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映画『The NET 網に囚われた男』

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【2016年/韓国/112min.】
北朝鮮・黄海南道(ファンへナムド)。
妻子と3人でつましくも幸せに暮らす漁師のナム・チョルは、
これまで毎日繰り返してきたように、早朝に起き、朝食を掻き込み、自分の小舟で漁に出る。
ところが、沖に出ると、仕掛けておいた網がエンジンに絡まるという問題が発生。
陸に向かって必死に救助を求めるが、気付いてもらえず、エンジンは焼け焦げ、小さな舟はみるみる流され、
なんとチョルは韓国警察に捕らえられてしまう。
スパイ容疑で捕まったチョルを待っていたのは、過酷な尋問。
脅しや暴力にも屈せず、無実を訴え、北に帰りたいと訴え続けるチョル。
チョルの様子や、舟の焼けたエンジンなどから、
彼をスパイと認定するには無理があると判断した韓国警察は、今度は彼に亡命を勧めるようになる。
チョルの見張り役を担当する若き警護官のオ・ジヌは、上からの命令で、
亡命をも頑なに拒むチョルに、韓国の豊かさを見せるため、彼をソウルの繁華街へ連れて出すが、
「見たらその分不幸になる」とチョルは閉じた目を開こうとせず…。



2016年11月、第17回東京フィルメックスのオープニングで上映されたキム・ギドク監督最新作。
すでに日本での配給が決まっていたので、フィルメックスではパス。
大して待たされること無く、それから約2ヶ月で観ることができ、嬉しい。




物語は、アクシデントで韓国側に流されてしまった北朝鮮の漁師・チョルが、
スパイ容疑で韓国警察に捕らえられ、過酷な尋問に耐えながら、北に帰りたいと訴え続け、
ついにその願いが叶い、帰国させてもらうが、戻った北でまた新たな不幸に見舞われるという
朝鮮半島の南北分断を背景に、平凡な一人の男に降りかかる理不尽な運命を描くヒューマン・ドラマ

これまでにも数多く発表されてきた“脱北もの”や“北朝鮮のスパイもの”。
本作品が新鮮なのは、主人公のチョルが、
貧しいながらも愛する家族と過ごす北朝鮮での生活に満足している平凡な漁師で、
韓国へ亡命したいなどとはこれっぽっちも考えていないのに、
漁船のエンジンに網が引っ掛かるという事故に見舞われたせいで、韓国側に入ってしまったという点。
言わば、“不本意に脱北”、“計らずも脱北”なのだ。

チョルをスパイ容疑で捕らえた韓国警察も、「さすがにこいつはスパイじゃないだろ」と気付くのだけれど、
今度は、“独裁国家に洗脳された可哀そうな人を救う”という使命感で、
韓国への亡命を執拗に勧めてくるようになる。

密入国や亡命は、多くの日本人にとって身近な話ではないだろうが、
知らず知らずの内に自分に染み付いている価値観を普遍だと思い込み、
そこからズレている他者を勝手に憐れむという余計なお世話は結構あるように思う。
例えば、「兄弟が居なくて可哀そう」と言われ、
「いや、親の愛を一身に受け、別に幸せだけれど…」と反論したい一人っ子も居るのでは。
自分にとっては“マサカ?!”の事でも、それを喜んで受け入れている人だって沢山いる。
皆それぞれ違っていて当たり前、“人は人、自分は自分”と割り切れば良いものを、
そこに憐れみの気持ちが湧く人は(そして、その憐みの裏には大抵優越感がある)、本当に面倒くさい。

本作品に登場する韓国人たちの場合、さらに、仕事で手柄を立てたいという欲も重なり、
チョルをスパイに仕立て上げたがったり、亡命をさせたがったりする。
キム・ヨンミンという取り調べ官の場合は、身内を朝鮮戦争で亡くした私怨を晴らそうと躍起。
キム・ギドク監督は、このように腐った韓国人を描くことで、自国・韓国を戒めるに留まっていない。
チョルの願いが叶い、帰国してハッピー・エンディング♪ではなく、実は映画にはまだ続きが。
チョルがやっとの思いで帰った祖国もパラダイスではなく、
なんと北でも国家安全保衛部に身柄を拘束され、取り調べで同じ目に遭うのだ。
結局のところ、どっちもどっち。そして、国家間の不毛な争いで、弱者が犠牲になるという悲劇…。





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出演は、韓国側に捕らえられてしまった北朝鮮の漁師ナム・チョルにリュ・スンボム
チョルの見張りをする若い警護官オ・ジヌにイ・ウォングン
執拗なまでにチョルをスパイに仕立て上げようとする取り調べ官にキム・ヨンミン
チョルの妻にイ・ウヌ等々。

実際には、この4人以外にも出てくるけれど、キム・ギドク監督作品は基本的に登場人物が少なく、簡潔。
何作品もにお呼びがかかる常連さんも多いが、
今回の主演男優リュ・スンボムは、キム・ギドク監督作品お初だったのですね~。
映画館が混んでいて、前方の端っこしか席が取れず、スクリーンを斜めから見たせいかも知れないけれど、
チョルを演じるロン毛でむさ苦しい髭面のリュ・スンボムが…

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『進ぬ!電波少年』で一躍有名になったタレントのなすびに重なって見えて仕方が無かった…(苦笑)。

でもねぇ、仮に見た目がなすびだったとしても、引き込まれる演技。
チョルには本当に政治的野望など無いのに、
懸命に働き、ようやく手に入れた唯一の財産・漁船を手放せなかったばかりに、
南からはスパイ、北からは脱北を疑われてしまう。
過去には、特殊8軍団に所属していたこともあるので、体格が良く、
丸腰なら5人は素手で倒せるという、漁師らしからぬ格闘テクニックがあるのも、疑いに拍車をかける要因。

ようやく北に帰れることになると、南には借りを作らない!自分は南で毒されてなんかいない!
と言わんばかりに、韓国で支給されたおニューの服は全て脱ぎ捨て、
パンツ一丁で修理の済んだ自分の漁船に乗り込む徹底ぶり。
後のシーンに映るカレンダーを見ると、時期は2月(確か2016年の2月であった)。
極寒が想像される北朝鮮附近の海上を2月にパンツ一丁で渡るなんて命懸け…!
で、北朝鮮の湾岸に到着すると、待機していた同志たちから、体を覆うように国旗を渡されるのだが…

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忠誠を誓った祖国の共和国旗を、パンツを隠すために腰になんて巻いたら、
将軍様からお𠮟りを受けないのかと、心配になる…。
でも、この腰に巻いた共和国旗、“ジェレミー・スコットの2017S/Sコレクション”と言われたら、
信じてしまいそうなカッコよさだわね。



韓国でチョルが接触する人は皆イヤな奴かというと、そんな事はなく、
チョルの見張り役をさせられるイ・ウォングン扮するオ・ジヌは善良な青年。
酷い取り調べを見かね、上司を止めようとするけれど、所詮若造なので、相手にされない。
実はオ・ジヌの祖父は北の出身で、朝鮮戦争の時、南に入り、それっきり帰れなくなってしまった人。
そういう事情で南側に留まることを余儀なくされた人や、南北で分断された家族は、
きっとあちらには沢山いるのでしょう。
オ・ジヌは、身近にそんな祖父がいたこともあり、北の人に偏見はなく、チョルにも公平に接するし、
チョルの方にもオ・ジヌの善良さが伝わり、彼には次第に心を開いていく。
この作品で、オ・ジヌの存在はオアシス。
もっとも、そんなオ・ジヌが、チョルを思って贈ったお金のせいで、
北に戻ったチョルは窮地に追い詰められてしまうのだが…。“善意が仇”とは、まさにこのことヨ…。


善良なオ・ジヌと対照的に描かれるのが、キム・ヨンミン扮する取り調べ官。本作品一番の悪役。
上司である室長を演じるチェ・グィファなどと比べると、クセの無い顔立ちで、
黙っていればイイ人にも見えるから、見た目とのギャップで益々卑屈なイヤな男に感じてしまう。


女性では、北に残されたチョルの妻の役で、イ・ウヌ/イ・ウンウが出演している。
貧しくても満ち足り、夫と娘のいる生活を大切にしている優しそうな奥さんを、地味ぃーに演じており、
『メビウス』(2013年)の時と大違い。

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…だって、『メビウス』では、(↑)これですから(笑)。
ただ、今回も、横で娘が眠る小さくて粗末な部屋で、ガバッと脱いで夫に絡むというおしとねシーン等があり、
相変わらず度胸が感じられるイ・ウヌなのであった。






キム・ギドク監督作品の中では、奇を衒った演出や、エグい演出、素っ頓狂な演出が少なめで、
分かり易いし、観易いかも。
南北の分断で理不尽に犠牲となる弱者の悲劇を素直に描いた作品という印象。
もしかしてキム・ギドク監督の熱烈なファンは、単純すぎる!と物足りなさを感じるのかも知れないけれど、
私はとても楽しめた。
以前から、北朝鮮などの独裁政権下で生きる庶民に対し、単純に「可哀そう」と同情することや、
ましてや、そういう人々を解放してあげなければ!と正義感を振りかざすことに、疑問を感じていたので、
チョルのような人物を主人公にしたこの作品には、頷ける部分が多かった。
また、朝鮮半島の南北分断が、自分にとって身近な問題ではなくても、
前述のように、価値観の押し付けや、有難迷惑なお節介は、どこにでも有ること。
和を重んじ、他者に同調することを美徳とする日本には、そういう人が多いとも感じる。
また、個人のレベルならまだしも、思い込みで、他国を、もしくは他国民を、
こういう国、こういう人たちと決めつけ、仮想敵を作り、状況を悪くしていくのも、昨今の日本と重なり、
映画が必ずしも朝鮮半島の問題だけを描いた作品とは思えず、共感できた。

春節に聚楽の中華菓子2種(+『春晩』御覧になりました?)

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2017年は、1月28日(土曜)が春節とのこと。
皆さま、旧正月、明けましておめでとうございます。


春節と言えば、CCTV 中央電視台が毎年大晦日に放送する長寿番組『春節聯歡晚會』、通称“春晚”。

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日本の『紅白歌合戦』と同じで、現地では、近年、若者の視聴離れが懸念されているようだけれど、
大陸スケールのド派手な演出や、有名人の登場に興味を引かれ、観る日本人は結構いるようですね。
日本在住の皆さまは、ニコニコ動画で視聴しているのでしょうか。
私は、うちのテレビ画面で観るのに好都合なYoutubeを選択。
(…と言っても、なにぶん長い番組なので、テレビにベッタリ貼り付きではなく、所々観たり観なかったり。)


『春晚』今年のプログラムは、(↓)こんな感じ。

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成龍(ジャッキー・チェン)をはじめ、日本でも映画やドラマでお馴染みの明星が多数出演。

オープニングを飾ったのも、日本の中華ドラマニアにはお馴染みの面々で…

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ヒットドラマ『歡樂頌~Ode to Joy』の主演女優5人組、(画像左から)劉濤(リウ・タオ)、蔣欣(ジャン・シン)、
王子文(ワン・ズーウェン)、楊紫(ヤン・ズー)、喬欣(チャオ・シン)が、
大人気の(←私は理解しかねるが…)少年アイドルユニットTFBOYSと、お歌を披露。
劉濤は『琅琊榜』の霓凰郡主、蔣欣は『宮廷の諍い女~後宮甄嬛傳』の華妃。
ドラマを観た皆さまは、お分かりですよね?
喬欣は『琅琊榜』で南楚から突然やって来た蕭景睿の異母妹・宇文念を演じた女優さん。
『琅琊榜』では特別注目しなかったが、『歡樂頌』で見ると、とても可愛い。


他にも『琅琊榜』からは…

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宗主・胡歌(フー・ゴー)と靖王・王凱(ワン・カイ)がコンビを再結成(?)して、<在此刻>をデュエット。
靖王殿下は、非常に難しい上下柄モノで登場。
「あら、王凱ってば、寝起きでパジャマ?」などと言ってはなりません。

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ディオール2017S/Sコレクションのスーツなので。
モデルと同じようにサンバイザーを被っていなくて、まだ良かった。
まぁ、新年なので、別にこれくらいの派手さはOKといたします。
ちなみに、胡歌の方は、攻めより守りで、ジョルジオ・アルマーニ。間違いの無いシックなコーディネイト。


鹿(ルー・ハン/ルハン)と香港の陳偉霆(ウィリアム・チャン)も、注目のコンビ。

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こちらのコンビは、劉華(アンディ・ラウ)のヒット曲<愛你一萬年>をデュエット。
この二人が登場した途端、それまでちゃんと映っていたテレビ画面がブレ始めた。
それだけ大勢の視聴がドドーっと集中したという事なのだろうか。
ちなみに、鹿のサバ感漂う(?)光モノのお召し物はサンローラン。
鹿とは対照的で、小豆っぽく(…?!)地味に抑えている陳偉霆のお召し物はグッチ。
お二方とも足元はクリスチャン・ルブタンのお靴です。


他、中国ならでは、毎度の軍人コーナー(?)や、少数民族のパフォーマンス、
また、新進の舞踏家・李艷超(リー・イェンチャオ)による演目<清風>、
龍江省雜技團によるアイススケート・パフォーマンス<冰雪夢飛揚>、
國家武術隊による圧巻の武術パフォーマンス<中國驕傲>等々、見所盛り沢山。

ここには、<冰雪夢飛揚>の動画を貼っておく。
これは哈爾濱(ハルビン)からの中継で、
電飾の全身タイツを着た雑技団員が、自らピカピカ発光しながらスケートをする演目。


アイススケートのテクニック以前に、会場になっている冰雪大世界(ハルビン氷祭り)が凄くないか…・?!
ナンなの、あの氷でできた天壇は…!札幌雪祭りが霞む…。
私、一度、この哈爾浜冰雪大世界を見に行きたいのだけれど、氷点下20度の極寒と聞き、尻込み。
どなたか行ったことのある方、いらっしゃいますか?



うわぁー、『春晚』観逃しちゃった!というそこのアナタ様、大丈夫です。
もうー、ついでなので、今年の『春晚』を全て観られる動画もここに貼っておく。
お時間に余裕があるときにどうぞ。


最初の約45分は飛ばしちゃっても問題なし。
本編が始まるのは、その後なので。




話変わって、春節→中華圏繋がりで、卓球の福原愛について、ちょっとだけ余談。
先日、東京国際宝飾展の会場で行われたジュエリー・ベスト・ドレッサー賞のイベントで、
私のお目当てだった愛ちゃんを見逃したのは、こちらに記した通り。
知人も皆「愛ちゃん、見られなかったー!」と言っていたので、
「やっぱり愛ちゃんは、御縁の深い中国や台湾の人々が多い場所をお練りしたのね…」と思っていたのだが、
後になって、別の知人たちから、愛ちゃん目撃情報が入って来た。

その知人たちは、皆、口を揃え、「愛ちゃん、可愛かった」、「愛ちゃん、スタイル良かった」と言う。
“可愛い”は分かるけれど、“スタイルいい”には、失礼ながら疑問が生じた。
ところが、その人たちが言うには、愛ちゃんは確かに身長は低いけれど、
全体にスリムで、特に足は細くて綺麗、しかも、出る所は出ているナイスなボディなのだと。
一般的な日本人が言う“可愛い”、“スタイルいい”は、私はいつもあまり信じないのだが、
この人たちは見る目がヨーロッパ人化しており、そういう部分の感性が私とも近いので、
愛ちゃんは恐らく私が想像しているよりずっと容貌がイケている女性なのではないかと思えてきた。
益々見逃したことが悔やまれる…。




お菓子は、春節にちなみ、中華菓子を2ツ。
どちらも、横浜中華街にひっそり佇む、知る人ぞ知る小さな名店・聚楽045-651-2190)の物。

★ 椰絲月餅(ココナッツ月餅)

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大きさは、直径約7.5センチ、厚さ約4センチ。
中に、白胡麻を混ぜたココナッツを包んだ大月餅。




春節なのに、いきなり中秋のお菓子(笑)。
年間通して月餅が売られている日本在住なので、そこんとこ目を瞑って下さいませ。
この月餅は、当ブログにも繰り返し登場している私の好物、“椰絲月餅(ココナッツ月餅)”

ココナッツを練り込んだ餡を包んだ他店のココナッツ月餅と違い、
本当にココナッツばかりをドッサリ詰め込んだ月餅。
しかも、そのココナッツが、製菓用に売られているココナッツファインともまたちょっと違い、
もっと生っぽく、シャキシャキとした食感。
ココナッツ特有の甘さと香りが存分に楽しめるから、ココナッツ好きの人にはお勧めの月餅。

★ 馬拉糕 (マーライコウ)

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大きさは、長さ約10センチ、横幅約8センチ、厚さ約5・5センチ。
小麦粉に、たまご、砂糖などを混ぜ、蒸しあげたお菓子。




こちらは、馬拉糕 (マーライコウ)
お馴染み中華風蒸しケーキ。
日本では、“マーラーカオ”、“マーライコー”など、呼び方が統一されていないが、
聚楽の場合、ラベルに“馬拉糕 (マーライコウ)”と記されている。

ホールでも買えるが、これは、お一人様や少人数家族、お試しにも丁度良いカット売り。
ひと袋に2切れ入りで売られている。
なるべく早めに食べるよう推奨されているけれど、冷蔵庫で保存すれば、数日くらい問題なし。

特にそのように冷蔵庫で保存していた場合なら、私は食べる前に電子レンジでチン。
すると、ふんわり感倍増で、まるで蒸したてのよう。
逆に、冷えて身が締まった状態も、それはそれで好きだったりするのだが。
生地はしっとりした質感、クドくはないけれどコクのある素朴な甘さで、美味。

聚楽では、この馬拉糕と同じ形で、色がもっと白い“旦糕(タンコー)”というお菓子も売っているけれど、
そちらは食べたことがない。
どうやら、旦糕は、たまご、砂糖、小麦粉のみで作った蒸しケーキみたい。
つまり、“油抜き馬拉糕”って感じなのではないかと想像。
確かに油はカロリーが気になるけれど、でもねぇ、馬拉糕はあの油分があるから美味しいのヨ。
私は、この先も恐らく馬拉糕の方ばかりを買い続けると思う。

映画『ブラインド・マッサージ』

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【2014年/中国・フランス/115min.】
交通事故で突然視力を失った小馬は、父にあちらこちらの病院に連れ回され、
評判の外国人医師にも診察してもらうが、ついに回復の見込み無しとの宣告を受け、
その場で茶碗の破片を手に取り、自殺を計るが、救出される。
やがて成長し、南京の沙宗推拿中心で働くようになった小馬。
そこは、沙復明が経営する盲人マッサージ院。
店長の沙復明自身盲人であるが、雇ったばかりの女性・都紅が大層美しいと評判で、気になってくる。
そんな沙復明の元に、深圳で暮らしていたはずの古い友人・王から久し振りに連絡が入る。
なんでも、小孔という恋人ができ、一緒に南京に戻ってきたので、二人揃って雇ってくれないかという打診。
沙復明は、王の希望通り、彼らを雇い、マッサージ院はにわかに活気づくが…。



婁(ロウ・イエ)監督、『二重生活』(2012年)以来の最新作。
…と言っても、2014年の作品。
その年、第64回ベルリン国際映画祭では芸術貢献賞、
第51回金馬獎では、最佳劇情片(最優秀作品賞)をはじめ、最佳改編劇本(最優秀脚色賞)、
最佳新演員(最優秀新人俳優賞)、最佳攝影(最優秀撮影賞)、最佳剪輯(最優秀編集賞)、
最佳音效(音響効果賞)と、最多の6部門で受賞。

婁監督作品は、日本に入って来る確率が非常に高いし、
ましてや“賞”という輝かしいオマケも沢山ついてるので、すぐに観られると信じていたのに、
結局随分待たされた…。

ただ、有り難い事に、待たされているその間、本作品の原作である同名小説、
畢飛宇(ビー・フェイユィ)による<ブラインド・マッサージ>の翻訳本が発売されたので、
それを読んで、映画の予習ができた。




物語は、南京にある盲人マッサージの店・沙宗推拿中心(沙宗マッサージセンター)を舞台に、
そこで働く盲人たちを描く群像劇

人々のお喋りが飛び交う活気あるマッサージ院に、次第に影が落ち、やがて閉店に追い込まれる
沙宗推拿中心というお店の栄枯盛衰がベース。
そこで働く盲人たちには、それぞれのドラマがあるのだが、本作品は、特に、ラヴ・ストーリーの側面が強い。
…もっと言うならば、一般的にはタブー視されがちな、彼らの性にまで切り込んでいる。

当然、細かな違いは多々有れど、
約350ページの原作小説を最初から最後まで巧い具合に網羅し、2時間に収めた映画。
小説との決定的な違いは、物語の幕の下ろし方。
小説では、いきなり大量の血を吐いた店長・沙復明が病院に運ばれ、
皆の将来が見えない状態で、含みをもたせ、物語は終わる。
一方、映画では、小説には無い皆の“その後”が描かれているのだ。
しかも、婁監督作品の中では、かなり幸福度の高いハッピー・エンディング。


一つ特徴的に感じたのは、これまた婁監督作品には珍しく、ナレーションが多いこと。
視覚を持たない人々の世界を、映画という形で視覚的に表現するのに、
“声”の助けは必要だったのかも知れない。
また、登場人物たちと同じように、目が不自由な人々に、この映画を感じてもらうために、
声による説明を加えたのかも?
冒頭から、一般的な映画と違い、スタッフと主要キャストの名が読み上げられるのが、新鮮であった。





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主な出演は、沙宗推拿中心の店長・沙復明に秦昊(チン・ハオ)
帰郷し、旧友・沙復明の店で働くことになる王大夫に郭曉冬(グオ・シャオドン)
王大夫に付いて南京までやって来た彼の恋人・小孔に張磊(チャン・レイ)
沙復明店長が想いを寄せる美人と評判の都紅に梅婷(メイ・ティン)
小孔に想いを寄せる青年・小馬に黃軒(ホアン・シュエン)
やがて小馬が深く関わることになる娼婦・小蠻に黃璐(ホアン・ルー)など。


“婁監督御用俳優”秦昊、上手い!とにかく上手い…!
こういう事を言って、差別的に捉えられてしまうとイヤなのだけれど、秦昊は見た目からして成り切っている。

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秦昊という俳優を知らない人がこの映画を観たら、彼のことを本当に目が不自由だと信じてしまうのでは。
これまでにも、盲人を演じた俳優は沢山いる。日本だったら、例えば座頭市の勝新太郎。
香港の梁朝偉(トニー・レオン)は映画でなんと4回も盲人を演じている。
最近だったら、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』の甄子丹(ドニー・イェン)も盲目であった。
作風の違いとか、色々有るから、簡単に比較はしにくいけれど、
リアリティでは、秦昊以上の俳優は見たことがない。
単純に、どうやってこの表情を作ったのか?という疑問が沸く。
内面に関しては、小説を読み、私がイメージした沙復明より、
秦昊は快活な印象の男性を演じているが、それも充分“アリ”と納得。
健常者の女性とお見合いし、逃げられたにも拘わらず、
明るく「See you latere!」と英語で調子っぱずれな別れの挨拶をして、知識人アピールをするくだりは、
原作には無いけれど、沙復明の盲人らしからぬ如才なさを、端的に表現していると感じた。


郭曉冬は、『天安門、恋人たち』(2006年)以来の婁監督作品登板か。
小説だと、沙復明より王さんの方が記憶に残る描き方をされているけれど、
映画だと沙復明の方が扱いが大きく感じる。
王さんの方は、“扱いが小さい”という表現には語弊があり、そもそもが寡黙な人なのであろう。
だからこそ、弟の借金を肩代わりさせられそうになった時、包丁を持ち出して、自分の体を傷付けるシーンは、
普段とのギャップで、余計にハッとさせられる。


そして、黃軒!黃軒は、今回私が最も楽しみにしていたキャスト。
私mango一押しの俳優・黃軒については、こちらの“大陸男前名鑑”を是非、ぜひ。
不遇時代の長かった彼を、一気にスタアダムにのし上げた作品の一本は、
間違いなくこの『ブラインド・マッサージ』であろう。
日本の多くの婁監督ファンは、黃軒を婁監督作品初登板の俳優として、新鮮な目で彼を見たと思うけれど、
実は、正確には、かの『スプリング・フィーバー』(2009年)が黃軒にとって初の婁監督デビュー作なのだ。
黃軒は、撮影に参加した『スプリング・フィーバー』で、自分の出演シーンが全てカットされ、
最後に名前が辛うじてクレジットだけされたことを、
後々主演男優の一人・陳思成(チェン・スーチェン)のマネージャーから聞かされたという。
私、半信半疑で家にある『スプリング・フィーバー』のDVDをチェックしちゃいましたよ。そうしたら…

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“参加演出”というところに、本当にクレジットされていた。可哀そう過ぎて、笑ってしまいましたわ…。

それから5年も待たされたわけだけれど、婁監督“償いの再キャスティング(?)”で、
のちに“代表作”と呼べるような本作品に出演できて、本当に良かった。
『スプリング・フィーバー』にチョイ役で出るより、メインキャストという堂々の位置で、本作品に出演し、
“俳優・黃軒”を印象付けられたのだから、今思えば、これで良かったのかも。人生って不思議。
本作品は、黃軒扮する小馬の回想シーンで幕を開け、“その後”の小馬の笑顔で幕を下ろす、
実質小馬が主人公の映画なのだ。

私は、この映画に黃軒が出ていることを知った上で原作小説を読んだのだが、
繊細な小馬は本当に黃軒の個性にピッタリの人物だと思った。
実際に映画を観ると、黃軒は小説以上に小馬の“静と動”の起伏をハッキリ演じているように感じる。
小馬は、基本的には寡黙な青年なのだけれど、
失明が判り、大勢の前でいきなり自殺を計ろうとする冒頭のシーンでも感じられるように、
普段は内に抑えている衝動を爆発させることがある。一般的に、おとなしく見える人ほど、そういうもの。
恋愛に関しても同様で、小孔に対しての報われない想いを抱え、爆発寸前の時、
それに気付いた同僚・張一光の計らいで、娼婦の小蠻と出逢い、彼女の元に通うようになる。
最初の内は小蠻を小孔の身代わりにしていたのかも知れないし、
感情より肉欲に囚われていったのかも知れないが、
最後の“その後”の小馬の、肩の力が抜けた幸福な笑顔を見て、ホッとさせられた。


女性陣では、美人と評判の都紅が、小説以上に大きく、印象的に登場していると感じる。
目の見えない盲人たちがそれぞれに感じる“美”というものの価値を
映画ではより鮮明に描きたかったからなのかも知れない。
安定の演技で、美の権化・都紅に扮する梅婷は勿論良かったけれど、
より強烈に私の脳裏に焼き付いたのは、小孔を演じた張磊。

張磊は、それまで演技未経験。実際に先天的に目が不自由な1990年生まれの女の子。
南京の盲学校に在籍していた2012年夏、出演者探しにやって来た映画スタッフの目に留まったという。
脚本を渡され、相手役との激しいキスシーンやベッドシーンがあり、裸にもなる必要があると知り、ボー然。
スタッフからは、「婁監督はリアリティを求めているが、あなたが嫌がる事は強要などしない」と説明され、
家族が背中を押してくれたこともあり、最終的にこの出演オファーを受諾。

