1215年、蒙古、金、宋の三大勢力が競う中国大陸。
蒙古の英雄・成吉思汗(チンギス・カン)が、四男・ 拖雷(トルイ)を伴い、金に攻撃を仕掛けている最中、
拖雷の正妃・帖尼が、騒がしい軍営で第2子となる男の子を出産。
この子は、“忽必烈(フビライ)”と命名される。
1224年、蒙古軍が遠征から4年ぶりに哈拉和林(カラコルム)に帰還。
9歳の元気な少年に成長した忽必烈は、祖父・成吉思汗と父・拖雷に対面。
成吉思汗は早くも、忽必烈に他の子とは違う何かを感じ取り、自ら騎馬を教え、可愛がる。
1226年、蒙古軍は、西夏への攻撃を決定。
蒙古の伝統に従い、初陣を飾ることとなった忽必烈は、祖父に伴い、意気揚々と故郷を出発するが、
敵の防御は固く、想定外の苦戦を強いられることに。
これといった打開策も無く、誰もが頭を抱えている時、意外にも幼い忽必烈が良策を提案。
驚いた事に、この作戦で、なんと忽必烈の読み通り、蒙古軍は中興府をたったの3日で陥落。
ところが、喜びも束の間、成吉思汗の長男・朮赤(ジョチ)の訃報が舞い込む。
ショックと悲しみから、体力がみるみる内に衰え、死を悟った成吉思汗は、
三男・窩闊台(オゴデイ)に大汗の座を継承すること、
才気あふれる孫・忽必烈の教育を四人の忠臣に託すことを言い残し、この世を去る…。
2017年5月末、
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チャンネル銀河で始まった大陸ドラマ
『フビライ・ハン~忽必烈傳奇』が、
8月上旬、全50話の放送を終了。
主演俳優の名前以外、惹かれる所がまったく無く、これっぽっちの期待もせずに観始めたら、
これが案外面白かった。(但し、一般的なドラマ好き女性にお薦めするような作品ではないかも…?)
★ 概要
徐小明(ツイ・シウミン)監督による2013年度のドラマ。
徐小明は、粵劇(広東オペラ)俳優の両親のもと、1953年、香港に生まれ、幼少期から武術をたしなみ、
5歳で子役としてスクリーンデビュー。
その後は、俳優業のみならず、監督、プロデューサー、武術指導者としてマルチに活躍。
私にとっては、『ロアン・リンユィ 阮玲玉』(1991年)、
『墨攻』(2006年)、『ツインズ・ミッション』(2006年)、
過去に監督した大陸ドラマは未見。
念の為、補足しておくと、同様に、監督、プロデューサーとして活躍し、
『五月の恋』(2004年)などを手掛けた徐小明(シュー・シャオミン)は、同姓同名の台湾人で、別人です。
ドラマのタイトルは、放送地域によって異なり、台湾では『大漠風雲』、香港/澳門では『建元風雲』。
このドラマが得た
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栄誉にも一応触れておくと、
MPAAアメリカ映画協会や中国の広電総局らの主催で、2004年からロスで行われている
中美電影節 Chinese American Film Festivalにおいて、
2013年、最佳電視劇(最優秀テレビドラマ賞)12本の内の一本、
また徐小明監督が、最佳電視劇導演(最優秀テレビドラマ監督賞)に選ばれている。
但し、この賞がどれ程度名誉な物なのかは不明。
中美電影節は、恐らく米中文化交流事業の一環で行われている映画祭で、
日本における東京・中国映画週間のようなイベントなのではないか…、と。
だとすると、そんなに有り難い賞ではないであろう。
★ 物語
内容は、誰もがタイトルから簡単に想像するように、
ズバリ、忽必烈(フビライ)の生涯を描く伝記ドラマ…!
