若き皇帝・順治帝福臨が天下を治める17世紀清代の中国。
江南地方への初めての巡幸を控えた順治帝は、
子を身籠った寵妃・果珍を一人残して旅立つことが心配でならない。
そんな折り、皇后である索爾娜が、些細な事で、お付きの太監・小溜子を殺すという事件が起きる。
皇太后の姪という立場を楯に、傲慢に振る舞う索爾娜を、常々腹立たしく思っていた順治帝は、
蝶をめでる会に参加していた嬪妃たちを集め、
皆の前で、索爾娜に、皇后が持つ命令権を3ヶ月停止すると命じる。
索爾娜に与えた処分の事後報告と、江南巡幸前の挨拶を兼ね、慈寧宮を訪れた順治帝に、
母である孝莊太后は、「江南は美人が多い。くれぐれも漢族の女子など連れ帰らぬよう」と釘を刺すと共に、
信頼する太監・劉光才には、しっかり皇帝の見張りをするよう密かに命じる。
はるばる江寧までやって来た順治帝一行。
ここでの一番の目的は、官僚が不正を行っていないかを調査すること。
彼らのありのままの仕事ぶりを知るため、絹織物を扱う“黄”という姓の豪商を装う順治帝。
この時、彼はまだ知らない、明朝の復権を目論む天地會に、この巡幸が筒抜けになっていること、
そして江南一の美女と名高い怡清園の歌妓・董小宛との運命の出逢いが待っていることを…。
2017年6月半ば、
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チャンネル銀河で始まった大陸ドラマ
『皇貴妃の宮廷~多情江山』が、
約2ヶ月半後の8月末、全59話の放送を終了。
私は北京へ行っていたため、一週間以上遅れてのゴールイン。
このドラマ、第一話を観て最初に受けた率直な印象は、「軽い…」。
女優のメイク、衣装、映像全般がチャラい、チャチィと感じた。
最後まで観終えた今も、決して“傑作”と讃えることはないけれど、
後半戦で、遅ればせながら、徐々に物語に入り込み、ナンだカンだ言って、そこそこ楽しめた気がする。
★ 概要
メガホンをとったのは、香港の監督
李惠民(レイモンド・リー)と大陸の
白雲默(バイ・ユンモー)。
李惠民監督が過去に手掛けた作品で、私が確実に観たと記憶しているは、
張曼玉(マギー・チャン)、林青霞(ブリジット・リン)、梁家輝(レオン・カーフェイ)、
そして甄子丹(ドニー・イェン)という豪華キャストで撮られた映画『ドラゴン・イン/新龍門客棧』(1992年)。
ドラマだと、これまで何度も映像化されている金庸の小説を台湾でドラマ化した任賢齊(リッチー・レン)主演作
『スウォーズマン 笑傲江湖~笑傲江湖』を撮ったのが、やはりこの李惠民監督で、
日本にも入ってきているけれど、私は未見。
一方、白雲默の方は、その李惠民監督に師事した新進気鋭の監督さん。
…と言っても、1976年生まれのすでにアラフォー。
やはり李惠民監督とタッグを組んで撮った作品が多く、
単独監督作品で日本に入ってきている物は、今のところ無さそう。
この『皇貴妃の宮廷』は、中文原題『多情江山』。
台湾ではタイトルが放送局によって異なり、
中天綜合台では『董鄂妃傳』、中視數位台では『多情皇妃·董小宛』。
★ 物語
漢族や漢文化に対する官僚たちの拒絶反応が強い清朝初期を背景に、
江南巡行の際、漢族の歌妓・董小宛を見初め、宮中に迎え入れたことで、周囲からの激しい反対に遭うも、
屈することなく、彼女との愛を貫く順治帝の22歳から24歳までを描く
清宮恋愛ドラマ。
この手の大陸時代劇は、長きに渡る歴史を順々に綴る壮大な大河ドラマである場合が多いけれど、
本作は、若干6歳で即位した清朝第3代皇帝、“順治帝”こと愛新覺羅福臨の最晩年、2年だけに焦点を当て、
順治帝統治下の清代の歴史をベースに、寵妃・董鄂氏との純愛を描いたラヴ・ストーリー。
その
『宮廷の泪』にも描かれているように、順治帝福臨は、母親の姪っ子を皇后に立てていたにも拘わらず、