大抵の映画監督にとって、自分の作品に素人を出演させることは、賭けだと思う。
ましてや、その素人は、恐らく映画というものを実際には観たことがない人なのだ。
でも、その素人の側にしたって、国際的に評価されている監督の新作にいきなり駆り出され、
世間の目に晒されるのは、一大事。
しかも、ハタチそこそこの女の子が、カメラの前で脱衣やベッドシーンを要求されちゃうのだ。
張磊の前向きなチャレンジ精神には、敬服しかない。

だからと言って、本作品は、我々観衆に、
目の不自由な素人の女の子が新たな世界で頑張っている姿を見せ、感動させる類の作品などではない。
映画の中の張磊はあくまでも“南京で働く盲人マッサージ師の小孔”であり、
私は鑑賞中ただの一度も「この女の子、健常者でも難しい役をよく頑張っているわぁ」などと思わなかった。
とにかくリアル!王さんに寄り添い、ふと浮かべる艶っぽい表情とか、なぜあんなにリアルに出せるのか。

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張磊は、本作品の演技が認められ、第51回金馬獎で最佳新演員(最優秀新人俳優賞)。
本来なら、この先も俳優業を続けるであろう新人に贈るべき賞だとも思うのだけれど、
確かに本作品の張磊には、観ている者を惹き付ける何かがあった。






婁やっぱり好きだワ。公開中に映画館でもう一回おかわり鑑賞したーーーい…!
期待が大きいと、ハードルが上がり、些細な不満で大失望してしまうことも多々有るが、
2017年1月公開作品の中で最も期待していた本作品には、結果大満足。
2017年1月現在で、今年のベスト映画暫定1位。
婁監督全作品の中でも、ベスト3に入れたい。
元々婁監督の作風が私好みだったり、原作小説が面白いという事もあるけれど、
タブー視されがちな盲人たちの愛と性を、奇を衒うことなく、また同情を誘うことなく表現した物語の世界に
スーッと自然に引き込まれ観入ったし、素人玄人入り混じったキャストも絶妙。
原作と同じなのだが、付き合い始めた金嫣から、“綺麗”と褒めることを半ば強要された徐泰和が、
“綺麗”の意味が分からないまま言う「比红烧肉还好看(豚の角煮より綺麗)」という台詞、好きです。
“美”を視覚で捉えられない事を巧く衝いた表現であり、それでいて愛嬌も感じられる台詞。
あと、雨や雨音が印象的な映画でもある。

日本の公式サイトでは、登場人物たちの名前を全て片仮名で表記していたのが、とてもイヤだったのだけれど、
実際に映画を観たら、日本語字幕では、きちんと漢字表記。日本側のこのようなお仕事も高く評価したい。
最近は、ドラマの字幕の方が改善傾向にあり、映画の方は古いやり方に固執したままの所が多い。
主に香港映画に力を入れている某配給会社などは、ちゃんと見習えヨ!と言いたい。

キャストでは、やはり黃軒!この映画で益々好きになってしまった。
今年4月には、別の出演作、張藝謀(チャン・イーモウ)監督最新作『グレートウォール』の公開も控えているが、
私はそれより、染谷将太とダブル主演で、白楽天を演じている、陳凱歌(チェン・カイコー)監督最新作、
『空海 KU-KAI』の方がより楽しみ。(→こちらを参照)
ただ、その『空海』の制作にガッツリ絡んでいる角川が、
黃軒のことを“ホアン・シュアン”と誤表記で宣伝し続けているのが腹立たしい。
『ブラインド・マッサージ』の方の公式サイトでは“ホアン・シュエン”になっているけれど、
『ブラインド・マッサージ』より『空海』の方が公開規模が格段に大きいハズ。
大企業は、“自分たちが発した情報は例え誤りでも正解として世間に定着してしまう”という
自覚と責任をきちんと持っていただきたい。誰か、角川に知り合いがいる人、「正せ!」と注意してやって。
…っていうか、そもそも“黃軒”くらい漢字で記すべし。“染谷将太”だって漢字にしているのだから。

婁監督の次回作は『地獄戀人』。
井柏然(ジン・ボーラン)や馬思純(マー・スーチュン)が出演する犯罪サスペンスのようだが、
ど、ど、どうなの、これ…?!婁が、アイドル映画を撮るのか…??!
いや、井柏然と馬思純はともかく、
お色気写真流出事件で、半ば引退状態だった香港の陳冠希(エディソン・チャン)の名や、
もっと分からないのは、台湾の陳妍希(ミシェル・チェン)の名が出演者に挙がっていること。
“婁監督御用俳優”秦昊や、舒淇(スー・チー)も出るらしいので、そこには期待。



映画の原作小説、畢飛宇(ビー・フェイユィ)の<ブラインド・マッサージ>については、こちらから。

小馬を演じた俳優・黃軒についての詳細は、こちらから。

五十鈴茶屋:大寒のお菓子3種(+テレビ雑記)

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2017年1月23日(月曜)、チャンネル銀河で始まった大陸時代劇、
『秀麗伝 美しき賢后と帝の紡ぐ愛~秀麗江山之長歌行』を御覧になっている方はいらっしゃるでしょうか。
これ、時代背景が、王莽(紀元前45-23)が興した新朝のドラマ。
そう、『皇后的男人 紀元を越えた恋~相愛穿梭千年』で陳翔(チェン・シャン)が演じていたあの王莽の
“その後”に繋がるドラマなので、取り敢えず録画して一週間分は観たものの、まったく引き込まれず。
私、40過ぎて未だ少女を演じてしまう往生際の悪い林心如(ルビー・リン)は、やはり苦手。
全50話ねぇ…。録画を続けるべきか、もうここで捨てるべきか。


ところで、今日は太陽がキラキラだったにも拘わらず、空気が冷たかったけれど、
2017年の立春は、明後日の2月4日(土曜)らしい。冷え性の私には、寒さが堪える。早く暖かくなって欲しい。


そんな立春を迎える今週末に、要チェックのテレビ番組が3本。

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一本目は、2月4日(土曜)、NHK BS1の『“絆”を語れ 日中コンビ~ラジオ中国語コンテスト2016』
2016年11月5日、NHKラジオジャパンの主催で
“中国語ラジオパーソナリティーコンテスト2016”なるものが開催。
日本人と中国人が二人一組になって中国語でトークショーを行うコンテストで、
高校生、日中国際結婚夫婦など16組が参加。
番組は、出場者発表から本番のステージまでたったの19日の間に、練習を重ねる日中ペアたちを取材し、
彼らが何を胸に秘め、何を得るのかに迫るドキュメンタリー。
中国語でラジオ番組風に喋れる日本の高校生って、帰国子女とか留学経験のある子なのだろうか。
内向きになっていると言われ幾久しい日本だが、自分の言葉で外国人とコミュニケーションが取れる、
…もしくは、上手く取れないまでも、最低限取ろうとする意欲のある若い子が居るのは、救い。



その日の夜、正確には日を跨いだ2月5日(日曜)の深夜0時05分からは、NHKの『今夜も生でさだまさし』
さだまさしには興味がなく、この番組も観たことがない(…それ以前に、番組の存在すら知らなかった)。
なのに、なぜ、この番組を録画予約するかというと、
今回は、『台北です』と題し、台北の日本人学校から生中継するから。どうやら、さだまさしは…

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明日、2月3日、台北國父紀念館でチャリティーコンサートを開催するらしい。
それで台北に居るのですね。(さだまさし=佐田雅志、…であると初めて知った。)
もしコンサート中継だったら、正直言って、興味ないのだけれど、
番組では、春節を終えたばかりの台湾の様子なども紹介するそう。




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同日、2月5日(日曜)の夜は、NHKの『巨龍中国 大気汚染 超大国の苦悶~PM2.5 沈黙を破る人々』
NHKでしばしば放送されている“巨龍中国”シリーズ。
今回取り上げているのは、深刻な大気汚染の対処。
習近平体制は、2017年までに大気汚染対策だけで28兆円超の費用を投じると発表し、
2022年の冬季五輪までにPM2.5の値を約45%削減すると国際公約を掲げたが、
環境大国への転換は果たして可能なのか?
NHKでは、国内最大手企業の工場の近隣住民が次々と癌で亡くなる武漢市、
大気汚染ランキングワースト1位の常連である鉄鋼の町・河北省唐山市や秦皇島市などで、
2年8ヶ月に渡り、大気汚染に苦しむ人々にカメラを向け、取材。
そこから、国の大目標である環境対策に舵を切りきれない地方政府や企業の厳しい現実が見えてくるという。

中国の大気汚染というと、日本のテレビでは、数メートル先もモヤで見えない北京の街が、よく映し出され、
あの状況が365日続いているかのような錯覚を視聴者に抱かせるが、
私が北京へ行くのは大抵初夏から夏くらいの時期で、しかも毎回一週間程度しか滞在しないので、
実は、あのようなモヤモヤの光景には、一度も遭遇したことが無い。
それに、夏の室内で凍え死にそうになる他のアジア諸国と違い、
地下鉄や大型施設での冷房温度が高めに設定されていたり(冷え性の私には心地よい)、
スーパー、コンビニのみならず、書店などの商店でもレジ袋を無料で無暗に使わせないようにするなど、
環境に対する配慮は、日本よりむしろずっと厳しいように見受ける。
それでも、国土も人口も日本とは桁違いの中国では、きっと“焼け石に水”なのであろう。
超大国には超大国ならではの利点がある代わりに、問題の規模も膨大になって、大変そう。





さて、お菓子。
今回は、伊勢の和菓子屋さん、五十鈴茶屋(公式サイト)“二十四節気”という詰め合わせ。
和菓子というのは、どこのお店でも、移りゆく季節に合わせ、様々に変化していくものだが、
五十鈴茶屋では、節気ごと、…つまり、一年に24回、それぞれ3ツを1セットにした上生菓子を提供。

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2017年1月20日から、明日2月3日までは、“大寒のお菓子”

以下、一つずつ見ていく。

★ 福豆

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大きさは、一番長い部分で約4.5センチ。
白餡をお多福豆の餡で包み、豆の形にした生菓子。




一つ目は“福豆”
豆まきをする日として我々日本人に根付いている、立春を目前に控えた2月の節分にちなみ、
お豆の形を模したお菓子。

一般的に黒い色の餡子は、小豆で作られているけれど、このお菓子の外側の部分はお多福豆の餡子。
確かに、お多福豆の味!
中の白餡は、濾され過ぎておらず、所々にお豆の塊が。

お多福豆餡で白餡を包んでいるので、言わば“餡の餡包み”なのだが、
味と食感に差があるので、単調ではない。

★ 蕗の薹

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大きさは、直径4センチ弱。
白餡を黄身餡で包み、洋酒で香り付けし、蕗の薹に見立てたお菓子。



続いて、“蕗の薹(ふきのとう)”
雪の下から芽吹き、冬の終わりが近いことを人々に知らせる春の使い、蕗の薹をイメージしたお菓子。
蕗の薹を知らない人が見たら、「わぁー、可愛い!」とはなかなか言えない、ビミョーな形。
コロコロの里芋っぽいけれど、里芋にしては、上部の緑色が謎だし…。

お味はまずまず。
外側の黄身餡は、口の中でホロホロと崩れ、サーッと溶けていく感じ。
全体的にサッパリ味なのだが、微かに洋酒の風味が感じられるのが、特徴的。

★ 寒牡丹

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大きさは、直径約4センチ。
薯蕷を加えた煉り切りで、こし餡を包み、寒牡丹に見立てたお菓子。



最後は、“寒牡丹”
厳冬の時季、菰囲い(こもかこい)で覆われ、可憐に咲く寒牡丹をイメージ。
寒牡丹は、春の牡丹に比べ、少々小ぶりとのこと。
確かに、このお菓子は、まだ雪舞う中、小さいながらパッと花びらを広げたような姿が、可憐で愛らしい。

お味は、今回食べた3ツの中では、最も甘みが強い。
…と言っても、かなり抑えた甘さ(このお店のお菓子は、他店と比べ、かなり甘さ控えめだと思う)。
煉り切りは、滑らかな舌触り。

映画『太陽の下で~真実の北朝鮮』

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【2015年/チェコ・ロシア・ドイツ・ラトビア・北朝鮮/110min.】
「我が国は朝日が最も早く昇る地球の東側に位置する美しい国です。」
カメラに向かい、スラスラと得意げに母国・北朝鮮を称えるリ・ジンミ。
彼女は、縫製工場で働く父と、豆乳工場で働く母のもと、平壌で幸せに暮らす8歳の少女。
その頃、北朝鮮では、金日成大元帥の生誕を祝う太陽節を間近に控え、みんな準備に大わらわ。
朝鮮少年団への入団が決まったジンミもまた、太陽節に向け、発表演目の練習など、いつも以上に大忙し。
少年団入団は大変な名誉。
ジンミ本人のみならず、ジンミの両親も、職場の同僚たちから、多くの祝いの言葉を掛けられる。
ところが、実のところ、ジンミの両親は、この職場に慣れておらず…。



とても気になっていたヴィタリー・マンスキー監督作品を鑑賞。

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このヴィタリー・マンスキー監督は、1963年、ウクライナのリヴィウに生まれ、
ニキータ・ミハルコフ、アンドレイ・タルコフスキーら著名な映画監督を輩出している
モスクワのVGIK 全ロシア映画大学で学んだロシア人映画監督。
1989年にデビューして以来、30本以上の作品を監督、200本以上をプロデュースし、
国内外の映画賞で受賞歴多数。
ドキュメンタリーの分野では、ロシアの第一人者と呼べる監督さんらしい。



そんなヴィタリー・マンスキー監督が2015年に発表した本作品は、
北朝鮮・平壌で、模範労働者の両親と3人で暮らす8歳の女の子・ジンミに密着し、
北朝鮮庶民の日常(虚構の日常)をカメラに収めたドキュメンタリー作品

ヴィタリー・マンスキー監督がそもそも北朝鮮に関心を抱いたのは、
スターリン政権下だった頃の自国に似た北朝鮮を通し、自国の歴史を振り返りたいという思いがあったようだ。
2012年、ウラジオストク映画祭で、北朝鮮代表団と出会い、早速北朝鮮へ下見の訪問。
いざ現地を訪れてみると、外部からは、30年代のソ連に似ているように見えた北朝鮮が、
実は当時のソ連ともかなり異なる国であると感じたという。
当時のソ連には、劇場、映画館、図書館といった文化があったし、
ソ連の人々は辛辣で、気に入らない事があると不満を漏らしていたが、
北朝鮮の人々には、文化的な想い出があまり無いようだし、それでいて誰もが満足気に見える。
そのような部分が引っ掛かり、そこをドキュメンタリーで表現したいと考え、
北朝鮮政府との交渉を始め、2年かけ撮影許可を取得。

当然ながら、撮影許可が下りたからといって、「どうぞ御自由に何でもお撮り下さい」とはいかない。
最終的な契約では、台本、出演者、ガイドを北朝鮮側が用意すること、
撮影した物は毎日北朝鮮検閲官がチェックすることなどが盛り込まれ、
さらに、現地入りしたヴィタリー・マンスキー監督は、自由に出歩くことも、
出演者と直接会話することも禁じられたという。



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実際に本作品を観ると、小さな主演女優・ジンミちゃんは、とても可愛らしい顔立ちの少女。
北朝鮮政府が、見た目からして並み以上の子を“キャスティング”していることが分かる。
エリート校に通う彼女は両親と平凡ながら幸せな生活を送っているのだが、
縫製工場のエンジニアである父は、実はジャーナリスト、豆乳工場で働く母は、実は普段は食堂勤務なのだと。
要するに、映画用に“キャラ設定”を変えられている。


つまり、北朝鮮がヴィタリー・マンスキー監督に撮影許可を下ろしたのは、
外国人監督の手で北朝鮮のプロパガンダ映画を撮らせたかったからに過ぎない。
“北朝鮮プロパガンダ映画byロシア人監督”でも、それはそれで面白かったかも知れないのだけれど、
ヴィタリー・マンスキー監督の凄い所は、果敢にもこっそりとカメラを回し続け、
北朝鮮側が創り上げる“理想の舞台”の裏側をも収めてしまっていること。
本作品は、本来“北朝鮮プロパガンダ映画byロシア人監督”になるはずの作品の
舞台裏を暴いたドキュメンタリー作品になっているワケ。
“メイキングOF北朝鮮プロパガンダ映画”と称しても良いであろう。


なぜこのような事が可能だったかというと、
ヴィタリー・マンスキー監督が使うカメラは、メモリーカードが2枚入るタイプだったかららしい。
毎日、一枚のメモリーカードを検閲官に渡すと、
その日撮影した収穫の中から、北朝鮮にとって不都合な部分は案の定削除されるのだが、
もう一枚のメモリーカードにコピーが残っているから大丈夫。
ヴィタリー・マンスキー監督は、それを国外に持ち出すという危険を冒して、本作品を完成させている。


これは当然北朝鮮政府のお怒りに触れ、ロシア政府に抗議。分かります、立派な契約違反ですものね。
ロシア政府もきちんと対処しており、ヴィタリー・マンスキー監督への非難声明と、本作品の上映禁止を発表。
それでも海外の多くの国で上映され、こうして日本に住む我々も観る機会に有りつけたわけでございます。

本作品は、いくつか映画賞も受賞しており、
2015年、エストニアのタリン・ブラックナイト映画祭で、まず一つ目の賞、最優秀監督賞を受賞した際、
北朝鮮政府からヴィタリー・マンスキー監督に
「緊急課題について話し合いたい」と北朝鮮ご招待の打診があったそうだが、
監督は「私はそこまで愚かではない。戻ったら何が起きるか分かっている」と、お断りしたとのこと。






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作品の最初の方で、ジンミちゃんが両親と食卓を囲むシーンがある。
「キムチは朝鮮民族の伝統的な食品だ。
キムチ200グラムと汁70ミリリットルで、一日に必要なビタミンの半分が摂取できるんだぞ。」
「それだけじゃなくて、老化予防や癌の予防にもなるのよ。」
「よく知っているな。」
「ハハハハハ…!」
…と、まるでキムチのCMのようなシーン。
明らかに家族ではない朝鮮人男性が、3人家族に演技指導しながら、何度もリハーサルを繰り返す場面も、
カメラはバッチリ収めている。
冗談みたいで、もう笑っちゃうしかない、この冒頭のシーンで、ガッチリ心を掴まれた。


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金正恩が新たに建てた最新鋭の子供病院を見せたいという意図があったのか、
ジンミちゃんのお友達がいきなり捻挫して入院するという設定や…

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勲章をいっぱい付けた老幹部の話があまりにも長々とクドく、
北朝鮮側の監督(?)から、「その話はもういい」と、せっかくの名演説を端折られる場面なども、可笑しかった。
他にも、奇想天外な“メイキングOF北朝鮮プロパガンダ映画”な珍シーンが多数。

ヴィタリー・マンスキー監督自身は、「現実を百とするなら、私が見たものは2~3。
さらに、撮影できたものは、0.2程度ではないかと思う」と語っているけれど、
それでも、未知の国・北朝鮮を、こうして覗けることは、とても貴重。

同じように北朝鮮の市井の人々を扱ったドキュメンタリー作品というと、
在日コリアン2世の梁英姫(ヤン・ヨンヒ)監督による『ディア・ピョンヤン』(2005年)や
『愛しきソナ』(2011年)を思い出すが、この『太陽の下で』は、それらとはまったく質の異なる作品。
梁英姫監督が、パーソナルな思いを詰め込んだ家族の物語を撮っているのに対し、
ヴィタリー・マンスキー監督が撮ったのは、北朝鮮の滑稽なまでの虚構をあぶり出す作品。
ドキュメンタリーも北朝鮮モノも好きなので、私は切り口の異なる作品をどれもそれぞれに楽しんでいる。

…ただ、危険を冒してまでも本作品を仕上げたヴィタリー・マンスキー監督の
ドキュメンタリー作家としての心意気には敬服するけれど、本作品を観終え、ひとつ心配事も沸いてきた。
北朝鮮でヴィタリー・マンスキー監督の監視役についていた人や検閲官は、その後どうしてるのだろうか。
外国人監督の隠し撮りにも気付かず、お国の恥部を全世界に晒され、
面子を丸潰れにされるという大失態を演じたのだから、失脚は免れないと察する。
北朝鮮当局から敵視されたところで逃げ切れるであろうロシアの著名な監督と違い、
北朝鮮にしか居場所の無い彼ら…。
本作品の最後に、大人たちの事情に振り回され、
演じ疲れたかのように大粒の涙を流す主演女優・ジンミちゃんより、
監視役や検閲官といった“裏方さん”たちの行く末の方が気になる。
独裁国家の真実を暴くという理念や表現の自由の裏で、犠牲者が出ないことを祈るばかり。
(レベルが違い過ぎて同列で語るのも失礼だが、最近日本でも、わざわざお金を払って来て下さるお客様が、
楽しい旅気分を損ねるであろうとみすみす分かる持論本を客室に置くという、とんだ“おもてなし”をしながら、
言論の自由を主張した某ホテルチェーンの叩き上げ創業者が話題になったので、
表現や言論の自由については、ついつい考えさせられてしまう。)

北京2016:田義墓①~田義墓への道

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毎度のことだが、北京2016旅の備忘録、更新すっかり滞っております…。
1月20日に放送された『アナザースカイ』隈研吾の北京編に触発され
(あれは『アナザースカイ』史上、上位に食い込む名編であった)、久々に田义墓(田義墓)でブログ更新。

★ 田義

田义墓(田義墓)とは、読んで字の如く、“田义(田義)”という人のお墓。

この田義(1534-1605)は、陝西華陰の出身。号は“渭川”。
9歳の時、浄身され、宮廷に上がり、
明の12代皇帝 世宗・嘉靖、13代 穆宗・隆慶、14代 神宗・万暦と、明朝三代の皇帝に仕えた太監(宦官)。

太監というと、賄賂で財を成すとか、皇帝を操るといったズル賢い奸臣のイメージも付きまとうが
田義はクリーンな好人物として語り継がれてる数少ない太監の一人。
特に第14代皇帝・万暦(萬曆)からの信頼は厚く、軍事行政面でも重用され、
南京守備の任を受け、万暦11年(1583年)からの6年間は、南京に派遣されている。
南京は、元々明の首都だった場所。
第3代皇帝・成祖永樂が、1421年、北京に遷都した後も、
六部や五軍都督府といった機能は残され、副都的役割を果たしていたので、
そこに守備として派遣されるということは、皇帝の代理くらい重要なお役目だったのだと。
北京に戻ってからは、内廷管理宦官の役職“十二監”の最高位・司礼監として、様々な部署を監督。
蟒袍玉帯など、在任中に受けた恩賜も多く、地位は二品まで上り詰めている。
明代、太監の最高位は四品とされており、田義の二品は特例。

そんな田義も、万暦33年(1605年)、72歳で病死。
萬曆帝は、ひどく悲しみ、3日間朝儀を取りやめ、田義を厚く弔う準備をさせたという。

★ 田義墓

通常四品までのところ、異例の二品まで上り詰めたほど皇帝からの信頼も厚かった寵臣なので、
お墓も太監のものとしては、かなり立派。

清代になると、管理する者も居なくなり、荒廃してしまうが、
それを惜しんだ僧侶が、時の皇帝・康熙に、批准を上奏し、
園内東側に慈祥庵を建て、そこを陽宅(風水における“人が住む場所”)として、
陰宅(風水で陽宅に対し死者が入る墓)田義墓を、守ることになる。

とは言っても、幾度となく盗掘に遭っているし、近年文革とか色々あって、荒廃は進んだであろう。
(文革中は幼稚園になったため、この場所が守られたという説もあるようだが、
その情報が正しいかどうかは、現時点で私は未確認。)
修復作業に入ったのは、比較的最近、1998年のこと。
2006年には、北京市の文化保護單位に登録され、一般にも開放されている。


この田義墓、全体の敷地面積は、約6000平米。
東京ドームのグラウンド部分の半分くらいの広さ。

園内は、以下の3ツのエリアで構成。
 墓园展区(墓地エリア)
 宦官文化陈列馆(宦官文化陳列館)
 田野石刻展区(屋外石彫刻エリア)


現在、墓地エリアには、明の田義をメインに、
馬龍湖、王奉、慈有方といった、明代、清代の他数名の太監のお墓が並んでいる。
(田義以外のお墓がここに作られた、もしくはここに移された時期は、説明文が見付からず、不明。)

★ 田義墓はどこ…?

保存状態の良い明代太監の貴重なお墓で、北京の文化保護単位に指定されているにもかかわらず、
観光地としては、なぜか不人気な田義墓。
日本のガイドブックの中では、取り上げる場所が比較的広く細かい<地球の歩き方>を見てみたが、
田義墓に関する記述は皆無。
折り込みの“北京市広域図”という地図でも、その辺りはばっさりカットされている。
北京の中心部からの距離は、頤和園へ行くのと大して変わらないのではないかと思うが、
あまり需要が無いのか、完全にスルーされている。

そこで私は、百度 baiduの地図などの他、たまたま読んだ台湾人男性が書いたブログを、行き方の参考に。
その男性も、情報が少なくて、行き方が分からず、困ったらしい。
近くまで来ているはずなのに、それらしき場所が見付からず、
道行く人々に「“田義墓”はどこですか?」と尋ねても、皆が皆、知らないという返答。
最後の最後に出稼ぎでこの地に住む男性がようやく場所を知っていて、教えてくれたという。
その出稼ぎの男性は、「昔からここに住む人たちは、
太監の墓なんて縁起の悪い物が地元にあることをイヤがっているから、
“田義墓”と聞いても、答えてくれないヨ。“慈祥庵”と尋ねないと駄目」と教えてくれたらしい。

ええぇぇー、太監のお墓がイヤだから、無いものとして、教えないなんて事あるかしら…??!
とにかく、私は、念の為、メモ帳に“慈祥庵”と覚え書きして、出発。

★ 田義墓への道のり

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まず、行ける所までは、地下鉄で。
田義墓に一番近い地下鉄駅は、1号線の西の終着駅、苹果园(蘋果園)
私は、それまで蘋果園の辺りには行ったことが無かった。
蘋果園というと、数年前に中国インディペンデント映画祭で『小蛾(シャオオー)の行方』(2007年)を観た時、
上映終了後にインターネットで中国と結んで行われたQ&Aで、
彭韜(ポン・タオ)監督が話した「北京で物乞いが一番多いのは蘋果園」という発言ばかりを思い出す。
それから数年経った2016年初秋、私は蘋果園で物乞いを見掛けることは無かった。
羊肉を使った料理を出すお店が多く、西域の香りを感じさせることからも、
昔ながらの北京っ子より、出稼ぎ労働者が多く住む地区であるとは見受けた。




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地下鉄で蘋果園駅まで行ったら、次はバスを利用。
地図で事前に調べたところ、首钢小区(首鋼小區)というバス停が、田義墓に一番近い。
そこは、結構な路線のバスが通っているようだ。
駅前が雑然としていて、バスがどこに止まるのか分からず、何本か逃してしまったけれど、
次から次へと来るので大丈夫。大して待たずに、977路のバスに乗車。


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バスは、全てのバス停に停車するし、次に止まるバス停名は、バス正面に表示されるから、分かり易い。
地下鉄で移動するのと何ら変わりは無い。
東京ではまったくバスに乗らないバス慣れしていない私でも、迷うことナシ。
目的の首鋼小區へは、事前に調べておいた時間より短い約15分で到着。



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バス下車いたしました、ここからは徒歩。
炎天下では体力を消耗し易いので、こんな場所で道を間違え、無駄に歩き回りたくない。
最初から確実な方角に進むため、人が多いバス停附近で、田義墓の場所を聞くことにする。
もちろん、例の台湾人男性のレポに従い、「“慈祥庵”はどこですか?」と質問。
…ところが、慈祥庵でも、知る人おらず。

何人かに質問した後、知っている人を探し出すにはかなりの時間を要すると悟ったので、
自分の勘を頼りに歩きだすことにした。
実のところ、バス停から田義墓までは単純な道のりで、
まずは“石门路(石門路)”という大通りを北上しなければならない事を私は知っていた。
ただ、道路名を表示したプレートがどこにも見当たらなかったので、
どの道が石門路なのか確信がもてなかったわけ。


80%くらいの確信で石門路らしき道を北上。

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北へ進めば進むほど人が少なくなっていくので、
本当にこの道で合っているのか?と少々不安にもなったけれど、それでも歩き続けていたら、
田義墓を示すプレートが掲げられているではないか。ホッ…!