日本では“フビライ”、もしくは“クビライ”と呼ばれる忽必烈(1215-1294)。
名前くらいは知っていても、具体的に何をした、どんな人物かは、案外知らない日本人が多いであろう。
かく言う私がそういう日本人でして(苦笑)、忽必烈に関しては、蒙古襲来(1274/1281)を仕掛けた人、
<東方見聞録>のマルコ・ポーロ(1254-1324)が謁見した人、…という程度の認識。
(↓)こちら、イタリアの画家、トランクイッロ・クレモーナが1863年に描いた作品
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<Marco Polo alla Corte del Gran Khan(大ハンの宮殿でのマルコ・ポーロ)>。
この絵で見る忽必烈は、“モンゴル感”ゼロで、まるでヨーロッパの王様だが、
実のところ忽必烈は、蒙古帝国(モンゴル帝国)第5代大汗(大ハン)にして、元朝初代皇帝。
そもそも私は、蒙古の歴史が分かっていない。
蒙古で突出して有名なのは、成吉思汗(チンギス・カン 1162-1227)。
蒙古の遊牧民を統一し、蒙古帝国の基盤を築き、初代の大汗(大ハン)に君臨した人物。
忽必烈は、その成吉思汗の孫にあたる。具体的には、成吉思汗の四男・拖雷(トルイ)の次男。
(蒙古では、財産は末子相続、家督は実力によって継ぐ場合が多く、
長男でないことは、必ずしも帝位継承に不利ではないようだ。)
私と同じように、蒙古の歴史に暗い日本人だと、
蒙古の大汗というと、成吉思汗と忽必烈の2人しか答えられない人が多いだろうけれど、
実際には、
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成吉思汗→
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窩闊台(オゴデイ:成吉思汗の三男)→
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貴由(グユク:窩闊台の長男)
→
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蒙哥(モンケ:成吉思汗の四男・拖雷の長男で忽必烈の兄)
→
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忽必烈(蒙哥の弟)&阿里不哥(アリクブカ・忽必烈の弟)
…といった具合に、成吉思汗と忽必烈の間に、他3人が大汗の座に就いているし、
忽必烈と同時に実弟の阿里不哥も即位という異常事態になり、真の大汗の座を巡り骨肉の争いが勃発。
さらに、窩闊台の死後、窩闊台の妻・脫列哥那(トレゲネ)が、
貴由の死後、貴由の妻・海迷失(ガイミシュ)が、監国として実質政権を掌握していた時代もあるので、
忽必烈が大汗に君臨するまでには、長ぁーーい道のりがあるわけ。
その“忽必烈、大汗への棘の道のり”を描いているのが、本ドラマ。
忽必烈でもう一つ注目しておきたいのが、
1260年、開平で第5代大汗の座に就き、自らを“皇帝”と名乗った後、
1271年には、国号を“大元”とし、元朝を建立し、元朝初代皇帝となり、
首都も哈拉和林(カラコルム)から大都(現・北京)に移すなど、様々な改革を打ち出した点。
それら改革に、漢人の制度をかなり取り入れたり、漢人を重要なポストに登用したため、
蒙古の保守派から大きな反発を買う様子も、ドラマでは描かれる。
現在の北京で、忽必烈がここに都を造営した頃の面影が偲ばれる物はごく僅かで、
その一つが、元朝の城壁を遺した元大都城垣遺址公園。
元朝の面影はもはや無いが、忽必烈の命で創建された中国第二の規模の孔子廟は、有名な観光スポット。
参考までに、以下にリンク。
★ キャスト その①:主人公
胡軍(フー・ジュン):忽必烈(1215-1294)~蒙古帝国第4代大汗にして元朝初代皇帝
本ドラマの主人公・忽必烈に関しては、前述の通り。
忽必烈どころか、蒙古の歴史にも文化にも大して興味の無かった私が、このドラマを観たのは、
この胡軍が主演俳優だったからに他ならない。
「えっ、胡軍が主演なの?じゃぁ、取り敢えず観てみようかナ」と。
北京出身の胡軍自身は、蒙古族ではなく、満族。
本来なら、蒙古帝国/元朝のドラマより、清朝のドラマの方が、血統的にはシックリ?
ドラマ冒頭では、忽必烈の祖父にあたるかの成吉思汗(チンギス・カン)は、まだ存命。
その頃、まだ幼かった忽必烈は、子役が演じているが、
第2話の初盤で成吉思汗が崩御し、次に描かれる“8年後”のシーンで、胡軍は早々に登場!
