【2015年/中国/109min.】
短期間に最愛の人を二人も失ってしまった女性・金天。一人は、金天の唯一の肉親で、彼女を残し他界した祖母・蘭心。もう一人は、金天を捨て、逃げてしまった婚約者の齊新。途方に暮れる金天は、スーツケースを抱え、かつて祖母が暮らしたというプラハへ。この新天地で、過去の自分に決別するため、タトゥや煙草など、新たな事を片っ端から試す金天。ある晩、クラブで深酒をし盛り上がっていると、仲間から澤陽という若い美男子を紹介される。早速「ねぇ、結婚している?恋人は?」と矢継ぎ早に質問し、訳も分からぬまま「NO」と答えた澤陽を、そのまま連れ出し、共に一夜を過ごす。翌朝、見知らぬ部屋で目を覚まし、青ざめる金天。昨晩の事などこれっぽっちも覚えておらず、気まずい雰囲気で澤陽と別れる。その頃、金天の元に、30年以上前にプラハから祖母宛てに送られた一通の手紙が届けられる。書かれている内容を知りたい金天は、止むを得ず澤陽に翻訳を依頼。すると、手紙の送り主が、“ジョセフ・ノヴァク”という男性であることが判明。その男性は、祖母にとって一体どのような存在だったのか?どうしても、その男性に会いたい!そう思った金天は、澤陽の助けを借り、ジョセフ・ノヴァク探しを始める…。
あらら、北京旅行の前に観た作品の詳細をブログに出し忘れていた。
2015年10月開催の東京・中国映画週間で上映された
徐靜蕾(シュー・ジンレイ)監督作品第6弾が

一般劇場公開され、すぐに観に行っていたのです。
もうすっかり監督業が板についた女優・徐靜蕾。
監督作品第2弾の『見知らぬ女からの手紙』(2004年)は結構好きなタイプの作品であったが、
この『あの場所で君を待ってる』は直感的に私好みではないと察し、
中国映画週間の時は、チケットを取ろうとも思わなかった。
ところが、世間の皆さまの反応は、私の逆を行き、
(会場が非常に小さかった事もあるけれど)意外にも早々にソールドアウト。
えっ、徐靜蕾って日本でそんなに人気ありましたっけ?!と不思議に思ったが、
後々、チケット瞬殺の原因が、男性出演者にあったことに気付く。
今回の一般劇場公開でも、そういうファンが大挙して映画館に押し寄せるのではないかと怯んでいたら、
実際には大した混雑もなく、簡単に良席が確保でき、ホッ…!
本作品、私好みではないと察知したものの、食い付き所が無いわけでもない。
その一つは、作家で脚本家の
王朔(ワン・シュオ)が脚本を担当している事。

王朔と言えば、姜文(チアン・ウェン)の初監督映画、
『太陽の少年』(1993年)の原作小説<動物兇猛>の作者であり、映画では脚本も担当。
あと、張元(チャン・ユアン)監督の『小さな赤い花』(2006年)もまた
王朔の小説<看上去很美>の映画化である。
原作小説は読んでいないけれど、映画は王朔の半自伝と思わせる60年代の幼稚園を描いた作品で、
興味深く観た。
そして、この『あの場所で君を待ってる』は、『夢想照進現實~Dreams May Come』(2006年)以来、
監督・徐靜蕾×脚本・王朔の8年ぶりのコラボ作品。
王朔の小説の映画化ではなく、徐靜蕾監督と王朔が共に考えたオリジナルストーリー。
物語は、唯一の肉親であった祖母・蘭心を亡くした上、
婚約者・齊新にも逃げられ、ズタズタになったアラサー女性・金天が、
心機一転しようと、かつて祖母が暮らしたプラハを訪れ、
