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映画『風の中の家族』

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【2015年/台湾/126min.】
1949年1月、国共内戦で国民党の敗戦の色濃い江蘇省の戦場。
肩を負傷しながらも、激しい戦火をどうにか切り抜けた盛鵬と、彼の二人の部下、順子、小范は、
親を亡くし、たった一人で彷徨う小さな少年を救出し、自分たちと一緒に連れて行くことを決意。
自分の名前も覚えていなかったこの子は、
三人の父がいたと言い伝えられる<三国志>の呂布にちなみ“奉先”と命名される。

間も無くして、国民党ついに撤退。
盛鵬ら4人もなんとか乗船し、聞いたこともない“台湾”という新天地に向け、出航。

そして、1949年3月、彼らを乗せた船は基隆港に到着。
戦場で深い傷を負っていたため、上官の計らいで退役を許された盛鵬は、
奉先を連れ、台北を目指そうとするが、なんと順子と小范までもが軍に無断で彼ら二人に追随。
逃走兵は重大な軍規違反だが、順子と小范の決意は固い。
4人は共に歩いて歩いて、ようやく台北の中心地・大稻埕に辿り着くが…。




台湾の王童(ワン・トン)監督、久々の新作を、第28回東京国際映画祭で観賞。


物語は、国共内戦で親を亡くした孤児・奉先を連れ、
台湾へ渡った国民党の3人の軍人にして義兄弟、盛鵬、順子、小范が、
見知らぬ土地に根を下ろし、生きていく歳月を描く、血の繋がらない外省人家族の戦後台湾史

本作品は王童監督の自叙伝ではないけれど、1942年生まれの監督自身もまた安徽省出身の外省人で、
台湾へ渡ったのは、映画の中の孤児・奉先と同じ年くらいの頃だったという。

外省人監督による外省人の物語は
侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の『童年往事 時の流れ』(1985年)とか
楊昌(エドワード・ヤン)監督の『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』(1991年)とか、これまでにも結構有るが、
“外省人”と呼ばれる人々が、大陸からいかに台湾へ渡り、見知らぬその地に根付いていったのかを、
国共内戦から事細かに追っている作品は、有りそうであまり無いかも。

台湾へ向かう船の中で、「一年中暖かで、四季の区別が無いらしい」とか「言葉も通じないらしい」などと
人々が不安まじりにまだ見ぬ土地について語るシーンさえ新鮮。
台湾へ渡った国民党の軍人というと、蔣介石以下地位の高い軍人を真っ先に思い浮かべてしまうけれど、
下々の者は、嘔吐物の臭いが充満する暗い船底に寿司詰めにされ、命からがら台湾へ向かったのだなぁ、と。


ただ、このような題材は、映画作品にはあまり取り上げられていなくても、テレビドラマになら有る。
“外省人の悲喜こもごもを長いスパンで捉えた群像劇”という共通点から
2008年の台湾ヒットドラマ『光陰的故事~Time Story』が重なった。

『風の中の家族』の場合、血縁の無い者同士が見知らぬ土地で“擬似家族”を形成し、
共に生きていく様子が核になっているのが特徴的だが、
“外省人の戦後台湾史”という点では『光陰的故事』と似ている。


物語の中心となるこの疑似家族の大黒柱・盛鵬には、実は大陸に残した巧玲という妻がいる。
止むを得ず生き別れ、その後も連絡のとりようがなく、行方知れず。
1987年、台湾で戒厳令が解除され、外省人たちの里帰りもようやく許可されるが、
皮肉にも盛鵬はその年に人生の幕を下ろしてしまう。

でも、もし1987年に盛鵬がまだピンピンに元気だったら?と考えたら、
王全安(ワン・チュエンアン)監督の『再会の食卓』(2009年)に繋がった。
台湾を主な舞台にしている『風の中の家族』と異なり、大陸を主な舞台にしている『再会の食卓』では、
国民党の軍人だった夫が、1949年台湾へ渡ってしまい、大陸に取り残された女性が、
生きるために共産党員の男性と再婚し、長年上海で平穏に暮らしていたのに、
大陸と台湾の往来が解禁となったことで、なんと元夫が台湾から訪ねて来るという想定外が起き、
現夫との不思議な三角関係に発展していくお話。

離れ離れになった家族や友人と再会できた人、それが果たせなかった人、
果たせてもそれを素直に喜べない状況に陥った人…。
当時、こういう話は本当にいっぱい有ったのではないかと想像する。




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4人の疑似家族に扮するのは、戦中は部隊の連長で兄貴分的存在の盛鵬に楊祐寧(トニー・ヤン)
義兄弟の真ん中で、“順子”こと黃順に李曉川(リー・シャオチュアン)
義兄弟の中では末の弟分“小范”こと范中岳に胡宇威(ジョージ・フー)
そして3人の養父に育てられた孤児・盛奉先に李淳(メイソン・リー)

