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映画『ミッドナイト・アフター』

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【2014年/香港/121min.】
2012年、深夜の香港。
麻雀に熱中するミニバス運転手・阿雪のもとに、同僚から一本の電話は入り、
妻が産気づいてしまったから、仕事を代わって欲しいとの依頼。
阿雪は、借金の返済期限を延ばす条件で、深夜運行を引き受ける。

恋人・阿怡とデートのつもりが、断られてしまった阿池。
仕方なく、家に帰ることに決め、すでに人で埋まりつつあるミニバスに乗り込む。

午前2時28分、阿雪がハンドルを握る大埔行きのミニバスは、16人の客を乗せ、旺角を出発。
順調に走行していたミニバスだが、獅子山トンネルを抜けると、乗客たちは異変に気付く。
なんと、バスの中の自分たち以外、街から人とという人が消えてしまっていたのだ…。




昨2014年、第27回東京国際映画祭でチケットを取りそびれた香港映画が、
シッチェス映画祭ファンタスティックセレクション2015で上映。
一年遅れとはいえ、このような形で再度観賞のチャンスが訪れて、嬉しい。

本作品を手掛けたのは、陳果(フルーツ・チャン)監督。
原作は、Mr.Pizzaによる同名ネット小説<那夜凌晨、我坐上了旺角開往大埔的紅VAN >。

陳果監督作品を観るのは、オムニバス『香港四重奏』(2010年)の中の一篇『黄色いサンダル』以来。
長編作品は、ものすごーく久し振り。『トイレ、どこですか?』(2002年)以来かも。


今回のお話の舞台は深夜の香港。
主な登場人物は、旺角発大埔行きの深夜運行のミニバス、通称“紅VAN”の運転手一人と、
そこに乗り合わせた16人の乗客、計17人。
『那夜凌晨、我坐上了旺角開往大埔的紅VAN』(あの夜の未明、僕は旺角発大埔行きの紅VAに乗った)
という原題通り、この紅VANが大埔を目指して旺角を出発し、獅子山隧道(獅子山トンネル)を抜けると、
バスの外の世界で全ての人間が消失。この世に残された17人が、不安や恐怖に駆られながらも、
何が起きているのか模索し、彷徨う姿を描くSFミステリー

<ウォールストリート・ジャーナル>が、この作品について「公開から数ヶ月後に起きる“雨傘革命”と重ねると、
様々な部分が現実のメタファーと感じられる」と説明していたのを読んでいたため、身構えて観賞。
作品の裏に隠された本来の意味を探ろうと張り切り過ぎ、深読みしてしまったかも知れない。


ザックリ大筋だけ見てみると、まず…
香港を代表する繁華街・旺角から、中国深圳にほど近い大埔まで17人を運ぶ乗り物が、
そもそも“紅VAN(赤いバス)”。

香港精神の象徴ともいえる獅子山を抜け、やって来た世界は6年後の2018年。
(中央政府は、次回2017年の香港行政長官選挙から“普通選挙”の導入を予定していた。
つまり、2018年の香港で行政長官を務めているのは恐らく中央政府に近い人物。)

人々は事の真相が分るかも知れない大帽山を目指そうとするが、謎の団体に行く手を阻まれる。

そこに降っているのは赤い雨。

…と、まぁ、これだけでも、拡大する中央政府の支配や民主主義崩壊への不安や恐怖が窺える。


深読みしまくったので、気になった細かい部分を挙げたらキリがない。
気になっただけで、何の隠喩なのだか読めない物も多いし、そもそも何も意味していないのかも知れない。

例えば、無人の劇団からお金を盗もうとする、ルイ・ヴィトンのバッグを持っている女性、通称“LV”ことLavina。
後に粤劇(広東オペラ)の女優であることが判明するLVは、拝金主義の象徴のようにも思える。
だったら、なぜ彼女はわざわざカツラと入れ歯で敢えて醜く変装をしているのか?
しかも、なぜ金髪の青年・飛機に強姦されるのか?
さらにこの飛機は、なぜLVを強姦した事で皆から責められ、滅多刺しにされるのか?
周囲に同調し、吊し上げた一人の人物を大勢で攻撃する様は、
狂気に駆られた文革中の紅衛兵のように見えなくもない。
でも、そう考えると益々「じゃぁLVは何だったの…?」と疑問が湧く。

あと、そう、この物語には華人のみならず、北朝鮮人や日本人も出てくる。
日本人は、ガスマスクで防御し、「フッドゥ」という意味不明の言葉を残し姿をくらます謎の男。
その「フッドゥ」という言葉は“福倒”のことか、いや“福島”じゃないか?!と人々は推理。
“ガスマスク”、“福島”とくれば、当然原発事故を連想。
どうやら6年前に大帽山から謎の信号が発せられ、大爆発が起きたらしいと知った人々は、
そのせいで香港が福島のように人っ子一人居ない陸の孤島になったのではないかと推測し、
真相を探るために大帽山へ行こうと決めるのだ。
ではそのガスマスクの日本人が、日本とは縁もゆかりも無い阿池という香港人青年に
「僕たちは小学校の同級生」と告げた意味は何なのか。うーん、どう繋がるのかまったく分らない…。



さらに、17人を乗せる紅VAN自体も気になった。
商品広告を施したラッピングバスなのだが、宣伝している商品が…

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彭浩翔(パン・ホーチョン)監督作品『低俗喜劇』(2012年)で注目を集めた爆炸糖(ぱちぱちキャンディ)!
エロ用途で話題になった爆炸糖にまで何か意味を見い出そうとする私は、やはり深読みのし過ぎか?





