悪政と大洪水の被害で、人々が困窮する明代の中国。5年前、罠に嵌められ、逆賊にされ、妻まで亡くし、以降、魂の抜け殻となり、酒浸りの日々を送っている元錦衣衛長官・離歌笑のもとに、かつての弟分・應無求が、久し振りに訪ねて来る。離歌笑が去った後、彼に代わり、錦衣衛長官の座についたこの應無求は、難題を抱えていた。洪水の被災民のために用意された十万両もの黄金が、輸送中に奪われてしまったのだ。証拠は無くても、犯人が奸臣・嚴嵩であることは明らか。離歌笑に、なんとか嚴嵩から黄金を取り戻して欲しい、早急に被災民に届けたいと訴える應無求。この訴えを無下に断った離歌笑であるが、苦しむ民の姿がチラつき、心が揺らぐ。師匠・鄭東流から、「そろそろ目覚める時期だ」と背中を押され、遂に黄金奪還を決意。しかし、こんな大仕事、一人では出来ない。離歌笑は應無求に、仲間が必要な事、その人選は自分ですること、一人につき2500両の報酬を用意する事を要求し、應無求もこの条件を承諾。離歌笑は、錦衣衛にも捕まらなかった大泥棒・柴胡、千面相が得意な賀小梅、そして、盗めない物は無いという女盗賊・燕三娘を集め、早速、仕事に取り掛かる。それぞれにスゴ技をもつ4人は、絶妙なチームワークで、救援金の黄金を見事に奪還。それを應無求に託し、任務を完了。チームもこれで解散というその時、なぜか4人は、名判官・海瑞の命で捕らえられ、天牢に繋がれてしまう。罪状は、黄金の略奪。朝廷からの要請で、民のために黄金を取り返したハズなのに、何故…?!離歌笑は、弟分・應無求に嵌められたことにようやく気付くが…。
2017年5月、
LaLaTVで始まった大陸ドラマ『四人の義賊 一枝梅(イージーメイ)~怪俠一枝梅』が、

ひと月半後の6月中旬、全30話の放送を終了。
同時期、チャンネル銀河で放送されていた『女医明妃伝 雪の日の誓い~女醫·明妃傳』を優先したため、
こちらはちょっと遅れてのゴールイン。
★ 概要

日本では、私が今回視聴したLaLaTVがお初ではなく、すでに数年前に入ってきているはずだが、
具体的にいつだったのかは不明。
(絶対にそんなはずないと信じたいけれど…)もし入って来たのが、ここ4~5年だとしたら、
許せないレベルの日本語字幕。
例えば、一番の悪役としてドラマに登場する“イェン・ソン”という奸臣と、その息子“イェン・シーファン”は、
明朝・嘉靖年間に実在した嚴嵩(げんすう 1480-1567)&嚴世蕃(げんせいばん 1513-1565)という父子であり、
それを“イェン・ソン”、“イェン・シーファン”などと表記してしまうのは、
<三国志>の諸葛亮を“ジュー・グォリャン”と記すのと同じくらいの酷さ。
中国語作品の日本語字幕は、ここ数年で劇的に改善されてきているので、
このドラマも、日本に入って来たのが、最近だったら、もっとマシな字幕になっていたはず。
そもそも、タイトルの“イージーメイ”も、日本では“一枝梅(いっしばい)”である。
★ 一枝梅
タイトルにもなっているその“一枝梅”は、明代の文人・凌濛初の短編小説<二刻拍案驚奇>や、
<歡喜冤家>の中に登場する義賊のキャラクター。実在の人物ではなく、民間伝承の架空の義賊。
小説の中の盗賊キャラが人気を博し、一人歩きを始めるという意味合いでは、
フランスのアルセーヌ・ルパンが近いだろうか。
中華圏では、1940年に關興(ウォン・フェイフォン)主演で映画化されたのを始め、
それ以降も、本ドラマと同じ『怪俠一枝梅』のタイトルで、幾度となく映像化されている。
その人気は中華圏に留まっていない。
<歡喜冤家>は李氏朝鮮時代の朝鮮半島にも伝わり、同地でも一枝梅は同様に人気キャラとなり、
その後、二次創作的に韓国の小説や漫画の中にも登場するようになったみたい。
そんな訳で、日本で最も知られた一枝梅関連作品は、もはや中国ではなく、
韓国の(↓)こちらであろう。

