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映画『メコン大作戦』

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【2016年/中国・香港/123min.】
2011年10月5日。
メコン流域で、中国籍の商船が何者かに拿捕され、乗組員13人全員が殺されるという残忍な事件が発生。
捜査にあったたタイ警察は、その船内で90万錠もの覚醒剤を発見。
中国はすぐにタイ、ミャンマー、ラオスと合同で捜査本部を設ける一方、
独自に精鋭を集め、特殊部隊を結成し、現地へと送り込む。
早速、部隊長の高剛は、長年タイで麻薬ルートの潜伏調査を行っている方新武と接触し、
事件の黒幕に繋がる重要人物を捕えようとするが…。



第29回東京国際映画祭、ワールド・フォーカス部門で上映された林超賢(ダンテ・ラム)監督最新作を鑑賞。
上映終了後に行われた林超賢監督によるQ&Aについては、こちらから。

私は、昨年同映画祭で上映された林超賢監督の前作『破風』もまだ観ていない。
それは、『疾風スプリンター』と邦題を変え、2017年1月に日本公開が決まったので、その際に観る予定。

林超賢監督作品は、かなりの確率で日本で公開されるし、
私自身が熱心な林超賢監督ファンという程ではないので、
この新作『メコン大作戦~湄公河行動』も、時間の都合がたまたま合ったから観に行ったようなもので、
積極的な鑑賞とは言い難い。
ただ、微博を覗くと、大陸での反応がやたら良いことが窺えたので、どのような作品なのか気にはなっていた。



本作品が取り上げているのは、実際に起きた事件、
2011年、メコン河で中国船が何者かに拿捕され、乗組員13人が殺害され、
その船内で90万錠もの覚醒剤が発見された“メコン河中国船襲撃事件”。
事件発生地は、麻薬密造エリアとして知られる、
ミャンマー、ラオス、タイにまたがる危険地域、通称“黄金の三角地帯~Golden Triangle 金三角”。
物語は、この無法地帯に、中国船襲撃事件解明のため乗り込んだ警察の特殊部隊と、
複雑に絡み合う麻薬製造密売組織の者たちが繰り広げる壮絶な闘いを描くクライム・アクション巨編

こういう事件が起きたことは、私もニュースで見て、何となく覚えてはいたけれど、
その後の事までは知らなかった。
上映終了後のQ&Aで、客席のある男性が
「その頃、日本では大きな出来事があったので、あまり報じられなかった」と発言。
この事件が起きたのは、2011年10月。その年の3月、日本では大地震があったので、
確かにそういう事情もあり、人々の関心や報道の優先順位が下がっていたのかも知れない。

しかし、中国の人々にとっては、もしかして薬物取り引きに関わっていたかも知れない13人もの自国民が
異国で惨殺されたという事件はスキャンダラスで衝撃的だったであろう。
大陸の映画制作・配給大手、博納集團(ボナ・フィルム・グループ)のCEO、于冬(ユー・ドン)は、
この事件を題材にした作品を撮りたいという思いをずっと抱き続け、
幾多の紆余曲折を経て、ようやく林超賢監督を迎い入れ、映画化に着手。
中国の公安部からも多大な支持を得られたお蔭で、事件に関する非公開資料も見ることを許されたという。
もちろん、林超賢監督自らも現地に飛び取材。
林超賢監督はQ&Aの時も、
「通常は入れない麻薬密造工場にも、警察に裏から手を回してもらって入った」と語っていた。
 うわぁ~、本当にそんな非正規ルートで犯罪組織のアジトに足を踏み入れることができるんだぁ~、
それだけでもう充分香港映画っぽい!と背筋ゾクッ。

とにかく、そのような検証を積んで創り上げたこの映画は、
基本的には実際に起きた事件をしっかりと踏まえたもの。
例えば、実際に事件の首謀犯であるミャンマー国籍の麻薬王・ノーカー(နော်ခမ်း Naw Kham 糯康)も、
そのまま実名で映画に登場。
ただ、ドキュメンタリー映画ではないので、ベースとなる事実に“盛った部分”は当然ある。
その盛りっぷりがゴーカイ…!!