成吉思汗の崩御は1227年。その8年後、1235年だと、忽必烈は若干ハタチだったはず。
初々しいハタチの青年を演じるには、あまりにもオッサン過ぎる胡軍に、当初戸惑った私だが、
“厳しい自然環境の中、勇猛に生きる蒙古の男は、若干老けていて、年齢不詳”という思い込みもあり、
案外簡単に“ハタチのオッサン”に対する違和感は払拭された。
満族である胡軍が、蒙古族を演じる違和感も、同様に引っ掛からず。
胡軍は役作りのため、撮影前、国内外の関連本を読みまくる他、
内蒙古の呼倫貝爾(フルンボイル)草原で半月ほど蒙古族と生活を共にするという体験も。
さらに、トレーニングで筋肉を付け、体重を増量。
そのお陰で、身長184センチと、元々長身の胡軍が、2メートルくらいの大男に見える。
実際の忽必烈が大男だったかは不明だが、
胡軍の大きな身体からは、蒙古の英雄の勇壮さや大らかさが感じられ、なかなか良かった。
決して美中年ではないが、セコセコしていないあの感じは、結構好み。
このドラマで、胡軍は、
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アフレコも自ら担当。
我々視聴者は、自分自身の声で演じる胡軍を鑑賞できます。…まぁ、日本では当たり前なのだけれど。
吹き替えがもうすっかり文化になっており、ほとんど慣習的に続けているとしか思えなかった中国だが、
近年ようやくその慣習に変化が見えてきて、俳優本人の声を聞きたい私には嬉しい。
ちなみに、プチ忽必烈は、(↓)こんな感じ。
演じているのは、蘇嘉航(スー・ジアハン)くん。この可愛い子が、いきなりオッサン化しちゃうの。
2001年生まれで、今秋16歳になる彼は、
ヘイデン・クリステンセン、ニコラス・ケイジ、劉亦菲(リウ・イーフェイ)らが出演する中米合作映画
『ザ・レジェンド』(2014年)にも、結構重要な役で出ているみたい。(←私は未見)
★ キャスト その②:蒙古の歴代大汗たち
唐國強(タン・グオチャン):成吉思汗 チンギス・カン(1162-1227)~初代大汗 忽必烈の祖父
北海道で肉料理の名前にもなるほど有名な英雄・成吉思汗(ジンギスカン)役で、名優・唐國強が出演。
しかし、本ドラマの主人公はあくまでも忽必烈なので、祖父の成吉思汗は早々に崩御。
贅沢な“唐國強使い”とも言える。
将来の大汗継承に関する成吉思汗の遺言は有ったのか、有ったなら誰を指名していたのかといった問題は、
後々まで引きずられ、争いの火種にもなる。
巴森(バーサンジャブ):窩闊台 オゴデイ(1186-1241)~第2代大汗 成吉思汗の三男
巴森は実際に蒙古族。しかも、成吉思汗の次男・察合台(チャガタイ)の末裔!
彼は、もしかして、本ドラマ出演者の内、日本で一番知られた俳優かも…? と言うのも…
2001年放送のNHK大河ドラマ『北条時宗』に、忽必烈役で出演したから。
そう、巴森は、多くの日本人俳優が夢見る“大河俳優”なのですヨ。
そんな巴森が本ドラマで演じているのは、NHKで扮した忽必烈の叔父にあたる窩闊台。
窩闊台は、ちゃんと父・成吉思汗の御指名で即位したものの、
人徳があって出来の良い弟・拖雷と彼の息子たちの存在に怯え、排除を目論むイヤな男かと思いきや、
性悪の策士は彼の妻・脫列哥那で、窩闊台自身は脫列哥那の暴走を止めようとする、むしろイイ人であった。
(ただ、脫列哥那に簡単に丸め込まれてしまう不甲斐ない面も。)
黃建群(ファン・ジャンクン):貴由 グユク(1206-1248)~第3代大汗 窩闊台と脫列哥那の長男
意外にも公平な目を持っていた窩闊台は、無能な長男・貴由では大汗は務まらない、
国のためにも、自分の後継者にはしないと考えるが、それでは女房・脫列哥那の気は納まらない。
窩闊台の死後、脫列哥那はあの手この手の政治工作で、腹を痛めて産んだバカ息子・貴由を即位させる。
けれど、馬鹿はやっぱり馬鹿なので、自分の侍女・海迷失(ガイミシュ)を、貴由に嫁がせ監視させる。