(↓)ここ、“联科医院”、“民族养老院”という大きな看板が掲げられている角の家の手前の道に右折。

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ここにもやはり道路名は表示されていないが、この通りが“模式口大街”らしい。




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中国映画に出てくる田舎町のようで、北京の中心部とはまったく異なる雰囲気。
模式口大街の入り口附近は人影もまばらだったけれど、
奥へ進むと、ちょっとした市場のようなものや商店が出ていて、かなり賑わっている。




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どのようなお店が有るのか、人々は何を買っているのか?と興味深くキョロキョロ辺りを見渡していたら、
偶然にも、左手上方に“田義墓”と書かれた看板が目に飛び込んできた。
うわっ、こんな所に紛れ込んでいたのか、田義墓…!
北京市文物保護単位に指定されている施設の割りに、あまりにも気兼ねなく佇み過ぎており、
危うく通り過ぎてしまうところであった。
周囲に雑然と埋もれているこの様子を目の当たりにし、私は思った。
近隣住民は、太監のお墓を忌み嫌って知らないフリをしているのではなく、
本当にここに田義墓という文化財が有ることに気付いていないのではないか?…と。
それくらいここは目立たない。


とにかく、幸いにも私は偶然看板に気付き、目的地に辿り着けたので、坂を上って入り口へ。

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小さな牌樓をくぐり、右手にある小屋でチケット購入。大人一人8元也。



いよいよ見学スタート。
“北京2016:田義墓②~お墓参り”に続く。


◆◇◆ 田义墓 TianYi Tomb ◆◇◆
北京市 石景山区 模式口大街 80号

 9’00~16’00(入場券の販売は15時半終了)

 大人8元/学生4元
(身長120センチ以下の児童、65歳以上の高齢者、軍人などは無料)


地下鉄1号線・苹果园(蘋果園)駅から
336路、597路、977路、运通112线,运通116线といったバスに乗車、
首钢小区(首鋼小區)バス停で下車し、そこからさらに徒歩で約15~20分

素朴な和菓子2種(+ベルリン国際映画祭とかテレビとか)

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明日、2017年2月9日(木曜)、ドイツで第67回ベルリン国際映画祭開幕。
プレミア上映される、あの『トレインスポッティング』(1996年)の続編とか、
コンペ部門に出品されるアキ・カウリスマキ監督の『Toivon tuolla puolen~The Other Side of Hope』とか、
サリー・ポッター監督の『The Party』とか、面白そうな新作がいっぱい。
(『トレインスポッティング』の続編は、『T2 トレインスポッティング』のタイトルで、
日本でも2017年4月8日に公開されることが、すでに決定。)

中でも、私が特に期待しているのはやはりアジア系で、
韓国のホン・サンス監督作品『밤의 해변에서 혼자~On the Beach at Night Alone』、
中国の劉健(リュウ・ジェン)監督作品『好極了!~Have a Nice Day』、
そして、日本のSABU監督作品『Mr.Long ミスター・ロン~龍先生』など。


『好極了!』はアニメーション。

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私、日本のアニメは、一部のアート系アニメを除き、絵の雰囲気が子供の頃から大っ嫌い。
非国民と呼ばれようが国賊とよばれようが、好みに合わないのだから、仕方が無い。
中国のアニメは、古い上海アニメが好きで、最近の進化した物には特別興味が無かったのだけれど、
この劉健監督には、独特なセンスを感じる(壁に肉&シルヴェスター・スタローンとか)。


あと、やっぱりSABUの『Mr.Long ミスター・ロン』…!

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監督・SABU×主演・張震(チェン・チェン)なんて、大好物の贅沢な2種盛り!
“張震in日本映画”というと、過去に『遠くの空に消えた』(2007年)があるけれど、
あれは、行定勲監督に何か義理でもあって出演してあげたんじゃないの?!と疑ってしまうくらい
張震のフィルモグラフィには、どうでもいい作品であった。
しかし、監督がSABUなら、期待も膨らむ。
殺し屋の龍先生が、東京でのミッションに失敗し、追っ手から逃れ、田舎町に辿り着き、
幼い息子をもつ同郷の女性・莉莉と知り合い、3人で麺の屋台をやりながら新たな生活を始めようとするが、
そこでまたひと波乱あり…、みたいな物語なのかしら。
ひと頃のSABUっぽいストーリーを想像させる。とても面白そう。

台湾人キャストは、張震以外にも、莉莉役で姚以緹(イレブン・ヤオ)、
子役ちゃんも台湾人で白潤音(バイ・ルンイン)くん。

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姚以緹は、正統派の美人さんなのに、アラサーになる今の今まで、
“代表作”と呼べるような決定的な作品に恵まれていないので、これを機に一気に飛躍しそうな予感。
(姚以緹出演作で観たいのは、昨年公視が制作した電視電影『衣櫃裡的貓~The Cat in the Closet』くらい。)

SABUの監督作品がベルリンのコンペに出品されるのは、『天の茶助』(2014年)以来2度目。
張震も、『カップルズ』(1996年)、『愛你愛我~Betelnut Beauty』(2001年)といった出演作が、
過去にベルリンのコンペに選出されている。
今回もきっとSABU監督と一緒にベルリンに現れることでしょう。
なお、『Mr.Long ミスター・ロン』の日本公開は、今のところ漠然と“2017年公開予定”となっている。

ちなみに、SABUは、先日マーティン・スコセッシ監督最新作『沈黙 サイレンス』を観たら、
俳優としてチラッと出ていた。




いつ日本で観られるか分からない映画の話はこれくらいにしておき、すぐに観られるテレビ番組について。

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まず、ベルリンで映画祭が開幕する明日2月9日(木曜)は、NHK BSプレミアムの『世界入りにくい居酒屋』を。
今回紹介するのは、パンダと四川料理の都・成都のお店。
この番組が大陸を取り上げるのは、2016年2月に初めて上海を紹介して以来、一年ぶりの2度目。
10年間のGDP成長率が400%、超高層ビルが林立する大都会に変貌中のこの成都で、
地元の建築家が、バブルの中で消えゆく四川の味を守れ!と、
開発で壊された建物の廃材で作った古びた居酒屋が、今回の通なお店。
提供されるのは、貧しかった子供時代に、母親から教わった四川の家庭料理。
寒風が吹き込む店内では、防寒着の客が、激辛の回鍋肉とアルコール度数40度の白酒を胃に流し込むという。




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続いて、2月10日(金曜)、BS朝日の『WILD NATURE 地球大紀行』
“絶景!台湾紀行~空に舞うランタンの奇跡と九份の光と陰”と題した今回の台湾特集では、
“歴史的な絶景”として旧正月の平溪天燈節を、“人が造った絶景”として九份や三仙台を、
そして“大自然の絶景”として玉山や太魯閣といったように、3ツの角度から台湾の絶景を紹介。

九份や平溪天燈節を取り上げるBSの紀行番組に覚えがあるため、「あら、これ再放送かしら?」と思ったら、
以前に観たのは、同日同時刻にBS TBSで放送の裏番組『地球絶景紀行』であった。
BS朝日の方は、お題の頭に“WILD NATURE”を付けて、ささやかな差別化を図っているようだけれど、
一視聴者の立場で言わせていただきますと、
似たようなタイトルの紀行番組が多過ぎる上、実は内容にも大した差が無く、混乱し易い。
この“紀行番組問題”、どうにかならないの…?!
(その点、NHK BSプレミアムの『世界ふれあい街歩き』や『世界で一番美しい瞬間(とき)』などは、
他のBS局との違いを感じる。ナンだカンだ言って、やはりNHKは優秀なのだろうか。)





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最後は、2月11日(土曜)、TBSの『世界ふしぎ発見!』
こちらも、“秘史戲な神様がいっぱい 開運ワンダーランド台湾”と題した台湾特集。
多くの廟や寺があり、幸せやご利益を願う人々で賑わってる台湾を、ミステリーハンター瀬戸たかのが取材。
んン…、瀬戸たかの…??予告を見ると、レポしているのは、瀬戸カトリーヌ。
どうやら最近改名したらしい。何か心機一転!と思わせる出来事が身に起きたのだろうか。
占いや廟巡りをする今回の台湾取材は、今の御本人の気分にピッタリだったかもね。




お菓子は、ベルリンとは縁もゆかりも無い日本の素朴なお菓子を2ツ。

★ たねや:黒米大福

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大きさは、直径約5センチ。
もち米に黒米を混ぜた生地で、こし餡を包んだ大福。



一つめは、たねや(公式サイト)“黒米大福”
同店の“赤米大福”なら食べたことがあるのだけれど、こちらは初めて。

もち米に黒米を混ぜ込んでいるので、色は紫がかったグレーで、見た目からして普通の大福とは違う。
質感も通常の物とはやや異なり、お米の粒を若干残した、粗目のざっくりしたお餅に仕上げている。
敢えて滑らかにし過ぎていないのが良いし、弾力もある。
中には、こし餡がたっぷり。


赤米大福を食べたのは随分前なので、もうよく覚えていおらず、
それとこの黒米大福の違いは分からなかった(苦笑)。
赤米大福の方は、中がつぶ餡だったはずなので、
お餅の生地の違いより(←恐らく大差ない)、中の餡の好みで、赤か黒を選べば良いかと。
私は、基本的にこし餡派なので、次回も黒米大福の方を選ぶ気がする。
でも、粗目のザックリした餅生地には、それに負けないつぶ餡の方が合うかも…?

★ 長嶋屋:切山椒

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一本の長さは約8センチ。
上新粉に砂糖と山椒を加えて蒸し、棒状に切った餅菓子。



鎌倉の和菓子屋さん、長嶋屋(公式サイト)“切山椒”
近年お気に入りの鎌倉菓子のひとつ。
ひと袋に、白4本、赤4本の、計8本入り。

白と赤で、味には差が無い。
よーく見ると、緑色のプツプツが混ざっているので、
何も知らない人だと、カビが生えたお餅だと勘違いしそう。
でも、このまるでカビのような緑色が、実は山椒。

このお菓子、要は“山椒入りのすあま”。
モッチリと言うよりムッチリした食感で、ほんのり地味ぃーに甘い中に、ピリッとした山椒の辛みが効いている。


あまりに地味過ぎて、和菓子屋さんのショーケースで人々から無視されがちな“すあま”が好き、
さらに山椒も好き、…という人なら、この切山椒も絶対に好きなハズ。
すあま&山椒ファンに、お薦めいたします。

映画『沈黙~サイレンス』

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【2016年/アメリカ・台湾・メキシコ・イギリス・イタリア・日本/162min.】
1633年、長崎・雲仙。
役人たちから柄杓で煮えたぎる温泉の湯を掛けられ、悶え苦しむ隠れキリシタンたちを前に、
為す術もなく、ただただ悲嘆に暮れるポルトガル出身のイエズス会宣教師・フェレイラ。

1637年、マカオ。
二人の若き宣教師、ロドリゴとガルぺは、ヴァリニャーノ神父から、
師と仰ぐフェレイラが日本で棄教し、そのまま行方知れずになっていると聞かされ、耳を疑う。
なんとかフェレイラを探し出し、救いたい一心で、危険を覚悟で日本行きを決意。
まずは、人づてに、キチジローという日本人青年と接触。
キチジローは、品性のかけらも感じられない吞んだくれだが、
マカオでたった一人の日本人であるため、彼以外に頼れる者はいない。

そんなキチジローの案内で、海を渡り、到着したのは、長崎のトモギという寒村。
そこで、“じいさま”と呼ばれる長老をはじめ、密かにキリスト教を信仰する村人たちから、
温かく迎え入れられるロドリゴとガルぺ。
昼間は人目を忍び、小さなあばら家に籠り、暗くなると村人たちに教えを説くという日々を繰り返すが、
長崎奉行の捜査は、この地でも徐々に厳しさを増し…。



マーティン・スコセッシ監督の最新作を鑑賞。

私にとってのマーティン・スコセッシ監督作品最高峰は、
『ミーン・ストリート』(1973年)と『タクシードライバー』(1976年)であり、
それ以降の作品には、さほどビビッと来ることなく、
実のところ、“何がナンでも新作をチェックしておきたい監督”ではなくなってしまった。

それでも、この新作を是非観たい!と思ったのは、これが日本と深く関わっているから。
本作品の原作は、遠藤周作、1966年の小説<沈黙>。
すでに篠田正浩監督が『沈黙 SILENCE』(1971年)のタイトルで映画化済み。
…が、実は、私、そもそも原作小説を未読だし、篠田正浩監督版の『沈黙』も観ていない。
40年以上の時を経て、ハリウッドの巨匠までもが、2度目の映画化をするなんて、
余程素晴らしい小説なのだろうか。
遠藤周作というと、親しみ易いネスカフェの“狐狸庵先生”のイメージが記憶に未だ強く刻まれている反面、
敬虔なキリスト教徒であったことや、自らの信仰が作品に反映されている印象もあって、
まったくの無宗教である私は、取り分け<沈黙>のような小説には、なかなか手が出なかったのだ。
そんな訳で、内容をほとんど知らないまま映画鑑賞。




物語は、キリシタンの弾圧が激しさを増す江戸時代初期、
捕らえられ、棄教し、行方不明になったと噂される高名なイエズス会士・フェレイラを探し出すため、
キチジローという日本人青年の手引きで、マカオから長崎へ潜入した弟子のロドリゴとガルぺが、
現地の隠れキリシタンたちから歓迎され、厳しい状況下でも、自分たちが信じる宗教を通し、絆を深めていくが、
キチジローの裏切りで捕らえられてしまった上、罪無き隠れキリシタンたちをも巻き込んでしまい、
苦悩する姿を描きながら、信仰の意味を問う歴史ヒューマン・ドラマ

“隠れキリシタン”や“踏み絵”といった言葉は、小学校の歴史の教科書にも必ず出てくるし、
その背景についても、ある程度知っているつもりでいたが、
映像にされた物で改めて見ると、キリシタンの弾圧は、漠然と想像していたものよりずっと激烈だし、
知らなかった事もいっぱい。

そもそも、主人公の若き神父、セバスチャン・ロドリゴが、日本へ渡る動機は、
彼の師である高名なイエズス会士を探し出し、救うためなのだが、
その当のイエズス会士クリストヴァン・フェレイラって、実在の人物だったのですね。
私、それさえ知らなかったワ。

クリストヴァン・フェレイラ(1580-1650)が、ポルトガル出身のイエズス会士で、
布教のため渡った日本で捕らえられ、拷問の末、棄教し、日本名・沢野忠庵を名乗るようになり、
日本人の妻を娶り、キリスト教を批判する書<顕疑録>を記すなど、キリシタン弾圧に協力し、
日本で没したという話は、全て史実。
うわぁぁぁー、人生波乱万丈…。
江戸時代の日本に、どう見ても西洋的なお顔で、“沢野忠庵”を名乗るポルトガル人が暮らしていたなんて、
それだけでも不思議。

つまり、この物語は、フェレイラの数奇な生涯から着想を得て書かれたフィクションなのか。
フィクションであっても、根底には史実が絡んでいるから、嘘っぽくなく骨太。

そうそう、作中、キリシタンを取り締まる幕府の大目付、悪役として登場する井上筑後守も、
実際に存在した井上政重(1585-1661)がモデルなのだとか。
実際の井上政重は、元キリシタンであったと言い伝えられ、小説<沈黙>でも元キリシタンという設定らしい。
映画では、敢えてそのような説明はされていないが、井上を元キリシタンと考え、彼が発する言葉を聞くと、
それらの中に、ただの悪人とは片付けられない複雑な思いが感じられてくる。





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出演は、まず“西洋の部”を見ておくと、日本で消息を絶ったクリストヴァン・フェレイラにリーアム・ニーソン
フェレイラを探すため日本へ渡る彼の弟子、セバスチャン・ロドリゴにアンドリュー・ガーフィールド
フランシス・ガルぺにアダム・ドライヴァー

本作品の主演男優は、ロドリゴを演じるアンドリュー・ガーフィールドであるが、
あとの二人も、クセの強い個性派をもってきて、魅力的なキャスティング。

『BOY A』(2007年)で、新たなスタアの出現!と私に強く印象付けたアンドリュー・ガーフィールドは、
その後、着実にキャリアを積み、本作品でも、素晴らしい演技を披露。
若き神父の苦悩は、見ているこちら側がヒリヒリしてしまうほど痛ましい。
が、安定の演技もさることながら、
あのアンドリュー・ガーフィールドの口から「じいさま」だの「井上サマ」だのといった日本語が発せられたり、
あのアンドリュー・ガーフィールドが、日本の貧しい農民のような“ほっかむり”姿で登場することに、
新鮮な感動をおぼえた。
“ほっかむり”は、今やハリウッドスタアのアンドリュー・ガーフィールドが被ったところで、
やはり、あくまでも“ほっかむり”であり、「きゃー、素敵♪」ってわけにはいきませんね。




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主な舞台が日本なので、日本人出演者は当然多い。
マカオで出会ったロドリゴらを日本に連れてくるキチジローに窪塚洋介
長崎のトモギ村に暮らす隠れキリシタンの長老、“じいさま”と呼ばれるイチゾウに笈田ヨシ
同じくトモギ村の敬虔な隠れキリシタン、モキチに塚本晋也
キリシタンを取り締まる長崎奉行・井上筑後守にイッセー尾形、幕府の通辞に浅野忠信
そして、女性では、“モニカ”という洗礼名を名乗る隠れキリシタンに小松菜奈

ポスターやチラシには書かれていないけれど、
実は他にも、中村嘉葎雄、片桐はいり、伊佐山ひろ子、青木崇高、EXIL AKIRAなどなど
結構な有名人が、カメオ出演程度にバンバン出てくる(AKIRAがどこに出ていたのかは、私は気付かず…)。
逆に、ちゃんとポスターに名前が出ている加瀬亮の出演が、あまりにも呆気なかったのも、少々意外であった。
マーティン・スコセッシ監督作品なら、ギャラ無しでも現場を体験したい俳優は、きっと多いであろう。

テレビの映画宣伝などからは、そんな日本人出演者の中でも、
イッセー尾形が抜きん出ているように感じられたが、実際に映画を観たら、私は、イッセー尾形、駄目だった…。
昔ながらの典型的な“悪代官サマ”のような大袈裟な口調が、鼻に付く。
その井上サマの側近に扮する菅田俊が、これまた昭和なドラマの“悪代官サマ”もしくは“Vシネ”的表現で、
作風から浮いているように感じる。


逆に良かったのは、共に鑑賞前の期待が低かった窪塚洋介と塚本晋也。
窪塚洋介は、若い頃は勢いやノリで“時代を感じさせる雰囲気のある俳優”としてポジションを確立していたが、
そういう若さゆえの感覚は、年齢を重ねるにつれ、通用しなくなるもの。
近年、露出の機会がぐっと減り、本作品で久し振りに見たら、これまでとは違う一面を見せてくれていた。
扮しているキチジローは、無条件に好きになれるようなキャラクターではない。
踏み絵なんか踏み慣れちゃっているし(笑)、裏切りを繰り返すから、
「キリシタンは懺悔さえすれば、無制限に赦されると思っているのかーっ!」とイラっとさせられるのだけれど、
なかなか本心が読みにくい面白い役。

塚本晋也は、そう、映画監督のあの塚本晋也。
これまでも、俳優として、自作と限らず多くの作品に出演しているが、
今回演じているモキチは、取り分け印象に残った。
モキチは、キチジローと違い、信用できる男。敬虔な信者で、最後まで信念を曲げず…

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十字架に張り付けられ、波に打たれる痛ましい姿は、まるで“長崎のジーザス”!

映画監督では、他にもSABUが出ていた。
SABUは、現在開催中の第67回ベルリン国際映画祭、コンペティション部門に出品された…

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自身の監督最新作で、張震(チャン・チェン)主演の『Mr.Long ミスター・ロン』が超楽しみ(…余談ですが)。




ちなみに、主な舞台が長崎に設定されている本作品、撮影は日本ではなく、台湾で行われている。

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マーティン・スコセッシ監督と元々交流のあった台湾の巨匠・李安(アン・リー)監督のお薦めがあって
台湾での撮影を決めたと言われている。

台湾で撮影が行われたハリウッド映画というと、
リュック・ベッソン監督作品『LUCY/ルーシー』(2014年)があるけれど、
全編ドップリ台湾での撮影なると、この『沈黙』が初めて。

具体的には、台北の中影文化城をはじめ、陽明山、平溪、金瓜石、北投、貢寮、金山、三芝、花蓮、
あと、『ライフ・オブ・パイ』でも使われた、台中にある、多種多様の波を人工的に作れる貯水池など、
かなりあちらこちらで撮影されている。
(塚本晋也の十字架張り付け水刑シーンは、きっと『ライフ・オブ・パイ』と同じ台中の造浪池よね…?)

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一例を挙げると、(↑)こちらは花蓮。
残念ながら、中影文化城の撮影では、セットの日本家屋が突然倒壊し、
50代の台湾人男性スタッフが死亡するという痛ましい事故も起きてしまっている。

通辞役で出演の浅野忠信は、撮影中、台湾の美食も楽しんだそうで、
「小籠包や牛肉麵、あとお弁当もみんな美味しかった」と発言。
しかし、主演のアンドリュー・ガーフィールドは、役作りのためダイエット中で、食には有り付けず。
それでも、それなりの台湾滞在経験あるみたい。

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(↑)こちら、2015年5月に台北で行われた記者会見の画像なのだが、
アンドリュー・ガーフィールドが着ているこのグレーのコート、
なんと“台湾で一番有名な夜市”で購入した戦利品なのだと。
その頃、“スパイダーマンが夜市を散策!”と報道する台湾芸能記事を、随分目にした。
“台湾で一番有名な夜市”って、どこでしょうねー。やはり士林夜市?(洋服屋さんも多いし。)





ポルトガル人同士が英語で喋っているとか、
江戸時代に英語を解す日本人がこんなに沢山居るわけないじゃん!とか、当初納得できなかった部分も、
物語を追っている内に、気にならなくなっていった。
視覚的にも、昔のハリウッド映画のような“西洋人の手によるなんちゃってニッポン”というワザとらしさを感じず。
当時の日本を、かなり研究し尽くしたのではないだろうか。

私は、原作小説未読のため、着地点が読めず、
ロドリゴは棄教するのか?死ぬのか?日本を脱出するのか?等々色々と想像が巡り、
気付いた時には、鑑賞前には長過ぎると懸念していた2時間40分が終わっていた。

キリスト教徒をあそこまで激しく弾圧していた当時の幕府に関しては、
「そういう時代だった」と頭で分かろうとしても、現代に生きる私には、やはり理解するのが難しい。
また、命を危険に晒してまで、一つの宗教をあそこまで強く信仰するという気持ちも、
この映画を観たからといって、理解できるものではなかった。
ただ、“信仰しない自由”に置き換えれば、登場人物たちの気持ちも、少しは理解できる。
例えば、何か宗教をもつ男性と結婚するにあたり、周囲から「あなたも入信しなさい」と強く迫られたら、
その男性がどんなに素晴らしい男性でも、私は断固入信を拒絶し、結婚より“信仰しない自由”を選ぶと思う。
私の例えはやや軽いが、自分の意思を他者に曲げられてしまったり、
大切にしている物を不可抗力で奪われてしまうことは、辛いことだわよね、きっと。

あと、世界中で右傾化が進み、外国人や他民族に対し寛容でなくなりつつある今、この映画を観ると、
“自分とは異質のものとどう折り合いをつけるか”も考えさせられる。
ただ、日本が、部外者を拒絶し、自分たちだけの生活文化を守り続けてきた島国である事、
その島国根性は、4百年近く経った現代に至るまで、脈々と受け継がれており、
そう簡単に変わるものではないという事も、この映画を観て改めて感じたのでありました…。

北京2016:田義墓②~お墓参り

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田义墓(田義墓)は、明朝三代の皇帝に仕えた太監(宦官)・田義(1534-1605)のお墓。
非常にコンディションよく現存している珍しい物で、
北京市の文化保護單位に指定されている文化遺産でありながら、
観光地としては今ひとつマイナーで、日本のガイドブックなどでは、ほとんど紹介されていない。
そんな田義墓についての概要やアクセス方法は、“北京2016:田義墓①~田義墓への道”で記した通り。
この“北京2016:田義墓②”では、いよいよ見学。




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ここ、よほど不人気なのか、私以外に見学者らしき人が見当たらない。
人がごった返すあの北京で、週末に人っ子一人居ない観光地は珍しい。
正面入り口の牌樓では、両脇に、一応管理者らしきおじいさんが二人座り込み、
日がな一日お喋りしており、長閑です。



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私は、牌樓をくぐってすぐ右側に建つ小屋で、8元の入場券を購入。
ついでに、その並びにあるおトイレへも。
ガラガラで使用する人も居ないため、清潔であった。


入場券を買い、おトイレも済ませ、準備万端。いざ、見学スタート!

