男にフラれて嬉しい?こちらからフッた事にしておいた方が良いと言われた」などと
元亭主を“イヤな奴”として語っているが、ユン・ヨジョンのその元亭主が誰なのかは、広く知られているので、
そんな風に言っちゃって差し支え無いのか、こちらの方が心配してしまった。


イ・ミスクは、本作品で見ると、きっちり束ねたまとめ髪のせいか、夏木マリを彷彿。
韓国人女性には珍しく、白髪を染めずに登場したことが印象に残った。
整形や白髪染めで悪足掻きのアンチエイジングをせず、上手に年を重ねるカッコイイお姐様には憧れる。


年長者3人、ユン・ヨジョン、イ・ミスク、コ・ヒョンジョンは、作中語っているように、現実にも離婚経験者。
コ・ヒョンジョンは、離婚してから酒量も増え、太ったという。先輩からは「顔が大きい」発言も(笑)。


チェ・ジウは、6人の中で最も日本で知られた存在。
特に本作品が制作された5年以上前は、日本における韓流ブームもピークだったため、
日本絡みのシーンや日本に関する発言が目立ち、興味深い。
スタジオ入りする前のシーンから、もう日本絡み。
駐車場で、応援用の団扇を持った日本の“いかにも”な韓流おばさんがお出迎え。
他の女優たちの発言からも、日本で韓流を支えているのがオバさん層であると、
韓流スタア本人たちが理解している事が窺われる。

そんなチェ・ジウが羨むライバルを尋ねられると、「イ・ヨンエ」と回答。
「日本市場は制したけれど、中国市場はイ・ヨンエだからでしょ」と分析され、本人も否定せず。
そう、そうなのよ、日本で最大のヒットとなった韓ドラは、後にも先にも『冬ソナ』だが
中国では『チャングム』なのだ。
チェ・ジウは、中国市場を制したという同じ理由で、もう一人羨ましい女優に、ソン・ヘギョを挙げている。
日本の韓流が鳴りをひそめた今は、イ・ヨンエとソン・ヘギョに対する彼女の羨望は益々高まり、
あぁー、私も急落した円じゃなくて人民元を稼いでおけば良かった…!と後悔しているかも知れない。
5年以上前の作品を今観ることで、ブームなんて儚いと改めて感じた。諸行無常でございます…。


キム・ミニで可笑しかったのは、階段の踊り場で、大先輩ユン・ヨジョンと連れタバコをするシーン。
身をかがめ、コソコソと吸う姿を目にしたユン・ヨジョン先生から
「タバコをトイレで覚えたでしょ。吸うなら堂々と吸いなさい」と指摘される。
韓国も若い子、特に女性は、“隠れタバコ”をするわけね。


キム・オクビンは、6人の中で一番認知度が低いのかしら。まぁ、一番若く、キャリアも短いから当たり前か。
ユン・ヨジョン先生は、彼女のことを知らず、他の女優たちから「ほら、『渇き』に出た女優よ」と説明される。
「あれ、怖い映画なんでしょ?」、「ホラー?」、「私、怖いのは苦手」、「私も駄目」と先輩女優たち。
話題になった『渇き』も、女優さんたちには、あまり評判がよろしくないようだ。




これら6人の女優が、撮影に臨む。
ジュエリーが届かず、全員集合の表紙の撮影は延期となるが、個々のグラビア撮影は決行。

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女優は表現者だから、若くても高齢でも、へたなファッションモデルより余程魅力的な被写体。
お召し物やメイクも、それぞれの個性に合っていて素敵。





日本で韓国映画というと、ならず者の血しぶきが飛ぶ激しいヴァイオレンスの犯罪サスペンスや、
観ているこちら側が小っ恥ずかしくなるベタベタのロマンスなど、
とにかく熱くドラマティックに展開する作品が主流で、
本作品のように何も起きないユルい作品は珍しいく、とても新鮮。
何も起きないユルユル作品という点では、ホン・サンス監督作品もそうだけれど
あちらは、あまりの掴み所の無さに、ノレない日本人も多く、好き嫌いがかなりはっきり分かれる。
特に韓ドラで韓国エンタメに嵌まった中高年女性層などは、大半が敬遠するだろうが
本作品の場合、そういう女性でも知っている女優たちが、虚とも実とも分からない会話を展開するから
週刊誌のゴシップを覗いているような感覚も得られるし、画的にファッショナブルだから、地味な小品ながら、
ミニシアター系好きから韓流おばさんまで、案外広い層に受け入れられるのではないかという気がする。

私は鑑賞しながら、もし日本で同じような作品を撮るなら
どの女優が相応しいかなどとキャスティングの妄想を巡らせてしまった。
国際レベルの作品に出演歴があり、実力派と認められていたり、大ヒットした代表作をもつ女優で、
なおかつ独自の世界観を持ち、<VOGUE>のグラビアにも堪え得るスタイリッシュな雰囲気が醸せる
20代から60代となると、居るような居ないような…。
二階堂ふみ、黒木華、杏、菊池凜子、中谷美紀、宮沢りえ、寺島しのぶ、
小泉今日子、桃井かおり辺りでどうでしょう。
50を過ぎても精力的に仕事をこなす黒木瞳は、<VOGUE>より<家庭画報>チックだし、
スタイリッシュという点では萬田久子も入れたいところだが、女優としてのキャリアが今一つパッとせず…。
うーん、結構キャスティング難しい。そう思うと、『女優たち』は妥当な6人を上手く選出しているかも。

そんな『女優たち』、なかなか楽しい作品であったが
これが今更日本のスクリーンで観られる日が来るとは考えにくい。
日本語字幕付きで観たい人は、wowowでの次回の放送か、DVD化を待つしか無いのかも知れません。

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