利口者の母親と女房から監視され、元々の馬鹿に加え、自暴自棄にも陥るが、
その後、海迷失との夫婦愛に目覚め、人が変わり、二人で手を取り合って、善政を敷くようになるも、
その事で、夫婦VS母・脫列哥那の対立を深めてゆく。
演じている黃建群は、やけに精悍な暑苦しい二枚目で、“台湾版Ken Watanabe”って感じ。
なお、海迷失は、歴史上、貴由の第三皇后ではあったけれど、
脫列哥那の侍女だったという記述は残されていない。
高發(ガオ・ファ):蒙哥 モンケ(1209-1259)~第4代大汗 拖雷の長男 忽必烈の兄
拖雷の息子たちの中にも、武闘派と穏健派がいて、武闘派の代表格がこの蒙哥で、穏健派の方が忽必烈。
蒙哥は頭で考える前に、カーッとなって、手を上げてしまうタイプ。現代にもいる典型的な直情型の男。
性格は違えど、血の絆は固く、元々忽必烈との仲は良好だったのに、
次期大汗を決める段階になると、有能な弟・忽必烈を恐れ、牽制。
忽必烈が兄への忠誠心を示し、身を引いたことで、無事第4代大汗に即位できたため、
最初こそ弟に感謝し、厚遇もするが、取り巻きたちからの焚き付けもあり、
また徐々に忽必烈への疑念を募らせ、自分の力を示そうと言わんばかりに、釣魚山へ無謀な侵攻をし、
結果、戦いに大敗した上、疫病にかかり、死亡する。
このドラマで見る蒙哥は、一見ゴーカイ、でも中身はちっちゃな男で、頭もあまりよろしくないという印象だが、
実際の蒙哥は、指導力があり、それなりの功績を遺した有能な大汗だったようですね。
吳樾(ウー・ユエ):阿里不哥 アリクブカ(1219?-1266)~第4代大汗 拖雷の七子 蒙哥・忽必烈の弟
阿里不哥もまた拖雷家の武闘派。兄弟の中で気が合うのは、もちろん長兄・蒙哥。
忽必烈とも元々は仲良しだったのだが、初恋の女性・庫薩爾(クサアル)を取られたことで、
激しい怨みを募らせていく。
蒙哥が戦地で死んだ時、都・哈拉和林(カラコルム)を任されていた阿里不哥は、大汗に即位するが、
同時期に忽必烈もまた開平で即位したたため、一国に大汗が二人という異常事態になり、
真の大汗の座を巡る骨肉の争いに発展。
史実では、女を取られた恨みなどは語られていない。
阿里不哥は、漢人を登用したり、漢人の文化を取り入れる忽必烈の漢化が許せず、
あくまでも蒙古にこだわったようなので、兄弟対立の一番の要因は、
やはり考えや政策の違いが大きかったのであろう。現代にも通じる保守派と革新派の対立って感じ。
阿里不哥を演じているのは、回族の俳優で、アクション出身の吳樾。
武術の形を決めている吳樾は、本当にカッコイイ…!
キレのあるアクションと、明るく優しい人柄で、日本にもファンがいっぱい居るけれど、
ドラマの中の阿里不哥は、卑屈で、セセこましく、ほんと、イヤな奴!全登場人物の中で一番嫌いっ…!
演じる本人とこれだけギャップがあるということは、それだけ上手いんでしょうね。
★ キャスト その③:その他
このドラマは登場人物が多いので、他のキャストは絞りに絞った数名を。
呂良偉(レイ・ロイ):拖雷 トルイ(1192-1232)~成吉思汗の四男 忽必烈の父
実直な性格で、人望が厚く、父・成吉思汗からも目を掛けられるが、あくまでも控えめで、
第2代大汗を継いだ兄・窩闊台を支え続けるが、有能ゆえ窩闊台の妃・脫列哥那から危険視され、
重病に陥った窩闊台の身代わりになれと、妖しい汚水を飲まされ、健康を害し、死亡。
真偽のほどはさておき、この“呪いの汚水で死亡説”は、実際に逸話として言い伝えられているそう。
演じているのは、ベトナム出身の香港明星・呂良偉。
精悍で、誠実そうで、とても素敵な呂良偉、私生活では、石田純一とタイ記録の結婚3回。
一度目と二度目は、結婚期間たったの一年ポッキリ。“三度目の正直”で3回目は続いております。
周海媚(キャシー・チャウ)。
哈斯高娃(ハースカオワー):帖尼 ベキ(1192-1252)~拖雷の正妃 忽必烈の生母