その皇后には目もくれず、他の女性に夢中になってしまったのは史実。
但し、その寵妃が、この『皇貴妃の宮廷』に描かれているような“漢族の歌妓”というのはフィクション。
彼らの複雑な関係に関する部分を少し抜粋しておく。((カッコ)内は私が付けた注釈)
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順治八年、十四歳の皇帝は母后の姪にあたる博爾濟吉氏
(=本作の索爾娜
)を皇后に選び、大婚を挙行。
しかしその二年後、十六歳の皇帝はその皇后が奢侈を好むとの理由で側妃の位に落とし、
翌年第二の皇后を立てる。しかし眼鏡に叶ったはずのこの皇后もまた、
純朴ではあるが才知に乏しいとの理由で二年後には廃后を決定する。
この二度目の廃后騒ぎの真因は、順治十三年、皇帝の居宮乾清宮と皇后の居宮坤寧宮の修建が
完了したのを期に董鄂氏(=本作の董小宛)を嬪として迎えたことで露呈した。
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朝廷と親しい関係にあったイエズス会の宣教師アダム・シャールは、
「董鄂氏(=董小宛)は順治の第十一弟(=博果爾 ボゴル)の妻であったが、
皇帝の炎のような恋の結果、略奪した」として、その直後に起こった弟の急死を憤死か自殺かと疑っている。
事実その死を待っていたかのように、順治帝は董鄂氏をただちに皇后に準じる皇貴妃とし、
また四年後に董鄂氏が世を去ったときには追封して皇后としただけでなく、
この措置に批判的な人々に対する弁明だったのだろうか、自ら『董妃行状』の筆をとって、
その生涯の美徳を讃えたほどの感情を示した。
史実では、同じ“道ならぬ恋”でも、“異民族との恋”ではなく、“略奪婚”だったようだ。
(元々博果爾の妻だったという説に異を唱える学者もいて、
実際のところ、彼女の来歴には諸説あり、あやふやなまま。)
現実には、漢族の女性を嬪妃にしていなくても、順治帝が漢文化にかなり傾倒していたのは、
事実として言い伝えられている事。
本ドラマでは、そんな順治帝の“漢贔屓”をエッセンスに、実際に順治帝の寵妃であった董鄂氏に、
美貌と溢れる才能で名を馳せた明代末期の名妓・董小宛(1623-1651)を合わせ、
“董小宛”という半真半偽の人物像に膨らませ、順治帝の一途な純愛物語に仕立て上げたのであろう。
★ 順治帝
本ドラマの主人公、“順治帝”こと愛新覺羅福臨(1638-1661)について、簡単におさらい。
福臨は、後金の大汗にして清朝第2代皇帝・皇太極(ホンタイジ)と、
後に“孝莊文皇后”となる博爾濟吉特氏との間に生まれた息子で、皇太極にとっては第9子。
崇8年(1942)、皇太極崩御で皇位を継承した時は僅か5歳で、
叔父(父親の異母弟)である多爾袞(ドルゴン)が摂政王として、実権を握る。
あまりにも大きな権力をもってしまったこの多爾袞は、専横を極めるようになった上、
福臨の生母・博爾濟吉特氏を娶ったことで、福臨の不満は溜まる一方。
(ママが多爾袞に降嫁したという話は、現時点で確証されていないが、仮に真実であったとしても、
未亡人が死んだ夫の兄弟と再婚する、いわゆるレビラト婚は、満族では珍しくない事。
福臨は漢文化に傾倒していたため、ママの降嫁が許せなかったと言い伝えられている。)
そこで、順治7年(1650年)、多爾袞が死に、翌年、13歳で親政を始めると、
多爾袞に与えられていた追尊を剥奪し、多爾袞一派を排除。
ちょうどその頃、ママの手配で、ママの姪っ子・博爾濟吉特氏を皇后に迎えるが、
彼女が奢侈を好むとの理由で、順治10年(1653年)、周囲の反対を押し切り、博爾濟吉特氏を“靜妃”に降格。
翌順治11年(1654年)、もう一人別の博爾濟吉特氏を2代目皇后に冊封。
新たな皇后は、福臨より3歳年下で、美しく、誠実な性格ではあったけれど、福臨からは気に入られず、