まず、物語では、事件発生後、中国、タイ、ミャンマー、ラオスの4ヶ国が合同で事件対策本部を設置。
中国は独自に、高剛を隊長に、精鋭を集めた特殊部隊を、現地に派遣。
(…そして、勝手に調査を開始。←そんな単独行動をして良いのか?!…笑)
長年その地で麻薬の潜伏捜査を続けている情報員・方新武と連携し、少しずつ事件に切り込んでいくのだが、
カーチェイスだの、ボートチェイスだの、銃撃戦だの、あっちでこっちでドッカンドッカン大爆発だの、
映画序盤からド派手なアクションを大盤振る舞い。
ショッピングモールでの大乱闘シーンでは、成龍(ジャッキー・チェン)監督主演作、
『ポリス・ストーリー 香港国際警察』(1985年)がふと重なった。

結局のところ、事件が単純なものではなく、裏に麻薬組織が複雑に絡んでいることが判ってくるのだけれど、
次から次へと披露される豪快なアクションに、心臓をバクバクさせている内に、
あら、この人たち、そもそもなぜ闘っているんでしたっけ…?と、私は事の発端をすっかり忘れてしまった。

あと、本作品は、犯罪アクションがメインではあっても、
登場人物それぞれの背景も描いており、ヒューマン・ドラマとしての側面もある。

さらに、組織に逆らえない事情から、平凡な村人が止む無く犯罪に加担してしまったり、
まだ幼い子供が傭兵のように育てられ、抵抗なく銃を扱う様子など、貧困が生み出した悲劇をも描き、
ちょっとした社会派映画にもなっている。





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本作品は、年齢も性格も異なる二人の男がタッグを組み、命懸けで事件解決に挑む“バディもの”でもある。
扮するは、捜査チーム隊長・高剛に張涵予(チャン・ハンユー)
長年タイで潜伏調査を続けている方新武に彭于晏(エディ・ポン)

この二人にもちゃんとモデルとなった実在の人物がいるらしい。
隊長・高剛は劉躍進、方新武は柯占軍という人。

隊長の高剛は、演じる張涵予のイメージ通り、“男の中の男”、“漢!”って感じの硬派。
実はバツイチで、元妻が引き取った一人娘の写真を愛おしそうに見る時は、固さが抜け、優しいパパの顔に。
高剛のそのような私生活を知ると、家庭の無い孤独な五十男に哀愁を感じずにはいられないのだが、
ひと度動くと、プロのアスリート並みにキレッキレで、その落差にもヤラれる。
色は相変わらず黒い、…松崎しげる並みにとっても黒い。
代表作の一つ、ドラマ『水滸伝 All Men Are Brothers~水滸傳』で演じた主人公・宋江は、
“黒三郎”と称される風采の上がらない色黒のチビいう原作の設定に合わせて、
黒いドーランを塗っているのかと想像していたけれど、
この『メコン大作戦』で見ても、かなり黒いということは、地黒なのでしょうか。


彭于晏は、テレビドラマから映画俳優へのシフトに成功した数少ない台湾若手明星の一人。
『激戦 ハート・オブ・ファイト』(2013年)、『疾風スプリンター』(2015年)、そして本作品と立て続けに出演し、
もうすっかり林超賢監督御用俳優。
通常、アイドルっぽい童顔男子は、オトナの俳優への切り替えがなかなか巧く行かないものだが、
彭于晏は一つのイメージに捕らわれず、果敢に新たな挑戦を続けているのが、成功の鍵なのでしょうね~。
本作品でも、昔の明るく可愛い彭于晏とはまったく異なる、ガラの悪ーいチンピラ風情で登場。
ヒゲの生やし方からして、堅気っぽくない。
今回はこの路線で来たのねぇ~、なんて思っていたら、実はそのヒゲが付けヒゲで、着脱可能。
潜入捜査員なので、状況に合わせて、付けヒゲのデザインを変え、ちょっとした変装をしているワケ。

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ヒゲや髪型、小道具で印象が随分異なる彭于晏七変化も、本作品の見所のひとつ。


(実は、敵を欺くため、張涵予扮する堅物の高剛までもが羽振りの良い社長に化け、
小芝居を打つシーンがあって↓、それは彭于晏七変化以上に見所かも…。)

