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映画『希望のかなた』

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【2017年/フィンランド/98min.】
フィンランドはヘルシンキの港に貨物船が入港。
積まれた石炭の山の中から、真っ黒になって出てきたのは、シリア人青年・カーリド。
シリア騒乱を逃れ、命からがらここまで辿り着いたカーリドは、難民申請をするため、警察へ。
面接を受け、故郷アレッポを捨てざるを得なかった経緯を淡々と説明するが、
無情にも、政府はカーリドの申請を却下。
このままでは強制送還されてしまうが、カーリドには、フィンランドを離れられない事情が。
逃避行の途中、ハンガリーで離ればなれになってしまった妹・ミリヤムを探し出したいのだ。
そこで、カーリドは、難民施設を脱走し、街へ飛び出す。

一方、ヴィクストロムは、妻と別れ、仕事も整理。
有り金を抱え闇カジノへ行き、幸運にも大金を手にする。
その金で、小さなレストラン“Kultainen Tuoppi(ゴールデン・パイント)”を買い、一国一城の主となる。
ある日、レストランのゴミ捨て場で寝ている傷だらけの青年を発見。
難民施設から脱走したものの、街で差別主義のチンピラにボコボコにされたカーリドであった。
ヴィクストロムは、そんなカーリドを、自分のレストランに雇い入れ…。



2017年、第67回ベルリン国際映画祭で、銀熊賞を受賞した
アキ・カウリスマキ監督、『ル・アーヴルの靴みがき』(2011年)以来の新作。



物語は、フィンランドで難民申請を却下され、不法滞在を余儀なくされたシリア人青年・カーリドと、
彼を匿い、生き別れの妹探しを手伝うレストラン経営者・ヴィクストロムや、
ヴィクストロムのレストランで働く3人の従業員たちとの交流を描くヒューマンドラマ

アキ・カウリスマキ監督の前作『ル・アーヴルの靴みがき』との共通点がちらほら。
前作も本作も、主人公の一人である外国人は、密航でヨーロッパのある国の港に辿り着き、
その国の善良な人々に匿われるという、人間の良心が感じられるドラマである。
実際、アキ・カウリスマキ監督は、この新作『希望のかなた』を、
前作『ル・アーヴルの靴みがき』に続く“難民3部作”の第2弾と位置づけ。


これら2本は、似ているようで、異なる部分も。
“難民/移民”といっても色々で、前作に登場するのは、アフリカからの不法移民で、
本作に登場するのは、シリアの内戦を逃れてきたシリア人難民。

ほんのちょっと前まで、ヨーロッパ(特にヨーロッパ南部)における非ヨーロピアンの問題と言えば、
地中海をはさみ南側のアフリカ大陸から、職を求めて豊かなヨーロッパにやって来る不法移民が主で、
露骨な差別主義者でなくても、「彼らのせいで治安が悪くなった」と
アフリカ系の黒人に対し、漠然とした不安や嫌悪感を抱いている人がいるなぁ~と、
ヨーロッパ人の話を聞きながら、私も感じ取っていた。

ところが、シリアで内戦が起きたり、ISが目立って台頭してきてからは、
ヨーロッパ人の脅威の対象は、東側のイスラム圏へ急速にシフト。
難民やテロ行為が急増した結果、
自分とは明らかに違う異人種に対し、嫌悪感を隠さないネオナチのような露骨な差別主義者も幅を利かせ、
戦前回帰を思わせる状況になりつつあると感じることしばしば。

アキ・カウリスマキ監督が難民をテーマに撮った2作品、
『ル・アーヴルの靴みがき』と『希望のかなた』も、それぞれ、その時のヨーロッパの世相を反映しており、
2作品の間に流れた6年に、ヨーロッパがどう変化したかが、見て取れる。



こんな風に色々書くと、すごくヘヴィな社会派映画みたいだけれど、
そこはアキ・カウリスマキ監督作品なので、所々にユルユルのユーモアも散りばめられてる。
メニューにイワシ缶とミートボールしかなく、
客足もまばらなレストラン“Kultainen Tuoppi(ゴールデン・パイント)”を立て直そうと、
ブームを取り込み、店をリニューアルするのだけれど…

