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映画『キングスマン』

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【2014年/イギリス・アメリカ/129min.】
1997年、中東。
任務遂行中に、敵の手榴弾に気付いたその男は、仲間を守るために、自分の命を犠牲にする。
この事に責任を感じた上司のハリー・ハートは、ロンドンに戻ると、彼の遺族を訪ね、
まだ幼い息子のエグジーに
「何か困った時はここに連絡するように。合い言葉は“ブローグではなくオックスフォード”。」
と電話番号らしき数字が刻印されたメダルを渡し、立ち去る。

17年後。22歳になったエグジーは、学校にも行かず、仕事にも就かず、
ただただ仲間とパブに入り浸ったり、ケンカをしたりの日々。
ある日、盗んだ車で暴走し、ついに御用。
警察で取り調べ中、ふとあのメダルのことを思い出し、試しに電話をかけ、例の合い言葉を呟くと、
不思議なことに釈放される。
警察を出たエグジーを待っていたのは、あのハリー・ハート。
彼はエグジーに言う、「君のお父さんは勇敢だった。今の君を見たら失望するだろう。
生まれや環境を言い訳にしてはならない。努力すれば変われるんだ」と。

この自称・仕立て屋のハリー・ハートは、実はキングスマンという諜報機関のエージェントであった。
ちょうどその頃、組織に欠員が出たため、彼はエグジーに新人採用試験を受けるよう勧める。
最初は懐疑的だったエグジーも、ハリー・ハートの手腕を目の当たりにし、気持ちに変化。
どうせ失う物はない。エグジーは採用試験への参加を決めるが…。



マーク・ミラー&デイヴ・ギボンによるコミック<Kingsman:The Secret service>を
マシュー・ヴォーン監督が映画化。

マシュー・ヴォーンは、『レイヤー・ケーキ』(2004年)で監督デビューし、
近年『キック・アス』(2010年)を大ヒットさせたイギリス人監督。
私は、前者はまぁまぁだったが、後者は世間の皆さまが讃えるほどの傑作だとは感じなかった。



今回の主な舞台は、イギリス・ロンドン。
主人公は、親子ほど年の離れた二人のイギリス人男性。
ハリー・ハートは、サヴィル・ロウの高級テイラーKingsman(キングスマン)の仕立て職人。
…というのは表の顔。実はこのキングスマンは、無報酬で秘密裏に活動する諜報機関で、
ハリー・ハートはそこの敏腕エージェント。
ゲイリー・“エグジー”・アーウィンは、幼い頃に父を亡くした下層階級の22歳。
再婚相手のDVに怯えながら暮らす母の元に身を寄せ、職にも就かず自堕落に生きる日々。

エグジーさえ知らなかったが、彼の父親は、実はかつてハリー・ハートの部下で、
1997年、中東で活動中、仲間を守るために死亡。
ハリー・ハートは責任を感じ、彼の尊い犠牲に何とか報いたいと思い続けていたのだ。
そこで、キングスマンの欠員補助のための新人採用試験に、無職のエグジーをスカウト。
こうしてエグジーは、未知の世界に足を踏み入れる。

本作品は、アメリカのIT富豪が水面下で進めるとんでもないテロ計画を阻止すべく、
諜報機関キングスマンが奔走する様子を描くスパイ映画であり、
同時に、自暴自棄に生きていた下層の青年が立派な紳士スパイになるまでを描く成長物語



紳士なスパイたちのアジトとなっているKingsman(キングスマン)は、
1849年サヴィル・ロウに創業し、上流階級御用達テイラーとなるが、第一次世界大戦で多くの顧客が死亡。
そこで、行き場のなくなった彼らの莫大な遺産を、彼らの意思を継ぐべく運用しようと、
非営利で世のため人のために活動する諜報機関としてスタートした、…という設定。

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撮影に協力しているサヴィル・ロウのHuntsman(ハンツマン)も、今チェックしたら、1849年創業であった。
マシュー・ヴォーン監督がこの店に初めて足を踏み入れたのは、
母親に連れられ、初めてビスポークのスーツを注文しにきた18歳の時なのだと。
当たり前だけれど、あちらには、日本には到底追いつけない洋服の文化がありますね~。


キングスマンのエージェントたちが身にまとっているのも、当然ビスポークのスーツ。
(但し、見た目は普通でも、防弾仕様になっているらしい。)
スパイ・ガジェットも、傘、万年筆、レースアップのシューズ等、紳士のお洒落小物尽くし。