拖雷の正妃・帖尼は拖雷と同じように控えめな性格で、贅沢を好まず、質素。
“能ある鷹は爪を隠す”タイプで、実のところ聡明な、一家をまとめる良妻賢母。
帖尼が生きている間は、性格の違う息子たちも、彼女の言う事を聞いて、何とか均等を保てていたのに、
帖尼の死で、ブレーキをかけてくれる人が居なくなり、兄弟間に亀裂が…。
歴史上の帖尼は、蒙哥、忽必烈、阿里不哥を大汗、
三男・旭烈兀(フレグ)を伊兒汗國(イルハン朝)の創始者に育て上げた“四帝之母”と称えられているそう。
扮する哈斯高娃は、特徴的な名前からも分かるように、実際に蒙古族の女優さん。
佘詩曼(カーメイン・シェー):察必 チャブイ(1227-1281)~忽必烈の正妃
忽必烈から愛され、大切にされている察必は、だからと言って、可愛いだけの女性ではなく、
忽必烈に的確なアドバイスをだし、政でも彼を支えるキレ者のパートナー。
実際の察必も、忽必烈と深い愛情で結ばれ、
さらに、財テクまで上手かった賢い女性と言い伝えられている。
察必役の佘詩曼は、1997年、女優への登竜門とも言われる香港小姐(ミス香港)で3位を獲得し、
TVB 無綫電視と契約、以降、香港のテレビドラマを中心に出演作多数の香港明星。
ちょっとクセのある美人なのが、いかにも“香港女優”って感じ。
ちなみに、本ドラマの中の察必ママ・五公主は、(↓)こんな人。
母娘でぜんぜん似ていなーい。ママ、モンゴル相撲できそう。
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五公主役の劉思博(リウ・スーボー)は、身長178センチ、
横にも縦にも大きなインパクトのあるボディを生かし、コメディエンヌとして注目されてきてはいるものの、
まだ出演作が少なく、情報も少ない。恐らく、娘役の佘詩曼よりずっと若いのではないだろうか。
徐冬梅(シュー・ドンメイ):庫薩爾 クサアル~阿里不哥の想い人 忽必烈の側妃
架空の人物・庫薩爾は、阿里不哥が初めて本気で愛した女性。
阿里不哥は自分の身分や気持ちを隠し、庫薩爾と交流し、彼女と両想いであるという確信を得たため、
ついにプロポーズしようとしたら、な、な、なんと、庫薩爾は忽必烈の側妃になってしまう。
庫薩爾がずっと想っていたのは忽必烈で、半ば“押しかけ女房”的な強引さで、側妃の座を射止めたのだが、
阿里不哥は、「忽必烈に愛する女を奪われた」と兄を逆恨みし、以後、兄弟間の亀裂を深めていく。
たかが失恋で、あそこまで兄を怨み、凶暴化していく阿里不哥も阿里不哥だが、
この庫薩爾の言動にも大いに問題あり。彼女の様子を見ていたら、誰だって阿里不哥と両想いだと思う。
庫薩爾の「初めて見た時からずっと忽必烈が好きで、嫁ぐのは彼と決めていた」発言は、あまりにも唐突で、
視聴者の多くは、我が耳を疑ったに違いない。忽必烈も、こんな面倒な女をよく娶ってあげたものだ。
演じているのは、踊れてアクションもできる徐冬梅。
まるでゴーギャンが描くタヒチの女のようにエキゾティックな風貌だが、漢族です。
蔡雯艷(ツァイ・ウェンイェン):脫列哥那 トレゲネ(?-1246)~窩闊台の妃 貴由の生母
脫列哥那は本ドラマ一の悪役。まずは夫・窩闊台を、次いで息子・貴由を大汗に即位させ、
我が家の基盤を強固なものにしたいという嫁ゴコロ、母ゴコロが根底にあって盲目の爆走をする
フツーの女性に見えなくもない。同じ悪役でも、阿里不哥と違い、卑屈さは無く、
日本でもそこらにゴロゴロ居る“悪びれずにフテブテしいオバちゃん”って感じなので、
私も慣れがあるのか、仕舞いには、彼女の暴挙を笑って傍観できるようになってしまった。
そんな暴走オバちゃん脫列哥那にも色々あって、蒙哥の大汗即位後は、人格が180度激変し、
己の過去を悔い、従順になり、かつての宿敵・忽必烈に誠心誠意仕えるようになる。
実際の脫列哥那は、息子・貴由の大汗即位を成功させた2ヶ月後に、安心したかのように亡くなっているので、