順治13年(1656年)、董鄂氏が入宮すると、福臨は彼女を寵愛し、賢妃→皇貴妃と昇格させる一方、
皇后を冷遇。現皇后を廃し、董鄂氏を皇后に冊封しようと試みるが、
廃后も2度目となると、ママをはじめ、周囲の反対もさすがに強く、断念。
そうこうしている内、順治17年(1660年)、董鄂氏が若くして病死。
福臨は、寵妃の死をひどく悲しみ、彼女を皇后に追封し、彼自身、その翌年、順治18年(1661年)に崩御。
享年たったの24歳。死因は、当時、満族には免疫が無かった天然痘。
あまりにも若過ぎる死だったため、「実は順治帝は死んでおらず、寵妃・董鄂氏を弔うため、出家し、
“行痴”の法名を名乗り、五台山で生きている」という“順治帝出家説”まで流れるが、
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その死を最愛の「皇后」を失ったためとする解釈はいささかロマンティックにすぎよう。
董妃入宮ののちも順治は複数の女性を後宮に侍らせ、天然痘によるその死後にも
二人の男子誕生がみられるのである。
生涯童貞の誓いをたてた宣教師たちは、皇帝のこの行状を「異常性欲」と評して失望を隠さない。
子孫を残すことは、皇帝にとっては大切なお仕事だから、“異常性欲”も皇帝の資質(笑)。
順治帝の何がスゴイって、若干24歳で亡くなっているのに、子供を14人も(!)遺しているのだ。
もっとも、そのほとんどが夭逝しており、ちゃんと育ったのは、4人の男児と一人の女児だけ。
それでも、その内の一人、第3子の玄(1654-1722)は、後に清朝最盛期の名君と称えられる康熙帝である。
順治帝に関し、もう一つ記しておくと、
順治帝は、順治元年(1644年)、多爾袞率いる清軍が山海関を破ったことで、
北京城に入城した初めての清朝皇帝である。つまり、紫禁城を自宅兼職場にした初めての清朝皇帝。
よって、本ドラマの主な舞台は紫禁城。
★人物相関図
主要登場人物については、まずはザッと、こちらの人物相関図で関係をチェック。
以下、さらに、細かく。
★ キャスト その①:運命の二人
高雲翔(ガオ・ユンシャン):順治帝愛新覺羅福臨(1638-1661)~若き清朝第3代皇帝
順治帝福臨については、前述の通り。
13歳でお嫁さんをもらい、24歳で亡くなっている皇帝なので、短い生涯で常に子供というイメージがある。
『宮廷の泪』の福臨は、本ドラマで福臨を演じる高雲翔より十歳若い吳俊余(ウー・ジュンユー)で、
やはり子供っぽいイメージ。この若さは、実際の福臨に近いのかも知れない。
ただ、
『宮廷の泪』版福臨ほど子供っぽいと、ラヴストーリーがおままごとのようになってしまうから、
もっと大人っぽい高雲翔をキャスティングしたのは、正解かも。
高雲翔は実際1982年生まれの結構な大人で、私生活では、女優・董璇(ドン・シュエン)と結婚し、
もう子供もいるパパなのだが、その割には若々しく、愛にも政にも一途な20代の皇帝役に無理が無い。
台湾系アメリカンで、同じ年の俳優・黃柏鈞(デニー・ホァン)と、お顔の雰囲気が似ている。
清潔感と、それなりの風格を兼ね備え、悪くないと思っていたのだが、
後半、猫を被った果珍にまんまと騙されている彼を見て、「この男、もしかして馬鹿…?!」と幻滅…。
侯夢瑤(ホウ・モンヤオ):董小宛/董鄂氏(1639-1660)~江南で名を轟かす歌妓から順治帝の寵妃へ
実際の寵妃・董鄂氏と、明代末期の名妓・董小宛を足したキャラクターなので、物語序盤、彼女は歌妓で、
身分を伏せ、お忍びで江南に視察にやって来た福臨を、富商の“黄公子”と信じ、恋に落ちる。
お忍び行脚中の水戸黄門が、現地女性と恋愛に発展する、言わば“清朝版・逆『ローマの休日』”って感じ。
ところが、その黄門様、いや、黄公子が、天下人だと判明したから、さぁ大変!