そこで出逢った年下のチェリストでシングルファーザーの澤陽と恋に発展すると共に、
祖母・蘭心のプラハでの足跡を辿る内に、謎に包まれていた祖母の若き日の恋を知るというもの。
つまりは、過去と現代・二つの時代、祖母と孫・二人の女性の恋を同時進行で描く
ラヴ・ストーリー。

ヨーロッパ一美しいと称えられるプラハを舞台に、二つの時代の二人の女性の恋物語とは、
観ていてこそばゆくなる程ベタですねぇ~。
実際、現地・中国では、2015年のヴァレンタインに合わせ、公開されている。
ただ、主人公・金天が、夢見る頃を過ぎた30歳目前の女性ということもあり、
懸念していたレベルのベタベタよりは、ややライトであった。
この金天は、祖母と婚約者を立て続けに失い自暴自棄になっており、
初めての土地・プラハで、今までの自分を変え、なんとか人生の再スタートを切ろうと足掻いているワケ。
ちなみに、金天が作った“To Do List”に挙げたやるべき初体験は、
「纹身(タトゥ)、抽烟(喫煙)、喝大酒(大酒くらう)、蹦极(バンジージャンプ)、一夜情(一夜限りの関係)」。
日本の普通のアラサーOLは、自暴自棄になってもタトゥは入れないかもね。
とにかく、金天は、リスト通り片っ端から経験していき、大酒呑んで酩酊状態でお持ち帰りしたのが、澤陽。
ベロンベロンに酔っぱらい、結局澤陽とは“一夜情”に至らず。
でも、これをキッカケに、二人の関係が動き出す。
酩酊状態でお持ち帰りしたのが、チビでデブでハゲのオヤジではなく、
ヨーロッパ育ちの裕福な経営者の長身イケメンの息子で、職業がチェリストとは、随分出来過ぎですわね。
さすがはヴァレンタイン映画。
金天の祖母・蘭心の恋は、もっと“時代に翻弄”系。
蘭心はヨーロッパ滞在中、国で戦争が起き、肉親とも音信不通となり、帰国することもできず、
生活のため、プラハの診療所で働き始め、そこのジョセフ・ノヴァク医師と恋仲になる。
このノヴァク先生はユダヤ系なのであろう。実は既婚者であったが、妻が強制収容に送られ、独り身となり、
一時レジスタンス活動に身を投じていたらしい。
孫の金天が知る祖母・蘭心は生涯独身で、若い頃の異国での恋など知る由も無かったわけだが、
1979年に祖母宛てに送られてきた
エアメールが、なぜか今更届いたため(←なんて好都合な展開!)、

金天は、その手紙を書いたジョセフ・ノヴァクなる人物の存在を知ることになる。
手紙の内容は、「ニュースで中国の様子を見て、あなたの安否を心配しています」というもの。
中国というお国柄上、映画では突っ込んだ事には触れていないが、
1979年と言えば、文化大革命が終わってまだ2年。
私が蘭心の知り合いだったら、文革で彼女が大変な目に遭っていないかと、やはり彼女の安否を案じると思う。
こういう日中戦争やホロコースト、文革といった黒歴史をストーリーにガッツリ絡めた
“中国人女性の波瀾の一代記”に仕上がっていたら、この映画はもっとずっと私好みになっていたに違いない。
しかし、それではヴァレンタインに合わせて公開のロマンティックな娯楽作品には相応しくないし、
そもそも当局がお許しにならないだろうから、仕方がない。

本作品のカメラマンが誰かなど知らずに観ていた私。
そうしたら作品の最後が、成龍(ジャッキー・チェン)作品のようなNG集やメイキング映像になっており、