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それが、こんな変テコな寿司レストランなわけ。
ウェイターが帯に短刀(笑)。店名も“Imperial Sushi”に改名。
お陰で、日本人団体ツアー客がドッと押し寄せるのだが、そのせいで、寿司ネタを切らしてしまい、
仕方なく、腐りかけたニシンを使い、大量のワサビで誤魔化すとかサァ、
保健所が抜き打ち検査をしたら、もう絶対にアウトのブラックなお店なの(笑)。





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主演は、アレッポから逃げて来た青年カーリド・アリにシェルワン・ハジ
カーリドを雇うレストラン店主ヴァルデマール・ヴィクストロムにサカリ・クオスマネン

フィンランドの俳優にはぜんぜん詳しくないのだけれど、
サカリ・クオスマネンは、アキ・カウリスマキ監督御用俳優なので、見慣れた顔。

まったく初めて見るのは、シェルワン・ハジの方。
シェルワン・ハジは、実際にシリア出身で、2010年にフィンランドへ渡り、今ではフィンランド国籍も持ち、
俳優業にとどまらず、自身で立ち上げたプロダクションで、脚本や監督も手掛ける多彩な人みたい。

日本でよく言われているように…

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顔立ちは、どことなく山田孝之に似ております。

ヒゲを生やした山田孝之で、シェルワン・ハジとの比較をもう一つ。

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益々近付いたかも。


他…

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アキ・カウリスマキ監督作品常連のカティ・オウティネンもやっぱり出ていた。(画像右の女性)
今回は、洋品店の店主役で、特別出演程度にちょこっとだけ。


あと、これ…

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他の多くのアキ・カウリスマキ監督作品と同様に、お犬様映画でもあった。
今回抜擢されたのは、Varpu(ヴァルプ)というアキ・カウリスマキ監督自身の愛犬らしい。
監督は、本当に犬好きで、可愛くて、可愛くて、仕方が無いんでしょうねぇ~。
地方で小さな会社を経営している老社長が、ローカルCMに自分の孫を出す、あのジジ馬鹿感覚が重なる。





ゴロツキに腹を刺されたカーリドが、あの後どうなったかを考えると、
「世の中捨てたモンじゃない、善良な人もちゃんといるのよねぇ~」とホッコリもしていられない。
身分証を偽装し、本来のアイデンティティを捨てたカーリドは、病院へ行けるのか?
仮に回復しても、一生“自分じゃない誰か”に成りすまし、社会の片隅で、息を潜めて生きるしかないのなら、
それは、自国を捨ててまで得た幸福といえるのだろうか。

そもそも日本は移民や難民に厳しいので、こういう問題を他人事のように感じてしまいがちだが、
アキ・カウリスマキ監督のメッセージの中の
「ヨーロッパでは歴史的に、ステレオタイプな偏見が広まると、そこには不穏な共鳴が生まれます」
という言葉を読み、いやいや、それは日本も同じと言い返したくなった。
むしろ、元々階級差がはっきりしていて、教育や経済のレベルが色々異なる人が共存するヨーロッパより、
“一億総中産階級”といわれ、横並びを好んだり、島国根性が根深い日本の方が、
歴史的に見ても、マズイ方向へ一気にドドッと向かう危険性高し。

ヨーロッパは、良くも悪くも階級差があるせいで、映画の中に出て来るネオナチ風のチンピラのように、
一見してロクな教育を受けていないと分かる人間が、案の定バカという事が結構あるけれど、
これが日本だと、世間的には“普通”に属するサラリーマンや主婦がネトウヨ化し、
顔の見えないネット上で、隣国に毒吐いているんだから、よっぽど闇が深い。
この先、日本が移民や難民を積極的に受け入れる日が来たら、ヨーロッパ以上に荒れ狂いそう…。
一体、世界はどうなって行くのでしょうねぇ…?

まぁ、色々考えさせられるけれど、
前述のように、だからと言って、この映画は、決して重いだけの社会派作品ではない。
笑えるシーンが多い上(素直な爆笑ではなく、失笑に近い抜けた笑い)、
日本要素が出てくるので(見慣れた紀伊國屋書店のブックカバーが映っただけで、気分がちょっと上がった)、
日本人は、評価2割増しになっちゃうかもね。

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