度を越えた超玉の輿が波乱の幕開けで、
理不尽な嫌がらせや、命まで危険に晒される壮絶なイジメが、以後、次々と小宛を襲うことになる。
それでも耐えて耐えて絶えまくり、ひたすら利他的で自己犠牲を厭わない小宛を、
「頑張れ!」と応援するどころか、見ていて軽くイラッとするのはナゼでしょう…??!
演じている侯夢瑤は、充分美人の部類だが、それでも董小宛は主役としての魅力に何か欠けるのよねぇ…。
私だって、実際に友達になるなら、善人の方が良いけれど、ドラマの主役だったら、ただの善人は退屈。
ついでに、もう一つ、侯夢瑤の苦手な部分を言ってしまと、
彼女、普段はおブスではなくても、
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号泣する顔が美しくないのです。
(もっとも、美しく号泣するのは、どんな女優さんでも難しいでしょうが…。)
正確には、“美しくない”というより、“号泣している顔が、森進一の物真似をするコロッケに似ている”。
一度そう見えてしまってからは、彼女が泣く度に、笑いをこらえるようになってしまった不埒な私…。
子役出身の張雪迎(チャン・シュエイン)。
おとなしい皇后とは正反対の活発な性格で、福臨を魅了するという設定であった。
★ キャスト その②:後宮の女たち
20代前半でも、大勢の嬪妃がいた順治帝福臨だが、ここには絞って数名を。
袁詠儀(アニタ・ユン):孝莊太后(1613-1688)~順治帝福臨の生母
先に叔母が大福晉として嫁いでいた皇太極(ホンタイジ)に側妃として嫁ぎ、福臨を産んだ、
俗に“大玉兒”と呼ばれるこの女性は、
『宮廷の泪』では主人公。
『宮廷の泪』では、袁姍姍(ユエン・シャンシャン)が、まだ屈託のない少女時代から、
太皇太后に登り詰めるまでの、長い生涯を演じきっているけれど、
こちらの『皇貴妃の宮廷』では、皇太極も多爾袞も亡くなり、独り身になったもうオバちゃんの大玉兒。
演じている香港明星・袁詠儀は、本ドラマ出演者の内、日本で最も有名なのでは…?懐かしいですよねー。
『宮廷の泪』の袁姍姍と、『皇貴妃の宮廷』の袁詠儀を比べてみます。
共に“袁”姓の女優さん、うーン、両者とも、近寄り難い雰囲気は無く、むしろ親近感が売りでしょうか。
袁詠儀が清宮ドラマに出演するのは、これが初めて。
袁詠儀も孫がいる太后を演じる年になったのかぁ~という感慨はあるけれど、
その役が果たして合っているかどうかは、別問題。
若い頃、親しみ易いキャラクターで人気を博した袁詠儀は、年を重ねても、その親近感は失われず、
太后役、ましてや「20年前は絶世の美女だった」という設定だと、「・・・・?」。
袁詠儀だと、どうしても、普通の“お母ちゃん”っぽい雰囲気になってしまう。
まぁ、孝莊も、太后である以前に一人の母だったという部分を強調したいがゆえの起用だったと受け止めます。
徐小颯(シュー・シャオサー):索爾娜(?-?)~順治帝の皇后で後に廃され靜妃に降格
索爾娜は、伯母・孝莊太后の後ろ盾があり、傲慢に振る舞うが、
孝莊太后でさえ尻拭いできない程お調子にのって暴走を繰り返し、結局皇后を廃されてしまう。
『宮廷の泪』でこの役を演じる、まだあどけない董慧(ドン・フェイ)と違い、
本ドラマの徐小颯は、あらら、随分なスレッ枯らし。
この二人を見ると、2作品は、廃皇后の解釈がかなり違うことが分かる。