ドラマの中で描かれるその後の脫列哥那については、全てフィクション。
演じている蔡雯艷は、大陸屈指のベテラン女優!と言いたい風格だが、
実のところ、出演作多数でも、これまで小さな役が多かったため、注目されることもあまり無く、情報が少ない。
孫儷(スン・リー)主演作『ミーユエ 王朝を照らす月~羋月傳』の嬴夫人役で、再度注目が集まっているので、
熟女になってから一花咲かせた大器晩成型女優と言えそうですね。
徐向東(シュウ・シアントン/じょ・こうとう):霍赤 フチ~脫列哥那の側近
脫列哥那といつもセットで登場する側近・霍赤もまた忘れ難い。
“霍赤”なる人物は歴史上存在しないようだが、ドラマの中に描かれている、“脫列哥那に重用された”、
“脫列哥那を後ろ盾に、耶律楚材ら邪魔な忠臣を排除した”、
“窩闊台に酒を勧め、死期を早めた”といった数々の黒いエピソードから、
モデルは、回国(イスラム)商人出身の奧都剌合蠻(アブドゥッラフマーン ?-1246)と考えて間違い無いであろう。
コブラのように広がったエキゾティックな髪型からして、ミステリアスな西域の香りがするし。
実際の奧都剌合蠻も、ドラマと同じように、脫列哥那とタッグを組んで、貴由の大汗擁立を成功させるのだが、
1246年に脫列哥那が死ぬと、その貴由から処刑されてしまう。
本ドラマの方では、失脚し姿を消したものの、実は生き永らえていて、終盤、阿里不哥に見出され、再登場。
演じているのは、日本でも、コアな武術マニアから地味に支持され続けている鷹爪拳の名手・徐向東…!
指導者としてお忙しくされているため、年齢の割りに出演作が少ないので、
この『フビライ・ハン』は、胡散臭い徐向東を堪能できる貴重な作品です。…但し、アクションはほぼ皆無。
張岩(チャン・イェン):耶律楚材 やりつ・そざい 1190-1244~成吉思汗四大忠臣の一人 契丹族
耶律楚材は、成吉思汗に才能を見出され、仕官し、その後、第2代大汗・窩闊台にも重用され、
初期の蒙古帝国を支えた契丹族の忠臣。
本ドラマで、耶律楚材は、成吉思汗が遺した後継者に関する秘密の遺言を、
窩闊台の死後、監国になった脫列哥那から守るため、逃亡するが、
脫列哥那の手先に追われ、無残にも殺されてしまう。
…ところが、忘れた頃に、なぜか耶律楚材が生き返り再登場!
いや、これ、耶律楚材と生き写しの息子・耶律鑄(1221-1285)。
父の意思を継ぐ耶律鑄は、時の大汗・蒙哥に仕えるようになる。
耶律楚材&耶律鑄父子は、張岩の一人二役。
馬浚偉(スティーブン・マー):劉秉忠(1216-1274)~忽必烈の宰相 漢人
劉秉忠は、17歳で官職に就くが、乱世の史事に失望し、出家して、“子聰”の法号を名乗る僧侶になるも、
師匠・海雲大師の推挙で忽必烈に出会ったことで、還俗して、忽必烈に仕えるようになる漢人。
忽必烈は、劉秉忠のような漢人に重要なポストを与えたり、漢人の文化や知恵を積極的に取り入れた事で、
“蒙古ファースト”の蒙古の保守派から大反発を受けるのだが、
漢人が大多数を占める大陸を、マイノリティの蒙古族・忽必烈が支配し、元朝まで建立できたのは、
やはり民族に縛られず、才能で人材を登用したり、漢文化の理解に努めた事は、大きいであろう。
そんな劉秉忠に扮しているのは、歌手で俳優の馬浚偉 from香港。
TVB 無綫電視の契約俳優として出演した同局のドラマは数多く有っても、
他が少ないので、日本では目にする機会が少ない香港明星ですよね。
のっぺりしたお顔立ちが、“元僧侶の宰相”という設定にピッタリ。
★ 衣装
蒙古の服飾文化には、あまり興味が無い私。
それでも、脫列哥那ら女性の頭にのっているお帽子は、目に留まってしまう。
当ブログでは、以前にも、ちょこっと触れた事があるのだが、
塔のように高くそびえ立つこの被り物は、蒙古特有の“姑姑冠”というもの。
他にも、“顧姑冠”、“罟罟冠”等々、呼び方は色々あり。
画像右は、忽必烈の正妃・察必(チャブイ)の肖像画。