台詞も、記憶に焼き付く小洒落たもの多し。一例を挙げると…
Oxfords, not brogues.(ブローグではなくオックスフォード)
…ハリー・ハントに接触するための合言葉。“ブローグ”はミシン目が入ったカジュアルな靴のこと。
プレーンな“オックスフォード”の方が勿論フォーマルな靴。

The suit is a modern gentleman's armour.(スーツは現代に生きる紳士の鎧)

Manners maketh man.(マナーが人を作る)

To pee or not to pee, that was the headline the day after I defused a dirty bomb in Paris.
(おしっこかおしっこじゃないか、それそは私がパリで爆弾を消した翌日の新聞の見出しだ)
…あまりにも有名な<ハムレット>の「To be or not to be, that is the question.」のモジり。

Martini. Gin, not vodka.(マティーニ、ウォッカじゃなくてジンで)
…紳士なスパイに成長したエグジーが、ボーイにマティーニを注文する際に出した指示。
ジェームズ・ボンドの「Martini. Shaken, not stirred.(マティーニ、ステアじゃなくてシェイク)」のパロディ。


あと、紳士なワードではないけれど、“Negging(ネギング)”は日本でも流行りそうな言葉だと思った。
意味は、相手を褒めるのではなく、逆に否定的な事を言って注意を引き、
会話するキッカケを作る新手のナンパ技術。





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二人の主人公を演じるのは、
キングスマンのエージェント、コードネーム“ガラハッド”ことハリー・ハートにコリン・ファース
幼い頃父を亡くした下層階級の青年、ゲイリー・“エグジー”・アンウィンにタロン・エガートン

『キック・アス』に感激しなかった私が、それでもマシュー・ヴォーン監督の新作を観ようと思ったのは、
ひとえにコリン・ファース様を拝みたかった、それだけに尽きる。
鑑賞前から、絶対にコリン・ファース以外には演じられないハマリ役だと直感した。
イギリスには、他にもハリウッドに進出している同世代のメジャー級俳優がいるけれど、
例えば『アナザー・カントリー』(1983年)でコリン・ファースとも共演しているルパート・エヴェレットは、
実際にアリスト俳優であっても、ゲイであることをカムアウトして以降、演じる役が特殊になっているし、
ヒュー・グラントは、オックスフォード大学で学んではいても(中退)、
数々の下半身問題で、やや軽めのイメージがついてしまっている。
また、レイフ・ファインズの場合だと、画面に映ると、背徳の香りが漂ってしまうし…。
う~ン、色々考えても、このエレガントなスパイは、やはりコリン・ファース以外有り得ない…!

実際に映画を観たら、期待を上回る素敵っぷり。スーツでアクションもカッコイイ。
まぁ元々がアクション俳優ではないから、甄子丹(ドニー・イェン)とかと対決したら、負けると思うけれど。
でも、いいの。別にそこは私の萌えポイントではないから。

ポイントは英国紳士然とした佇まい。また、そう見せてくれるスーツは重要なアイテム。
この映画は、コリン・ファースのみならず、他のエージェントたちも、とにかくスーツ姿が素敵で、
私にとっては、スパイ・アクションではなく、眼福の“スーツ萌え映画”であった…!
私は元々“男はスーツ派”だけれど、これまでそう思っていなかった人でも、
本作品を観たら、スーツのかっこよさに目覚めることウケアイ。

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現に、本作品のヒットで、世界的にスーツへの注目が高まり、
中でも韓国は、その傾向が顕著で、スーツの売上高にはっきり表れているのだと。
特に売り上げが急激にのびているのは、クラシックなダブルのスーツらしい。

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「韓国人男優シン・ハギュンも映画『The Age of Innocence』のプレミアで早速ダブルのスーツ」
と紹介されていたけれど、それが『キングスマン』の影響なのかどうかは、本人のコメントが無いため不明。



スーツ姿のコリン・ファースを堪能できるだけでも、
映画代金の元は充分取り返せたと満足しながら鑑賞していた私だが、
そんな矢先、彼が扮するハリー・ハートが、ラストを待たずして、志半ばでマサカの殉職…!!
主人公が途中で死ぬワケがない、何か仕掛けがあり、あとで甦生して再登場するハズと信じていたのに、
結局本当にあのシーンで絶命していて、それっきりであった…。ガーン…!!