★ 神道門

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まずは、お墓へと続く正門である最初のゲート、神道門をくぐる。


神道門の先の神道(お墓など参拝場所へ通じる道)で迎えてくれるのは、漢白玉製の華表と二体の翁仲。

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華表(Huá biǎo かひょう)は、中国の伝統建築で入り口近くに立てれらる柱のような物のこと。
翁仲(Wēngzhòng おうちゅう)は、陵墓や神道に置かれる、人型、もしくは瑞獣などの石像のこと。
秦の始皇帝の時代、匈奴と戦った阮仲翁の伝説にもとづき作られた像が由来と言われているらしい。
人型の場合、武将と文官を対にするのは一般的で、
ここでも、向かって左に武将、右に文官が置かれている。
逆光のせいで、文官の方は写真がどうしても暗くなってしまった。

★ 碑亭

神道を抜けてもすぐにお墓があるわけではない。
どんどん北へ進み、いくつかの場所を通りながら、最北にあるお墓に辿り着くようになっている。

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まず、神道の次のエリアにあるのは、3ツの碑亭(Bēitíng ひてい)
碑亭というのは、中に置いた石碑を保護するあずま屋のこと。



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ここの碑亭は、それぞれ天井に立派な彫刻が施されており、
東西亭の石碑には、田義の生涯と功績が、
中亭の石碑には、万暦帝(萬曆帝)が田義に南京行きを命じる勅令が刻まれているそう。

★ 享殿

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次のエリアは享殿(Xiǎngdiàn きょうでん)
享殿とは、死者の像や位牌を安置する御堂。
ここは遺跡。御堂自体はもう残っておらず、石牌だけが立っている。


その中で注目なのは、清の康熙帝(1654-1722)の御批。

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批示は、皇帝が書面で与える指示のこと。
何が書いてあるのだかサッパリ分からないが、“康熙十一年”という部分だけ私でも辛うじて読める。
康熙11年は、西暦でいうと1672年。反清勢力の動乱・三藩の乱が起きる前年。
その頃の康熙帝はどのような御批を出したのでしょう。

★ 壽域門

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続いて、寿域门(壽域門)。これは、墓地エリアへの正門になっている石碑坊。
門額の上部に、“古華陰渭川田公壽域”と刻まれている。
“北京2016:田義墓①”にも記したように、“華陰”は田義の出身地、陝西の華陰のこと。
“渭川”は田義の号。

★ 石五供

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壽域門をくぐっても、まだお墓に辿り着かない。
このエリアに置かれているのは石五供
石で作られた祭祀に必要な5ツの物のこと。
日本でも、お供えに使う花、香、灯燭、水、飲食の5ツセットを“五供(ごく)”というそうだが、
ここでは、香炉1ツ、燭台2ツ、宝瓶2ツの計5品を“五供”と呼んでいるようだ。
多少差はあれど、香を焚くものや、灯りをともすもの等があり、
現代の日本の一般的な五供と基本的には近い。
違いは、それらが大きく立派なことぐらい。石に刻まれた彫刻も美しい。

★ 墓塚

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最後にようやくお墓。
(上の画像では解読困難だが…)正面中央に立てられた碑には
“司禮監掌印太監兼掌酒醋麵局印渭川諱義田公之墓”と刻まれてる。
その真後ろにお墓。こんもりと盛り上がった、いわゆる“塚”である。
日本人の感覚からすると、メインであるこのお墓が、他より地味に感じる。
なんか、お酒の醸造をするタンクっぽい。




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周囲には、他の明代、清代の数名の太監のお墓も。
誰の物だか不明のお墓もあれば、馬龍湖、王奉、慈有方といったように名前が判っているお墓もあるけれど、
いずれにしても、それら太監の経歴など詳細は不明。

★ 墓室

実は、ここには、もう一つの見所が。
享殿の方まで戻り、隅に目をやると、地下に続く墓室があるのだ。
2006年、北京の射撃場で発見された明代の太監の墓室を、ここに移築したとのこと。

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中にも入れる。
まずは真っ直ぐに階段を下り、さらに左に入っていくと墓室に突き当たる。
最初の階段部分は、外から太陽光が入り、充分明るいのだが、左に折れると、もう真っ暗闇!
人並み以上に目がいい私でも、ほとんど何も見えない…!

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一応、電気はある。
見学者が少ないので、普段は節電のため消されており、
「自分で点けて、見学し終わったらまた消していって」というシステム。
私も当然点けたのだけれど、小さな裸電球は、元々太陽光が入る部分だけを無駄に照らし、
左奥は暗闇のままで、電気の役目をまるで果たさず…。これ、設置し直すべきなのでは…?

仕方なく、手探りで恐る恐る奥に進む。
皆さま、いにしえの太監の真っ暗闇の墓室にたった一人で入ったことはありますか?
恐怖で、ほんとーーーーーっに背筋が凍り付きますからっ…!!
その恐ろしさは、皆さまの想像を遥かに越えていると思います。
私は、霊やお化けは勿論のこと、占いや宗教、スピリチュアルな物は一切信じない超リアリストだけれど、
ここは、これまでの人生で味わったことのない恐怖体験であった。


結局、何も見えないので、フラッシュをたき写真撮影。

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フラッシュをたいた瞬間だけ、この風景がパッと目の前に現れるわけ。

 あぁぁ、本当に恐ろしかった…。もう一度入れと言われても、躊躇する。
北京近郊だと、例えば明の十三陵などで、地下宮に入ったことがある人は、沢山居ることでしょう。
でも、あそこは、有名な観光地で、ちゃんと照明設備が整っているし、他の見学者もいっぱい。
まぁ、勇気のある人や、マニアックな観光をしたい人は、
北京の片隅で、明代に生きた太監の小さな墓室に一人で入ってみて。
心臓に持病を抱えている人だと、生きて地上に戻って来られないかも。




見学場所はまだ有り。
この後は、隣接する宦官文化陳列館と石刻エリアについて記す“北京2016:田義墓③”に続く。


◆◇◆ 田义墓 TianYi Tomb ◆◇◆
北京市 石景山区 模式口大街 80号

 9’00~16’00(入場券の販売は15時半終了)

 大人8元/学生4元
(身長120センチ以下の児童、65歳以上の高齢者、軍人などは無料)


地下鉄1号線・苹果园(蘋果園)駅から
336路、597路、977路、运通112线,运通116线といったバスに乗車、
首钢小区(首鋼小區)バス停で下車し、そこからさらに徒歩で約15~20分

定番ケーキ2種(+張震『Mr.Long』ベルリン国際映画祭)

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2017年2月9日(木曜)、ドイツで第67回ベルリン国際映画祭開幕し、
日本のSABU監督が手掛けた台湾の張震(チャン・チェン)主演映画『Mr.Long ミスター・ロン~龍先生』
コンペティション部門に選出されたのは、数日前、当ブログのこちらにも記した通り。

開幕のレッドカーペットには現れなかった『Mr.Long』組であったが…

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13日(現地時間だと12日?)、張震、ベルリナーレの熊さん柄入り襟巻きをして、ちゃぁ~んとベルリン入り。
こういう毛糸の襟巻きは、関係者に支給されるのだろうか。
タダの支給品だったとしても、張震がするとスタイリッシュ♪
(化粧前の歌舞伎役者のように、眉毛が無いように見えるのは、気のせいか…?)



ベルリンに到着して間も無く、まずは、グランド・ハイアットで記者会見。

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登壇者は、上の画像左から、プロデューサーのステファン・ホール、共演の青柳翔、姚以緹(イレブン・ヤオ)、
主演男優・張震、そして監督・SABU。
画像が切れてしまっているが、SABUの横に、実はもう一人、日本人プロデューサー市山尚三も。

中華芸能ニュースを見たら、会見の内容より、張震の髪形ばかりが語られていた。
確かに、一見地味なようでいて、実は“鳳啓助+Mr.スポック÷2”って感じの、かなり奇抜な髪型かも。



続いて、フォトコール。

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で、会見終了後の張震。

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壁に貼られているこの『Mr.Long』のポスターもカッコイイですね。



そして、いよいよ、『Mr.Long』プレミア上映。

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張震、ハレの日のお召し物はジョルジオ・アルマーニ。
姚以緹の方は、姉妹でやっているNicole+Feliciaという台湾のブライダルブランドの物とのこと。
(青柳翔ファンの皆さま、すみません。中華芸能ニュースばかりを見ているため、彼のお召し物情報は不明。)

上映終了後には、客席からの拍手が5分間鳴り止まなかったという。
この映画、私は、疾走感あふれるクライム・サスペンスを想像していたが、
なんでも、お料理が得意な殺し屋・龍先生(張震)がとてもロマンティックで、最後にはホロリとくるお話らしい。



張震にとってこのベルリン国際映画祭は想い出の映画祭でもあり、
滞在地から、(↓)このようなお写真も微博に出しております。

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今は亡き楊昌(エドワード・ヤン)監督と『カップルズ』を引っ提げ、
初めて同映画祭に参加した21年前のお写真。
張震も柯宇綸(クー・ユールン)も、金髪に染めちゃって、若い!
こういう失敗、…いや冒険?を繰り返して、少年はカッコイイ大人に成長するのですヨ。
(失敗や冒険をしない人は、無難な大人にはなれても、カッコイイ大人にはなれない場合が多いのは確か。)
今や二人とも台湾を代表する実力派俳優。
そして、もう一人注目しておきたいのが、左から2番目にこじんまりと映っている唐從聖(タン・ツォンシェン)。
張震や柯宇綸とは進む方向がズレ、いつの間にか『イタズラなKiss~惡作劇之吻』で
琴子のパパになっちゃった、あの唐從聖である。今や偶像劇でお馴染みの中年オヤジですね。
張震が、王家衛(ウォン・カーウァイ)監督と初めて出会ったのも、この時のベルリンなのだと。
その後、王家衛監督作品御用俳優になるのだから、運命的なベルリンだったのですね。


なお、この第67回ベルリン国際映画祭、受賞の発表は2月18日(土曜)の夜(日本時間19日未明)。
『Mr.Long ミスター・ロン~龍先生』は、何か賞を獲るでしょうか。健闘を祈ります。




お菓子は、ドイツ菓子!と言いたいところだけれど、最近その手の物を食べていないので、
広くヨーロッパ的なお菓子を2ツ。
どちらも、以前から当ブログに繰り返し出てる私の定番おやつ。

★ ヴィタメール:ベルジック・エクレール

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大きさは、長さ約15センチ。
中にキャラメル・ショコラ・クリームを詰め、上部にミルク・チョコレートをかけたエクレア。




ひとつめは、ヴィタメール(公式サイト)“ベルジック・エクレール”

チョコレートが有名なベルギー発のパティスリー、ヴィタメールだけに、チョコレートを前面に押し出したエクレア。
と言っても、ちょっと変化球で、中のふわっと軽いチョコレートクリームは、キャラメル風味。
キャラメルのこっくりした甘苦さが加わると、やはりチョコだけのクリームとはまた違った美味しさ。

最近、巷には、趣向を凝らした高級エクレアが数多く出回っているけれど、
いざ食べると、「見掛け倒し…」と失望し、払った金額だけの満足感を得られないことが多い。
その点、ヴィタメールのエクレアは、地味な“昔ながらのエクレア”で、驚きは無いが、間違いも無い。
こういうのって、色々食べても、最終的には、“基本”が一番なのかも。

★ 雪乃下:タルト・カフェ

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大きさは、直径約6センチ、高さ約5センチ。
中に胡桃入りキャラメル・サレを流しいれたタルトの上に、エスプレッソ・ムースを盛ったケーキ。




もう一つは、雪乃下(公式サイト)“タルト・カフェ”
こればかりを選んでしまうため、雪乃下では他のケーキを試す機会が無い。

上部は、口の中でサッと消えてしまうほど軽いエスプレッソムース。
対して下のタルト生地は、サクッとした食感。
そのタルトからトロリと流れ出る魅惑のキャラメルが、見るからに美味しそう。
見た目だけではなく、濃厚な甘さの中に程よい塩気が効き、さらに香ばしい胡桃も加わって、実際に美味しい。

コーヒーとキャラメルは相性が良いし、“フワッ”から“サクッ”まで、食感にも幅があり、
色々な要素がバランスよく組み合わされたケーキ。雪乃下の傑作。

北京2016:田義墓③~宦官文化陳列館・石刻展区

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前のエントリ、“北京2016:田義墓②”では、明代の太監・田義のお墓について記したが、
メインのお墓を見学し終えても、ここにはまだ見ておきたい所がある。
この最後の“北京2016:田義墓③”では、同じ敷地内にある残りのエリアについて。

★ 宦官文化陳列館

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お墓参りを終え、出入り口の方へ戻ると、そのすぐ右脇に、
赤い窓枠をもつレンガ造りの建物が、奥に向かって細長く、数棟建っている。
これが宦官文化陈列馆(宦官文化陳列館)
文字通り、様々な面から宦官について紹介するコーナー。

宦官(太監)の身体的特徴で、日本人が真っ先に思い浮かべるのは、“浄身(去勢)している”という点であろう。
実際、宦官は、宮中に仕える去勢した男性なので、この陳列館の展示にも、ぼちぼちエグイ物がある。
当ブログは、公開範囲を制限していないのだけれど、今回は一応18禁という事にしておこうかしらー。
(この項は簡単にしか触れないし、私自身は別にキワドイとは思っていないが…)
18歳以上でも、気の弱い方や、エログロ完全拒絶!という方は、自主的にスルーして下さいませ。


以下、展示の中から、一部を紹介。

★ 大昔から去勢

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“去勢した男性”と聞くと、清宮ドラマに出てくる辮髪の太監の姿をまず思い浮かべてしまいがちだが、
その歴史は非常に古く、もっとずーーーっと昔に遡る。
なんと古代の甲骨文字でも、すでに“去勢”を表す文字が…!分かり易い絵文字(笑)。
甲骨文字ということは、殷(紀元前1675-紀元前1046)の時代か。
ちなみに、中国語で“去勢”は、“閹割 yāngē”。
自分で去勢することは、“自宮 zìgōng”という。




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こちらは、陝西省にある前漢第6代皇帝・景帝(紀元前157-紀元前141)の陵墓、陽陵から出土された
紀元前141年頃の副葬品の土偶のレプリカ。
左から、武士俑、宦官俑、女人俑。
中央の宦官は、女性より長身で、一見武士と変わらないが、股間にビミョーな差が。

★ 清代の去勢

清代、去勢は、内務府に属す慎刑司の管轄。
しかし、明・清代の北京には、政府から去勢を請け負う民間の去勢屋さん(?)が出現。
清朝末期の北京では、南長街會計司胡同の“畢五”、
地安門内方磚胡同の“小刀劉”というお二方が去勢業の双璧。
共に、設備が整っており、実績が多く、技術が優れていて、死亡率も低かったため、
子供を太監にしたい人は、この2軒のどちらかに去勢を依頼したという。
(勿論タダではないので、お金が用意できない人は、
リスクは高まっても、有名ではない去勢屋さんに頼んだり、自分で処理。)



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この再現模型のように、去勢希望者は、手術台に固定され、局部を辣椒水(唐辛子ウォーター?)で洗浄。
全ての準備が整ったところで、執刀医から「後不後悔(後悔はない)?」と問われるのが、お約束。
そして、「後悔ない」と答えると、バサーッとカットされたそう。
形式的に後悔していないか聞かれたところで、
この“まな板の鯉”状態では、今更「後悔している!やめてーっ…!」とは言いにくいですよね。
この模型の太監候補者も、歯を食いしばり、見るからに辛そうな表情。
局部は、どうやら、天井から下げられた紐に縛って持ち上げ、カットし易くするようだ。



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こちら、去勢に使うナイフ、閹刀(清末に使われていた物のレプリカ)。
中華包丁というより出刃包丁って感じ?

★ 孫耀庭

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無事浄身を済ませ、見事入宮を果たした太監たちの中から、
さらに頭角を現し、皇帝など宮中の権力者に仕えることができる者も。
こちらの展示品は、日本でも、映画『ラストエンペラー』(1987年)でお馴染み、
宣統帝・愛新覺羅溥儀(1906-1967)が、自分に仕えた太監・孫耀庭に贈った坎肩(袖なしの上着)。
一見質素だが、よく見ると、祥雲のような地紋が入ったエレガントなお品。きっと上質な布地なのでしょうね~。




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その孫耀庭(1902-1996)は、ラストエンペラーに仕えた“清朝のラスト太監”!
1902年、天津の貧農に生まれ、一度は勉学を志したものの、
家計を助けるため、太監に成るべく、父親に浄身されるも、すでに清朝は崩壊。
それでも、新たに皇族に仕える太監が民間から募集されたため、
1916年、14歳の時、人の紹介で、溥儀の叔父にあたる載濤貝勒(1887-1970)の邸宅で働くことから
太監のキャリアをスタート。
その後、部署替え(?)を繰り返しながら、最終的には、満州国皇帝となった溥儀に仕えている。
1945年、日本の敗戦で、民間に戻ったり、さらにその後、文化大革命が有ったりで、
大変な苦労をしながらも、なんとつい最近の1996年まで存命だったというから、驚き。(享年94歳)



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孫耀庭のそんな波乱万丈の人生は、作家の賈英華が、本人からの取材で一冊の本にまとめ、
日本でも<最後の宦官秘聞~ラストエンペラー溥儀に仕えて>のタイトルで出版されている。
また、この自伝を元に、香港の張之亮(ジェイコブ・チャン)監督が、
『チャイナ・フィナーレ 清朝最後の宦官~中國最後一個太監』(1987年)という映画も撮ってる。
主人公の太監を演じているのは莫少聰(マックス・モク)。
洪金寶(サモハン・キンポー)、劉華(アンディ・ラウ)といった大物も脇で出演。
私は、本→未読、映画→随分前に鑑賞。映画は、“観応えのある重厚な歴史モノ”だったという記憶はない。
本の方は、是非読んでみたい。溥儀の同性愛説について肯定的な記述もあるらしい。

★ 中国史に名を残した宦官たち

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孫耀庭以外にも語り継がれている宦官は結構いる。
この展示室では、中国史に名を残す著名な宦官を紹介。
楊貴妃の物語に必ず出てくる唐朝第9代皇帝・玄宗に仕えた高力士(684-762)、
明朝第3代皇帝・永樂に重用され、大航海を成し遂げた鄭和(1371-1434)といった
日本でも広く知られる太監に関する記述も当然あり。


他、映画やドラマにも登場する有名どころをちょっとだけ取り上げてみると…

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王振(?-1449)
明朝第6/8代皇帝・英宗が専横を許し、権勢を振るった宦官。
この王振にそそのかされ、親征してしまったがため、明軍が大敗し、
英宗自身捕虜になってしまった“土木の変(土木堡之變)”で有名。
その後に続く、英宗の息子・成化帝と萬貴妃の物語は、ドラマ『王の後宮~後宮』にも描かれている。

魏忠賢(1568-1627)
媚びへつらいが上手く、文盲にも拘わらず、みるみる出世し、
明朝第16代皇帝・熹宗の下、権力を掌握し、明の衰退を加速させた奸臣。
非常に厚かましい男で、皇帝にしか使えない“萬歳(バンザイ)”は遠慮したものの、
親王に使う“千歳”より上の“九千歳”(後に“九千九百歳”まで水増し)を自分に向け
人々に唱和させたというエピソードが有名。
映画『ブレイド・マスター』(2014年)では、台湾の名優・金士傑(ジン・シージエ)が扮している。

李蓮英(1848-1911)
西太后こと慈禧太后に仕えた“清朝最後の宦官”として有名。
前出の孫耀庭以外にも、“最後の宦官”、実は結構居ます(笑)。
まぁ、何を以って“最後”と言うかの違いなのだけれど。
こちらの李蓮英は、清朝崩壊後に溥儀に仕えた50歳以上年下の孫耀庭と違い、清朝末期に活躍。
西太后を描く映像作品には大抵登場するし、ズバリ『清朝最後の宦官・李蓮英』(1990年)という映画もある。
これは、田壯壯(ティエン・チュアンチュアン)監督作品で、姜文(チアン・ウェン)が李蓮英に扮している。
ドラマ『蒼穹の昴~蒼穹之昴』の中でも、西太后・田中裕子のお側にくっ付いております。




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たかが宦官、されど宦官。宦官といえど、権力を掌握し、手に負えない存在になる者も多い。
そのように、宦官が元凶で起きた様々な災いについても多数紹介されている。
前述の“土木の変(土木堡之變)”についても、もちろん記されている。

★ 宦官ライフ

賄賂で財を成したり、皇帝を操ったりと、奸臣のイメージの強い宦官だけれど、
そんな彼らにも、日々の生活あり。
この展示室では、宦官のプライベート・ライフに触れられる。


例えば、(↓)こちら。

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西太后の息子である清朝第10代皇帝・同治帝(1856-1875)の時代の太監が使っていた紫砂の茶壷。
カラフルで可愛らしい、こんな茶壷で、日々の憂いを忘れ、ティータイムを楽しんでいたのでしょうか。


いや、それより、(↓)こっち。

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“变态的性行为(変態的性行為)”だと…!
去勢で性機能が働かなくなっても、性的欲求が無くなることはないため、変態行為に走る宦官は珍しくなく、
画像のようなオトナのおもちゃも色々見付かっている。
こういうの、中国語で“狎具 xiájù”と呼ぶそうです。
展示されている“狎具”は、根元に唐子みたいのが付いた、遊び心のある(?)デザイン。
(これと限らず、封建王朝時代の中国の様々な品を見て、私が感心するのは、
“ただ用が足りれば良い”のではなく、必ず無用とも思える装飾が施されている事。
“シンプル・イズ・ベスト”ではなく、“無駄”に美学を見出す点に、大層惹かれる。)



宦官のプライベート・ライフでは、他にも、“畸形的婚姻(いびつな婚姻)”として、
宦官の婚姻についての説明もなされていた。
それによると、性能力を失っているため、基本的には結婚は不可能とされていたが、
それでも、妻を娶って家庭をつくるという精神的満足感を得るために、
同じように寂しい宮女と、宮廷の外で、婚姻関係を結ぶ少数の宦官が、早くは漢代で確認されているらしい。
そのような宦官と宮女の特殊な関係を“對食(対食)”と呼び、
明代になると“菜戶(菜戸)”という言葉も使われるようになる。
対食と菜戸は、同じようであり、正確には区別あり。
対食は、元々、宮女同士の同性愛を意味していたたため、
その後も、宦官&宮女の異性愛、宮女&宮女の同性愛、どちらにも使えたのに対し、
菜戸は、宦官と宮女という異性の夫婦関係に限定なのだと。

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そう言えば、ドラマ『宮廷の諍い女~後宮甄嬛傳』でも、甄嬛お付きの宮女・槿汐が、
雍正帝お付きの太監・蘇培盛と、伴侶になっていましたよね。ああいうのは、現実に有った事なわけです。

★ 龍袍ミイラ

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最後は、宦官文化陳列館の目玉とも言える第4展示室へ。
中国語ができる方は、扉の文字“干尸”を見て、もうお分かりですよね?

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はい、ここには、“干した尸(屍)”、すなわち、ミイラが展示されております。




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こちら、2006年5月、北京市の西に位置する石景山玉泉路で出土されたミイラ。
出土時、このミイラ様が龍袍を身にまとっていたことから、多爾袞(ドルゴン)か?順治帝か?
いや、明のラストエンペラー崇禎帝じゃないか?!と物議を醸したが、どの説もことごとく却下され、
今のところ、“清朝・康熙年間の誰か”とされている。
お召し物の柄などを検証した結果、最有力候補とされているのは、黃拙吾という四品の中憲大夫で、
他にも康熙帝の第8子・愛新覺羅胤禩などの名が挙がっている。
香港の鄭嘉穎(ケビン・チェン)が演じたあの“⑧様”八爺ね。
謎が多過ぎて、決定的な立証には至っていないままのようだが、それもロマンがあって良いでしょうか。

このミイラが発見された場所は、ミイラの保存には不向きな粘土質の土壌だったにも拘わらず、
ほぼ完璧な状態で、髪や爪がしっかり残り、当時は肌にも弾力があったというから、驚き。
(その髪の毛だが、清代のお約束・辮髪ではなく、明代風の髷だったのも、謎が謎を呼んでいる一因。
ま、私が見たところ、ミイラの頭頂部はツルツルで、後頭部ばかりに毛がモッサリ生えていたので、
辮髪に思えたのですが…。)

悪条件の場所で、完璧に保存されていのには、この人物が生前、丹薬を服用していた可能性があるという。
この種の丹薬は、水銀や鉛を多く含むため、服用すると生命をも害するが、
遺体の保存には確実に有益なのだと。


なにせ私は、この日、この時間、田義墓を訪れた唯一の見学者だったので、
この展示室でも一人で自由に食い入るようにミイラを見ていたら、
後方から、「怖いだろ」と、係り員のおじさんが微笑みながら物音も立てずにヌーッと入ってきたので、
腰抜かしそうになった。…いえいえ、おじさん、ミイラよりおじさんの方が怖かったですヨ。

とにかく、私、これまでにミイラは何体も見てきたけれど、清代を生きた中国人ミイラを見たのは、初めて。
皆さまも、北京の片隅の誰も居ない小部屋で、清代のミイラ様に接見なさってはいかがでしょうか。
このミイラ様が一般に公開されたのは、2009年とのことです。

★ 田野石刻展区

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宦官文化陳列館を見学し終えたら、最後は、そのすぐ裏に隣接する田野石刻展区(屋外石彫刻エリア)へ。
ここは、石景山近辺で見付かった古い石の彫刻を集めたエリア。


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“展示場”というより、“石彫刻の墓場”って感じ。
あまりにも雑然と放置されているので、有り難味が感じられないけれど、
一つ一つをよく見ると、精巧な彫刻を施された物が多く、昔の人の技術の高さが窺える。


動物彫刻などもいくつか有るが、例えばこちら(↓)

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右の画像のように、中国では、石碑の土台になっているのをよく見掛けますよね。
このアニマル、亀だと思っている日本人が多いけれど、似て非なる生き物。
(かく言う私も、中国人に教えてもらいまで、漠然と亀だと思い込んでいた。)
龍の9頭いる子供、龍生九子の内の一つの神獸で、贔屭(贔屓 Bìxì ひいき/びし)という。
長寿や吉祥の象徴であると共に、重きを好むと言い伝えられているため、重い石碑を背負っていることが多い。


あと、中国の石碑というと、ものすごく古い物ばかりを想像してしまうが、
民国の青天白日旗と五色旗を彫った(↓)このような比較的新しい物も。

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“民國二十二年”と彫刻されている。つまり、西暦1933年、日本の昭和8年。
他は何が書いてあるのか分からない。
一応、1933年というと、満州事変の後、河北省の塘沽にて、
日本軍が中国側と停戦協定、いわゆる塘沽協定を締結した年。
まぁ、書かれている内容は分からずとも、今どきの中国で、民国の国旗が彫られた石碑自体がレア物ですよね。




以上で、田義墓の見学は全て終了。
私一人の貸し切り状態だったし、たったの8元ポッキリで、かなり濃いぃ見学ができ、満足。
田義墓に関する3ツのレポは、改めて以下にまとめておく。
北京の有名観光地はもう全て見尽くしてしまった方や、物好きな方は、次回のご旅行の際にどうぞ。

北京2016:田義墓①~田義墓への道 (田義墓の概要やアクセス方法について)
北京2016:田義墓②~お墓参り (メインのお墓区域の見学について)
北京2016:田義墓③~宦官陳列館/石刻展区 (敷地内の残りのエリアについて)



◆◇◆ 田义墓 TianYi Tomb ◆◇◆
北京市 石景山区 模式口大街 80号

 9’00~16’00(入場券の販売は15時半終了)

 大人8元/学生4元
(身長120センチ以下の児童、65歳以上の高齢者、軍人などは無料)