『皇貴妃の宮廷』の徐小颯は、バブリーなメイクのせいか、後宮で足の引っ張り合いをする清代の妃というより、
企業を舞台にした現代劇で同僚にあれこれ嫌がらせをする意地悪OLという印象。
“分かり易い悪役”という点で、
『宮廷の諍い女』の華妃にも近いが、後半、小宛に対する態度をアッサリ変え、
「実のことろ、彼女の事は認めているわ」と発言したのには、耳を疑った。案外柔軟な索爾娜(笑)。
徐麒雯(シュー・チーウェン):靈珠~簡親王濟度と縁戚関係 索爾娜最大のライバル
靈珠は架空の人物。美人で華やかな自分に大層な自信があり、索爾娜を蹴落とし、皇后の座を狙う。
衝動的な索爾娜と違い、計算をするので、最初の内は悪事もバレずに済むが、
従兄の簡親王濟度と組み、行動に歯止めが利かなくなったことで、窮地に追い込まれ、
順治帝から罰を下される前に、自ら毒酒をあおり、命を絶つ。
あの胡小梅も、靈珠ほどではないにしても、悪賢く、上昇志向が強い野心家であった。
米露(ミー・ルー):多娜(1641-1718)~索爾娜が廃されたことで、蓉貴妃から2代目皇后に昇格
誠実な性格ではあるが、順治帝からの寵愛は受けられなかったと言い伝えられている彼女は、
それでも、皇后、皇太后の座に、中国史上最長の64年も居座り続けた女性。
“出る杭は打たれる”というくらいだから、目立たず、のらりくらりとしていた方が、周囲も気を緩め、
長い目で見ると、結局はオイシイのかもね。
ドラマの中の多娜も、存在が地味であるため、2代目皇后に就任しても、
他の嬪妃たちから、人畜無害と見做される。
そのように、周囲を安心させておき、実はイヤな奴というのが、この多娜。
裏表があるという点で、多娜も高陽公主も共通。
劉越(リウ・ユエ):果珍~若くして後宮にあがった天真爛漫な妃
架空の人物・果珍は、優しく素直な性格のため、小宛が後宮に入るまで、順治帝が一番信頼し、可愛がる妃。
小宛がやって来てからも、他の嬪妃とは違い、彼女と親しく交流するので、順治帝は果珍を益々信頼。
小宛も果珍には心を許しているし、皇帝、皇太后、他の嬪妃たちもみ~んな、果珍は善人であると疑わない。
…ところが、この可愛らしい果珍こそが、後宮で一番腹の中がドス黒い女だったのですねー。
まったく記憶にない。18歳と言っても通じる若々しさだけれど、1986年生まれというから、もう三十路。
ドラマの前半、前髪を下ろしていると、まるで子供。中盤以上、前髪を上げたら、雰囲気がガラリと変わった。
前髪を下ろしている時は気付かなかったけれど、上げたら、“井上真央+岩崎宏美÷2”って感じの顔だった。
孫婉婷(スン・ワンティン):佟佳氏(1640-1663)~順治帝の第3子・玄の生母
佟佳氏は、後に清朝第4代皇帝・康熙帝となる玄を産んだ妃。
果珍と共に、後宮では珍しい“善人枠”の一人で、小宛も彼女を信頼し、姉妹のように交流。
その後、果珍は、偽善者であったことが判明するけれど、佟佳氏は最後までイイ人。
ただ、イイ人であるせいか、後の皇帝の生母にも拘わらず、目立たないカスミのような存在。
後宮モノでは、毒婦の方が存在感を発揮するものなのです。
実際の佟佳氏も薄幸で、せっかく息子が皇帝に即位し、自身も皇太后に昇格したのに、
その翌年に24歳の若さで病死…。
扮する孫婉婷は、景甜(ジン・ティエン)が大玉兒を演じるドラマ
『大玉兒傳奇~The Legend of Xiaozhuang』では、福臨の寵妃・董鄂氏を演じているようだ。
★ キャスト その③:その他