そこにチラッとムサめなおじさん、李屏賓(リー・ピンビン)が映り込んだため、
撮影担当が彼だとようやく知った。
出演は、新天地を求めプラハにやって来た30歳目前の女性・金天に王麗坤(ワン・リークン)、
突飛な出逢いから徐々に金天と恋に落ちてゆくチェリスト・彭澤陽に吳亦凡(クリス・ウー)。
過去パートでは、金天の祖母・陳蘭心に徐靜蕾(シュー・ジンレイ)、
自分の診療所に蘭心を雇い、彼女と恋仲になる医師ジョセフ・ノヴァクにゴードン・アレクサンダー。
本作品は、ドラマ女優のイメージが強い王麗坤の珍しい映画出演作。
徐靜蕾監督は、王麗坤が醸す清潔感や、飾らない自然な演技に惹かれ、
キャスティングを考える時、真っ先に彼女の起用を決めたという。
日本でもそこそこ知られた王麗坤の出演作というと『美人心計 一人の妃と二人の皇帝~美人心計』で、
その時演じた悪女・聶慎兒の印象が鮮烈なため、
金天のような普通のアラサー女性を演じているのは、新鮮に感じられる。
見た目は、悪女を演じている時のシャープな美人とはやや違って、この映画だと、ややモッタリした感じ。
それもそのはずで、王麗坤は元々輪郭がハッキリしているので、
柔らかさを出すため、もう少しお肉を付けて欲しいと徐靜蕾監督から要求され、4キロ増量したらしい。
王麗坤のお相手に抜擢されたのは、
K-PopユニットEXOを脱退した吳亦凡。

本作品は、EXO脱退後初の出演映画にしてスクリーン・デビュー作。
鹿(ルー・ハン/ルハン)と同じように、EXO脱退で韓国の事務所と裁判沙汰になっても、仕事運は絶好調。
日本でも、韓流好きな女性たちを中心に一定のファンがいるようで、
それが中国映画週間で本作品が即完売となり、さらに一般劇場公開に漕ぎ着けた要因であろう。
そんな吳亦凡が今回扮している澤陽は、なんと妮妮という小さな女の子を育てるシングルファーザー。
吳亦凡は、鹿に比べ、ずっと大人っぽい雰囲気だが、
それでも20代前半で出演するデビュー作で、いきなりシングルファーザーを演じるのは、挑戦だったのでは。
ヤンチャをしていた19歳の頃、留学生のモニカとたった一度だけ関係を持ってしまったところ彼女が妊娠、
カトリックの彼女は堕胎ができず、そのまま産んだものの、妮妮に愛着は無く、
澤陽が引き取って育てているという、これもまたなんとも都合の良い設定。
私はモニカに言いたい、堕胎を拒むほど敬虔なカトリック教徒ならば、
留学先で知り合った男と行きずりの恋なんか楽しむなヨ!と。
徐靜蕾は、今回も自作自演で、監督のみならず、蘭心という重要な役で出演も果たしている。
チャラチャラしていない知的で上品な雰囲気の、すっきり古風な顔立ちだから、
“若かりし日のおばあさん”役は合っている。
だからと言って、素のままで出演しているのではなく、
妙齢の女性のしなやかな感じを出すために、半年で8キロもの減量をしたのだと。
徐靜蕾は、元々小顔でヒョロ~ンとしたモデル並みのボディの持ち主なのに、
どこに落とせるお肉が8キロも付いていたのでしょう?!
起用した王麗坤を太らせ、自分はスレンダーに変身とは、職権濫用の底意地悪い監督ですわ(笑)。
ウソ、ウソ。ダイエットは正解だったと思う。だって、すでに40過ぎの女性とは思えないほど初々しく見えるもの。
そうそう、この徐靜蕾と交際しているとか、結婚間近とか、いやいやすでに極秘入籍したんじゃないの?!