地下鉄1号線・苹果园(蘋果園)駅から
336路、597路、977路、运通112线,运通116线といったバスに乗車、
首钢小区(首鋼小區)バス停で下車し、そこからさらに徒歩で約15~20分

映画『たかが世界の終わり』

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【2016年/カナダ・フランス/99min.】
久々に故郷の土を踏む34歳の劇作家ルイ。
ほとんど音信不通の状態が続き、家族と会うのは、実に12年ぶり。
家でルイの到着を待つ母マルティーヌは、息子との再会に自然と心が躍り、
身支度と料理の準備に余念がない。
そこに、空港からタクシーでやって来たルイが姿を現す。
戸惑いながらも家にあがり、家族一人一人と挨拶を交わす。
ルイが家を出た時、まだ幼かった妹シュザンヌは、もうすっかり成長。
兄アントワーヌの妻・カトリーヌとは初対面。兄夫婦はすでに2人の子持ち。
ルイに子供の事を取り留めなく語るカトリーヌを、アントワーヌはなぜか不機嫌に𠮟りつけ、
家の中の空気を益々気まずくする始末。

実はルイ、この時はもうすでに心に決めていた。
自分が助かる見込みの無い病に侵されているという事実をデザートの時までに家族に伝え、
今日中にこの家を立ち去ることを…。



カナダのグザヴィエ・ドラン監督最新作にして、
昨2016年、第69回カンヌ国際映画祭でグランプリに輝いた本作品を鑑賞。

ちなみに、グランプリは審査員特別賞のような賞であり、カンヌの最高賞ではない。
最高賞はパルム・ドールで、こちらはイギリスのケン・ローチ監督による『わたしは、ダニエル・ブレイク』が受賞。
私にとっては、パルム・ドールとグランプリは、いつも甲乙つけ難く、
昨年のカンヌでも、両作品ともに興味をひかれた。



グザヴィエ・ドラン監督のこの新作は、
フランスの劇作家ジャン=リュック・ラガルスによる1990年発表の同名の戯曲、
<Juste la fin du monde(たかが世界の終わり)>が原作。

作品は、死期が迫っている34歳の劇作家ルイが、
その事実を伝えるため、12年ぶりに故郷に帰り、疎遠になっていた家族と再会するが、
彼らとのやり取りはギコチなく、なかなか告白できぬまま去ることになる、実家での一日を描いた物語。

たわい無い会話の応酬で作品が構成されていることや、
物語が繰り広げられる場所が“実家”という一ヶ所にほぼ限定されていることなどからも、
本作品が元々舞台劇であったと感じさせる。

私は、その原作戯曲をまったく知らないけれど、
“死期が迫った同性愛者の劇作家”という設定の本作品の主人公ルイが、
原作者のジャン=リュック・ラガルスの分身で、作品は彼の自叙伝的な物語なのではないかと想像。
(ジャン=リュック・ラガルスは、本作品を発表した5年後の1995年、エイズで死亡している。)

“迫りくる死”、“同性愛”などというキーワードからは、非常にドラマティックな物語を想像してしまいがちだが、
そこはグザヴィエ・ドラン監督作品なので、案の定、分かり易い波乱のメロドラマなどにはなっていない。
むしろ、大きなドラマなど何も起きない。
ルイが12年前に故郷を去った理由、兄アントワーヌとの間にワダカマリができた理由等々、
作品を観てると、様々な疑問が湧いてくるのだけれど、
それらもはっきりとした答えを得られないまま物語は幕を下ろす。


私が、ついつい「ある、ある」と頷いてしまった本作品唯一の分かり易い部分は、“実家感”。
例えば、収納部屋でルイが見付ける、ホコリをかぶったマットレス。
彼が昔使っていた物で、いかにも“ママンが郊外の大型ショッピングモールで選びました”って感じの青い花柄。
都会で劇作家になった現在のルイが、自分のアパルトマンで使うのは、
もっとシンプルで小ジャレたマットレスであろう。
でも彼は、たまたま見付けたこの野暮な花柄マットレスから、過去の記憶をバーッと蘇らせるわけ。

もう一つ上手いと思ったのは、石鹸(ハンドソープ)の演出。
実家に到着早々、気分が悪くなったルイが、バスルームで吐き、手を洗い、
その手の匂いを嗅ぎ、ふと笑みをこぼすというシーン。ささやかなシーンだが、想像を掻き立てられた。
あの石鹸ね、都会の劇作家ルイなら絶対に買わない
おフランス版“お歳暮でもらった花王の石鹸”みたいな石鹸だったのよ、きっと(←勝手な想像)。
匂いの記憶は、視覚的な記憶より残るという人もいるではないか。
何の説明も無く、ほんの数秒で“実家感”を表現した名シーンでございます。




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出演は、34歳の劇作家ルイにギャスパー・ウリエル、ルイの母マルティーヌにナタリー・バイ
ルイの兄アントワーヌにヴァンサン・カッセル、アントワーヌの妻カトリーヌにマリオン・コティヤール
そしてルイの妹シュザンヌにレア・セドゥ

舞台が実家なので、主要登場人物は身内であるこれら5人だけ。
そして、その5人が、おフランスを代表する名優ばかり。
1989年生まれ、まだ20代のグザヴィエ・ドラン監督より、全員年上。
グザヴィエ・ドラン監督は、ベテランたちに「若い才能と仕事してみたい!」と思わせる何かが有るのだろう。

本作品で私が一番期待していたのは、やはり主人公ルイに扮するギャスパー・ウリエル。
会話の応酬が続く本作品において、唯一口数が少ない役。
“言葉”という有効な武器を取り上げられてしまってるのに、前述の石鹸のくだりのように、
ちょっとした表情などで内面を巧く表現していると感心させられる事が多々あった。さすが。


逆にクドいくらい喋るのが兄アントワーヌ役のヴァンサン・カッセル。
“喋る”というより“くだを巻く”。このアントワーヌは、どうでもいい事でいちいち突っかかってくる。
何をイライラしているのか分からず、見ているこちらがイライラしてくるのだが、
物語後半、かつてルイの恋人だったピエールが、昨年癌で死んだと、ルイに伝えるシーンを見て、
兄弟のワダカマリは、ルイの同性愛に起因していたのしら…、と察した。
終盤、ルイを実家からサッサと追い出そうとする姿からは、
彼がルイの帰郷の理由に勘付いている事や、その理由を他の家族に知られたくない事を想像させる。
愛憎入り混じる複雑な人。


ナタリー・バイが演じる母マルティーヌもよく喋る。
どんな事情があっても、どんな過去があっても、
久し振りに息子に会えるのが嬉しくて嬉しくて、舞い上がっているのが、よく分かる。
母親が息子に盲目なのは万国共通。
でも、日本の場合、高齢の母親は、久し振りに会う息子の前で、“いつまでも綺麗なお母さん”でいたくても、
あそこまでバッチリお化粧したり、着飾ったりはしないでしょ。そういうとこ、やはりおフランス的ね。


喋るが口ごもりがちな兄嫁カトリーヌ役のマリオン・コティヤールも、とても印象的。
このカトリーヌは、おっとりした優しい性格で、
高圧的な夫に何を言われても言い返せず、困惑すると、微妙な笑みを浮かべる女性。
見た目こそ西洋人だけれど、中身は、日本の田舎の、…しかも昭和のお嫁さんという感じ。
日本人は、欧米人に対し、“自己主張が強い”というイメージを抱きがちだが、
当然みんながみんな自己主張が強いはずもなく、こういう女性も沢山いるはず。
そういう女性をあのマリオン・コティヤールが演じているという点に、新鮮な驚きあり。





鑑賞終了直後、「打ちのめされたーーっ…!」という強烈な衝撃は感じず。
鑑賞中に湧き上がった数々の疑問に、明確な答えを与えられないまま物語が終わってしまうので、
不可解なモヤモヤばかりが残った。
つまらなくはないけれど、なんか腑に落ちなくて、
その時点での私の本作品に対する評価は、5マンゴーを満点とすると、3マンゴー。
ところが、映画館を出ても、この映画の事が頭にこびり付き、
ついつい「あれは一体どういう意味だったのだろう」等と考えてしまい、
仕舞いには、なかなか良い作品だったと思えてきて、現在の評価は4マンゴー(笑)。
この勢いだと、もっと評価が上がっちゃうかも。
スクリーンの前に座ってさえいれば、受動的に全てが与えられる安直な娯楽映画と違い、
余白を残し、観衆の想像力を試すような作品は、
すぐに沸点に達することが無くても、ジワジワ来て、余韻を引きずる。
閉塞感のある田舎町で同性愛者として生きること、故郷や家族を捨て、一人成功してしまうこと、
“死”が現実として身近に迫ってきた時の人生のたたみ方、他人より面倒な家族という存在、
…などなど色々と考えさせられる。

そういう書き方をすると、ひたすら難解な作品のようだが、軽いシーンでも忘れられないのが一つ。
ラジオから流れてきた<恋のマイアヒ~Dragostea Din Tei>に、
「あらっ、エアロビの曲!懐かしい!」と興奮気味に反応する母マルティーヌに、
「ママンは知らないだろうけれど、これ、当時すごく流行った曲だから…」
と娘シュザンヌが向ける冷めた目も気にせず、台所で嫁を巻き込み踊り出すシーンが、微笑ましい。
これこれ、(↓)この曲。


映画の雰囲気とはえらくズレた軽い曲。…それだけに、やけに記憶に焼き付き、
今でも、「マイアヒ~、マイアホ~♪ノマノマ、イエィッ!」のメロディが、頭の中をグッルグル。


決して分かり易い作品ではなく、観る人を選ぶと思うので、人には勧めないが、
私個人的には結構気に入った(…と、観た直後は感じなくても、今はそう感じる)。
『たかが世界の終わり』という邦題も、原題『Juste La Fin du Monde』の直訳ではあるけれど、巧い直訳で、
達観とも諦めとも取れる表現が良いし、
語感には<汚れちまった悲しみに>(by中原中也)にも近い雰囲気があって、好き。
…と褒めているくせに、アニメ『この世界の片隅に』とゴチャ混ぜになり、
映画館の窓口で、「『たかが世界の片隅に』一枚」と言ってしまった…。
(そういうボケた客が多いのであろう。映画館の人も間違いを聞かなかったフリをして、さり気なく対処。感謝。)

柑橘系和菓子5種(+テレビ雑記)

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金正男(キム・ジョンナム/きん・まさお)暗殺に唖然ボー然とさせられたこの一週間。
マサオはきっとイイ人だと思っていたので、私もこの事件には少なからず衝撃を受けたけれど、
だからと言って、この話ばかりを延々とタレ流し(いわんや、アイドル女優の出家をや…)、
森友学園の一件にダンマリを決め込む日本の大手メディアって、ナンなのだか…。
他の先進国で、現役首相を巻き込む同様の事件が発覚したら、第一級のスキャンダルに発展しかねない。
朴槿恵(パク・クネ)大統領を弾劾に追い遣った韓国の方が余程メディアが機能している。
ここまでの完全封印はもはや不自然でしかなく、
事件の闇が一般国民の想像を遥かに超えたドス黒いものなのだと勘繰られても仕方が無い。
あからさまに臭い物に蓋をし始めた日本のメディア、もはや戦前レベル…。 ドヨーン…



日本の未来、…いや、現在を考えても、目の前真っ暗になるので、気を持ち直して、
そうそう、ヘッドホンBeatsのCM。先日、映画館で本編上映前に流れた物。
ピノキオが出てくるこのCMは、もう随分前に、短いヴァージョンをテレビで観たことがあったのだが、
映画館でフルヴァージョンを観たら、陳偉霆(ウィリアム・チャン)がチラリと映った。(↓)こちら。


林俊傑(JJ リン・ジュンジエ)が登場するCMなら、以前かなりの頻度で観たのだけれど、こちらはぜんぜん。
陳偉霆ファンの皆さまの間では、日本でも彼のCMが観られることは、結構有名だったのでしょうか。




あと、要録画のテレビ番組もね。

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NHK BSプレミアム『中国王朝 よみがえる伝説』、濱田岳が歴代3皇帝を取材してから約一年、
戸田恵梨香をレポーターに、悪女と非難されてきた女性たちの実像に迫る新シリーズでは、
先月の西太后に続き、今回は2月22日(水曜)の放送で楊貴妃を取り上げる。

楊貴妃(719-756)は、名君と誉高い唐朝第9代皇帝・玄宗(685-762)が、
その美しさに溺れたがため、安史の乱に繋がっていったとされる“傾国の美女”。
しかし、四川省での新発見などから、近年、楊貴妃一族の意外な実像や、
国の乱れの背景にあった、漢民族の異民族への反発が明らかになってきたという。
この番組では、そこら辺を紐解いてくれるらしい。

まぁ、今更“新発見”、“意外な実像”はそうそう無いだろうと、大きな期待はしていない。
前回の放送で私を一番のビックリさせたのも、政治的な事より、
西太后の身長が164センチ、足のサイズが27センチだったという話であった。
身長164センチは今でこそ女性として普通だけれど、当時としては、どうなのだか。
清朝歴代皇帝たちなんて、映画やドラマで見るとカッコイイけれど、実際にはプチサイズな人が多くて、
西太后が嫁いだ咸豐帝は165センチ、息子の同治帝は160センチと言われている。
(もっとも同治帝は19歳で夭逝しているので、生きていたら、まだ成長期か…?)
しかも女性は高下駄のような“花盆鞋”を履くから、咸豐帝と並んだ西太后は益々立派に見えたに違いない。
で、その可憐な花盆鞋に入れるおみ足は、日本で大足の代表格とされる和田アキ子を越える27センチ。
なんか、足のサイズだけでも威圧感あるわ、西太后。
今回取り上げる楊貴妃は、身長155センチから165センチと諸説あるものの、
横幅に関しては、“実は西域の血統でおデブだった”説が根強いので、
番組がそこんとこ解明してくれたら(体重〇キロ、脂肪率〇%、高脂血症等々)、一番食い付いちゃうかも。


なにはともあれ、楊貴妃が生きた唐の時代は、日本と深く関わりが有るし、
その頃を描いた陳凱歌(チェン・カイコー)監督の新作で、
染谷将太+黃軒(ホアン・シュエン)主演の『空海 KU-KAI~妖貓傳』も公開を控えているから、興味津々。
ちなみに、その映画『空海』で楊貴妃を演じているのは…

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台湾の張榕容(チャン・ロンロン)。
おフランスの血を引くエキゾチックな顔立ちが、異民族説根強い楊貴妃にキャスティングされた要因でしょうか。
(この作品はすでにクランクアップ。大陸での公開は2017年12月22日と発表。→参照
映画の原作小説<沙門空海唐の国にて鬼と宴す>や、他のキャストについては、こちらを参照>)


“傾国の美女”楊貴妃はドラマ性があるため、これまでにも随分映像化されており、
張榕容と限らず、多くの女優が演じている。
近年、特に楊貴妃の印象が強いのは范冰冰(ファン・ビンビン)。
NHKが2016年10月に『ザ・プロファイラー』で楊貴妃を取り上げた回でも、
番組の中で使われていた映像は、范冰冰が楊貴妃を演じた2作品であった。

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一本はドラマ『楊貴妃~大唐芙蓉園』、もう一本は映画『楊貴妃 Lady Of The Dynasty』。
ドラマ版は、以前日本で放送された時に観たけれど、あまり印象に残っていない。
玄宗皇帝を趙文瑄(ウィンストン・チャオ)が演じているし、当時としては豪華なドラマだったのかも。
でも、日本では、范冰冰がまださほど有名ではなく、大して話題にならなかったように記憶している。
もしかして面白いのかも知れないが、ここ十年の大陸ドラマの進化は著しいので、
今再見しても、古臭く感じちゃいそう。
映画の方は、特殊な上映ではあるけれど、来月、“未体験ゾーンの映画たち”で観られます。
今回のNHK『中国王朝』でも、これら2本の映像が使われるのでしょうか。




お菓子は、ブルーな気分を吹き飛ばす爽やかな柑橘を使った和の甘味ばかりをドドーンと5ツ!

★ 紅梅苑:柚篭

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大きさは、直径約3センチ。
刻んだ柚子皮の甘露煮を、桃山風の生地で包んだひと口菓子。




まずは、紅梅饅頭で有名な紅梅苑(公式サイト)の、もう一つの名物菓子“柚篭”
“柚篭”と書いて、“ゆずかご”と読む。
知らなかったけれど、紅梅苑がある青梅は、柚子の産地なのだと。

表の生地は、口の中でホロッと崩れ、溶けていく桃山特有の食感。
こういうお菓子の中には、大抵餡子が入っているものだが、これに入っているのは、細かく刻んだ柚子ピール。
ピールなので、当然ながら餡より歯応えがあって、柚子の香りもより高い。

私は、柑橘のピールが好きなので、これも好き。
甘さの中に、柚子の苦みが爽やか。
とても小さいので、激甘党の私は、一個ではまったく物足りず、一度に何個も食べてしまうため、
20個入りの箱が、あっという間に空っぽになってしまう…。

★ 龍月:金柑

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大きさは、一番長い部分で約6センチ、幅約4センチ。
金柑の甘露煮丸々一個を、白餡と共にパイ生地で包んだ焼き菓子。




続いて、龍月049-222-4995)の“金柑”
麦焦がしの皮で栗を包んだ“兎玉”というお菓子が看板商品の川越の和菓子屋さん。
今回は、その兎玉ではなく、こちらを食べてみた。

外の皮にパイ生地を使った和洋折衷菓子なのだが、
そのパイ生地が、和菓子屋さん特有のパイ生地という印象で、
良く言えばシットリ、悪く言うとシナッと湿気た感じ。
中の金柑は、白餡との相性よし。

栗以上に金柑が好きなので、名物・兎玉より、もしかしてこちらの方が私好みかと期待したのでけれど、
いや、やはり、迷わず兎玉に軍配を上げる。
パイ生地を使った和洋折衷菓子で美味しい物に出会ったことがない。
この手のお菓子を作っている和菓子屋さんはどこも、パイ生地が美味しくない。
パイは洋菓子屋さんに任せ、和菓子屋さんは和菓子に専念した方が良いのでは。
昔から、“餅は餅屋”と言うではないか。
このお菓子も、外の生地を、兎玉のように麦焦がしにするとか、和風の何かに替えたら、ずっと美味しくなりそう。

★ 三陽:黄金餅

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大きさは、直径約4.5センチ。
白餡と共に、金柑の甘露煮を丸々一個包んだ餅菓子。



3ツめは、麩まんじゅうで有名な三陽042-383-7400)の“黄金餅”
名物・麩まんじゅうは通年商品だけれど、こちらは冬限定。
もう何度も食べているお気に入り菓子。

外は、羽二重餅のようなフワフワ食感のお餅。
丸々一個入った金柑は、噛むと中から汁がジュワー。
甘露煮になっているから、それなりに甘いのだが、ちゃんと苦味も残っていて爽やか。
白餡とも、とても合っている。

麩まんじゅうは、他にも美味しいお店があるので、私はこちらの黄金餅の方が好き。

★ 紀の国屋:たんざく最中(ゆずあん)

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大きさは、幅約3センチ、長さ約5.5センチ。
柚子餡を中に詰めた小ぶりの最中。



4つめは、紀の国屋(公式サイト)“たんざく最中”
季節限定の味を除き、通常4種類売られている中から、“ゆずあん”を。
ちなみに、あとの3種は、こし餡、つぶ餡、栗餡。

同店でお馴染みの最中と言えば、ドカーンと大きな正方形の“相国最中”。
恐らく、小食なお客様から「相国最中は、大き過ぎて、一人じゃ食べ切れないのよねぇ…」
などという御意見があったのではないだろうか。
近年になって、相国最中のちょうど半分のサイズの、このたんざく最中が、売れ出されるようになった。

激甘党の私だと、はっきり言って、たんざく最中では物足りない。
それでも、たんざく最中を買うのは、柚子餡の相国最中が存在しないから。

柚子餡は、白いんげん豆の白餡をベースに、柚子を練り込んだ物。
原材料表示を見ると、他にも“れんこん”と記されている。
蓮根のでんぷん質で、餡にねっとり感を出しているのだろうか。

まろやかな甘さの中にも柚子が爽やかで、美味しいけれど、なにぶん小さい。
相国最中で柚子餡が有ればいいのに…。

★ たねや:斗升最中

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大きさは、一辺約6センチ、厚さ約2センチ。
最中種に、粒餡と柚子餡を半分ずつはさんだ最中。



最後も最中で、たねや(公式サイト)“斗升最中”
“ますます最中”と読む。“益々繁盛”の願いを込めた物で、形も枡(ます)をイメージ。

この最中の最大の特徴は、2種類の餡をはさんでいること。
ひとつは、つぶ餡。もうひとつは、白いんげん豆の白餡をベースに、柚子皮を混ぜ込んだ柚子餡。
最中の表面に入った斜めの線で半分に割ると、2種類の餡がきれいに分かれるので、
2種類の最中を、それぞれ一個ずつ食べたようなお得感。
しかし、つぶ餡の最中は、決して珍しい物ではない。

そこで、私は、最近、表面に入った斜めの線を交差するようにカットすることにした。
こうすると、ひとつの“三角形最中”の中に入った、つぶ餡と柚子餡を、同時に食べられるようになる。
それぞれをバラバラに食べるより、両方が混ざった方が美味。
洋菓子に例えるなら、チョコレートとオレンジを組み合わせる感覚。
こっくりした小豆の餡に、柑橘の爽やかな香りが加わって、美味しい。

台湾ドラマ『華麗なる玉子様 スイート♥リベンジ~後菜鳥的燦爛時代』

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雨棠は、大手化粧品メーカー天璽に就職し、今日でちょうど4年と7ヶ月と3日。
所属する秘書室で、当たり障りなく業務をこなしてきた彼女にも、ようやく追い風が。
先輩がおめでたで退職し、秘書室長の席が空いたのだ。
社内では「次の秘書室長は絶対に雨棠」と噂され、気の早い同僚たちからはお祝いメールが続々。
雨棠自身、もうすっかりその気。今日、新たに就任するCEOから辞令が出れば、昇進確定だ。
そんな興奮気味の雨棠に、天璽のトップ沈会長がスイスで行方不明になったという一報が入る。
よりによって鑫威との大切な契約が交わされるこの日に、会長が消えたなんて、
社外に漏れたら、株価にも悪影響を及ぼす大事に発展することは避けられない。
雨棠は秘書たちの先頭に立ち、奔走するも、
遂には崖っぷちに立たされ、もはや打つ手も無く、言葉に詰まった次の瞬間、
幸運なことに、行方知れずだった沈会長がふらりと出社。
そして、沈会長の傍らには、見覚えのある若い男性。
そう、高校時代、雨棠がよくからかっていた劣等生の紀文凱ではないか。
なぜ彼がここに?状況が掴めない雨棠に沈会長が言う
「こちら、我が社の新しいCEOに就任した紀文凱くん。」

ハイ…??!テストで0点ばかり取っていたあの劣等生の紀文凱がうちの会社のCEO…?!
沈会長行方不明事件も、紀文凱の提案で行われた秘書の能力を試すテストだったという。
そしてそのテストで、紀文凱が雨棠に下した評価はたったの59点。
この日秘書室長就任のハズが、新CEO紀文凱から散々にケナされる羽目となり…。



2016年8月、ホームドラマチャンネルでスタートした台湾ドラマ、
『華麗なる玉子様 スイート♥リベンジ~後菜鳥的燦爛時代』が、約半年後の2017年2月下旬、
全28話の放送を終了。

最初に簡単に本ドラマの印象を述べておくと、“平均的な台湾偶像劇”。
最悪ではなくても、もはや新鮮味も無く、夢中にさせてくれるようなドラマではなかった。
ただ、“炎亞綸(アーロン)主演ドラマ”として考えると、今までの作品の中でトップレベル。
(言い方を変えると、他がツマラナすぎる…。)
ホームドラマチャンネルでは、現地台湾で大ヒットした『アニキに恋して~愛上哥們』も現在放送中だけれど、
2/3まで観て、未だヒットの要因が分からないので、それと比べると、こちらの方が良かった。
(それとも、『アニキに恋して』は残りの1/3で劇的に面白く変化するのでしょうか。うーん、期待薄…。)

★ 概要

CMやMVを数多く手がけ、2013年辺りから、三立の作品を演出するようになった
郝心翔(ハオ・シンシャン/ホー・シンシャン)監督によるドラマ。
(日本の公式サイトでは、監督の姓“郝”を“ホー”と誤表記。これでは、まるで別人。
片仮名表記が間違っていても人物の確認ができるよう、きちんと漢字を併記すべし。)


本作品も、例に漏れず三立ドラマなのだが、
以前から台湾ドラマについてしばしば辛口の批評を漏らしていた主演男優・炎亞綸(アーロン)が、
本作品出演後、三立の姿勢を“戲劇血汗工廠(血と汗にまみれたドラマ製造ファクトリー)”と批判、
ファンに向けては、三立主催のドラマアワード・華劇大賞(←自局のドラマを自画自賛する賞)には
どうせ出席の意思が無いので、人気投票に僕を入れなくていいから!とSNS上で呼び掛け、
三立との決裂を決定的にしたイワク付きのドラマでもある。

★ ドラマのキーワード“後菜鳥”とは

ドラマの中文原題『後菜鳥的燦爛時代』は、“‘後菜鳥’の輝かしい時代”の意味。
では、ドラマのキーワードでもある“後菜鳥 Hòucàiniǎo”とは?
そもそも“菜鳥”は、ネットの初心者を表す言葉で、その後、広く新人、新米を意味するように。
“後菜鳥”は、文字通り“アフター菜鳥”であり、“菜鳥(新人)”と“老鳥(ベテラン)”の中間の人。
このドラマの場合、入社から数年が経ち、そこそこ要領よく仕事はこなせるようになったものの、
新入社員のようなやる気や情熱はすでに失せ、惰性で平凡に生きている社員と定義している。
日本語字幕では、“ハンパ社員”と訳されていた。


ちなみに、邦題を『華麗なる“王子様(プリンス)”』ではなく、
字ヅラは酷似しているけれど、よく見ると異なる“玉子様(エッグ様)”にした理由は、
配給の人に聞かないと分からない。
企業のCEOに華麗に成長した男性主人公の紀文凱が、
実は学生時代、テストで落第点ばかりとっていた劣等生で、
“鴨蛋王(アヒルの玉子キング)”と呼ばれていた事に由来か?
(アヒルの玉子の形が、数字の0に似ていることから、中国語の“鴨蛋”には“ゼロ”の意味あり。)
日本では、“0点の劣等生”という部分ではなく、“仕事はできても恋にはオクテ”という主人公に思いを込め、
初心者を連想させる“玉子様”という言葉を使ったように見受ける。
なお、紀文凱の学生時代の屈辱的なニックネーム“鴨蛋王”は、日本語字幕では“タマゴ君”と表現。

★ 物語

学生の頃からずっと優等生で、化粧品の老舗大企業・天璽の秘書室で働いていた鍾雨棠であったが、
高校時代にからかっていた劣等生の紀文凱が海外で大出世し、新任CEOに抜擢され、就任したがため、
“社内の墓場”と呼ばれる業務三課(営業3課)に飛ばされ、目の前が真っ暗になるが、
自分でも気付かぬ内に、眠っていた実力を発揮するようになり、数々のプロジェクトを成功させ、
並行して、敵視していた紀文凱との間の誤解も徐々に解け、恋を実らせていく様子を描くラヴ・ストーリー