2008年度の李準基(イ・ジュンギ)主演韓国ドラマ『イルジメ 一枝梅~일지매』。
私は未見なので、確信をもって言うことはできないが、
李氏朝鮮時代を背景に、政治闘争に巻き込まれ父が何者かに殺されるのを見てしまった8歳の少年が、
やがて“一枝梅”と名乗り、父の復讐のため、悪に立ち向かい、義賊となっていく姿を描いたドラマのようだ。
2010年度版大陸ドラマ『一枝梅』の場合、“一枝梅”は男性主人公のニックネームではなく、
その男性主人公を中心に、志を同じくする計4人が組んだ義賊ユニット(?)のユニット名(…!)。
★ 物語
奸臣が幅を利かせ、民が困窮する明代を舞台に、逆賊の汚名を着せられた元錦衣衛の離歌笑が、
腕っぷしの強い大盗賊・柴胡、千面相の女形・賀小梅、何でも盗める女盗賊・燕三娘という訳アリの3人と
“一枝梅”というチームを組み、弱きを助け、強気をくじくために奮闘する姿を描く痛快任侠物語。
ドラマ前半は、民に降りかかる様々な事件に一枝梅が挑む。
それぞれのエピソードは、2話程度で解決。
さらに、一枝梅メンバー一人一人の背景が徐々に明かされ、
彼らが過去から現在に至るまで引きずる問題に皆で取り組み、4人の絆は家族のように強固なものに。
細かいエピソードは多々有れど、最初から最後まで一貫して根底にあるのは、
朝廷で権勢を振るう奸臣・嚴嵩の横行と、嚴嵩の臣下・應無求の離歌笑に対する私怨。
最終的には、それらを全て解決する勧善懲悪の物語となっている。
ドラマは、あくまでもフィクションであるが、登場する数人の実在の人物から、
時代は、第12代皇帝・世宗朱厚熜(1507-1567)が天下を治めていた頃の明朝だとハッキリと判る。
日本では、明朝嘉靖年間と呼ばれる1521年から1567年の間で、さらに言うと、その後半期。
この世宗は、複雑な経緯で皇帝に即位したこともあり、自分の意に沿わない臣下を次々と排除した上、
道教にのめり込み、朝政を疎かにしたと言い伝えられる“スピリチュアル皇帝”。
青詞に精通している嚴嵩に信頼をおき、彼を内閣大学士に任命し、
自分は引き籠って道教に夢中になっていたため、嚴嵩とその息子・嚴世蕃の専横を許してしまった暗君。
混迷の時代にヒーローは生まれ易いもので、一枝梅も、奸臣・嚴嵩が権勢を振るい、忠臣が排除され、
民が困窮している時代だからこそ生まれた正義の味方と言えそうですね。
★ キャスト その①:四人の義賊・一枝梅

ドラマ冒頭では、ただのウラブレた呑んだくれの離歌笑。
実は、正義感の強い元錦衣衛で、5年前、政敵に嵌められた師匠・鄭東流を救おうとして、
逆賊にされ、追われた上、愛妻を亡くすという悲劇に見舞われ、魂の抜け殻となってしまっている。
そんな離歌笑が、5年の眠りから覚め、義賊に!仲間と共に悪を成敗し、人々を救うと同時に、
自分自身の過去とも向き合い、立ち直っていく姿も描かれている。
演じているのは、霍建華。今回、日本では、もう一本の主演作『女医明妃伝 雪の日の誓い』が同時期に放送。
そちらの『女医明妃伝』で演じているのは、明朝第6第/8代皇帝・英宗朱祁鎮。
美形の霍建華には、エレガントな皇帝役がお似合いにも思うけれど、こちらのヨゴレた離歌笑の方が魅力的。
霍建華ファンの皆さまには、こちらの『一枝梅』の方をよりお薦めしたい。

勝ち気で、一見怖いもの無しの燕三娘は、実は母に捨てられたトラウマに苛まれている女の子。
ドラマでは、その母親との確執や、離歌笑に対するほのかな恋心も描かれる。
劉詩詩は、前出のドラマ『女医明妃伝 雪の日の誓い~女醫·明妃傳』の主演女優。
彼女もまた霍建華と同じで、『女医明妃伝』よりこちらの方が、快活で魅力的。
劉詩詩は、『宮廷女官 若曦(ジャクギ)~步步驚心』の大ヒット以降、
李國立監督とのコラボ作品だと、どうしても、『若曦』を引きずった役をやらされる傾向が…。
この『一枝梅』も、李國立監督作品なのだが、実は『若曦』より前のドラマなのです。