血の繋がらない義兄弟、疑似家族の群像劇だが、
中でも物語の中心となる盛鵬を主人公と位置付けてしまっても良いであろう。
扮する楊祐寧は、未だに『僕の恋、彼の秘密』(2004年)の印象が鮮明で、
“可愛い弟キャラ”と捉えてしまいがちだけれど、1982年生まれのもう33歳。
主要キャストの中で見ると、すでにベテランの貫録があり、演技力もピカイチ。
青年期からシニアまで盛鵬の約40年を一人で演じ切る楊祐寧は、本作品の見所のひとつ。

2番目のお兄ちゃん、順子役の李曉川は、主要キャストの中では唯一の大陸男優。
美男美女を揃え過ぎ、ややリアリティに欠けているこの映画で、
順子役の李曉川だけが辛うじて画面に現実味を醸してくれている。こういう存在は大切ヨ。
それに、役の設定上、台湾訛りのない中国語を話す俳優は不可欠。


逆に役の設定からは程遠い俳優も二人。
本作品のキャストについては、随分前から幾度となく
「二人のABC(AmericaでBornしたChinese)が慣れない歴史モノで奮闘」といった記事を読んでいた。

二人の内一人は、小范役の胡宇威。
胡宇威は、アメリカから台湾へ渡り、ドラマを中心に芸能活動を初めてから、もう十年程経つので、
中国語はもはや問題ナシであろう。
ルックスは抜群。しかも、フォレスト・ガンプを彷彿させる知的障害のあるピュアな青年を演じるドラマ
『モモのお宅の王子さま~愛就宅一起』では、演技力もなかなかだと感心したのに、
その後の出演作が、偶像劇の王子様ばかり…。さらには、“武虎將”なるアイドルユニットにまで組み込まれ、
慢性的なアイドル不足に悩む台湾芸能界の犠牲に甘んじているようにも見受けた。
幸い武虎將は数年の活動で解散したものの、いい加減方向転換しないとマズくない?と思っていたら、
満を持して本作品でいよいよスクリーンデビュー。
演じる役も国民党の軍人で、これまで演じてきた偶像劇の王子様とは180度異なる。

結果から言うと、本作品で見ても「胡宇威がこれまでの殻を打ち破った!」という程の驚きは無かった。
軍人なのに、茶髪がまだ完全に抜け切れていないし、存在感も同じ年の楊祐寧と比べると弱い。
でも、ちょっとでも方向性を変えた本作品が、胡宇威のキャリアの新たなスタートになるかも知れない。
好みのタイプの二枚目なので、これを機に、良い方向に進んでくれるといいなぁ~と今後に期待。


もう一人のABCは、3人の養父に育てられる孤児・奉先に扮する李淳。
こちらは本当に中国語がマズかったらしい。
映画監督・李安(アン・リー)の次男で、
まだ赤ん坊の頃、パパが手掛けた『ウェディング・バンケット』(1993年)でスクリーンデビュー。

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あの赤ちゃんが、こんなに大きくなったのかと思うと、感慨もひとしお。

実は大人になった姿も、『風の中の家族』より前に日本のスクリーンですでにお披露目済み。

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一本は、私は未見の『ハングオーバー!!史上最悪の二日酔い、国境を越える』(2011年)。
私が観たものだと、リュック・ベッソン監督作品『LUCY ルーシー』(2014年)に、
ホテルのドアマン役でチラリと出演。

そんな李淳、中華圏でも活動するようになり、苦手だった中国語も短期間でマスターしたから
「親も喜んでいる」とのこと。
見た目はお世辞にも二枚目とは言い難い。
今どきの俳優にしては背が低いし、顔もチビノリダー伊藤淳史似(あっ、計らずも“淳”繋がり!)。
今後は個性派路線で行くのだろうか。

ちなみに、この李淳扮する奉先が、おじいさんになり、養父の親族を探すため、
大陸へ渡る2010年のシーンでは、李淳の面影がぜんぜん無い陶傳正(タオ・チュアンジェン)が演じている。
パパの李安、もしくは伯父の李崗(リー・ガン)が演じるサービスシーンにしても、面白かったかも。

ついでに記しておくと、2010年、大陸へ渡った奉先が接触する養父の妻の親族に扮し、
ほんのちょっとだけ出演しているのは、台湾の俳優・樊光耀(ファン・グァンヤオ)
樊光耀は、ドラマ『光陰的故事』では、台湾へ渡った元国民党士官を、もの凄い上手い河南訛りで演じている。
そんな事もあって、今回この役に抜擢されたのかナ、と思った。