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彭于晏は、見た目だけではなく、役作りのため、タイ語とミャンマー語もお勉強したらしい。
確かに、“長年現地に潜伏している”という設定なので、
現地の人々とコミュニケーションを取るための言葉の習得は必須。
…が、私自身がタイ語もミャンマー語も分からないので、彭于晏の言語能力は判定不可能。
(他に英語の台詞もあるが、彭于晏はカナダ育ちなので、そちらは無問題 モウマンタイ。)

軽いチンピラに見える方新武であるが、そんな彼の人生にもドラマあって、
恋人が薬物に染まり、挙句、自ら命を絶ってしまったという暗い過去を引きずっている。

その恋人を演じているのが…

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台湾偶像劇を観ている人にはそこそこ知られている魏蔓(マンディ・ウェイ)
(今パッと思い浮かぶ出演ドラマだと、『LOVE NOW ホントの愛は、いまのうちに~真愛趁現在』とか…。)
映画出演はまだ少ないし、ましてや大陸のこんな大作に出るのは、お初なのでは?


もう一人、…いや、もう一匹特別出演で活躍するのが哮天(シャオティエン)という名の警察犬。
3歳のシェパードで、本名はZbbra、本作品でスクリーンデビュー。

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哮天は、公私に渡り高剛の良きパートナー。
娘にもなかなか会えないバツイチ中年男・高剛の哮天に対する思い入れは大きく、
哮天が命を落とした時はもう滝の涙を流して男泣き…!
えぇぇー、同僚たちが殉職した時だって、そんなに絶望的になっていなかったじゃないのー、と驚く。
演じている張涵予自身、犬を4匹も飼っている犬好きらしい。





衝撃的な事件発生からまだ5年ほどしか経っておらず、人々の記憶に鮮明な上、
さらに、その事件を痛快アクション満載の分かり易いエンターテインメント作品に仕上げたことで、
本作品は大陸でスマッシュヒットしたのであろう。

やはり作品の一番の売りは、手に汗握るド派手なアクション。
「香港を離れ、異国でアクションを撮れると聞き、すぐに、とてもやりたいと思った」と語っているように、
林超賢監督自身、新鮮な気持ちで楽しんで撮ったのではないだろうか。
本作品には、林超賢監督のテイストがちゃんと感じられるのだが、
使える予算が潤沢なため、かつての林超賢監督作品よりスケールがぐっと大きくなって、迫力満点。
近年、香港の他の監督たちも、どんどん大陸に進出し、
以前は有り得なかった大きな予算で作品を撮っているけれど、
技巧を凝らし過ぎ、監督本来の個性が感じられず、
結果的にもヒットに結び付かないケースが多いように見受ける。
林超賢監督のこの『メコン大作戦』は直球のアクション映画という点が勝因かもね。

題材になっているメコン河中国船襲撃事件は、日本人にはあまりピンと来ない事件だが、
それでも、東京国際映画祭で本作品を鑑賞した日本の人々は大満足だった様子。
私も単純に楽しんだ。…が、では、本当に自分好みの作品かと聞かれれば、答えは“NO”。
大絶賛を送る他の日本の観衆と自分との間に温度差を感じる。

元々アクション映画にはさほど興味が無いので、
迫力のアクションには瞬発的に驚かされることがあっても、それが名作として心に刻まれることはほぼ無い。
本作品でも、最大の見せ場であるアクションシーンより、それ以外の部分と張涵予ばかりが記憶に残っている。

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年甲斐もなく高剛と方新武が男同士で自撮りするシーン、好きです。
緊張感の続く物語の中で、ここはホッコリさせてくれるシーンなので、
私と限らず、映画を観た多くの観衆の記憶に焼き付くのであろう。
東京国際映画祭で行われた林超賢監督のサイン会の時も、
監督と一緒にこのポーズでツーショットを撮るファンの方々を何人か見掛けた。


この作品もその内きっと日本で一般劇場公開されるのでは…?
で、シネマート等で細々と上映されるのだろうけれど、本当は大スクリーンで観るべき作品かと。
そういう意味では、仮に好みにドンピシャの作品ではなかったにしても、映画祭で観ておいて良かった。
同時期に観た張涵予出演作品だったら、正直なところ、私は『ロクさん』の方がずっと気に入っている。


第29回東京国際映画祭で、本作品上映終了後に
林超賢(ダンテ・ラム)監督が行ったQ&Aについては、こちらから。

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