このような姑姑冠は、高さがだいたい三十数センチ。
本体は樺などの樹皮で作られ、そこに、さらに、布を貼ったり(蒙古族は特に赤を好んだという)、
金銀、宝石、羽毛などで装飾を施した物も。
残念ながら、素材の特質上、保存が困難で、現存する物は稀。
姑姑冠を被るのは、蒙古貴族の既婚女性。
見た目で簡単に未婚/既婚を識別させるのは、蒙古に限った事ではなく、多くの民族が行っていること。
蒙古族の間では、婚礼の際に、新郎が新婦に姑姑冠を被せることも、重要な儀式だったという。
「平民は姑姑冠を被るべからず!」というお達しは明確には出されておらず。
ただ、この背の高~い姑姑冠を被ったら、アクティヴに動けなくなるのは、想像に容易い。
野良仕事などをしなければならない下々の女性には、明らかに不便な無用の長物。
姑姑冠が、高貴な女性の象徴になたのは、必然かも知れません。
★ テーマ曲
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オープニング曲は、戴玉強(ダイ・ユーチャン)が歌う
<乾坤無地不包容>、
エンディング曲は、金婷婷(ジン・ティンティン)が歌う<淚水打落了花蕾>。
戴玉強は著名な男性声楽家、金婷婷は女性のソプラノ歌手。
主演のアイドル俳優にテーマ曲を歌わせることも多いけれど、本ドラマの場合は、実力派による本格的な歌。
オープニング曲は、“日本の演歌歌手が民謡調に歌う力強い大漁節”を彷彿させ、
日本人にはどこか懐かしさがある。
エンディング曲の方は、子守歌のようなゆったりした曲調で、これまた郷愁を誘う。
もしかして、演奏に馬頭琴を使っている?モンゴルの大草原を思い起こす音がする。
そんな訳で、ここには、そのエンディング曲<淚水打落了花蕾>を。
忽必烈
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阿里不哥の帝位継承の乱で、忽必烈が勝利し、蒙古帝国唯一の大汗になった時点で、
ドラマは実質終了。その後、元号を“大元”に改めたこと、大都に都を築いたこと、1294年に没したことなどは、
ナレーションで簡単に説明されるのみ。
脚本が多少雑、映像が特筆するほどではない、そもそも蒙古にも忽必烈にも関心が低い、…とまぁ、
惹かれる要素のほとんど無いドラマだったにも拘わらず、結構楽しめた。
同じチャンネル銀河で、同時期、夜に放送の『皇貴妃の宮廷~多情江山』より、こちらの方に夢中になったのは、
自分でも想定外。一体『フビライ・ハン』の何が良かったのでしょう…??
実際、心揺さぶられた!涙が止めどなく溢れた!などというタイプの作品ではなく、
想像で肉付けした史実を淡々と追っているだけと言ってしまえばそれまでなのだが、
大帝国を支え、歴史に名を残した人物には、やはりそれなりのドラマが有るもので、
その波乱の歩みを、長いようで短い50話の中で、サクサクと見せてくれたら、退屈なわけがないのです。
日本の歴史とは比べ物にならない程スケールが大きいし、壮大な大河ドラマでしたワ。
甘ったるいラヴストーリーなんかより、有るがままの歴史を学べる方が、知的好奇心も満たされる。
この前に放送した『絢爛たる一族 華と乱~木府風雲』も、映像に野暮ったさがあっても、地味に面白かったし、
チャンネル銀河の夕方4時半枠は、意外と侮れない。
こうなると、次にも期待してしまうところだが、本日、2017年8月7日(月曜)スタートの後番組は、
スコットランド女王を描くアメリカ制作のドラマ『クイーン・メアリー 愛と欲望の王宮~Reign』で、
しかも、吹き替え版なので、迷うことなく捨てました。
夕方に吹き替え版ドラマを放送するのは、やはり家事の片手間に“ながら視聴”をする主婦層狙い?
恋愛要素がほとんど無い『フビライ・ハン』のような歴史ドラマは、恐らく中高年男性向きで、
もしかして、ちゃんと宣伝して、他の時間帯に放送したら、もう少し視聴者が増えたかも知れませんね。