などとずーーーっと噂され続けている黃立行(スタンリー・ホァン)も、本作品に出演している。
演じているのは、金天をフッて逃げた元恋人・齊新。ゲスト出演程度で、登場シーンは少ない。
映画の中で、徐靜蕾の相手役を務めているのは、ゴードン・アレクサンダー。
エディンバラ出身のスコットランド人俳優で、
あまり大きな役ではないけれど、かなりの本数の映画に出ている模様。
本作品では、戦争の悲劇で妻子を失った医師という、知性や悲哀が必要な役に扮しているが、
当のゴードンさんは、8歳で武術を始めた肉体派。
スタントマンの仕事もしており、私が最近観た物では、『キングスマン』(2014年)に関わっていたり、
イギリス映画界、ゲーム界では、モーション・キャプチャー要員としても引っ張りだこだという。
ちなみに、本作品で演じているジョセフ・ノヴァク医師の“ノヴァク(Novák)”という姓は、
チェコでは最も有りがちな姓らしい。ジョセフという名も珍しいとは思えないし、
つまり、金天は、“田中キヨシ”みたいな、よくある名を頼りに、
異国で祖母の元恋人を捜索していたという事になる。本人を見つけ出したのは、まさにミラクル。
脇の出演者もザッと見ておくと、澤陽の母に叢珊(ツォン・シャン)、
金天の友人・姍姍に熱依扎(レイザ)、
澤陽の友人のヴァイオリニストで、後々姍姍と恋仲になる羅季に張超(チャン・チャオ)等々。
注目は、姍姍に扮する哈薩克(カザフ)族の女優・熱依扎。熱依扎と言えば、そう…
『宮廷の諍い女~後宮甄嬛傳』の寧嬪ですわ。
今回、『あの場所で君を待ってる』で演じている姍姍は、黒を主にしたロック・テイストの装いで、
性格もブッ飛んでいる女の子(電車で椅子の上に立ち上がったり、騒ぐのはやめな、と本人に忠告したい)。
私、『宮廷の諍い女』以後、熱依扎の出演作を観ていなかったので、
この姍姍が彼女だと気付くのに、結構な時間を要した。
『宮廷の諍い女』の寧嬪とは、まるで別人!いつの間にか、ショートヘアにしていたのですね~。
愛くるしく濃いぃ顔立ちだから、こういうボーイッシュなヘアスタイルの方が似合うかも。
そんな熱依扎扮する姍姍と恋に落ちる羅季を演じる張超、なかなかの美形です。
私個人的には、メインの吳亦凡より、こちらの張超の方が好み。
まったく好みに合わない作品でも、ツッコミ所満載で、今思うと、それなりに楽しめた気が。
金天が通うプラハの語学学校で、世界中から集まった生徒たちが、
それぞれ英語で自己紹介をする冒頭のシーンから引き込まれた。
そのシーンでは、生徒の一人として、自称“ジロー”という男性が登場。
英語の発音が日本人っぽくないので、素性を怪しんでいたら、
案の定、最後の一言、タドタドしい日本語の「ヨロシクお願いします」で自爆。
ジローは、中国人エキストラなのだろうか…?
作品後半にもチラリと登場し、タトゥをいっぱい入れた女性と踊りまくっていたジローを、私は見逃さなかった。
他にもツッコミ所や、辻褄の合わない部分が非常に多いのだけれど、最も気になったのが“英語”。
最初に引っ掛かったのは、主人公・金天が、祖母宛てに届いたエアメールを、澤陽に訳してもらうシーン。
「私、チェコ語分からないから、訳して」とお願いするのだが、その手紙、英語で書かれているのよねぇ(苦笑)。
祖母・蘭心は、確かにプラハに長く暮らしはしたけれど、
仮にチェコ語の手紙をもらったところで、多分解読できないと思う。
だって、プラハでも、頑なに英語だけを喋り続けていたもん。
孫の金天だって、語学留学しているにも拘らず、留学期間の最後まで、
中国語とほんのちょっとの英語しか話さないし…。
英語の映画を作りたいのであれば、最初からロケ地を英語圏にすれば良かったではないの!とも思うが、
どうしてもロマンティックな物語の舞台は美しいプラハにコダワリたかったのでしょう。
物語は、物売りからもらった“真実の愛に出逢うと、自然と切れる”という1ユーロの赤いミサンガが、
金天の腕からスルリと落ち、ハッピーエンディングで幕を下ろす。
ヨーロッパには無いけれどね、“赤い糸伝説”。
プラハで撮影しているし、二つの時代を描いているし、アイドル映画にしては豪華かも。
但し、私の印象に強く刻まれたのは、当のアイドル吳亦凡クンより、冒頭に登場する“ジロー”。
↑そう、これ、これ。私の間違いでなければ、多分このグリーン&ブルーのジャケットのメガネが“ジロー”。
これから本作品を御覧になる方は、怪しいジャパニーズ“ジロー”にもご注目を。