小梅は、歌や舞いが好きな京劇の女形。変貌自在な千面相の技をもち、
事あるごとに、都合よく他人に成りすまし(←有り得ないレベルで酷似)、難題を解決。
女形の小梅に扮した馬天宇は、現地で、“張國榮(レスリー・チャン)の再来!”と話題に。
いくら何でも、亡くなり、レジェンドとなった大物・張國榮と同列に語るのは、どうかとも思っていたが、
確かに、本ドラマの馬天宇の気ままな子猫のような可愛さは、
『さらば、わが愛/覇王別姫』(1993年)で程蝶衣に扮した張國榮を彷彿。
(そもそも、こういうメイクを施さなくても、馬天宇の顔立ちは張國榮に近い。)
普段、童顔男子に興味なの無い私でも、このドラマの馬天宇は、役が合っていて良いと思った。

柴胡は、腕っぷしが強く、単純な、“筋肉バカ”タイプ。
頭は決して良くはないけれど、その分、計算高くない善良な男。
生涯一人身かと思いきや、過去に女房がいたことや、いつの間にか娘が生まれていたことが判明。
演じている釋行宇は、現実にも一枝梅メンバーの中で一番の武術の達人。
映画『少林寺』(1982年)に憧れ、12歳で嵩山少林寺に出家し、そこで11年を過ごしたリアル武僧。
確かに、釈迦牟尼を意味する“釋”は僧侶の姓で(←日本の釈由美子も、先祖が出家しているため“釈”姓)、
“行宇”という名も出家した際に与えられた法号(←言われてみれば、“いかにも”な名前)。
その後、還俗して、アクションスタアの道を歩み始めた彼が、最初に注目されたのは、こちら(↓)
周星馳(チャウ・シンチー)監督主演で大ヒットした『カンフーハッスル』(2004年)。
この映画で、無口な十二路譚腿の使い手、苦力強を演じているのが釋行宇。
その後も、釋行宇は香港映画で見る機会が多く、テレビドラマで見るのは、今回が初めて。
霍建華や馬天宇のような美男ではないが、個性的でイイ味出している。
それにしても、王寶強(ワン・バオチャン)にしても、この釋行宇にしても、
中国って、リアル少林僧が居るから、アクションのレベルも自ずと高くなるわけですよねぇ。
釋行宇は、数年前、“釋延能”に改名し、その後また改名し、今は“釋彥能(シー・ヤンネン)”を使っている。
★ キャスト その②:その他

應無求は、元々は“包來硬”という名の貧しくも誠実な青年。
一途に愛する幼馴染み・如憶を娶り、質素でも穏やかに暮らしたいと、ささやかな夢を抱いていたが、
当の如憶が、突如現れた離歌笑に心奪われ、嫁いでしまったため、離歌笑に理不尽な怨みを募らせると共に、
貧しく何者でもない自分を悔やみ、権力への並々ならぬ執着に囚われていく。
私が大っ嫌いな卑屈な苦労人タイプ!(ただ、シャワーのように顔に放尿される忘れ難いシーンがある。
あんな事をされたら、誰でも卑屈になるかしら…?)
扮する蕭正楠は、香港明星。出演作の多くは香港ドラマなので、
私が演じている彼を見たのは、多分、『織姫の祈り~天涯織女/衣被天下』くらい。
そう言えば、『織姫の祈り』でも、好きな女性から“友達”と見做されてしまうイイ人タイプで、
一度卑屈になってDV夫と化していた。

歴史に汚名を残した実在の奸臣・嚴嵩は、皇帝を上手く言いくるめ、賄賂や横領で私腹を肥やし、
国を荒廃させる本ドラマ一の悪役だろうけれど、これくらい分かり易い悪者だと、
意外にも大した嫌悪感が湧いてこない。いいわぁ~彼、LOVE嚴嵩♪とはぜんぜん思わないが、
私は屈折した應無求のような人間の方に、より虫唾が走る。
嚴嵩を演じているのは、そう、『宮廷女官 若曦』で、康熙帝お付きの太監・李全に扮していたあの立民。
2作品で、立民が別人!あんなに腰の低かった李全が、こんなにガメツイ奸臣・嚴嵩に化けるとは…!