亓航(チー・ハン):英格爾~順治帝の侍衛
順治帝の侍衛・英格爾は架空の人物。順治帝と一緒に育てられ、順治帝からの信頼も厚い。
扮する亓航は、現在日本で放送中の『記憶の森のシンデレラ~放棄我,抓緊我』にも、
何やらスパイ活動をしている怪しげな男・康星の役で出演している。
『記憶の森のシンデレラ』の亓航は、ちょっとムッチリした印象。その3年前のドラマ『皇貴妃の宮廷』で見ると、
特に笑った顔が、若い頃の黃曉明(ホアン・シャオミン)に似ている。
韓(ハン・ユエ):宋扣扣~董小宛の侍女
扣扣も架空の人物。小宛の侍女といっても、小宛がまだ歌妓だったころからの仲で、
主従関係を越えた姉妹のような大親友。
姉が小宛で、こちらの扣扣は妹の立場なのだが、見た目は扣扣の方が老けているので、
二人が「姊姊」、「妹妹」と呼び合っているのが違和感…。
さらに言ってしまうと、主人公の小宛が苦手な私は、この扣扣はもっと苦手。
すぐに騒いで面倒を起こし、小宛ら周囲に迷惑を掛け、しかも学ばず、同じ間違いを繰り返す。
日本では、“ウザい”と毛嫌いされるこの手のキャラが、
中華圏の作品では、しばしば“明るく活発な女の子”と好意的に登場することに、お国柄の違いを感じる。
高仁(ガオ・レン):簡親王濟度(1633-1660)~清の重鎮・鄭親王濟爾哈朗の次男
濟度は、清の太祖・努爾哈赤(ヌルハチ)の三弟・舒爾哈齊の第6子・濟爾哈朗の第2子。
うわぁ~、複雑(苦笑)。順治帝の遠縁の皇族であることには間違いない。
努爾哈赤の甥っ子である父・濟爾哈朗は、建国時、特に功績の大きかった八家に与えられた
“鉄帽子王”の一家の祖。鉄帽子王の家では、爵位が世襲できるという特権がある。
つまり濟度は、父親の功績のお陰で、揺ぎ無い地位に居座れた特権中の特権階級なわけ。
だからと言って、実際の濟度が、その地位に驕り、専横を極めたという事実は無く、
むしろそれなりの軍功を立てたようだ。
ドラマの中だと、年の近い遠縁の天下人・順治帝にライバル心ムキ出しで、
順治帝を窮地に追い込むため、次々と悪行を重ね、遂には皇帝殺害まで企てるが失敗し、終身刑に処される。
暴挙に出た根底には、単なるライバル心だけではなく、漢文化に傾倒する順治帝が許せない、
何がナンでも、満族の文化を守らなければ!という“満族ファースト”の民族愛が有ったのであろう。
度が過ぎた保守に走り、身を滅ぼしたって感じ。
実際、清の皇族には、多かれ少なかれ、そういう部分は有ったであろう。
高仁は、見る度にゲスな男を演じているが(…と言っても、他には『金蘭良縁~金玉良缘』しか観ていない)、
よくよく見るとハンサムで、私、もしかして、同じ“高さん”でも主演の高雲翔より、この高仁の方が好みかも。
馬捷(マー・ジェ):劉光才~内務府総管を務める漢族の太監
劉光才は、漢族でありながら、皇太后からの信任も厚い太監。
でも、所詮は漢族で、“反清復明(清を倒し明を復活)”掲げる地下組織・天地會と裏で繋がり、
自分たちに有利になるよう、漢族の歌妓・董小宛の入宮を企てたり、宮中の秘密事項を漏洩したり…。
“反清復明”のために、去勢までして太監の職を得たのなら、その熱意は凄まじい。
…なんて思いながら見ていたら、やっぱり朝廷に忠実な太監で、天地會を欺いていた。
頬がプヨプヨな馬捷のお顔は、人の良さそうなおじちゃんにも、極悪人にも、どちらにも見えるから、
劉光才の真意は掴みにくい。
★ テーマ曲