物語の大きな柱はふたつ。

グダグダ“後菜鳥”から出来る女への成長記

女性主人公の雨棠は、元々は優等生。
社内でも花形の秘書なのだが、その地位に甘んじ、新たなチャレンジをしなくなっている。
そんな時、かつてイジメた同級生・紀文凱が、新たなCEOとして会社にやって来て、
学生時代の仕返しとも思える“嫌がらせ人事”で、雨棠を降格して、業務三課に配属。
この業務三課は、クズ社員の集まりで、陰で“会社の墓場”と罵られている部署。
こういう所は、まるで日本のドラマ『ショムニ』。
雨棠も、同僚たちも、みんな最初はやる気ゼロなのだけれど、
降り掛かる様々な難題を解決していく内に、結束して、一人一人も能力を発揮し、優秀な社員に成長。
実は文凱、すっかり“後菜鳥”化していた雨棠から、本来もつ能力を引き出すための荒療治として、
彼女を敢えて業務三課に転属させたのであった。
仕返しの“嫌がらせ人事”は、実のところ、雨棠の才能を信じた“カンフル剤人事”だったというわけ。


遠回りのラヴ・ストーリー

高校時代の雨棠と文凱は、将軍(=雨棠)と一兵卒(=文凱)のような上下関係。
久々の再会では、文凱がCEO、雨棠と部下と、関係が逆転。
雨棠が、文凱からの仕返しを恐れるのも無理はない。
しかし、“カンフル剤人事”でも分かるように、文凱は常に雨棠の為を思って、陰で彼女を支え続ける。
文凱が表現下手で、雨棠が鈍感だから、進展しなかっただけで、
文凱にとって雨棠は高校時代からずーーーっと想い人。
遠回りして、学生時代の初恋を実らすというラヴ・ストーリーは、まるで『結婚なんてお断り!?~必娶女人』
(さらに遡ると、大ヒットドラマ『イタズラな恋愛悪書~我可能不會愛你』が、この系統。)



他にも、社内の覇権争いとか、裏取引、買収といった、企業を巡る謀略も盛り込まれてはいるけれど、
そこはユルさが売りの台湾偶像劇、どのエピソードも生ヌルく、先が簡単に読めてしまい、
はらはらドキドキ感は皆無。

★ キャスト その①:十年腐れて恋の花咲かす主人公二人

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曾之喬(ジョアンヌ・ツァン):鍾雨棠~化粧品大手・天璽の秘書から業務三課に飛ばされた落ちぶれOL

雨棠は華やかな秘書室から社内の掃き溜めに飛ばされ、
おまけに、父親が経営する傾きかけの飲食店の立て直しで、文凱に借金を作り、
その借金返済の代わりに、彼の家のお手伝いさんをする羽目になる踏んだり蹴ったりの29歳。
そういう踏んだり蹴ったりも、実は全て文凱の彼女に対する愛ゆえで、知り合った高校時代から長い時を経て、
彼女はようやく文凱の優しさに気付き、相思相愛になっていく。
前述のように、そういう遠回りの恋は、『結婚なんかお断り!?』とダブるのだけれど、
本作品のヒロイン雨棠は、『結婚なんかお断り!?』の環真に比べ、印象が薄く、“可もなく不可もなく”って感じ。
悪くはないが、何か決定的な魅力に欠け、特別惹かれないのは、なぜでしょう…??
演じている曾之喬は、本作品がパクった(いや、オマージュを捧げた?)その『結婚なんかお断り!?』にも
主人公と犬猿の仲の勝男役で出演している。勝男はK-Popアイドルのような金髪がチープだったけれど、
本ドラマでは髪色が少し落ち着いてくれて、ホッとした。(本心を言えば、もっとダークカラーにして欲しい。)



炎亞綸(アーロン):紀文凱~雨棠の元同級生 アメリカから帰国し、天璽のCEOに就任

雨棠が女性主人公であるにも拘わらずパッとしないのは、
このドラマがあくまでも“炎亞綸ファンのための炎亞綸ドラマ”であり、
相手役の曾之喬は彼を輝かせるためのお引き立て役に過ぎないからであろう。
そんな訳で、炎亞綸が演じている文凱は、これまでに演じた役と大して変わり映えの無いツンデレ王子様。
アメリカ帰りで有能、ヘッドハンティングで若くして大企業トップに君臨するイケメン・セレブ、
それでいて、雨棠の好物・魷魚片(のしイカ)を当てるため、
駄菓子屋のクジを子供みたいに必死で引き続けるという健気な一面があったり、
無駄なシャワーシーンや、ねっとり目のキスシーンも多々有るので、
ファンなら胸キュンの連続で、ファンじゃなければ「またかヨ…」って感じ。

私は後者だが、炎亞綸が近年しばしば漏らしていた台湾ドラマに対する憂いには共感する部分も多く、
彼を見直してもいるのです。(このドラマ終了後に三立を名指しで批判したことに関しては、
一緒に作品を作り上げた仕事仲間の中にも、困惑させられた人が居ると思うけれど。)
私にとっての炎亞綸は、衰退したマンネリ台湾偶像劇のド真ん中に居る典型的なアイドルだが、
彼は、台湾偶像劇衰退の現状や、
中身の無いそんな偶像劇で演じ続け、アイドル好きな日本のオバちゃんたちを喜ばせているだけだと、
そう遠くない将来、自分は潰れると、ちゃんと分かっている人だと見受ける。
ハタチくらいに見えるけれど、もう30過ぎているからねー。
本ドラマでも、“相も変わらぬ炎亞綸”を演じてはいるが、
小さな一歩として、王子様ルックをやめ、フツーのスーツを着たり、
茶髪や変なセットもやめ、まぁまぁフツーの黒髪にし(←サイドは中華明星にありがちな刈り上げだが)、
見た目は年相応の男性にシフトしつつある。



“年相応”と書いたばかりでナンですが、“学生時代から十年越しの遠回りした恋”という物語ゆえ、
本ドラマでは、回想シーンで、そんなアラサー主演俳優二人の高校生ルックが見られます。

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『結婚なんてお断り!?』主演2人組の高校生ルックとも比べてみます。

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いかがでしょう。どちらも、実年齢を感じさせない若々しさで、ぜんぜん痛くないのだけれど、
制服のデザインだけを見ると、『結婚なんてお断り!?』で邱澤(ロイ・チウ)が着ていた作業着風の物の方が、
“これぞ台湾!”と異国情緒を感じさせてくれる制服で、個人的に好み。

★ キャスト その②:主人公を取り巻く仕事仲間(→転じて恋敵?)

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琳恩(レネ・ライ):苗愛莎~紀文凱の秘書

愛莎は、紀文凱がアメリカから連れて来た有能な秘書。有能なだけではなく、人柄も良し。
彼女が密かに文凱を想っているのは明らかなので、最初の内こそ羊の皮を被っているが、
立場を利用し、恋のライバル・雨棠を蹴落とす極悪セクレタリーと化していくのかと思いきや、
最後まで利他的で心清らかな愛莎であった。…いや、正確には、終盤、一度、ダークサイドに堕ちるのだが、
「どうせ見せかけの裏切りでしょ…」と展開が読めてしまう。
驚きの無い脚本は問題だが、もっと問題なのは、扮する琳恩の表現力かも。
“成り金不動産王に寄り添うセクシー秘書”って感じで、大企業の知性派秘書にはぜんぜん見えない。
琳恩は、これまで見慣れていた(↓)この手のお色気写真のイメージが払拭できていないのよねぇ。

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はーい、琳恩を天使と悪魔風にまとめてみました~。彼女は体張ってる時の方が活き活きしている。
ささやかな演技力で無理に知性派に転じようとせず、
割り切って、いっそトゥマッチなほどお色気を振りまくセクシー秘書として登場した方が、
案外女性視聴者ウケも良かったのでは。

言いたい事はまだまだ有るが、この琳恩、つい最近の2017年1月…

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ドラマ『幸福蒲公英~Happy Dandelion』での共演をキッカケに
約6年交際した陳乃榮(ナイロン・チェン)に嫁いだばかり。
陳乃榮てば、ずっと「結婚より仕事」と言っていたのに、結局、彼も“裸にエプロン”にオチたか(笑)。
とにかく、おめでとうございます。お幸せに♪




李運慶(ジャック・リー):王子譽~鑫威の秘書 雨棠に片想い

王子譽は天璽と取り引きのある企業・鑫威の秘書で、想いを寄せる雨棠を何かと助けてくれるジェントルマン。
…が、実は、ただの秘書ではなく、鑫威会長の御曹司であることが後々判明。
私、そんな事は最初から察知しておりました。なにせ、彼、名前が“王子譽(おうじ・ほまれ)”ですから…!
そして、この王子様、正体がバレ、鑫威の頂点に登り詰めてからは、ブラック化が加速。
雨棠と付き合いだした文凱への嫉妬で、文凱から全てを奪おうと、あの手この手の画策。
そんな黒い王子様を演じているのは、そう、李運慶(り・うんけい)。
炎亞綸と共演したこの前のドラマ『恋にオチて! 俺×オレ~愛上兩個我』では、
大人っぽくて、主演の炎亞綸より素敵だったのだけれど、
本ドラマでは、「悪役だから」という以前に、髪型でOUT。
ふんわりウエィヴィな茶髪は、オジさんを超越してもはやオバさん…。宝塚男役っぽくもある。

★ キャスト その③:その他

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琴(シウチン):孟和~業務三課の課長

雨棠の同僚も少し見ておくと、業務三課で一番目立つ中心人物は、この孟和であろう。
勤続年数の長いお局様なので、一応課長という肩書きにはなっているが、
所詮掃き溜めの課長で、ただのオバちゃん。
しかし、そんなオバちゃんだからこそ、自然と身に付いている庶民感覚。
雨棠に触発されてからは、その鋭い庶民感覚で、業務三課の躍進に貢献していく。
演じている琴自身、実際に周りの俳優たちより年上の40代半ば。
若い子たちばかりの中に、こういう中堅が混ざると、お芝居が引き締まる。
周囲をパーッと明るくする雰囲気もよし。



夏如芝(シア・ルージー):黃佳茵~業務三課所属のシングルマザー

佳茵は元々やり手の営業ウーマン。
ところが、夫のDVに耐えかね離婚した今は、幼い息子の世話に追われ、生活疲れ激しく、仕事は御座なり。
そんな佳茵も、雨棠に触発され、再び仕事に目覚め、徐々に輝いていた頃の自分を取り戻していく。
そして、ついには、 シンガポール地区での営業を任されるまでに!
えっ、でも、単身でシンガポール赴任なんて、まだ幼い息子はどうするの?大丈夫…?!
はい、大丈夫なのです。だって、DV夫だったJohnnyが改心し、台湾で息子の面倒を見てくれるのですから!
Johnnyのお人柄は、実は彼の友人だった文凱のお墨付き!
出来るCEO文凱は、Johnnyの人間性も考慮した上で、佳茵にシンガポール行きの辞令を出していたのです。
しかも、さらにその後、佳茵はJohnnyと復縁。めでたし、めでたし♪
…なんて、祝福している場合…??!なんとも都合の良い展開(笑)!
あのねぇ、普通はDV夫とヨリを戻したところで、またブン殴られるのが、オチなのよ。
性懲りも無く腐れ縁のDV夫と復縁するそんな佳茵に扮する夏如芝は、
数年前、故宮博物院を紹介するNHKの番組で、谷原章介と共演し、得意の日本語も披露しております。
こんな美人さんに日本語で話しかけられたら、多くの日本人男性はきっとメロメロになってしまいますよね。
(…だからJohnnyはやめなって!)



:塔可夫斯基(タルコフスキー)~ロシアの実業家

天璽の取り引き相手であるこのロシアの実業家は、第1話にほんのちょこっとだけ登場。
“タルコフスキー”という役名は、ロシアの巨匠、故アンドレイ・タルコフスキーから頂いたのであろう。
非常に安直だが、ロシア人ならタルコフスキー、ギリシャ人ならアンゲロプロス、イラン人ならキアロスタミ、
…としたくなる業界関係者の気持ちは理解できる。
で、そのタルコフスキー氏を演じている男性だが、演技がギコチない明らかな素人で、素性は不明。
“台湾版・稲川素子事務所”のようなタレント事務所に登録している台湾在住ロシア人か?
どうせ素人だし、初回にチラッと出て終わりだと思ったら、終盤再登場したので、ちょっと驚いた。
もっと驚いたのは、3億元横領の疑いを掛けられていた文凱が、このタルコフスキー氏と手を組み、
極秘でシンガポールに“天璽DD(ティエンシー・ディーディー)”なる新会社を設立していたというオチ。
ナンなの、“マッハGO GO”みたいな、その“天璽DD”って…?!
このくだりが、本ドラマで一番意表を突かれた部分かも。

★ 天璽→朵璽

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主人公たちが働いている“天璽(ティエンシー)”という化粧品メーカーは、
“朵璽 Dr.Douxi(ドクター・ドウシー)”という実在の台湾メーカーがモデル(ストーリーには関係なし)。
化粧品というか、スキンケア用品のメーカーで、
ドクターズ・コスメっぽい社名からして“台湾版ドクターシーラボ”って感じか。
(文凱が極秘に設立した新会社・天璽DDの“DD”は、もしかして“Dr.Douxi”の略…?)



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ドラマの中で、良く言えばロングセラー、はっきり言って古臭く、客に見向きされなくなっていたところ、
卵の殻を混ぜるという改良でヒットする“美美(メイメイ)”という設定で登場する石鹸も、
朵璽が“卵殼精萃乳霜 Essence of Eggshell Cream Soap”の名で実際に販売している商品。
朵璽の公式ショッピングサイトで100gの石鹸が350元也。

商品のラインナップにザッと目を通したところ、卵の殻以外にも、
杏仁酸(マンデル酸)を配合した商品が得意みたいで、美容液だのフェイシャルマスクだのと充実している。
台湾土産として買うのも良いかも知れませんね。
2015年にオープンした直営のフラッグシップストアは台中で、旅行者には不便かも知れないが、
台湾中にチェーン展開しているドラッグストア・康是美 COSMED、小三美日、巴黎草莓 Fraise de Parisなどで
取り扱いがあるようだ。興味のある方は、次の台湾旅行の際にどうぞ。



朵璽逢甲旗艦店 (台中フラッグシップストア)
台中市 西屯區 福星路 420號 1樓
OPEN 15:00~23:00
(化粧品店というより飲み屋のような営業時間 …笑)

★ テーマ曲

テーマ曲は、オープニングが郭靜(クレア・クオ)の<拍檔>
エンディングが韋禮安(ウェイ・リーアン)の<第一個想到你>
韋禮安のドラマ主題歌というと、『イタズラな恋愛白書』の<還是會>を思い出す。あれ、好き。
なので、ここにも韋禮安が担当したエンディング曲<第一個想到你>の方を貼っておきます。







最後から2番目の第27話後半から最終回・第28話にかけては、タネ明かしの回。
と言っても、そもそも大した謎が無かったので、「なるほど!そうだったのか!」と感心するような事は無かった。
そういう部分は、台湾でも近年大人気の大陸時代劇に倣い脚本を練ったのだろうけれど、
謀略の物語はやはり台湾偶像劇の得意分野とは言い難く、スキだらけでユルユル。
一番驚かされたのは、文凱が会社の3億元を勝手に動かし、
タルコフスキー氏と秘密裏に天璽DDとやらを設立していたという素っ頓狂なオチでしょ、やっぱり。

最初に述べたように、最悪ではないし、“炎亞綸主演ドラマ”としてはかなりイイ線いっているのだが、
『結婚なんかお断り!?』や、ましてや『イタズラな恋愛白書』などと比べてしまうと、ガクッと落ちるので、
前2作と共に“高校時代からの遠回りの恋”系列3部作(?)に入れることは、避けたい。

あと、日本語字幕で、会社名、地名、歴史上の人物は漢字、現代人の名は片仮名などという
クダラない縛りは、もういい加減やめて。
“天璽”、“鑫威”といった非常に難解な漢字だって、社名としてなら、そのまま使っているのに、
“紀文凱”程度の人名がなぜ漢字で記せないのか…?(“はんぺんの紀文”で見慣れた字なのに…。)
最近、ドラマの日本語字幕は進化しており、他では漢字表記が徐々に増えてきているのに、
気のせいか、炎亞綸主演ドラマばかりが、未だ片仮名表記に固執しているように見受ける。
炎亞綸ファンはオバさんが多いから、「最近の子は漢字が読めない」という言い訳は通用いたしません。
それとも、配給会社は、炎亞綸ファンは漢字も読めない馬鹿だと侮っているのだろうか。

そんな炎亞綸も三立と決裂したことだし、これを機に、日本もそろそろ偶像劇には見切りをつけ、
“偶像劇以外の台湾ドラマ”が入って来ることを切に願います。
(偶像劇の全盛期はとっくの昔に終わっている。このまま退屈な偶像劇ばかりを入れ続けても、
喜ぶのはごく限られたアイドルのファンだけで、台湾ドラマの支持者は増えないし、
それどころか、台湾ドラマ全体に“低品質”のイメージが定着するだけ。
目の肥えた視聴者を満足させる観応えのあるドラマを!)



ホームドラマチャンネル、水曜深夜(正確には木曜未明)のこの枠は、ちょっとお休みが入り、
3月15日から大陸ドラマ『シンデレラはオンライン中!~微微一笑很傾城』を放送。
主演は、楊洋(ヤン・ヤン)と鄭爽(ジェン・シュアン)。
『お昼12時のシンデレラ~杉杉來了』と同じように、顧漫(グー・マン)の小説のドラマ化ということで、
こういう邦題なのであろう。ネットゲームの中で知り合った男女の恋物語なんて、
若すぎる&異次元すぎて(笑)、興味の対象外なのだけれど、取り敢えず、観てみます…?

映画『ラ・ラ・ランド LA LA LAND』

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【2016年/アメリカ/128min.】
ロサンゼルス・冬。
ミアは、女優になる夢を叶えるため、大学を中退し、
撮影スタジオの中のコーヒーショップで働きながら、オーディションを受ける日々を続け、早6年。
まったく手応えが無く、いい加減自信喪失気味。
そんなミアは、ルームメイトに誘われて行ったパーティーの帰り道、
素敵なピアノの音色に誘われ、あるレストランに足を踏み入れる。

クリスマスディナーを楽しむ客で賑わうこのレストランでは、
オーナーであるビルから命じられ、セバスチャンが、不本意にクリスマスメドレーを演奏。
セバスチャンは、ジャズをこよなく愛するピアニスト。
ジャズの名門クラブVan Beekが、サンバとタパスの店に成り下がった事を、心から嘆き、
いつか自分が店を買い取り、ジャズクラブを復活させるという夢を抱いている。
しかし夢へ道は果てしなく遠く、クリスマスソングの代わりにジャズを弾いたことで、
無情にも、ビルからクビの通告を受けてしまう。
何も知らないミアは、セバスチャンに近付き、彼の演奏を讃えようとするが、
怒り心頭のセバスチャンは、ムッとしたまま、レストランを出ていく。

春。
映画関係者も集まる華やかなパーティーに出向いたミアは、
プールサイドで80年代ポップスを演奏するバンドの中に、
レストランで会ったあの態度の悪いピアニストを見付ける。
意外な場所で再会を果たした二人は、不躾な言葉で互いを攻撃するも、
パーティー終了後、共に会場をあとにする。
すぐに分かれるはずが、駐車していたミアの車が行方不明。
セバスチャンも車探しを手伝い、会話を交わしている内に、次第に打ち解けていく二人。
LAの街に朝日が顔を覗かせる頃、ほのかな恋が芽生え始める…。



長編監督作品第2弾の前作『セッション』(2014年)で一躍名を揚げた
デイミアン・チャゼル監督による最新作を、日本公開早々に鑑賞。

あのデイミアン・チャゼル監督が、意表を突いてミュージカルを撮ったという事や、
そんな予想外の作品でありながら、第89回アカデミー賞で、最多の14部門でノミネートされた事で、
日本でも公開のかなり前から話題。
(→結果、現地時間2月26日の発表で、本作品『ラ・ラ・ランド』は、惜しくも作品賞は逃したものの、
監督賞、主演女優賞、撮影賞、美術賞、歌曲賞、作曲賞の6部門で受賞。)

前作『セッション』は、大好きな方大同(カリル・フォン)も絶賛していたし、
映画館へなかなか足を運べないでいる間に、期待がどんどん膨らんでしまったのが、いけなかった…。
実際に観て、確かに良作だとは感じたが、膨らみ過ぎた期待には及ばず。
そんな訳で、デイミアン・チャゼル監督は、私の“今後新作を必ずチェックしたい監督”にはならなかった。
また、米アカデミー賞も、私とは好みがあまり合わず、映画選びの参考にするような賞ではない。

このように、これと言ってソソられる要素が無いのに、
私ってば、なぜこの『ラ・ラ・ランド』をわざわざ公開直後に観に行ってしまったのでしょうねぇー…?!
強いて言えば、“ミュージカル嫌いが観ても納得できるミュージカル”という評判を、
自分自身の目で確かめたかったからだと思う。
私にとって、ミュージカルはまったく興味の無いジャンルで、明日この世から消えても、恐らくさほど困らない。
そんな私でも、『ラ・ラ・ランド』なら楽しめるのでしょうか…??!




舞台は、アメリカLA。
物語は、コーヒーショップで働きながら、落ちても落ちてもオーディションに挑戦し、女優を目指すミアと、
時代錯誤と片付けられ、大好きなジャズを思う存分演奏でいないでいるピアニスト・セバスチャンが出逢い、
恋に落ち、互いが相手の一番の理解者となり、夢を叶えるため応援し合うが、
セバスチャンが生活のために加入したバンドが思い掛けず成功したことで
徐々にヒズミが生じてくる二人の関係を音楽にのせて描く、
甘いだけではない夢追い人たちのラヴ・ストーリー

お金は無くても夢があって幸せだったあの頃、
良かれと思ってした事が凶と出てしまう誤算、
想定外の事ばかりが続き、誤解が新たな誤解を生む悪循環、
気まずい関係を修復したい時に限って降って湧く夢実現へのまたと無いチャンス、そして訪れる破局、
夢を叶えた時、隣に寄り添うのは別の人…、といった具合に、
お話のベースは、洋の東西を問わず、昔からよくある、将来の見えない若者たちのホロ苦い恋物語。

ちょっと違うけれど、周迅(ジョウ・シュン)+金城武主演の陳可辛(ピーター・チャン)監督作品
『ウィンター・ソング』(2005年)を思い出した。
あちらは、つましくも幸せだったのに、チャンスを掴むために恋人を捨て、女優になった女性が、
十年後、人気俳優になった元恋人と再会してしまう愛憎の物語で、
同じようにミュージカル仕立てで撮られた作品。
ミュージカルは、夢追い人の下積み生活を表現するには、相応しい手段…?


アメリカ映画『ラ・ラ・ランド』が、『ウィンター・ソング』にも見られるアジア的感覚と、最も異なる点は、
下積み時代に湿っぽさが無いところ。
日本人の私が、“下積みの恋”と聞き、真っ先に思い浮かべてしまうのは、
「赤い手拭いマフラーにしてぇ、二人で行った横丁の風呂屋~」、「三畳一間の小さな下宿~」と、
かぐや姫の<神田川>がBGMに流れたら、バッチリ合ってしまうドンヨリと沈んだ灰色の世界。
ところが、『ラ・ラ・ランド』のセバスチャンとミアは、売れないミュージシャンと女優の卵でも、
生活に悲愴感が無く、スクリーンはカラフルに彩られている。
ミアは売れていなくても、パンの耳を主食にはしていないし、公園の公衆トイレで洗髪することもない。
それどころか、車を持っているし、綺麗に着飾り、パーティーへも行く。
同棲を始めるセバスチャンの家だって、カビ臭い三畳一間などではなく、そこそこお洒落。
まぁ、悲愴感が無く、雰囲気がお洒落なのは、『ラ・ラ・ランド』がリアリティを追及した作品ではなく、
エンターテインメントに徹した作品だからだろうけれど。


そう、本作品はあくまでもエンターテインメントであり、重要なのは現実味より、キラキラした夢の世界。
だから、会う度にチクリと嫌味を吐き合っていた男女が少しずつ接近し、
初めてのキスに至るまでの経緯はロマンティックに描いても、生々しい肉体関係は描かれず、
気付いた時には、二人はもう当たり前のように一緒に生活を始めている。
ベッドシーンなど無いから、50~60年代の娯楽作品のように、家族がみんな一緒に安心して鑑賞可能。

特に60年代のフレンチミュージカル2本…

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『シェルブールの雨傘』(1967年)と『ロシュフォールの恋人たち』(1967年)から
受けた影響が大きいと語っているデイミアン・チャゼル監督だけれど、
この『ラ・ラ・ランド』は、カラフルでお洒落な映像だけではなく、
様々な面で、1985年生まれ、30代前半のデイミアン・チャゼル監督がまだ幼かった頃、
…もしくはまだ生まれる前の“古き良き時代”への郷愁が感じられる。

ちょっとした事だが、例えば、セバスチャンとミアが初めてのデートで
『理由なき反抗』を観に名画座に行く(↓)こんなシーン。

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場所が場末の名画座でも、女の子を誘った男の子が、きちんとネクタイをして初デートに臨んでいるなんて、
“古き良きアメリカ”を感じちゃいますヨ。

ちなみに、このThe Rialto Theatre(リアルト)という映画館は、撮影セットではなく、サウス・パサデナに実在。

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1925年建造、2007年の最終上映まで街のランドマークとして愛された歴史的建造物。
2015年末にデベロッパーに買われ、
どうやら改修して新たな商業施設として再生させる計画があるようだ。
『ラ・ラ・ランド』ファンのロケ地見学は勿論、建築好きにも興味深い場所かも知れません。



あと、この『ラ・ラ・ランド』では、スクリーンに映し出される季節から、土地柄をとても感じた。
本作品は、冬に始まり冬に終わる物語。
でも、まず最初の冬のシーンが、ぜんぜん寒そうじゃない。次の春なんて、まるで日本の真夏。
もしNYが舞台だったら、人々が氷点下の冬にはモコモコに着込み、
夏には半裸に近い薄着で日光浴を楽しんだりして、四季のメリハリが見た目に分かり易くなるだろうが、
やはりLAは年間通じて温暖なのですね~。




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主演の男女を演じているのは、
ジャズピアニストの“セブ”ことセバスチャン・ワイルダーにライアン・ゴズリング
女優の玉子ミア・ドーランにエマ・ストーン

子役出身のカナダ人俳優、ライアン・ゴズリングの名が世界的に知れたのは、
恐らく『きみに読む物語』(2004年)であろう。
でも、私は、制作年度と鑑賞の順番が狂い、まず『ラースと、その彼女』(2007年)で彼を知った。
今でも、ライアン・ゴズリングというと、ダッチワイフをピュアに愛するあのラースの印象が一番強い。