鄭東流はドラマの最初の方では、“孤児を集め、呑気に私塾をやっている御隠居さん”という感じなのだが、
話が進むにつれ、実は、元々は錦衣衛の長官という立派な肩書きがあった人だと判ってくる。
そんな彼を“ジョン氏”と記してしまう日本語字幕、ほんと、サイテー…。
この字面を見て、日本人がパッと思い浮かべるのは、“鄭氏”ではなく、
レノンとかトラボルタと同じ“John氏”ですから…!明朝の趣きも何も有ったものではない。
そんなMr.Johnに扮しているのは、香港映画でお馴染みのバイプレイヤー廖啟智。
いかにも“香港映画!”という感じのクライムサスペンスだの警察モノだので見慣れた廖啟智が、
明代の扮装をしているだけで、やけに新鮮!
しかも、時に世俗を離れた御隠居さん風情、時に威厳のあるの賢人と、コントラストのある演技が素晴らしい。
この『一枝梅』は、香港映画以上に、廖啟智の実力と魅力を引き出しているドラマに思えた。
ちなみに、この廖啟智と、前出の柴胡役・釋行宇は、現在日本で絶賛公開中の映画、
陳木勝(ベニー・チャン)監督作品『コール・オブ・ヒーローズ 武勇伝』にも出演。
特に釋行宇は、『一枝梅』の柴胡とはガラリと違う強面を演じており(腕っぷしが強い点は毎度の釋行宇)、
廖啟智を殺してしまっております…(苦笑)!

如憶の父・荊同衛将軍もまた嚴嵩に嵌められ、破滅した被害者。
ドン底に落ちた如憶をいつも支えてくれたのは包來硬(後の應無求)だが、彼のことは兄としか思えず、
旅の途中、偶然助けてくれた離歌笑に心奪われ、ゆくゆく彼に嫁ぐ。
離歌笑を一途に愛し、嫁いでからは、彼を陰でけな気に支える出来た女房。
ゴメンなさい、私、こういう聖女タイプ、得意じゃない。この如憶というキャラには、あまり魅力を感じなかった。
いつも、「自分を犠牲にしてでも、夫を助けたい」とヒロイン気取りで勝手な行動に出るが、
結局足手まといになっている。捕らわれ、殺された最期も、自業自得としか思えない。
錫伯(シベ)族の女優・佟麗婭は、『琅琊榜(ろうやぼう)麒麟の才子、風雲起こす~瑯琊榜』の続編、
『瑯琊榜之風起長林~Nirvana in Fire II』にも出ております。そちらでは、どんな感じでしょう。
★ アニメーション
ドラマ『四人の義賊 一枝梅』の特徴の一つは、所々にアニメーションが挿入されていること。
私は、オリエンタル・テイストのアニメが好きなので、これ、結構気に入った。
誰が描いているのか気になり、ドラマのエンディングをチェックすると、
“漫畫設計”として、徐奕明(シュー・イーミン)という名がクレジットされている。
では、その徐奕明とは如何なる人物かと興味が湧き、軽く調べてみたが、
そのような名のアニメーターも漫画家もイラストレーターも見当たらない。
最も可能性のある“徐奕明”サンは、
唐人制作のドラマなどで、ポスプロ・スーパーバイザーなどをしている人物かなぁ~、と。
もし、アニメやイラストを専業でやってる人ではないのだとしたら、随分センスが良いですね。
絵でも食べていけそうなレベル。
★ テーマ曲

エンディングは鄭嘉嘉(ウェンディズ・チェン)による<天堂鳥>。
オープニング曲は、胡歌と知らずに聴いたら、誰が歌っているのか分からないほど
普段の胡歌の歌声と違って感じたのは、私だけ?曲調は、なんか昭和のヒーロー物っぽい。
鄭嘉嘉は、ドラマのエンディングに曲が流れる際、片仮名で“ウェンディ・チェン”とクレジットされているが、
“Wendy(ウェンディ)”ではなく、“Wendyz(ウェンディズ)”ですから…!香港のシンガーソングライター。
ここには、その“Wendy”ではなく、“Wendyz”の鄭嘉嘉が歌う<天堂鳥>の方を。
これ、まったく期待せずに観始めたら、案外面白かった。
どっぷりハマった!傑作に認定!…とはまったく思わないけれど、
何も考えず、ボケーッと気負わずに観るには丁度良い雰囲気で、
しかも、一つのエピソードが2話程度で完結するから、飽きずにサクサクと進んで行ける。
アニメのキャラのように、登場人物一人一人のキャラ設定も単純明快。
霍建華と劉詩詩に関しては、『女医明妃伝』より、むしろこちらのお気楽ドラマの方が、魅力的でさえあった。

2017年6月12日からすでに、『織姫の祈り~天涯織女/衣被天下』が放送されている。
またまた劉詩詩が出演しているけれど、実在の人物をモデルにした主人公を演じているのは、
台湾の張鈞(チャン・チュンニン)なので、少し新鮮かも。
私は、これ、すでに視聴済みなので、追う必要ナシ。
録画の消化に追われる日々から解放され、ちょっとホッとしております。