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テーマ曲は、オープニングが霍思宇(フオ・スーユー)の
<一生緣為這一眼>、
エンディングが劉可(リウ・クー)&王馨(ワン・シンユエ)の<我註定愛你>。
私はどちらにも特別思い入れが無いのだけれど、そうねぇ、ここには切々と歌い込んでいるOP曲ではなく、
よりモダンな印象のED曲<我註定愛你>の方を。
化繊っぽく悪光りするパステルカラーの衣装をはじめとする視覚的要素にまったく惹かれない上、
肝心の内容でも、最初の内は、異民族の歌妓にのぼせる若き皇帝や、
よく有る後宮の女たちの足の引っ張り合いに興味がもてず、
さらには、主人公・董小宛にもまったく魅力を感じず、
良い所を見付けられないまま、ダラダラと惰性だけで視聴を続けていたのだが、
後半、簡親王濟度が、製衣局の女官・那の恋心を利用し、靈珠と共謀し、
董小宛の殺害、さらには、大胆にも皇帝の殺害を企てたものの失敗したことで、犯人捜しが始まった辺りから、
ドラマに
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推理モノの色が強くなり、俄然面白くなった。
ただ、実のところ、その推理も「おぉ~、そう来たかー!」と感嘆させられるヒネリは無く、
肩透かしを食らうことも多い。
お世辞にも「良くできた脚本」と誉められない割りに、なぜか不思議と楽しめた、…後半は。
ラスト2話も雑な駆け足展開。董小宛が皆から認められ、漢族でありながら皇貴妃に冊封され、
後宮にも、清の民にも、平和と安定が訪れたのも束の間、
次のシーンでは、唐突に、順治帝が床に臥せており、余命幾ばくも無いと死の宣告を受ける。
病名は、史実通り、天然痘。実際に天然痘に侵された場合、どういう症状が出るのか知らないけれど、
本ドラマの順治帝は、イケメンっぷりを保つ配慮か、額のみに赤いオデキがポツポツ。
恋する二人の最期は、史実にアレンジ。
寵妃・董鄂氏の死で哀しみに暮れ、彼女を追うように順治帝も崩御という史実とは異なり、
本ドラマでは、まず順治帝が不治の病に侵され、彼と運命を共にすると決心した董小宛が、自ら服毒し、
二人仲良くあの世行き。言うなれば、董小宛の“積極的殉死”。
ただ単に“皇帝に最も愛された寵妃”に納まらず、
欲が無く、ひたすら崇高な愛のみに生きた女性という印象を強調した解釈であった。
(そして、私は、そんな無私無欲で崇高過ぎる主人公に、最後の最後まで魅力を感じなかった…。)
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ホームドラマチャンネル、平日夜11時のこの枠は、2017年9月4日(月曜)より、
唐嫣(ティファニー・タン)主演の『王女未央-BIOU-~錦繡未央』を放送。
正確には、“午後1時枠”で放送開始。
これまでは、夜11時が初回放送で、翌日午後1時に再放送をしていたが、
このドラマから逆にして、午後11時を初回にしたみたい。
どちらにしても、私は録画で観るから、関係無いのだけれど。
その新番組『王女未央』は、南北朝時代のお話。
北魏の文成文明皇后(441-490)の伝記をベースにしているらしい。
相手役は、唐嫣との共演が多く、交際を公けにしている羅晉(ルオ・チン)。
時代劇出演の少ない吳建豪(ヴァネス・ウー)も重要な役で出ています。