今回演じているセバスチャンは、ジャズをこよなく愛するピアニスト。
ピアノと限らず、楽器の名手が登場する作品では、
俳優本人が弾いていないとモロ分かりでシラケる事もあるけれど、
ライアン・ゴズリングは今回の役作りのために、3ヶ月ピアノを特訓し、吹き替え無しで撮影。
もっとも、過去に独学で楽器を学び、インディーズ・バンドでピアノ、ギター、ベース等を弾いていたそうでなので、
<猫ふんじゃった>レベルから始めるまったくの初心者とは違うであろう。それでも、凄い!と感心。
俳優本人が実際にピアノを弾いているか/いないかで、役のリアリティがぜんぜん違ってくる。

ライアン・ゴズリングのシーンで、私が一番好きなのは、こちら(↓)。

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小遣い稼ぎのため、不本意ながら80年代ソングのコピーバンドに参加し、パーティーで演奏するシーン。
“80年代がリバイバル”とか“流行は繰り返す”などと言っても、
最近流行った80年代ファッションは、あくまでも“現代風にアレンジした80年代ファッション”。
だけど、セブのこのバンドには、見る者をドン引きさせる“本気の80年代!”が感じられ、
思わず吹き出してしまった。

ちなみに、そのバンドが演奏しているのは、(↓)こちらの曲。


A-haの<Take On Me>。もはや懐メロ。
その後、このパーティーのシーンでBGMに流れるソフト・セルの<Tainted Love>が、これまた郷愁を誘う。



エマ・ストーンは、見る角度によって、チワワにそっくり。
若い頃のジョディ・フォスターのような雰囲気も無きにしも非ず。
絶世の美女ではなくキュート系だから、がむしゃらに夢を追う普通の女の子の役が合う。
歌はプロ級!とは言えないが、本人がもつお茶目な魅力が“味”になっている。

そんなエマ・ストーンは、『ラ・ラ・ランド』のこのミアの演技が認められ、
第89回アカデミー賞で主演女優賞を受賞!おめでとうございます♪

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『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014年)で
助演女優賞にノミネートされたことはあっても、実際にオスカーを手にするのは、今回が初めて。

女優さんは、ハレの日の装いも気になります。

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素敵。綺麗にカールされた髪は、“往年の女優”風。
お召し物は、ゴールドのジヴァンシー。現代風にアレンジされたアールデコ調で、動く度にフリンジが揺れる。
ジュエリーはティファニーのイヤリングだけで、非常にシンプル。
が、実はよく見ると、胸元に、
人工中絶をサポートするNGO団体Planned Parenthood(プランド・ペアレントフッド)のピンを付けている。
トランプ大統領就任後初めて開催される今年のアカデミー賞は、反トランプ色が濃くなると言われていたけれど、
これも、人工中絶に否定的なトランプに向けた小さな反対の意思表示なのかもね。



そうそう、それから、脇では、デイミアン・チャゼル監督の出世作、
『セッション』で演じた鬼の指導者が印象的なJ・K・シモンズも出演。

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『ラ・ラ・ランド』で演じているのは、
ピアノ奏者として雇っていたセバスチャンをクビにするレストラン経営者・ビル。
あまり大きな役ではない。特別出演という感じ。






あのラストは“ハッピーエンディング”と受け止めるべき?
よく「歴史に“If”は無い」と言うが、
終盤の“5年後”のシーンで、セバスチャンに再会したミアは、彼との時間を出逢いまで巻き戻し、
「あの時、もし初対面で相思相愛になっていたら」、「あの時、もし口論していなかったら…」と、
“If”に“If”を重ね、二人が歩んだ歴史を全てポジティヴな方向に修正。
妄想が逞しく、前向きなミアは、きっとかなりの恋愛体質に違いない。
「生まれ変わったら一緒になろうね」と言って郷ひろみと別れた松田聖子然り。
私、ミアは、間も無く夫を捨て、セバスチャンに突っ走ると思うワ(夫の影、薄かったし)。
そもそも、セバスチャンとの交際をスタートした当時だって、ミアにはグレッグという恋人がいた。
映画ではキレイ事になっているけれど、つまりは“二股交際”。
ミアよ、焼け木杭に火を付け、夫を捨てても、せめて娘の養育だけは、しっかりしましょうね。


私が気になっていた“ミュージカル嫌いが観ても納得できるミュージカル”かという点は、
はい、確かにクリアしていると思う。
一般的なミュージカルでは、観客である自分がすっかり蚊帳の外に追い遣られ、
自己陶酔しきって歌い込む役者たちに、シラケた目を向けてしまう場合が多い。
この『ラ・ラ・ランド』には、ミュージカルを苦手とする人たちがミュージカルに感じる
そういう白々しさやムズ痒さは無く、スーッと物語の中に入り込め、楽しめた。

…しかし、数年に一本出るか出ないかの大傑作のように語られている盛り上がりには、共感できず。
何も考えずにボーっと観るには良くても、これが私の“人生の一本”になることは決してない。
これだったら、私にとっては、『セッション』の方がまだ満足度が高かった。
近年、米アカデミー賞が社会派や文芸作品に寄ってきて、逆にヨーロッパの映画賞が娯楽作品に甘くなり、
欧米映画賞の境界線が曖昧になりつつあるという印象を受けていたので、
今年『ラ・ラ・ランド』がアカデミー賞で認められ、
アカデミー賞が“これぞエンターテインメント!”な本来のアカデミー賞の立場を取り戻したようには感じた。
(もっとも、作品賞は『ムーンライト』に渡ったが。)

キャストに関しては、主演女優賞を受賞したエマ・ストーンより、
主演男優賞を逃したライアン・ゴズリングの方が、演技でも存在感でも、私の印象により深く刻まれた。

それにしても、想像通りとはいえ、映画館は爆満!
『ラ・ラ・ランド』は、映画館で映画を一年に3本しか観ない人が、その3本の内の一本に選ぶ作品であろう。
映画館慣れしていなくて、上映中、電話をいじるマナーの悪い人なども居て、残念であった…。
アカデミー賞効果で、まだまだ大入り満員が続くのでは。

栗の和洋菓子2種(+黃軒御生誕記念♪)

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ここのところ、溜まった録画を消化中。


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2017年2月26日(日曜)放送のNHK『おんな城主 直虎』第8話、
なかなか子に恵まれず、悩むしの(貫地谷しほり)のために、
次郎法師(柴咲コウ)が懐妊の妙薬を調達するシーンで、湧いた疑問。
次郎法師が大切な鼓を売ってまで手に入れる高価な妙薬が麝香(じゃこう/ムスク)なわけ。

大陸の宮廷ドラマを御覧の皆さまなら、あのシーンに反応しちゃいますよねぇ…?!
麝香と言えば、『宮廷の諍い女~後宮甄嬛傳』をはじめとする大陸時代劇では、
後宮の女たちが、ライバルを不妊や流産させるために用いる毒物としてお馴染み。
『直虎』でも、間違った知識から、次郎法師がしのに麝香を贈るも→しのが麝香の本当の効能に気付き、
→「次郎法師ったら、私を妊娠させない気ねっ!」と益々次郎法師を怨み、二人の間の溝が深まる、
…という展開なのかと思いきや、『直虎』では麝香は結局最後まで子宝を授かる妙薬で、
次郎法師はしのを気遣うイイ人であった。
懐妊と不妊では正反対だが、結局のところ、麝香の効果や如何に…?



溜まった録画が消化し切れていないのに、また録画。
明日、3月4日(土曜)朝、フジテレビで放送の『にじいろジーン』では、
“ジーンちゃんがキキコミ!世界ピカイチ☆ツアー”のコーナーで、週末旅におススメの香港を紹介するそう。

春休みも間近なので、香港観光局も外国人観光客誘致に力を入れているのでしょうか。
先週末(いや、先々週末?)も、朝、確か『にじいろジーン』を流しっ放しにしていたら、香港観光局のCMが入り、
その中に映っていたのが劉青雲(ラウ・チンワン)だったので、思わずテレビに食い付いた。
(↓)こちらが、そのCM。(期間限定公開、鑑賞はお早めに。)


“Sean Lau 映画俳優”(笑)。
劉青雲に、“Sean”なんて洒落た名前があること、すっかり忘れておりました。



それはそうと、ひな祭りの本日、3月3日は、黃軒(ホアン・シュエン)のお誕生日。
女の子のお節句に、黃軒くん、32歳になりました。
今年は年明け早々の1月に『ブラインド・マッサージ』が公開、4月には『グレートウォール』が公開、
染谷将太と共演の『空海 Ku-KAI』もそう遠くない将来上陸するだろうし(中国では2017年12月公開)、
主演ドラマの放送もボチボチ控えているようで、日本での注目が一気に高まる年になりそう。
(だからこそ配給会社や関係者には余計に言いたい。黃軒を“ホアン・シュアン”と誤表記するなっ!と。
どうしても“ホアン・シュアン”を使いたいのならば、きちんと漢字の名前を併記すべし。)

(↓)こちら、『空海 Ku-KAI~妖貓傳』の公式微博から、白樂天(=黃軒)におめでとうのメッセージ。

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『グレートウォール』にはあまり期待していない私。『空海』の方が観たい。

あと、(↓)こちらの主演映画にも興味あり。

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『シュウシュウの季節』(1998年)、『妻への家路』(2014年)といった作品の原作者として知られる
アメリカ華人作家・嚴歌苓(げん・かれい/ゲリン・ヤン)が脚本を担当する
馮小剛(フォン・シャオガン)監督最新作『芳華』。70~80年代の文工団の話らしい。
大陸では、文工団モノには相応し過ぎる国慶節公開。
監督・馮小剛×脚本・嚴歌苓×主演・黃軒ということで、
ただのプロパガンダ映画に収まらない作品を期待してしまう。
画的にかなり私好み。面白そう。黃軒も踊るのかしら(黃軒は舞蹈學院出身、踊れます)。
ま、馮小剛監督作品だったら、『芳華』の前にまず
范冰冰(ファン・ビンビン)主演作『わたしは潘金蓮じゃない』を観なくては!でしょうか。
日本では、明日、大阪アジアン映画祭でお披露目されますね~。観に行ける人が羨ましい。
東京でも公開を熱烈希望。

では、改めて、とにもかくにも、黃軒サマ、お誕生日おめでとうございます!

今年、日本でも飛躍が期待される俳優・黃軒をまだ御存知ないと…?!
そんな方は、こちらの“大陸男前名鑑”を参考に。




お菓子は、栗を使った物を、和風と洋風ひとつずつ。

★ 亀屋良長:野路の里

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大きさは、幅約3.5センチ。
栗と白餡を合わせ、栗の形に模し、焼き上げたひと口和菓子。




まずは、“和”の代表、亀屋良長(公式サイト)“野路の里”

個別の包装を開けると、中には栗の形の小さな和菓子がコロリとひとつ。
口にすると、ホクホクした食感で、優しい甘さ。
栗に、手芒豆の白餡を混ぜ合わせているので、
栗そのものを茶巾絞りにした、いわゆる“栗きんとん”より、シットリした質感。

表面には焼き目がつき、薄い表層ができているけれど、お饅頭のような皮は無いので、栗餡だけを楽しめる。
量は極めて少ない。私のような劇甘党だと、一個では物足りなく、2個、3個とバクバク食べてしまう。

★ アンジェリーナ:プチモンブラン

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大きさは、直径約4センチ。
メレンゲの台の上に、生クリームを盛り、全体をマロンクリームで覆った小さなモンブラン。




続いて、“洋”の代表、アンジェリーナ“プチモンブラン”
幅約20センチの箱に、8個入り。

おフランス発のお菓子屋さん・アンジェリーナは、甘い物が苦手な人が多い日本のお店では、
「大き過ぎる!」というお客様の声に応え、
看板商品のモンブランを、本国の半分のサイズにした“デミ”を販売しているけれど、
これは、“デミ”よりさらに小さな“プチ”。

小さくても、オリジナルの物と作りも素材もまったく同じで、
メレンゲ+生クリーム+マロンクリームというシンプルなおフランス伝統のモンブラン。

マロンクリームが濃厚で美味。
洋菓子というより、和菓子感覚で食べられるモンブラン。

映画『クレイジー・ナイン』

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【2015年/香港/92min.】
阿平は、これといた生き甲斐も無く、ただただ日々を生きているだけの32歳。
取り敢えず、親と同居する貧民窟のようなアパートからは脱出したものの、生活していく金が無い。
夜の街をブラついていたところ、通りがかりのコンビニExceedが折しもアルバイト募集中。
阿平は早速店長に働きたいと申し出て、あっけなく採用決定。日払いの約束で、そのまま働き始めることに。

深夜のコンビニで、早速レジ打ちや接客の指導を受ける阿平だが、店長からは、遅いだ違うだとお説教。
叱られても何処吹く風と動じることなく、
それどころか、先輩の女性従業員・美圖と共に、売り物の商品にイタズラをして暇つぶし。
そうこうしている内に、一人の老人が入店。
老人が買った商品は、悪い事に、阿平が食べかけ、棚に戻したサンドイッチ。
それに気付いた老人は返品を求めるが、店長は返品に応じるどころか、老人に責任のなすり付け。
店内に不穏な空気が流れ、おとなしかった老人もさすがにキレ…。



2016年、第11回大阪アジアン映画祭にて、『荒らし』のタイトルで紹介された香港映画『老笠~Robbery』が、
『クレイジー・ナイン』と改名し、未体験ゾーンの映画たち2017に登場。
東京で観られる日が来て、嬉しい。


監督したのは、火火(ファイヤー・リー)。名前からして、熱いですね(笑)。
1976年生まれ、香港演藝學院戲劇學院表演系を卒業後、俳優としてキャリアをスタートさせ、
その後、脚本、作詞と仕事の幅を広げ、2009年、『愛得起~Give & Love』で長編映画監督デビュー。
ここ日本では、映画監督としてほとんど知られていない火火、
実際、発表した監督作品は現時点で4本と、まだ決して多くはない。
しかし、作詞家としては、林慧琳(ケリー・チャン)、麗欣(ステフィー・タン)、周國賢(エンディ・チョウ)、
張敬軒(ヒンズ・チャン)、張智霖(チョン・チーラム)等々、多くの人気シンガーに歌詞を提供。

どうしても気になってしまう変わった名前“火火”は、誰もが想像するように、本名ではない。
本名は、案外普通で李家榮(リー・カーウィン)。
脚本の執筆をするにあたり、本名に有る“榮”の字の上に並んだ二つの“火”を取った“火火”を
ペンネームとして使い始めたらしい。
(日本風の略字“栄”だったら、ペンネームが“ツ”になっていたかも…?)


本作品は、そんな火火の監督作品第3弾。
『老笠』という原題を見て、私は反射的に“老いた笠智衆(りゅう・ちしゅう)”を連想してしまったけれど、
当然ながら笠智衆はまったく関係なく、実際には、“強盗”、“略奪”を意味する広東語らしい。
英語のタイトル『Robbery』が、まんま『老笠』というわけ。

物語は、金も無ければ気力も無く、ただ生きているだけの32歳、“阿平”こと劉建平が、
通りすがりのコンビニで求人広告を見付け、そのまま飛び込みでバイトを始めたところ、
やって来る客が次から次へと起こす問題がエスカレートしていき、
ついには皆人質として店内に閉じ込められ、
「ここから出られるのは一人だけ!」と言い放つキレた警官・阿仁に一人、また一人と殺され、
恐怖に凍り付くコンビニの一夜をブラックな笑いを交えて描くオフビートなバイオレンス映画

本作品は、コンビニエンスストア・Exceedという限られた空間での一夜を描く
いわゆる“ワン・シチュエーションもの”である。
コンビニを舞台にしたワン・シチュエーションものだと、
古くは『クラークス』(1994年)が確かそのような作品だったはずだし、
同じ中華圏の作品だと、『ワンナイト・イン・スーパーマーケット~夜・店』(2009年)を思い出す。

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楊慶(ヤン・チン)監督の長編デビュー作『ワンナイト・イン・スーパーマーケット~夜・店』は、
恐喝紛いに返金を求めてやって来たクレイマー対応に手こずっていたところ、
本物の強盗がやって来て、混乱するコンビニの一夜を描いたドタバタ喜劇。

この『クレイジー・ナイン』もだいたい同じような系統の作品と想像していたのだけれど、
実際には、“深夜にやって来る珍客たちの群像劇”という点と、“犯罪絡み”という点くらいが共通で、
いやいや、もっとずっと血生臭い作品であった。

閉ざされた空間に集まった人々が血みどろの殺し合いをする点では、舞台はコンビニではないが…

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クエンティン・タランティーノ監督作品『ヘイトフル・エイト』(2015年)が遠からず。
もしかして、本作品の邦題を『クレイジー・ナイン』にしたのも、『ヘイトフル・エイト』を意識したがゆえ…?


『クレイジー・ナイン』で、殺害を冒す中心人物は、阿仁という警官なのだけれど、
彼がなぜ他人をどんどん殺していくのかは、分からない。
仕事や人生への絶望で、自暴自棄になっているのか?はたまた、ただのサイコパス?
どちらとも取れるが、理由付けはどうでも良いようにも感じ、ただひたすらに物語を追っていたら、
終盤まで来て、オチが待っていた。
これ、“霊界モノ(?)”だったのですねー。

さらに言うと、霊界の騒動に巻き込まれたことで、
主人公の阿平は、32歳にしてようやく自分がいかにクズであるかに気付く。
よく“死ぬ気になれば何でも出来る”とか“死にかけて、どうせ拾った命”などと言うけれど、
阿平はまさに死に直面したことで目覚め、奮起する。
このように、本作品を最後まで観ると、これが“霊界バイオレンス(…??)”という形をとりながら、
32歳のニートにやる気スイッチが入るまでを描いた遅咲きの成長記だったのだと分かる。





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出演は、コンビニでバイトを始める32歳の“阿平”こと劉建平に曾國祥(デレク・ツァン)
そのコンビニの店長に林雪(ラム・シュー)、女性店員・美圖に雷琛瑜(J.Arie/レイチェル・ルイ)
獄中生活が長った老人・老嘢に馮淬帆(スタンリー・フォン)
トイレを借りに入店してくる警官・阿仁に姜皓文(フィリップ・キョン)
セクシーなチアリーダーAnitaに崔碧珈(アニタ・チョイ)、黒社会の大物に郭偉亮(エリック・クォック)
他、特別出演で盧惠光(ケン・ロー)等々…。

あれ、主要登場人物が7人。あとどの二人を加えて『クレイジー・ナイン』としたのだろう…?

それはそうと曾國祥。曾國祥は芸能一家の出身。

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父親はあの曾志偉(エリック・ツァン)、異母姉には台湾を拠点にマルチに活躍する曾寶儀(ツァン・ボウイー)。
パッとしない二世も多い中、曾さんちのこの二人は成功例。

…と言っても、出演作の公開が少ない日本では、曾國祥の知名度はまだまだ低いのだろうか。
美男子とは言い難いトボケた顔立ちということもあり、
1979年生まれ、裕福な家庭で何不自由なく育った40に手が届く男性にも拘わらず、
「李小龍(ブルース・リー)は32歳で死に伝説になった。
自分は32歳で未だ死なず、この有り様…」と嘆く悶々としたニート阿平の役に違和感ナシ。

俳優・曾國祥も良いが、私が今観たいのは、監督としての曾國祥が手掛けた話題作。

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周冬雨(チョウ・ドンユィ)&馬思純(マー・スーチュン)主演映画『七月與安生~Soul Mate』がソレ。
第53回金馬獎では、主演の両女優が揃って主演女優賞を受賞の快挙。(→参照
日本では、『七月と安生』というタイトルで、今年の大阪アジアン映画祭で上映。
こちらも待っていれば、その内、東京でも観られる日が来るでしょうか。期待しております。


曾國祥以外にも、大ベテラン・馮淬帆や、首にハサミを突き刺しっ放しの店長を演じる林雪など、
香港映画好きがニンマリしてしまうお馴染みの顔が個性的な役で登場。
私個人的に嬉しかったのは、たっぷり登場する姜皓文。
火火監督も「姜皓文は好きな俳優だけれど、映画ではいつも数シーンにしか登場しない」と語っており、
だからこそ、自分の監督作品では、メインで起用したみたい。
そんな姜皓文が扮する阿仁は、おなかを下し、緊急事態でトイレを借りにコンビニに入店した客。
毎度の暑苦しい顔で、切羽詰まった男をベタに演じているのが、可笑しいのだけれど、
その後、この阿仁は『インファナル・アフェア』ばりの潜伏警官であったと判明。
(実際、『インファナル・アフェア』にオマージュを捧げたシーンあり。)


盧惠光は特別出演で、登場シーンが想像していたよりずっと少なかった。
しかも、今回の扮装では、凄みのあるいつもの盧惠光じゃないから、一瞬誰だか分からない。

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私、この人物が「『にっぽん縦断 こころ旅』撮影中の火野正平ではない」と気付くまでに数秒かかりましたわ。



女性では、なんといっても崔碧珈!キョーレツ…!
お顔は美女というほどではなく、…もっと言ってしまうと、ややおブスで、
スイカップの爆乳を携えたやたらパンチのあるイイ体と相俟って、“馬鹿オンナ”感120%。
(しかし、後に女医であることが判明。)
彼女は本作品の“エロ担当”なのだが、カラダを張って、そのお役目を十二分に果たしている。
度が過ぎたセクシーに感服。
彭浩翔(パン・ホーチョン)監督作品『低俗喜劇』(2012年)ですっかり有名になった
爆炸糖(ぱちぱちキャンディ)が、本作品でも未だ同じ用途で使われている事に、思わず失笑。






オフビートなノリで、おまけにエロ満載、グロ満載。
系統としては、彭浩翔監督作品にも通じるように感じるが、
クオリティは、正直言って、彭浩翔監督に遠く及ばずという印象を受けた。
彭浩翔監督は、どんなにお下劣を表現しても、根底に品性が感じられるし、ベタでも作品が洗練されている。
何より脚本が秀逸で、観衆を物語の中に引き込む力がある。
火火監督作品はこれ一本しか観ていないので、断言はしたくないけれど、
“狙いは分かるが、力量がまだ足りていない”って感じ。中華圏での評価が高過ぎるようにも思えた。

でも、多くの香港人監督たちが、大陸で大作を撮るようになった昨今、コテコテの香港3級片は激減したので、
未だ『クレイジー・ナイン』のような作品が制作されている事には安堵するし、
この手の作品が久し振りなので、懐かしいという以上に、新鮮に感じた。
全編広東語というだけでも、今や貴重。

細々とはいえ、このような香港映画が作られ続け、中華圏でカルト的に支持されているのは、
あちらでも、“要望が無きにしも非ず”という事なのであろう。
比較的最近に観た“ドップリ香港”な作品だったら、私個人的には、この『クレイジー・ナイン』より、
『大樹は風を招く』(2016年)の方がずっと完成度が高く感じた。
もっとも、ジャンルがまったく異なるので、比較はしにくいけれど。

あと、この『クレイジー・ナイン』では、
日本語字幕で、登場人物たちの名前が片仮名ではなく、きちんと漢字表記になっていたのに、驚いた。
これ、香港映画では、非常にレア。どうしたの、おかしい(←良い意味で)!?と思ったら、
案の定、香港映画を得意としている〇〇社や△△社の配給ではなかった。
〇〇社や△△社も、古臭い考えに縛られていないで、いい加減見習って欲しいワ。

まぁ、とにかく、『クレイジー・ナイン』に100%の満足はしていなくても、
火火監督は今後も新作に注目していきたい。
日本に入って来る中華圏の作品の大半がアクションと歴史超大作で、ウンザリしているので、
それ以外の作品が観られるだけでも感謝。
東京のヒューマントラストシネマ渋谷では、3月7日(火曜)にまだあと一回上映が残されている。
興味のある方は、この機会に滑り込みでどうぞ。

加賀発ひと口和菓子2種(+テレビ雑記)

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wowowの先行放送で、林更新(ケニー・リン)主演ドラマ
『三国志 趙雲伝~武神趙子龍』の第1話を観たのだが、ど、ど、どうなの、コレ…?!
“とんでもドラマ”の予感。うーん、第2話以降を続けて観たいという気持ちが湧いてこない。
邦題の付け方からは、“三国志推し”を感じるが、三国志ファンが観たら、失望しそう。
趙雲(林更新)の鉄仮面の一部がパカッと外れて、手裏剣のような武器になったのには、意表を突かれ、
一瞬目を疑ったのち、笑わせていただいたけれど。きっとあれには、ボスの劉備もビックリ。
wowowは自社制作ドラマのレベルは非常に高いのに、大陸ドラマのセレクトに“有問題”。
数有る中で、なぜよりによってコレなのか。
脇を固めるK-Popアイドル二人、少女時代・潤娥(ユナ)と金勳(ジョンフン)をエサに
加入者を増やそうという目論見か?
本放送は2017年3月11日(土曜)スタート。第1話は無料放送なので、興味のある方はお試しを。



『三国志 趙雲伝』より私にとっては興味深い、今後の要録画予約番組を何本か。

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まず、3月9日(木曜)、NHK BSプレミアムの人気番組『世界入りにくい居酒屋』
今回取り上げるのは、中国・広州。
春節直前に訪れたのは、街の中心から車で約一時間、寂れた郊外にあるお店。
ここを30年以上切り盛りしてきたのは、
改革開放政策を受け、長年の夢であった食堂経営に乗り出したという73歳のおかみ。
提供されるのは、ザボンの皮の炒め物、すり鉢で丹念にすりおろしたハスの蒸し物、
薬食同源の代表選手・薬膳漢方スープといった昔ながらの田舎料理。
カメラは、懐かしい味を求めてやって来る帰省客で賑わう春節直前の風景を捉えているらしい。

この番組が、前回、大陸を取材したのは、激辛料理で有名な成都。
今回は、“食は広州にあり”と言われる美食の本場。こちらもまた楽しみ。
“ザボンの皮の炒め物”は見たことも、ましてや食べたことも無いのだけれど、どのようなお料理なのでしょう。
私、柑橘系ピールは大好き。
でも、お砂糖をまぶしてドライにした物や、チョコレートがけにした物など、お菓子としてしか普段は食べない。
その炒め物は想像すら出来ない。番組で要チェック。




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続いて、3月11日(土曜)、こちらもNHK BSプレミアムで、
『絶景!中国・天空の“宗教都市”~知らざるチベット仏教の世界』という番組。
中国奥深くに奇跡のように残された天空の“宗教都市”の全貌を、
世界で初めて4Kカメラで撮影したドキュメンタリー。
現時点で、詳細、分からず。いくつかのキーワードから推測するに、
チベット最大級の寧瑪(ニンマ)派の僧院・喇榮五明佛學院(ラルン・ガル・ゴンパ)がある
色達縣・洛若鄉を取材したような気が…。
我々の日常とは違う幻想的な精神世界を、美しい映像に収めた番組なのかも?
私のテレビだと、4K効果が望めないという問題が…(苦笑)。録画は父に頼むしかない。