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女性キャストも見ておくと、順子と結婚する台湾人女性・阿玉に柯佳嬿(アリス・クー)
盛鵬と微妙な関係になるピアノ教師・邱香に郭碧婷(グオ・ビーティン/ヘイデン・クオ)
邱香の妹で、後に奉先と結婚する邱梅に郭采潔(アンバー・クオ)

女性陣は男性陣以上に今どきのカワイ子ちゃんを寄せ集めた印象で、
あまり時代の雰囲気を感じられなかった。

この3人の中なら、サッパリ顔の柯佳嬿だけが、昔から現代までの全時代対応型。
柯佳嬿は台湾らしい透明感のある女優さんで、
(テレビドラマはさて置き映画では)さり気ない感じや儚げな感じの役が多かった。
が、一人の女性の長い年月を演じる本作品では…

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ついに、ちりちりパーマのオバちゃんに挑戦!こんな柯佳嬿を見るのは初めてだ。

一方、そんな柯佳嬿とほぼ同世代の郭采潔は、アラサーでまだJKやっていた(笑)。
私生活では、2011年頃から交際していた楊祐寧と最近別れたと言われているが、
この映画の中では、その楊祐寧の養子と結婚。





本作品、私の好みから言うと、“映画”としては、やや軽く感じてしまった。
よく出来た歴史モノなのに、演出がベタなメロドラマ調なのと、
(恐らく集客を意識して揃えたであろう)出演者にテレビドラマ的な面々が多いのが原因だと思う。
でも、テレビの2時間ドラマだと思って観れば、誰にでも分かり易い歴史教材のようでもあり、面白い作品。
似た題材を扱ったドラマ『光陰的故事』も面白いけれど、あちらは全54話と長いので、
外省人が台湾で歩んできた歴史を知りたければ、コンパクトに2時間にまとめた『風の中の家族』は最適。

近年、日本では、台湾に関心を示す人が増えてきているので、台湾を色々な角度からより深く知るために、
こういう外省人目線で描かれた戦後台湾史の映画が公開されても良いと思う。

実は台湾を大して知らないのに、“中国憎し”の反動から、無意味に台湾をヨイショするネトウヨが、
台湾で何か日本に不都合な事が起きる度に「どうせ外省人の仕業」と片付けたがるのは、まだ分るけれど、
最近、映画『KANO』などの影響もあるのか、ごく普通の日本人の間にも
“本省人は善良な親日家、日本が去った後に台湾へやって来た外省人が最悪だから、本省人は益々親日”
という偏った見方を漠然と抱いている人が居るのが恐ろしい。
好む好まざるに拘わらず台湾へ渡り、生き抜いてきた人々の物語を見ると、
戦争に翻弄され、人生を狂わされてしまうのは、何人でも同じだと感じる。

それに、監督や作家など世界的に有名な台湾の文化人でも、日本人女性も好きな台湾芸能人でも、
彼らが外省人である確率は非常に高く、外省人抜きに戦後の台湾文化を語るのは不可能だと感じる。
多くの日本人が、バリバリ土着の台湾人だと思っているあの徐若瑄(ビビアン・スー)でさえ、
確かに母親は台湾原住民の泰雅(タイヤル)族だが、父親は外省人。
そのような混血ももはや多く、大陸にルーツを持つ台湾人は数知れず。
日本は移民に慣れていない上、“台湾は親日”と思い込みたいがゆえ、
本省人と外省人、台湾と中国をハッキリ線引きして、安直に良し悪しを語りたがるのかも知れないが、
台湾人のアイデンティティとか、そもそも何を以て“台湾人”と呼ぶかだって、日本人が思っている以上に複雑。

映画祭のQ&Aで王童監督も言っていたように、こういう歴史映画はまだまだ少数かも知れないが、
テレビドラマの方ではむしろ増加傾向。
近い将来放送開始予定のドラマの中にも、私の興味をソソる物アリ。
名作ドラマ『ニエズ~孽子』と同じ原作者、外省人の著名作家・白先勇の著作を
新たに映像化する公視の新ドラマ『一把青』がソレ。
原作を読む限り、国民党空軍の軍人やその家族たちの物語だと推測。
さらに遡り、国民党がやって来る以前の日本統治時代を描いた歴史ドラマでは、
今年台湾で放送された『春梅 HARU』は、日本人なら興味深く観賞できる作品だと思う。
映画でもテレビドラマでも、台湾のこういう歴史モノが、どんどん日本に入ってくるようになると嬉しいです。



第28回東京国際映画祭で本作品上映後行われた
王童監督とプロデューサー唐在揚によるQ&Aについては、こちらから。

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