エグジー役のタロン・エガートンは、キャリアの浅い新人でありながら、この大役に大抜擢。
小柄で身軽で、顔もクシャッとしていて、子猿のよう。
エグジーは下層階級の出身で、キングスマンの新人採用試験では、
良家の息子たちに見下され、意地悪をされるが、
ロキシーという女の子だけが、彼を家柄で判断せず、二人は仲良くなる。
このまま恋に発展するのかと思いきや、立派なエージェントに成長したエグジーは、
同世代の同僚・ロキシーには見向きもせず、スカンジナビアのティルデ王女に果敢にアタック。
エグジーってば、案外女性に関しては、貪欲に高みを目指すタイプだったのね…。

“馬子にも衣装”で、街のチンピラだったエグジーも、終盤にはビシッとスーツで決めたジェントルマンに変身。
だが、私には、彼の変身より、彼の母・ミシェルの変貌っぷりの方が驚きであった。
1997年の時点では普通の幸せそうな主婦という印象だったのに、夫を亡くした後の荒廃ぶりといったら…。




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悪役は、恐ろし計画を進めるアメリカのIT富豪、リッチモンド・ヴァレンタインにサミュエル・L・ジャクソン
ヴァレンタインの手下のガゼルにソフィア・ブテラ

サミュエル・L・ジャクソン扮するIT富豪のリッチモンド・ヴァレンタインは、
人類を減らさなければ地球が滅びるという妄想に憑りつかれている。
そこで、地球上の人口削減のために行ったのが、全世界でのSIMカードばら撒き作戦。
通話もインターネットも無料になるという夢のカードを、人々はこぞって入手。
ところが、コレ、特殊な信号を発し、人の神経系を狂わすという恐怖のSIMカードだったのだ。
教訓:タダほど怖いものはない。

このヴァレンタインの恰好は、キングスマンたちとは対照的なカジュアル。
サミュエル・L・ジャクソンは還暦すぎても、こういうストリート系が妙に様になっているし、迫力もある。

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かぶっていたキャップのせいか、“その後のエマニエル坊や”という感じもしたが。


その部下・ガゼルに扮するソフィア・ブテラは初めて見る顔。
アルジェリア系フランス人のダンサーなのだと。
映画女優としてのキャリアはまだ浅いようだけれど、
ボスのサミュエル・L・ジャクソンにも負けない個性派で印象に残る。
義足の美女という現実離れした、いかにもコミックから飛び出したキャラが面白い。
俊敏な動きを実現する彼女のハイテク義足を見ていたら…

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オスカー・ピストリウスは言うまでもなく、
ドクター中松のフライングシューズ“スーパーピョンピョン”をも思い出した。




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他にも、キングスマンのリーダー、アーサー役のマイケル・ケイン
メンバーで教官のマーリン役のマーク・ストロング等、イギリスのオヤジたちがとにかくカッコイイ!





アクションがあってファッショナブルで、台詞もウィットに富んでいて、キャストも絶妙。
ヒットする要素をあれこれ詰め込んだ上手いエンターテインメント作品。
スパイ・アクションに大して興味がない私でも、“スーツ萌え映画”、“オヤジ萌え映画”としての満足度120%。
(コリン・ファース限定で考えても、『シングルマン』と並ぶ“2大スーツ萌え映画”!)
そう遠くない将来、本作品にインスパイアされた中華圏の映画人の手で、
アクションシーンを何倍にも強化した中華版『キングスマン』が制作されそうな予感もした。

ただ、こういうエレガントなスパイ物はイギリスのお家芸。
たとえエンタメ作でも、物語にも、イギリスならではの文化的歴史的要素が盛り込まれ、
ちゃんとお国柄が出ているし。

物語の根底にあるのは、日本人には実感しにくい根深い階級社会。
「出身が貧しくても、努力次第でそこから抜け出せる」というメッセージを発しているが、
下層階級を美化していないし、上流階級の批判もしていない。
批判の対象は、お金だけを得て、気高い精神性を伴わない新興の成り金。
地位の高い人には、それに見合った義務があり、人々のために尽くさなければならないという
“Nobless Oblige(ノブレス・オブリージュ)”の精神を描いているわけ。
また、そのような高貴な紳士は、立ち居振る舞いは勿論の事、装いもキチンとしていなければならない。
“人を見掛けで判断するな”というのは、とても日本的な考えで、
ヨーロッパは勿論、世界的には“人は見掛けで判断される”場合の方が多いのです。
この映画、日本でもかなりヒットしているようだし、日本人男性も良い意味で感化され、
見た目も振る舞いももう少し洗練された殿方が増えることを切に願いますワ。


日本の男性の皆さま、お洒落はまず足元から。ヨーロッパでは、下流の男でも知っていることなので、
映画の中ではハリー・ハート先生から着こなしアドバイスさえありませんでしたが…

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“スーツを着る時はハイソックスを履く”は鉄則です…!
足を組んだ時にスネがチラ見えするなんて下品の極みと鼻で笑われることを覚えておきましょう。

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