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ちょっと飛んで、3月17日(金曜)、BSTBSの『地球絶景紀行』
今週は、香港・マカオ2時間スペシャル♪
100万ドルの夜景が眩い香港、東西の文化が融合する澳門(マカオ)、
都会の景色とは対照的な昔ながらの水上家屋が残る漁村・大澳(タイオー)、
知られざる大自然・東平洲(トンピンチャウ)などを訪ね、新しい香港・澳門の魅力を紹介する2時間。

番組HPには“ホーピンチャウ”と記載。そんな所ありましたっけ?と疑問に思い、
当ブログでは勝手に“東平洲”で記載。
私が知らないだけで、本当に“ホーピンチャウ”という場所があるのかも知れません。
なにせ“知られざる大自然”ですから!正解の確認は番組で。)




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同日、3月17日(金曜)、その後は、NHKの『ドキュメント72時間』
ある場所に3日間カメラを据え、そこを行き交う人々をひたすら捉えるという、
有りそうであまり無い、ごくごくシンプルなドキュメンタリー。
私、この番組、結構好きなのよねぇ~。
しかも、今回は久々の海外取材で、“香港 チョンキンマンションへようこそ”という香港編。
舞台は、迷路のように入り組んだ建物内に、両替所、飲食店、格安ゲストハウス等がひしめき合い、
様々な国の人々が行き交う、ちょっと怪しげな雑居ビル、かの重慶大厦(チョンキンマンション)。
移民排他のニュースが世界を駆け巡る昨今だからこそ、
他民族が入り乱れて暮らす重慶大厦で、共存の在り方を考える3日間。
放送前からすでに名作の予感…。これは、かなり楽しみ…!
併せて、映画『恋する惑星』(1994年)も観たくなってしまう。




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ついでなので映画も。
日にち遡って3月13日(月曜)、NHK BSプレミアムで『あの子を探して』(1999年)を放送。
4月に『グレートウォール』の公開を控えている張藝謀(チャン・イーモウ)監督のメガホンによる
第56回ヴェネツィア国際映画祭・金獅子賞受賞作。
『グレートウォール』はどうしても秀作という気がしない。
あぁ、あの頃の張藝謀監督作品は良かった…(遠い目)。
『あの子を探して』は、謀女郎(イーモウ・ガール)も謀男郎(イーモウ・ボーイ)も、
歴代一不細工で(←スミマセン!)、まるでドキュメンタリーのような作風。
農村の子をひたすらピュアに描くのではなく、ちゃんとズル賢さも見え隠れしているのが良い。
私は、同じ年に発表されたもう一本の張藝謀監督作品で、日本でもヒットした『初恋のきた道』より、
こちらの『あの子を探して』の方が好み。




お菓子は、雅に加賀のお菓子ばかりを2ツ。

★ 森八:千歳

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大きさは、幅約4センチ。
こし餡を求肥で包み、和三盆糖でまぶした伝統の銘菓。




一つ目は、創業寛永2年(1625年)、4百年近く続く加賀藩御用菓子司、森八(公式サイト)“千歳”

16世紀、森八家の始祖・亀田大隅の時代、
一向宗徒の兵糧に起源を発し、“千歳鮓”と称されていた古典的名菓。
その後、代々改良を重ね、“紅きは旭日の瑞相を表し、白きは鶴の毛衣を象る”ということで、
現在の雅な祝い菓子に完成。
…と言うことで、箱には紅白2色のお菓子が詰められている。
色が違うだけで、味は紅白で差なし。

表の生地は求肥。“求肥”と聞くと柔らかな物を想像しがちだが、これはしっかり噛み応えのあるお餅。
中は、小豆と米飴で作られた餡。
甘味に米飴を使ってる効果だと思うが、甘みがかなり強い。
しかも、お砂糖で作る通常の餡とはまた違う懐かしい感じの甘さ。

求肥がしっかりしていて、咀嚼回数が多くなるし、中の餡が甘めなので、
小ぶりでも、そこそこ食べた気になる。
味には無関係だが、紅色の方は、色が濃すぎる気が。
私個人的には、もっと薄いピンクの方が、上品で好き。

★ 音羽堂:加賀紫雲石

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大きさは、幅約3.5センチ、厚さ約2センチ。
柔らかく炊き、蜜漬けにした大粒の大納言小豆を、寒天で寄せたお菓子。




もう一つは、音羽堂(公式サイト)“加賀紫雲石”

こちらは、いわゆる“錦玉”。
表面の糖衣は、まるで薄ーい磨り硝子。
それこそが、このお菓子の特徴で、通常の錦玉に比べ、糖衣が薄く柔らか。
大納言小豆はホクホクに炊かれ、それを繋ぐ寒天は、歯がすっと入り、ツルンとした食感。

私は、表面がパリッと硬い錦玉の否定派ではなく、むしろ好きなのだけれど、この薄皮のも美味。
甘さは控えめ。加賀のお菓子は上品ですね~。
常温で20日もつから、贈り物にも良いかも。

映画『愚行録』

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【2017年/日本/120min.】
育児放棄の容疑で収監された妹・光子を久し振りに訪ねた田中武志。
光子の3歳になる娘・千尋は、保護された時、ガリガリに痩せ、治療中の今も生命が危機的状態。
助かっても、何かしらの障碍が残ってしまう可能性が高いという。
しかし、その状況を把握しているのかいないのか、心待ちにしていた兄との再会に会話が弾む光子。
担当弁護士の橘は、光子自身に幼少期似た経験があるのではないかと疑い、
彼女の精神鑑定を武志に勧める。

一方、<週刊テラス>の記者として働く武志は、“田向家殺人事件”を取材したいと編集長に申し出る。
人々の関心も失せた一年前の一家惨殺事件など、週刊誌ネタとしてもはや賞味期限切れだが、
身内の問題で沈む武志を気遣い、GOサインを出す。

“田向家殺人事件”。
それは、誰の目にも幸せに映った4人家族が、自宅で何者かにより無残にも殺害された未解決事件。
武志はまず、田向家の主人・浩樹の同僚を訪ねる…。


後回しになっていた『愚行録』をようやく鑑賞。
こちら、貫井徳郎の同名小説を、石川慶監督が映画化した作品。

石川慶?石川遼(いしかわ・りょう)なら知ってるけれど、石川慶(いしかわ・けい)は知らなかった。
それもそのはずで、本作品が長編監督デビュー作。
1977年生まれ、東北大学物理学科卒業後、
Państwowa Wyższa Szkoła Filmowa, Telewizyjna i Teatralna im. Leona Schillera w Łodzi
(ポーランド国立映画大学)で演出を学んだというから、随分な進路転換。
(それとも、石川慶監督の中では、物理と映画はリンクするのだろうか。)
これまで撮ってきたのは主に短編映画で、他、テレビのドキュメンタリーやCM等も手掛け、
満を持して発表した長編デビュー作『愚行録』は、
2016年、第73回ヴェネツィア国際映画祭のオリゾンティ部門に入選。

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(↑)こちら、『愚行録』御一行様inヴェネツィア。
(ちなみに、満島ひかりのお召し物はグッチ。)

私は、原作小説未読な上、石川慶監督の作風も知らなかったが、
この『愚行録』には、漠然と“私好み”の匂いを察知し、是非観たいと思っていた。




物語は、週刊誌記者・田中武志が、一年前に起きた“田向家殺人事件”を記事にするため、
関係者を取材して回る内に徐々に浮かび上がってくる
被害者夫婦の実像、関係者それぞれの人間性や心の闇に迫ると共に、
田中武志自身が抱える肉親の問題を追い、紐解いていくミステリー

“田向家殺人事件”とは、田向(たこう)という姓の一家が、自宅で何者かに惨殺された未解決事件。
田向家は、主の田向浩樹がエリートサラリーマン、妻の友季恵は美しく、夫婦には二人の子がおり、
人から恨みを買うようには思えない、絵に描いたような幸せな家族。

そんな彼らが誰になぜ殺されたのか?
週刊誌記者・田中武志の取材は、被害者・田向浩樹の同僚に始まり、夫婦それぞれの大学時代へと遡っていく。
そこで見えてくるのは、田向夫妻の成り上がり列伝!
稲大生だった夫・田向浩樹は、有名企業に就職するため、女生徒をも利用、
妻・友季恵は、文応大学で、見下されがちな外部生だったにも拘わらず、内部生のグループに昇格。
平凡な家庭に生まれ育った夫妻各々が、後に“勝ち組”に入るため、いかなる努力を積み、
またその裏で(例え悪意は無く、自分にとっての正当だったとしても…)
どのように他者を踏みにじってきたかが見えてくる。

友季恵が通う文応大学が、なんとなく慶応っぽいなぁと思ったら、
原作小説では、本当にズバリ“慶応”らしい。
という事は、稲大は、早稲田なのだろうか。原作者の貫井徳郎も、早稲田出身とのことだし。


そして、物語のもう一つの軸になっている週刊誌記者・田中武志の肉親の問題とは、
彼の妹でシングルマザーの光子が、育児放棄で逮捕されたこと。
光子の3歳の娘・千尋は、ろくに食べ物も与えられず、保護された時、一歳児程度の体重しかなく、瀕死状態。
しかし、光子には、罪の意識すら感じられない。
もしかして、光子自身、幼い頃、似た経験をしたのではないかという疑問から、
徐々に彼女の過去と、心に負った深い傷が明かされてゆく。


物語の2ツの軸は、週刊誌記者・田中武志という人物が共通しているだけで、一見それぞれが独立。
が、終盤、まさかそれら2ツの軸が、あのように繋がるとは…!




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兄妹を演じているのは、週刊誌記者・田中武志に妻夫木聡、その妹・田中光子に満島ひかり

本作品は、ブッキー扮する田中武志が乗るバスのシーンで始まり、
バスのシーンで終わる“妻夫木聡バス映画”。
最初からキョーレツであった。
近くにおばあさんが立っているのに、座ったままの若い田中武志に、ある男が席を譲るよう催促する。
田中はしおらしく席を立ち、おばあさんに席を譲るが、バスがちょっと揺れた次の瞬間、床に倒れ込み、
周囲の誰もが、実は田中が足の不自由な青年だったと知ることとなる。
当然、席を譲るよう催促した男は、気まずい顔…。
が、実際のところ、田中の足はピンピンに元気。
無駄な口論などせず、可哀そうな被害者を演じ、黙して相手を窮地に追い込むとは…!
温厚そうに見え、実は歪んでいる田中武志の内面を表現した秀逸なシーン。

その後の田中武志は、取材対象の話を聞く“聞き役”。口数が少なく、控えめ。
いつの間にか、最初のシーンで見せた卑劣な一面など忘れていたら、
終盤になって、サラリとやってのける重犯罪&“濡れ衣工作”。
あれだけの事をやらかしておきながら、最後のバスのシーンでは、計算高く卑劣だった最初のシーンとは違い、
むしろ自然に温厚に振る舞っているから、余計に不気味。
ブッキー、最近では、こういうダークな役がすっかり板に付きましたねー。


満島ひかりは、最初の方に登場するものの、
その後、物語が田向家殺人事件に移っていくので、パッタリ出なくなる。
主人公の一人と認識していたため、出演シーンの少なさを意外に感じていたら、
後半になって、俄然増してくる存在感!
特に、精神科医での独白のシーンに引き込まれた。




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脇のキャストもちょっとだけ見ておこう。
本作品は、田向夫妻を巡る人々の群像劇でもあり、出演者はそれなりに多い。
そんな中から、現時点で記憶に残っている人を数人だけ挙げておくと、
殺害される田向浩樹に小出恵介、後に彼の妻となる夏原友季恵に松本若菜
夏原友季恵の大学時代の同級生・宮村淳子に臼田あさ美
光子を担当する弁護士・橘美紗子に濱田マリ等々…。

ファンが多いので言いにくいが、小出恵介にはギラギラしたハングリーさを感じてしまい、どうしても苦手。
今回演じた田向浩樹は、私が普段彼に感じるギラギラの上昇志向が不可欠な人物で、適役だと思った。

後に彼の妻になる友季恵に扮する松本若菜は、これまで、脇でチラッと出ているところしか見たことなく、
演技をたっぷり見たのは、今回が多分お初。
中流家庭の出身でありながら、上品で感じの良いお嬢様に見えるキャンパスの花。
男子生徒には人気でも、同性からは嫌われるタイプかと思いきや、友季恵は女生徒からも人気。

同性に嫌われるタイプなら、田向浩樹に遊ばれる会社の後輩“山本さん”が忘れられない。

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画像左の女性。松本まりかという女優だそう。
新入社員を違和感なく演じているが、すでに32歳。
典型的な“アニメ声”で、ベターっと男に媚びるから、
「普通の声で喋れぇーーーっ!」と、どれだけイラっとさせられたことか。
ただ、男性には遊ばれ、女性には嫌われる分かり易い“山本さん”はまだ可愛いもので、
むしろ、男女を問わず誰からも何となく好かれる夏原友季恵の方が、
より面倒なオンナであると思い知らされた。


臼田あさ美は、私の中で、キャピキャピの若い頃で成長が止まっていたので、
バイトの女の子を叱るカフェ経営者・宮村淳子を演じるオトナな彼女を見て、ちょっと驚いた。
実際、私生活でも、すでに30過ぎの既婚者になっていたそうで。
じゃあ、こういう役が増えてきて当然だわね。
かと言って、大学生時代の宮村淳子にも若作りの痛々しさは無いし、2ツの年齢を自然に演じている。

“成長”だったら、濱田マリもで、関西弁でトボける明るい濱田マリはすっかり鳴りをひそめ、
質素な人権派弁護士になり切っているから、最初の数秒、彼女だとは気付かなかった。





原作小説がどういうものか知らないけれど、
映画では、あれだけの内容を2時間の中に盛り込み、
しかも、バラバラに見えたそれぞれのエピソードをまとめ上げ、きれいに着地させた巧い作品。
原作を読んでいないからこそ、その着地点が見えず、
先が気になり、物語の世界にどんどん引き込まれていった。
“田向家殺人事件”と、育児放棄の光子に、あんな接点があったとはねぇー。
さらにその後、週刊誌記者・田中武志の封印された闇の部分まで垣間見え、
最後の最後までスクリーンから目が離せなかった。
出演者の演技も良かったし、トーンを落とした映像も雰囲気があって良し。
石川慶監督にとっては、これが長編デビュー作だが、
“粗削りでも初々しい”という感じではなく、すでに完成されている。私、褒め過ぎかしら。
次回作はどういうテーマで撮るのでしょう。

最後に、喫煙者の皆さん、本作品からの教訓です、
“ポイ捨ては人生を狂わせかねない”と心に刻んでおくべし!

映画『お嬢さん』

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【2016年/韓国/145min.】
1939年、日本統治下の朝鮮半島。
“藤原伯爵”を名乗る男ナムは、華族の令嬢・秀子が相続した莫大な遺産を狙う朝鮮の詐欺師。
幼少期に両親を亡くした秀子は、後見人である叔父・上月の屋敷で暮らす孤独な女性。
そんな秀子をトリコにし、名古屋へ渡って結婚式を挙げ、彼女の財産を我が物にしようと考えた藤原伯爵。
まずは協力者にスッキを選択。
窃盗団の中で育てられた孤児のスッキは、得た財産の一部を報酬としてもらう約束で、この計画に便乗。
早速、純朴な下女に成りすまし、上月家へ。
ここでスッキは“珠子”という名を与えられ、令嬢・秀子に仕えるよう命じられる。
着々と遂行される計画。しかし、実際に秀子を紹介されたスッキは、思わず息を飲む。
藤原伯爵からは何も聞いていなかった、秀子がこんなに美しい女性だったなんて。
しかも、屋敷の中で孤独に育った秀子は、容貌のみならず、心まで清らかで美しい。
計画が進み、藤原伯爵の魔の手が秀子にのびるのを目の当たりにし、
スッキは嫉妬にも似た感情を抱くようになり…。



韓国のパク・チャヌク監督最新作は、
イギリスの作家サラ・ウォーターズの小説<荊の城~Fingersmith>の映画化。

19世紀のロンドンが舞台の小説を韓国に置き換えるとどうなるのだろう?という興味があり、
予習で原作小説を読んでおきたかったのだけれど、間に合わなかったぁー…!残念!!
結局、原作未読のまま映画鑑賞。



舞台は、1939年、日本統治下の朝鮮半島。
物語は、窃盗団に育てられた孤児・スッキが、藤原伯爵と名乗る詐欺師から持ち掛けられた計画にのり、
令嬢・秀子に彼を近付ける手助けをするため、自ら下女となり、秀子に仕えるようになるが、
不覚にも、スッキ自身がターゲットである秀子に惹かれてしまったのを機に、計画が二転三転し、
騙し騙されの複雑な駆け引きになっていく様を官能美を交えて描くミステリー


Q.そもそも秀子お嬢様はなぜ狙われるのか?A.超お金持ちだから。
華族の令嬢・和泉秀子は子供の頃に両親を亡くし、莫大な財産を相続。
まだ幼かったので、叔母夫婦に引き取られるが、その叔母も死に、叔母の夫・上月のもと成長。
この上月、秀子の財産目当てで、血縁は無いとはいえ姪っ子である彼女を娶ろうと画策中。
そんなオイシイ話を上月なんかに持って行かれてなるものか!と、秀子お嬢様争奪戦に参戦するのが、
“日本の藤原伯爵”を名乗る、実は日本人でも伯爵でもない詐欺師。
藤原伯爵は、秀子に近付くため、手始めに孤児のスッキを上月家へ送り込む。
スッキは上月家で“珠子”と名付けられ、秀子付きの下女になり、孤独な彼女の心の隙にまんまと入り込むが、
想定外だったのは、スッキもまた秀子に惹かれてしまったこと。
つまりは、“ミイラ取りがミイラ”になってしまったワケ。

…と、だいたいここまでが、第1部。
実はこの作品、3部構成になっている。
私を『お嬢さん』の世界に充分引き込んでくれた第1部は、実は物語の序章でしかなく、
以降、登場人物たちの思惑が、別の視点で描かれ、彼らの関係性も二転三転していく。

エロ要素ばかりが注目される本作品であるが、
最後まで観ると、男性からの支配とか性とか、様々な束縛から女性たちが解放され、自由に飛び立っていく
なかなか清々しい同志片の純愛映画であり、青春映画でもあると感じる。



また、本作品の特徴を一つ挙げると、作品の性質上、日本語が多い。
こんなに日本語が多い韓国映画を観たのは、多分初めて。
韓国人俳優の日本語が下手で聞き取れない、なぜ日本語の台詞にも日本語字幕を付かなかったのか、
といった批判的な声も、日本の観衆の間からは結構出ているようですね。
確かに聞き取りにくい箇所もいくつか有ったのは確かだが、
私は皆さまの御意見とは逆で、韓国人俳優たちの日本語が達者なことに単純に驚いた。
同じく日本語が多い台湾映画『KANO』(2014年)を観た時は、台湾人俳優たちの日本語がボロボロで、
まったく聞き取れず、なぜ日本語字幕を付けなかったんだ?!と憤ったが、『お嬢さん』は許容範囲。
しかも、『お嬢さん』の中で使われている日本語の台詞は、
『KANO』とは比較にならないほど長く、内容も複雑。
よく言われているように、日本語と韓国語は似ているのであろう。
韓国人俳優が喋る中国語の発音は悲惨だと感じるが、日本語だと上手いもん。


それに、日本語が完璧であることは、本作品にとって重要ではない。
本作品は、不完全であることさえ、完璧な作品世界を創り上げるための一要素であるかのように感じる。
それは、リュ・ソンヒが担当した美術やチョ・サンギョンが担当した衣装にも言える。

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和洋折衷の豪邸も、お嬢さんのお召し物も、タメ息が出る美しさ。
ただ、時代考証に即しているかというと、それは必ずしも“YES”ではない気が。
実際のあの時代、あの場所は再現されておらず、
欧米の昔の映画に見られるような、“なんちゃってオリエンタル”な要素が僅かに散りばめられている。
しかし、無知からそうなったのではなく、“狙ってそうした”としか思えない。
敢えて遊びを入れ創り上げられた『お嬢さん』の世界観は非常に独創的。
現実社会から離れ、映画の中の不可思議で耽美な世界に酔う。
(衣装では、子供の頃からずっと秀子に手袋を付けさせている理由が知りたい。)





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主な出演は、和泉秀子お嬢様にキム・ミニ、秀子の下女になる“珠子”ことスッキにキム・テリ
財産目当てで秀子に接近する藤原伯爵にハ・ジョンウ、秀子の後見人である叔父・上月にチョ・ジヌン


主演のキム・ミニは、つい最近、第67回ベルリン国際映画祭にて、これとはまた別の映画、
ホン・サンス監督作品『On the Beach at Night Alone 밤의 해변에서 혼자』での演技が認められ、
見事主演女優賞を受賞。

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ベルリンで韓国人女優がこの賞を受賞するのは初めてのことで、大変な名誉なわけだが、
(↑)この画像でも、ガッチリお手々を繋いでいるホン・サンス監督との不倫関係で非難ゴーゴーのため、
韓国国内は必ずしも祝福ムード一色ではないようですね。
私ももし韓国人なら、「妻子ある22も年上の監督と不倫だなんて、どんだけガッツイているのよ、この女!」
くらいの悪口は言ったかも知れないが、
『お嬢さん』を観てしまうと、それくらいスレた所のある不良だから、秀子を演じられたと思えてしまう。
映画の中の秀子は、前半こそ穢れを知らない孤独な令嬢だが、実のところ、相当計算高い策士。
裸にもならないといけないし、大胆なベッドシーンもあるので、身体が綺麗なことも重要。
一般女性程度のボディだと、妙な現実味が滲み出てしまうが、キム・ミニくらいスタイルが良いと、絵になり、
セックスシーンさえ幻想的で、変なイヤラシさが無い。
あと、ずーっとおしとやかだった秀子が、いきなり下女を装い、ズーズー弁(日本語)で
「オラの大切な下女が狂っちまった」と呟いた時には、吹き出しそうになった。
まぁ、キム・ミニに関しては、人間性と俳優としての資質は必ずしも一致しないという好例でしょうか。
(素か?とも思えるちょっと不良っぽいキム・ミニを、そのまま見られる作品だったら、
まるでドキュメンタリーかのように撮られた『女優たち』が面白い。)


映画では、この秀子の子供時代も少し描かれる。

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日本語が上手いから、もしかして日本の子役?とも思ったけれど、チョ・ウニョンという韓国の子役らしい。
この子、日本で子役に言わせたら社会問題になるであろう、かなりキワドイ日本語の台詞も口にしている。
おかっぱ頭は似合っていて、可愛らしい。


キム・テリは、これまでCMや短編作品の経験はあっても、長編商業映画の経験はなく、
この度オーディションで選ばれた、実質“新人”の女優さんらしいが、新人とは信じ難い演技を披露。
扮するスッキは、地味で素朴な下女に見えるけれど、実は有名な女泥棒が産んだ娘。
孤児になり、窃盗団の中で育てられたから、のほほと生きてきた女の子とは違い、若くても世間をよく知っている。
藤原伯爵が秀子と結婚し、財産をせしめた暁には、ちゃんと分け前を受け取るはずであったが、
実際に秀子に会ったら、あまりの美しさにポーとし、その後どんどん彼女に惹かれていってしまう。

キム・テリは、キム・ミニに比べ、良くも悪くも野暮ったいから、下女の役にぴったり。
でも、純朴な下女を演じられる若手女優なら沢山いても、スッキを演じられる女優はそうそう居ないであろう。
スッキは見た目こそ純朴でも、スレた策士の顔を覗かせたり、お嬢様に床での振る舞いを直々伝授。
このキム・テリ、顔立ちは似ていなくても、“大胆さ”という点では、池脇千鶴に近いニオイを感じる。
今後、どういう女優さんに成長していくでしょうか。


ハ・ジョンウ扮する日本人・藤原伯爵は、本当は日本人ではなく、ましてや伯爵のわけもなく、
済州出身のただの作男。優雅な伯爵を装い、世間知らずの令嬢・秀子を恋の罠にかけ、名古屋で結婚し、
彼女の財産をゴッソリ頂戴してしまおうと企む悪い男。
…が、女心をも利用する冷血な悪人という感じではなく、どこか抜けていて、嫌いになれないキャラ。
“日本統治時代朝鮮半島版ジョナサン・クヒオ大佐”って感じ。
ハ・ジョンウは、極悪人を演じると凄みがあるが、こういう抜けた男も上手い。
主要登場人物の中で、一番ユーモアがある。


チョ・ジヌンは、ハ・ジョンウと2歳しか違わないアラフォーなのに、今回は、すっかり老け役。
演じている男は、“上月(こうづき)”という日本の姓を名乗ってはいるけれど、日本人ではない。
日本文化を崇拝し、社会的地位欲しさに、家柄の良い秀子の叔母と結婚。
今度は姪っ子の秀子をも娶ろうと目論むが、莫大な財産のみならず、美しい秀子本人にも興味津々。
単純な肉欲だけではなく、秀子に官能本を朗読させる会を催すところ等に、変態度の高さが窺える。
朗読させていた本って、<金瓶梅>よねぇ…?!お話の中に、西門慶が出てきていたし。


他、脇で(↓)こんな女優も出ていた。

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上月家に仕える佐々木夫人(←実は上月の元妻)にキム・ヘスク、秀子の叔母にムン・ソリ
ムン・ソリは、久し振りに見たら、一瞬誰だか分からないくらいスッキリしていた。かなり痩せたのでは?





パク・チャヌクは基本的に好きな監督だが、フィルモグラフィの中にも、好きな作品とそうでもない作品はあるし、
『オールド・ボーイ』(2003年)で受けた衝撃は、以降、あまり感じられないでいた。
しかし、この『お嬢さん』では、久々にガッチリ心を掴まれた。
物語自体の面白さ、美術や衣装の美しさ、俳優の演技…、どこを取っても私好み。
もしかして『オールド・ボーイ』以上?パク・チャヌク史上最高傑作か?!とさえ思える。

同志片としてみても、傑作。
気のせいか、男×男の同志片に比べ、女×女の同志片には秀作が少ないように感じる。
『お嬢さん』は、女×女の同志片の中でトップレベル。

韓国語はチンプンカンプンだが、『お嬢さん』という邦題は、
恐らく原題の『아가씨』をそのまま直訳したのであろう。
私は、このタイトルから、小津安二郎監督1930年の同名作品『お嬢さん』を思い浮かべた。
邦題を命名する際、小津安二郎監督作品を意識したかどうかは分からないけれど、
とにかく、シンプルでキャッチーで、インパクトのある良い邦題だと思う。
ちなみに、英語のタイトルは、『お嬢さん』とは逆の『The Handmaiden(小間使い)』。


映画館には、男性客多し。…しかも、かなり高齢の。
アジア映画を上映する映画館で、ここまで多くの高齢男性客を目にしたのは、
“映画史上初の3Dエロ映画”を謳う『3D SEX & 禅』(2011年)以来。
お父サマ方にとっては、“堂々と観に行けるエロ映画”という括りなのだろうか。
ただね、この『お嬢さん』は、お父サマ方のエロ需要を満たすためだけの映画などではない。
『3D SEX & 禅』がお馬鹿なB級エロ映画なのに対し、こちらは芸術性も高いので、
美意識の高い女性などでも楽しめるはず。
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