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気になった出演者を一部挙げておくと、紅VANの運転手・阿雪に林雪(ラム・シュ)
デートの予定が潰れ帰路についた青年、“阿池”こと游梓池に黃又南(ウォン・ヤウナム)
セクハラを受け、仕事をクビになったばかりの女の子Yukiに文詠珊(ジャニス・マン)
仕切り屋の中年男“發叔”こと黃曼發に任達華(サイモン・ヤム)
不可思議な事を口にし“神婆”と呼ばれる保険のセールスレディ・穆秀英に惠英紅(クララ・ワイ)
冷静なコンピュータープログラマー阿信に徐天佑(チョイ・ティンヤウ)
ヤク中の盲輝に李璨琛(サム・リー)、ガスマスクの日本人に周國賢(エンディ・チョウ)など。

それぞれキャラが立っている個性派揃いの群像劇で、香港の俳優を若手からベテランまで網羅。
まぁ運転手役の林雪などは、“毎度の雪(ゆき)ちゃん”という感じだが、
發叔役の任達華は、普段との落差に目を疑ったがった。
浅黒い肌にもっさりリーゼントヘア、服装は野暮ったく、小脇にはセカンドバッグ。
下流感ムンムンのおじちゃんによくぞ化けきったものだ。
根っこは悪い人ではないけれど、お世辞にも教養があるとは言い難く、
喋りだすとちょっと鬱陶しい、こういうおじちゃん、本当に居そう。


私も好きなカッコイイおばさん惠英紅は、最近香港映画よりテレビの大陸時代劇で見る機会の方が余程多い。
未見だが、趙文瑄(ウィンストン・チャオ)がラストエンペラー溥儀に扮している2014年度の大陸ドラマ
『末代皇帝傳奇~The Last Emperor』はどうなのでしょう?
西太后と同じ葉赫那拉(エホナラ)氏の末裔である惠英紅が、
このドラマで西太后の姪っ子で光緒帝に嫁いだ隆裕太后を演じているのが興味深い。…ま、余談ですが。
今回のこの映画では、昨今の大陸時代劇で見る威厳のある惠英紅とは異なる
少々胡散臭いオバさんを演じていて新鮮。

若手では、男性二人組ユニットShineの黃又南と徐天佑が両方とも出演。
“若手”なんて書いたけれど、二人とももう30を過ぎていた…。
役のせいもあるが、阿池役の黃又南は未だ青い男の子という印象。
対して、阿信役の徐天佑は、眼鏡をかけて、なんか大人っぽくなっているではないか。
時折り、角度によって、若い頃の郭富城(アーロン・クォック)のようにも見え、カッコイイ。

ガスマスクを付けた謎の日本人は、日本人が演じているのかと思ったら、
香港のシンガーソングライター周國賢であった…!
周國賢は恐らくある程度日本語を喋れるとは察するが、
いくらなんでも発音が完璧すぎるので、吹き替えよねぇ…?
特に“Google”のような外来語の発音が、日本人英語だったので、そう思った。
(そのGoogleの通訳機能が、広東語に優しくないというくだりも笑えた。)




音楽では、デヴィッド・ボウイの<Space Oddity >が印象的に使われている。



アポロ11号の月面着陸に世界中が湧いていた頃に発表された曲で、
宇宙に飛び立った歌の中の主人公major Tom(トム少佐)が、宇宙船の外へ出て、自分の無力さを感じ、
そのまま広大な宇宙の果てに漂流し、やがて地上管制塔との連絡も途絶える、という内容の歌。
特に「For here am I sitting in a tin can far above the world,Planet Earth is blue and there’s nothing I can do
(世界の遥か上空でブリキ缶に座っている 地球は青い 僕にできる事は何もない)」という部分の歌詞が
この映画とリンクするよう上手く使われている。

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映画の中では、香港のインディーズバンド觸執毛(チョチュクモ)のヴォーカリストJan Curious扮する
紅VANの乗客の一人・歐陽偉がカヴァーして歌うのだけれど、これがとても良い。
オリジナルのデヴィッド・ボウイ版より好きかも。





映画は観る人それぞれに解釈があって然るべきで、だからこそ面白いのだろうけれど、
この映画の細部を考えだすとモヤモヤが止まらないので、
もし陳果監督が意図して所々に隠喩を散りばめこの作品を撮ったのであるならば、
いっそそれらを全て箇条書きにして私に教えていただきたい。
それを頭に入れて、もう一度観賞し直したら、また別の面白さが得られそうな気がする。

でもまぁ、そういう政治的隠喩を抜きに観ても、映像の雰囲気が好みで、
夜の香港を捉えた一番最初のカットから一気に引き込まれた。
ただ、政治的隠喩を抜きにして観ると、ミステリー作品としては、腑に落ちない部分が多いかも。
色々伏線が敷かれているようでいて、結局投げっ放しで、答えに辿り着けないモドカシさも無きにしも非ず。

それにしても、香港で人っ子一人居ないシーンを、いつどのように撮影したのだろう。
人口があそこまで密集した街では、深夜でも早朝でも、
必ず誰かしらフレームに入り込んでしまいそうな気がするけれど。

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